私の戦う理由 ~帰ってきた英雄はお義兄様~

転落人

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第12話 疑念

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 きっと忙しい方なのだろう…今も時間の合間にわざわざ会いに来てくれたのかも知れない。そう思って私は訊ねてみた。

「お義兄様は何か大事な用事があったのかしら」
「えっと、用事があるわけではなくて…そうだな。これから家族になる事だし…兄さんの体質…技能スキルの代償についても話しておこうと思う…」

 するとトマスは急にそんな事を語り出した。

技能スキルの代償?」

 技能スキル…には様々な効果が存在し、人々に力を与えると同時に代償と呼ばれるデメリットがある物も稀にだが存在していた。そういった技能スキルは一般的な物より効果が高い場合が多いが、その分の代償も大きいとされていた。

 ――でも、元・五英雄に技能スキルの代償があるなんて聞いたことがないけれど…。

 この国では技能スキルを秘匿する事はよくない事とされていた。”持つ者”が”持たざる者”を守るためだ。ありていに言えば力を隠すなという事だ。
 元・五英雄は全員顔と本名は伏せられていたが、技能スキルの効果は公表されており、国民のほとんどは知っていた。

「ああ、兄さんは実は代償持ちでね…。内容は、起床時間に応じて睡眠時間が増える…と言ったような物らしいんだ。後は一度寝たら暫くは何をしても起きられないそうだ」

 それだけ聞くとそこまで大した代償には聞こえないように気がするのだが…。

「その結果…と言っていいかは分からないが、兄さんは…もう一日のほとんどを寝て過ごしているんだ…」
「「――えっ!?」」

 私と…いままで言葉を発さず黙っていたサラも、驚きの声を上げた。

 ――どういう事かしら…?

「そんな話は、聞いたことはないわ…」
「そうだな…兄さんは代償持ちだったんだが…。代償がある事…戦える時間に制限がある事を知られれば、他国や国民につけこまれると秘匿されていたんだ」

 すぐには信じられなかった…国がそんな事をしていたなんて…。しかしよく考えてみれば、弱みを見せないといった事は普通なのかも知れない。
 特にこの国における英雄という役職は、代々この国の護り手であると同時に、他国への牽制と…国民の”実質的”な支配力を兼任していた。技能スキルを持つ人間達を統率するのに必要な存在だったのだ。

「……そういえば、十年間お義兄様は何を…?」

 私はついでとばかりに、とりあえず気になっていた事をトマスに訊ねてみた。
 じゃあ彼はそんな状態で、十年間どこで何をしていたのだろうか。

「兄さんが言うには負傷して今まで療養していたらしい…」

 どうやら十年間、音沙汰がないと思ったら療養していたらしいが…?

「どうして!? どうして、誰も探しにいかなかったの!?」

 サラはそう声を荒げた。これは…まあ当然の物言いであろう、そもそも誰も確認すらしなかったのだろうか?

「……誰も生きてはいないと思ったのだろう。それに助けにいける戦力も気力も当時はなかった、というのが本音だな…」

 トマスはそう淡々と言うが、ようは…国は彼らを確認もせず見捨てた…という事だ。

 ――本当かしら?

 私は疑問に思った。それで十年間も見つからなかった…。連絡を一つも寄越さなかったなどありえるのだろうか…?

「それは、厄災戦での影響で起きられなくなった…という事が関係しているの?」
「いや…元々兄さんはこの代償のおかげで一日の大半は寝ていたよ…当時は若くして五英雄の一角だったから、多くの戦場に呼ばれていたらしくてね。日に日に…睡眠負債と言えばいいのかな。それが溜まりにたまっている状態で……」

 どうやら厄災以前から彼はその状態に近かったと…。
 それで自力で帰る事も、連絡も付かなかったと…。
 だが、私には不信感しか残らなかった。普通に考えれば、一報入れるぐらいはできるのではないかと…。

「どうして!? どうしてそれを止めなかったの! おじ様はパパのお兄ちゃんなんでしょ!」
「サラ……兄さんは”持つ者”なんだ…私たちとは違うんだよ…」

 色々と考えているとサラは私の疑問とは違い、お義兄様が起きれなくなった事に対して怒りをあげていた。
 そんな娘にトマスは国の教育方針通り、そう語るが…。

「そんなの知らないよ! どうしてパパは見捨てたの!」
「サラ…”持つ者”が”持たざる者”を守るのはこの国では当然で…」
「当然じゃないよ!」

 それに対してサラは声を荒げる。

 ――この子はここまで意固地な子だっただろうか…?

 娘は聞き分けはいい方であった。物分かりがいいと言えばよいのだろうか。
 だが、先日からこの調子であった。

「サ、サラ! そんな事を言ってはいけない!」

 するとトマスは何故か急に慌てて、辺りを窺いながらサラを宥めようとする。

「……パパも同じなんだ…」

 サラはそう呟くと――。

「もう知らないっ!」
「サラ! 待ちなさい!」

 トマスが止めるのも聞かずに部屋を飛び出してしまった。

 ――どうしたものか…。

 私は正直困り果てていた。助けられたのだから気持ちは分からなくもないが…。

「はぁ…その、あまり言いたくはないが、サラの教育はどうなってるんだ?」
「……ええっ?」

 私がどうしようかと悩んでいると、トマスがそんな事を言い出す。急な物言いに少したじろいでしまう。

「メアも分かっているだろう…。あのような言動を国の役人にでも聞かれれば…。今は身内に近い使用人しかいないが、これからは新しい人も出入りすることになる」
「それは……」

 この国では”持つ者”が”持たざる者”を守るのは当然の事とされている。
 力があるのにそれをしないという事は国民としての責務を果たしていないという事になるからだ…。そしてそれに反対する意見も同義であると…。トマスはそう言いたいのだ。

「メア…頼んだよ…サラのためにも」
「……ええ、分かってるわ」

 分かっている…それぐらいの事は…。だが、私は胸中複雑だった。
 トマスにとって兄とは…一体どういう存在なのだろうと。
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