私の戦う理由 ~帰ってきた英雄はお義兄様~

転落人

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第13話 好奇心

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 その後、程なくして戻ってきたサラとトマスを加えて、三人で夕食をとったのだが……案の定さきほどのせいで会話はまるで弾まなかった。トマスが話しかけてもサラは生返事なのだ…。
 食事の質はかなり上がった。今まで見たことのないような食材が並んでいたが…それどころではなく、味もいまいち分からなかった。

「はぁ……」

 私は一人、ロウソクを片手に廊下を歩きながら、盛大に溜息をついた。
 食事の後、私はトマスに呼び出され、サラの件で再び念を押されてしまった。
 そのせいで随分と夜遅くになってしまった。

 まだ初日である。初日だからこそかも知れないが、こんな事でやっていけるのだろうか。
 私とトマスはともかく、娘の場合は物心ついた頃からほとんど会っていないのだ。

「トマスももう少し…言葉を選んでくれればいいんだけどね…」

 彼はこの国の貴族だから仕方がないと言えばそうなのだが、一歩も引かないのだ。
 娘もそんなトマスに引く素振りは見せなかった。

「似たもの同士と言えば聞こえはいいけどね…」

 頑固なのはいいが、家の中ではせめてもう少し歩み寄る姿勢を持ってほしいものだ。

 そして私は自分の寝室に帰る途中、ふと足を止めた。
 ここは確か――お義兄様の寝室だ。

「……結局彼は何者なのかしら」

 トマスの兄で英雄…らしいのだが、扉を見ながらついそんな事を口走った。
 何といえば良いか、情報を聞けば聞くほど…うさんくさいのである。
 そして彼を見ているとなぜだか…。

 ――気になる…。

 ちょっとした好奇心、疑念。そんな感情から…ついノックをしてしまう。
 ……返事はない。そして――

「……失礼いたし…」

 私はそう言いながら…扉を少し。鍵が…掛かっていなかったのだ。
 もしトマスが言ったように、寝たらしばらく起きれないのであれば、あまりにも不用心すぎる…。
 だが日も落ちてしばらく経つ頃だ。中をつい覗いてしまったが、手に持っていた僅かな灯では、部屋の中は薄暗くてよく見えなかった。

「……何してるんだろう」

 私はよく見えなかった事に、逆に一安心してしまった。そして自分の行動を顧みた。
 そして冷静になり、早く寝室に帰って寝ようと思った。

「――何をなされているのですか?」
「――ひっ!?」

 その時、後ろから誰かに声をかけられた。
 私はびっくりして、思わずその場で固まってしまった。
 薄暗いとはいえ、先ほどまで誰の姿も気配もなかったはずなのに……。
 そして恐る恐る首を回し、後ろを確認すると……そこにはメリッサさんがいた。
 失礼かも知れないが、暗がりの中で突如現れた彼女は不気味に見えた。

「えっと…特に何かしていたわけでは……」

 つい反射的に言い訳してしまう。

「……気になりますか?」

 だがメリッサさんの目は私の手に注がれている。
 そして私の手はしっかりと…お義兄様の寝室のドアノブを掴んでいるのだ…。
 しかも扉は少しだが開いている…言い訳のしようがなかった…。

「えっ、あっ、いやぁ…」

 私はまるで、悪戯がばれた子供のようだった。
 恐らく今の私は、顔は赤くなり目は泳いでいることだろう。

「どうぞ、こちらへ…」

 そう言うとメリッサさんは少し開いたドアをさらに開け、中に入るように即して来た。

「えっ?? いや、その…いいんですか?」

 返答は沈黙だ。でも良いのだろうか…ここはお義兄様の寝室で彼は寝ているはずだ。
 仮にも主人…いや今の主人はトマスなのでその兄だが、こんな事をして許されるのだろうか。私もトマスと結婚するとはいえ、まだ籍は入れていないのだ…。そんな状態で…。

「し、失礼いたします…」

 これを言うのは二回目だ…。
 私は結局、メリッサさんの圧に負けて部屋に入った。
 そして彼女も入ってきて扉が閉められた。
 なんだか逃げ場がなくなった…そんな感覚だった。

「こちらへお掛けください」

 私は薄暗い中、用意された椅子に座る。
 ふと横を見ると…寝ているお義兄様の顔がチラりと見えた。
 私が座ったのはベットの真横だった。

「さて…」

 ただ顔を見ただけだが悪い事をしたような感覚になり、私はその一言で思わずびくりと震えてしまう。メリッサさんを見ると立ったままだった。

「何からお話…いえ、まず何かお聞きになりたい事は御座いますか?」

 私は先ほどの行為を咎められると思って緊張していたが、彼女にそう切り出された。
 もしかして聞けば普通に話してくれるのだろうか…?
 彼らが隠そうとしているを…。

 ――聞いても良いのだろうか…?

 聞けば戻れないような気がするが、知らないで不利益を被るのはもっと御免だった。

 だがあまりに急な展開に、私は何を聞こうか迷ってしまった。
 そして――。

「えっと――彼は…お義兄様は本物の『金獅子きんじし』なんですか!?」

 なんというか本当に聞いていいか分からない質問をしてしまった。
 もしこれで『違います』なんて言われたら逆に困る。
 そもそも彼は寝ているのだから証明しようがないのだが。

「……??」

 メリッサさんはしばらく、何を言われているか分からないという顔をしていたが…。

「あぁ…なるほど、そういう事ですか…」

 そう言うと何やら思い至ったようで、お義兄様に近づき布団をめくった。
 そして――何を思ったのか、彼の服を脱がし始めたのだ…。

「…んぇっ!? ちょ、ちょっと何、を…?」

 私は思わずその奇行に慌てて止めようとしたが、目にした光景に驚いてしまった。
 お義兄様の体はやせ細っていて、まるで…。

「証明にはなりませんが…これが英雄の真相に御座います」
「いや、真相って…」

 何を言っているんだこの人は…これでは英雄ではなく――病人だ。
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