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第4話 襲撃
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「逃げなきゃ…」
「ん? どうしたのママ?」
私の不安げな顔を見て、サラはそう言った。
「サラ…いい? ここから逃げるのよ…」
「えっ!? でも別に魔物なんて大した事ないんじゃ?」
この国ではそう教わる。私もそう教わっていた。
「いい子だから、サラ…言う事聞いてね」
「えっ、うん…分かった」
「いい子ね」
私はサラの頭を撫でてから、手を引いて歩きだした。
「でも、ママどこに行くの?」
サラはキョロキョロと周りを窺がいながらそう答える。
周りで避難している人間など、いないからだ。
「とりあえず…中央地区の方かしら、はぐれないように気を付けてね」
「うん…」
私達が住む王都は計画的に大規模建造された物ではなく、丘の上から徐々に周りに新たな城壁を作りつつ、切り開く形で増築されていた。それ故にいくつもの地域が城壁で分割されて、内部はとても入り組んでおり、慣れない場所では迷う者も多かった。
ここから中央街まで行くとなると少し遠回りになるが仕方がない。
私達二人は見物客を避けながら中央地区の方へ向かっていこうとした――その時だった。
「おおい! 飛行型の魔物だぞ! もう来たぞ!」
城壁を超えて一体の飛行能力を持つ魔物が姿を現し、男が声を上げた。
「俺の技能を見せてやるぜ!」
そう言いながら一人の青年が手から雷を発射し、魔物を一瞬で倒してみせた。
「あっ、ずりぃ!」
「早い物勝ちだぜ」
それに対して周りの民衆から歓声もあがる。
彼らはまるで遊戯をしているようだった。それを見守る観客もだ。
これはよくある…この街の光景だ。
「…ママ? 魔物怖くないよ?」
サラはキョトンとした顔をしてこちらを見ている…。もしかしたら不安を取り除こうとしてくれているのかも知れなかった。
そう――私の杞憂かも知れない…だが不安だった。
「いいから、ね?」
「うん…」
そう言って歩みを再び進める。サラの顔を見るに納得はしていないようだったが、言う事は聞いてくれるようだ。
――そして、そうこうしている内に次々と魔物が城壁を乗り越えやってきたのだ。
「お、おい! なんか沢山来たぞ!?」
「数は六十じゃねえの?」
「それって”黒”が六十って事なんじゃ?」
「なんだよ、外の連中はサボってるのか?」
周りから一瞬どよめきの声があがるが、そこまで取り乱した様子はなかった。
――早すぎる…もしかしたら、外の部隊はもう…。
私は周囲の人達とは裏腹に、そんな最悪の事態を考え始めていた。
「しゃあねえな! 俺の出番のようだな!」
「おっさん!?」
「発射っ!!」
さきほど、若い頃は”十殺”だと言っていた壮年の男性が、手から次々と岩の塊を連射して魔物を次々と倒していく。
「おっさん、普通に強かったんだな…」
「俺も負けてられねえな!」
「俺らは倒した数で勝負しようぜ! 負けたほうは奢りな!」
そんな事を言いながら、男達は様々な技能で侵入した魔物を競うように撃破していく。
彼らの様に戦闘用の技能を持つ者からしたら、魔物の扱いなど点数でしかないのだ。
そう、これが普通の魔物相手ならば何も問題はなかったのだが…。
そんな彼らを後目に、私は後ろ髪を引かれているであろうサラの手を引きながら、中央街へと歩みを進めていった。
――ドンドンドンッ!
