溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ

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初対面

中身は大人(26歳)なのですよ

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 慌ててみんなと同じように礼を尽くそうとすれば止められた。
 その顔がまた、私の知っている笑顔だからこそ安心してしまう。

 頭を下げる時間は正確に決まっていて、一斉に頭を上げる瞬間は圧巻。
 規律を重んじる組織みたい。

 「それで?何があったのか教えてくれるかな」

 私ではなくラーシャに問うセインの声は低くて、まるで怒っているかのよう。

 さっきまでの殺気や敵意は完全になく、ラーシャの瞳には尋常じゃない熱が込められている。

 「セイン様!その子は“ななし”です。お傍にいるのは……」
 「君は誰の許可を得て私を愛称で呼んでいるのかな?」

 背筋が凍ったのは私だけではなかった。
 魔力を放出して威圧しているわけではないのに息苦しい。

 僅かに乱れた呼吸。顔色は悪くないものの指先が震えている。今のラーシャではまともに喋れないだろう。

 「あの……セイン。私」
 「おい!!“ななし”の分際でセインレッツェル殿下に馴れ馴れしくするな!!」
 「彼女は私に話しかけたんだ。君は黙っていてくれ」

 だから怖いって。優しさとは無縁。雰囲気がガラリと変わる。
 あんなに偉ぶっていた子息は蛇に睨まれた蛙状態。俯いたまま黙り込む。

 「それで、どうしたの?」

 私と彼らに向ける視線の差。氷のように冷たい瞳が一瞬で温かくなる。

 「ごめんなさい。知らなかったとはいえ、無礼な態度を取ってしまって」

 一歩引いて以前の言動を詫びた。

 お父様も言っていたのに。無知は罪であると。

 私はもう“ななし”ではなくユーリ・テロイ。
 テロイの唯一の公女でもある私が、知らなかったなんて言い訳は通用しない。

 「どうして謝るの?」
 「だって……」
 「今の私はセインレッツェルだとしても、あの日はただのセインだった。君がどんな態度を取ろうとも、無礼になるはずがない」
 「セイン様!!“ななし”と知り合いなのですか!?」
 「これで二度目だ、令嬢。許可なく愛称で呼ばないでくれ。もし三度目があれば君の首だけでは済まないよ」
 「も、申し訳ございません。セインレッツェル殿下」
 「はぁ……。ここは騒がしい。向こうに行こうか」

 私の手を取ったセインは周りの目を気にすることなく中央に移動する。歩幅を合わせながら。
 小さな気遣いではあるけど、私はそれがとても嬉しかった。

 先程の小さな揉め事を蒸し返さない。大方の予想がついたのだろう。

 そりゃそうだよね。招待した貴族が“ななし”と呼ばれていたら。

 「ここにある料理は好きなだけ食べていいんだよ」

 ワゴンに乗った様々な料理。

 なるほど。セインと交流を深めるための立食パーティーか。

 趣旨を理解したところで、何があるのか見えない。身長があと数センチあれば私だって……。
 かろうじて料理の一部が見えるけど、何の料理かまではさっぱり。
 背伸びをしたら見えるだろうけど、そんな不安定な状態では料理が取れない。

 「ユーリは何が食べたいんだ?」

 私とセインの間に割り込んできたのはエルノアヴィルト。
 良かった。いてくれて。顔を見るだけでこんなにも安心するなんて。

 たった一回しか会ったことのない、雲の上の存在なのに。
 初めての友達だから、安心感があるんだ!