すると…突如、何かを叩くような重低音が鳴り響いた。
「ん!? なっ、何の音だ!?」
「城門か?」
その言葉に多くの者達が、城門に目を向ける。
そして、何度も同じような音が続いた後――ひと際大きい轟音と共に城門が破壊されたのであった。
「お、おい。城門が壊れちまったぞ?」
「どうなってるんだ!?」
さすがの異常事態に観衆からもどよめきが広がる。
城門から次々と小型の魔物が入り込んでくる。
「おい! 数が多い! 戦えるやつは手伝ってくれ!」
壮年の男性は観衆に声をかける。そしてそれに応じた人達が次々と技能を使い侵入した魔物を倒していく。
この国では戦える人間の方が多い、戦う機会があまりないだけであって、ただの魔物を倒すだけなら技能を使えば造作もないのだ。
だが…。
「なんだ? あの見た事ないのは?」
「黒いから…あれがそうなんじゃない?」
「あれも魔物なのかな…」
2mほどの頭のない真っ黒な人型の怪物が、のそのそと壊れた城門から姿を現した。その胸部には大きな目が一つだけついている。
その怪物はまるで人間達を見回しているように見えた。
その姿を見たとき思わず、足を止めてしまった。
私は自分の心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。
――間違いない…あの時と同じ種類の怪物だ…。
「よく分からんが…数は一体だし、動きが遅いぞ?」
「よし! とりあえず集中砲火だ!」
そう声を上げた男の号令共に、黒い怪物に攻撃が集中する。この時、入り込んでいた小型の魔物は、すでに退治済みであった。
「やったか!?」
「いや、そんなに効いてなくね!?」
「よく分からんが、目玉を狙え!」
「うわっ、こっち来るぞ!」
黒い怪物は目を腕で隠し、怯みながらもじわじわと…にじり寄ってくる。
だが、それも時間の問題であった。
怪物は徐々に力を失っていき、ついには地に伏せた。
「ふぅーびっくりしたぜ…」
「なんだよ、びびってるのか?」
「なんだと!」
戦っていた人達は、悪態をつきながらも落ち着き始める。
「なんか強かったな、あの魔物」
「後何体ぐらい、あの黒いのがいるんだ?」
「さあな…外の連中があらかた倒してるだろうから、もう終わりじゃないか?」
「面白いもん見れたし、そろそろ帰るか」
次の魔物が来なくなった事もあり、観衆達はそんな会話をすでに始めていた。
「…ママ?」
「えっと、そうね…」
サラは『もう大丈夫だ』と…そんな事を言いたげな顔をしている。
私の杞憂だったかも知れない…あの時と違って数がとても少ないのだ…。
そうだ…この国の人間は強いのだ…。
あの時が不運だっただけに過ぎないのだ…。
娘にいらぬ心配をかけた、そう思うと少し気恥しくなってくる。
――帰ろう…。帰って早く下ごしらえの続きをしなければ…そう思って踵を返した時だった。
「おいおい、まだ来るのかよ……」
戦っていた若者の一人が呆れたように言った。
その言葉に私は門へと目を向けた。
ぞろぞろと城門から魔物の群れが再びやってきたのだ。そして今度は黒い怪物が複数体いたのだ…。
「フッ、何度来ても同じだ!」
「あいつにばっかいいカッコさせるかよ!」
そう言いながら競うように男達は勇ましく攻撃を浴びせかけるが…。
「――なっ!」
「えっ!?」
突如黒い怪物は、密集し突撃する魔物達を盾にするように走り出し、戦っていた若者の一人に襲いかかった。
そして――パァン、と小気味よい破裂音が突如鳴り響いた。
「ん? どうしたのママ?」
私の不安げな顔を見て、サラはそう言った。
「サラ…いい? ここから逃げるのよ…」
「えっ!? でも別に魔物なんて大した事ないんじゃ?」
この国ではそう教わる。私もそう教わっていた。
「いい子だから、サラ…言う事聞いてね」
「えっ、うん…分かった」
「いい子ね」
私はサラの頭を撫でてから、手を引いて歩きだした。
「でも、ママどこに行くの?」
サラはキョロキョロと周りを窺がいながらそう答える。
周りで避難している人間など、いないからだ。
「とりあえず…中央地区の方かしら、はぐれないように気を付けてね」
「うん…」
私達が住む王都は計画的に大規模建造された物ではなく、丘の上から徐々に周りに新たな城壁を作りつつ、切り開く形で増築されていた。それ故にいくつもの地域が城壁で分割されて、内部はとても入り組んでおり、慣れない場所では迷う者も多かった。
ここから中央街まで行くとなると少し遠回りになるが仕方がない。
私達二人は見物客を避けながら中央地区の方へ向かっていこうとした――その時だった。
「おおい! 飛行型の魔物だぞ! もう来たぞ!」
城壁を超えて一体の飛行能力を持つ魔物が姿を現し、男が声を上げた。
「俺の技能を見せてやるぜ!」
そう言いながら一人の青年が手から雷を発射し、魔物を一瞬で倒してみせた。
「あっ、ずりぃ!」
「早い物勝ちだぜ」
それに対して周りの民衆から歓声もあがる。
彼らはまるで遊戯をしているようだった。それを見守る観客もだ。
これはよくある…この街の光景だ。
「…ママ? 魔物怖くないよ?」
サラはキョトンとした顔をしてこちらを見ている…。もしかしたら不安を取り除こうとしてくれているのかも知れなかった。
そう――私の杞憂かも知れない…だが不安だった。
「いいから、ね?」
「うん…」
そう言って歩みを再び進める。サラの顔を見るに納得はしていないようだったが、言う事は聞いてくれるようだ。
――そして、そうこうしている内に次々と魔物が城壁を乗り越えやってきたのだ。
「お、おい! なんか沢山来たぞ!?」
「数は六十じゃねえの?」
「それって”黒”が六十って事なんじゃ?」
「なんだよ、外の連中はサボってるのか?」
周りから一瞬どよめきの声があがるが、そこまで取り乱した様子はなかった。
――早すぎる…もしかしたら、外の部隊はもう…。
私は周囲の人達とは裏腹に、そんな最悪の事態を考え始めていた。
「しゃあねえな! 俺の出番のようだな!」
「おっさん!?」
「発射っ!!」
さきほど、若い頃は”十殺”だと言っていた壮年の男性が、手から次々と岩の塊を連射して魔物を次々と倒していく。
「おっさん、普通に強かったんだな…」
「俺も負けてられねえな!」
「俺らは倒した数で勝負しようぜ! 負けたほうは奢りな!」
そんな事を言いながら、男達は様々な技能で侵入した魔物を競うように撃破していく。
彼らの様に戦闘用の技能を持つ者からしたら、魔物の扱いなど点数でしかないのだ。
そう、これが普通の魔物相手ならば何も問題はなかったのだが…。
そんな彼らを後目に、私は後ろ髪を引かれているであろうサラの手を引きながら、中央街へと歩みを進めていった。
――ドンドンドンッ!