 うーん。エルノアヴィルトってちょっと長いし、許可をくれた愛称で呼ばせてもらおう。

 軍服にも近い赤い礼服。こちらも映える金色の糸で豪華な刺繍。
 袖のカフスボタンには王家の紋様。

 ──王子様だ。

 エルは本物の王子様なんだけどね。
 そうじゃなくて。絵本に出てくるような王子様って意味で。

 「どうした?」
 「エルがカッコ良いから見とれてた。えへへ」
 「ん、そうか……」

 うっすらと頬を赤く染めながら、斜め下に視線が動く。

 「ユーリ。私は?」
 「殿下も……」
 「む。ユーリ。セインでいいんだよ。かしこまらないで」
 「う、うん。じゃあ……セイン」

 愛称で呼べば穏やかにはにかんだ。ちょっといじけていたのが嘘みたいに。
 やっぱり可愛いな。

 「セインもカッコ良いよ」
 「ありがとう。ユーリもすごく可愛い」

 言い慣れてるな。遊び人ってわけではないだろうけど、女性の扱いを心得ていた。

 「お、俺も!!ユーリのこと可愛いって……い、言いたかったのに」

 もう言ってますが?意外と天然だな、王子様。

 褒めたら褒め返すルールでもあるのかな?二人して私に「可愛い」と言ってくれるなんて。

 ざっと見渡しただけでも、可愛い女の子は何人もいる。それこそ、小さい私よりも。
 ラーシャは特に。原作通りのヒロインなら、みんなが恋するレベル。

 「ユーリは好きな食べ物ある?」
 「んとね……」

 私のために色んな料理を作って出してくれるけど、何が一番好きかを考えたことはなかった。
 どれも美味しくて、毎日でも食べたい。

 噛む力が弱い私のために、お肉も野菜もよく煮込んでくれる。

 「柔らかいのがいい」
 「この肉とそっちのサラダを取ってくれるかな」
 「かしこまりました」

 取り分けてくれる人いたんだ。
 別の子に取っていたからさっきは姿が見えなかったのか。

 ホテルのボーイさんみたいな男性が小皿に取り分けて渡してくれる。

 「ありがとうございます」

 落ちないように深めのお皿の上には、サイコロステーキと色とりどりのサラダ。プチトマトもある。

 立食パーティーとはいえ、立ったまま食べられる自信がない。
 手が疲れてお皿を落とす。

 「ユーリ。座って食べよう」

 どうするか悩んでいると、エルが壁際に並んだテーブルを指差した。
 席が用意されていたことにホッとしながら、新たな問題が発生。
 そこまで長い距離ではないけど、これを持って向こうに辿り着けるかどうか。
 行けるとは思うけどさ。慣れないことをして、足がもつれて転んだら恥ずかしい。

 「失礼します。こちらお運びしてもよろしいですか?」 
 「あ、はい。お願いします」

 困っているのを察して私からお皿を受け取り、テーブルに運んでくれた。
 子供用とはいえ私には高い椅子にも座らせてくれて。

 「ありがとうございます。助かりました」

 私がお礼を言うとボーイさんはなぜか驚く。すぐに笑顔を浮かべるけど。

 ここにいるのは貴族ばかり。それも子供。何かをしてもらうのが当たり前。

 なるほど。貴族なのにお礼を言うのが新鮮で珍しい。ありえないことを目の当たりにして、つい驚いた。そういうことか。

 私は中身が大人で、貴族とは無縁の世界で生きてきた。なので、何かをしてもらって当たり前という感覚はない。

 今は子供だし出来ないことが多いのも事実。だからこそ、お礼は伝えるべきだ。
 出来ない私の代わりに手を貸してくれるのだから。

 「お兄さんのように小さな気配りをしてくれる大人がいると心強いです」
 「いえ。これが私の仕事ですので」
 「指輪。外してくれていますよね」
 「え……?なぜそれを」
 「薬指に跡がついています」

 わざわざ外したのは料理を取り分ける際に、指輪が食器に当たって音を鳴らさないため。
 私みたいに抱き上げて椅子に座らせるときに、誤って傷つけないようにしてくれた。

 どちらの理由も他者を思いやる優しい心を持っているから。

 さりげない優しさは時に人を救う。彼のように素敵な大人が増えたら、国はもっと良くなるのではないだろうか?

 「レディーのように素敵な淑女にお褒め頂き光栄です」

 ……淑女?え、待って。今の私って淑女なの?
 嬉しさのあまりエルとセインを交互に見た。その目が輝いていることは自覚している。

 まだまだ子供だと思っていたけど、いつの間にか淑女になっていたなんて。
 嬉しさのあまり表情が蕩けてしまう。
 頬が緩みすぎてだらしない。頑張ってもちもち肌を手で抑えるも、へにゃりとなって諦めるしかなさそうだ。

 ──むぅ、この大人にはない子供特有のもちもち肌め!

 何の手入れもしていないのに、肌は潤いハリがある。食事と適度な運動(散歩)はコンディションを整えてくれた。
 そのおかげもあって、体調は良すぎるのだ。

 単に表情筋が解れすぎているだけかもしれないけど。
 前までは表情筋は死に目には光なんて宿っていなかった。
 優しい家族に囲まれて溢れんばかりの愛情を注がれることで、少しずつ取り戻していったんだ。私は生まれてきた人間であったことを。

 淑女と褒められたことをすぐにでも家族に報告したい。
 
 ──大袈裟なまでに喜んでくれるだろうか?

 早く家族に会いたくなった。パーティーはいつまで続くのかな。

 「「(ユーリが可愛い)」」
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