すると…突如、何かを叩くような重低音が鳴り響いた。
「ん!? なっ、何の音だ!?」
「城門か?」
その言葉に多くの者達が、城門に目を向ける。
そして、何度も同じような音が続いた後――ひと際大きい轟音と共に城門が破壊されたのであった。
「お、おい。城門が壊れちまったぞ?」
「どうなってるんだ!?」
さすがの異常事態に観衆からもどよめきが広がる。
城門から次々と小型の魔物が入り込んでくる。
「おい! 数が多い! 戦えるやつは手伝ってくれ!」
壮年の男性は観衆に声をかける。そしてそれに応じた人達が次々と技能を使い侵入した魔物を倒していく。
この国では戦える人間の方が多い、戦う機会があまりないだけであって、ただの魔物を倒すだけなら技能を使えば造作もないのだ。
だが…。
「なんだ? あの見た事ないのは?」
「黒いから…あれがそうなんじゃない?」
「あれも魔物なのかな…」
2mほどの頭のない真っ黒な人型の怪物が、のそのそと壊れた城門から姿を現した。その胸部には大きな目が一つだけついている。
その怪物はまるで人間達を見回しているように見えた。
その姿を見たとき思わず、足を止めてしまった。
私は自分の心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。
――間違いない…あの時と同じ種類の怪物だ…。
「よく分からんが…数は一体だし、動きが遅いぞ?」
「よし! とりあえず集中砲火だ!」
そう声を上げた男の号令共に、黒い怪物に攻撃が集中する。この時、入り込んでいた小型の魔物は、すでに退治済みであった。
「やったか!?」
「いや、そんなに効いてなくね!?」
「よく分からんが、目玉を狙え!」
「うわっ、こっち来るぞ!」
黒い怪物は目を腕で隠し、怯みながらもじわじわと…にじり寄ってくる。
だが、それも時間の問題であった。
怪物は徐々に力を失っていき、ついには地に伏せた。
「ふぅーびっくりしたぜ…」
「なんだよ、びびってるのか?」
「なんだと!」
戦っていた人達は、悪態をつきながらも落ち着き始める。
「なんか強かったな、あの魔物」
「後何体ぐらい、あの黒いのがいるんだ?」
「さあな…外の連中があらかた倒してるだろうから、もう終わりじゃないか?」
「面白いもん見れたし、そろそろ帰るか」
次の魔物が来なくなった事もあり、観衆達はそんな会話をすでに始めていた。
「…ママ?」
「えっと、そうね…」
サラは『もう大丈夫だ』と…そんな事を言いたげな顔をしている。
私の杞憂だったかも知れない…あの時と違って数がとても少ないのだ…。
そうだ…この国の人間は強いのだ…。
あの時が不運だっただけに過ぎないのだ…。
娘にいらぬ心配をかけた、そう思うと少し気恥しくなってくる。
――帰ろう…。帰って早く下ごしらえの続きをしなければ…そう思って踵を返した時だった。
「おいおい、まだ来るのかよ……」
戦っていた若者の一人が呆れたように言った。
その言葉に私は門へと目を向けた。
ぞろぞろと城門から魔物の群れが再びやってきたのだ。そして今度は黒い怪物が複数体いたのだ…。
「フッ、何度来ても同じだ!」
「あいつにばっかいいカッコさせるかよ!」
そう言いながら競うように男達は勇ましく攻撃を浴びせかけるが…。
「――なっ!」
「えっ!?」
突如黒い怪物は、密集し突撃する魔物達を盾にするように走り出し、戦っていた若者の一人に襲いかかった。
そして――パァン、と小気味よい破裂音が突如鳴り響いた。
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