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最上位魔物
お願いをしないといけません
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「父様。みんなで集まって何のお話してるの?」
私の登場により中断されてしまった会議を再開してほしくて話題に触れた。
詳細は聞いているとはいえ、知らぬ存ぜぬを押し通すために、わからないふりは不可欠。
が、私のバカなふりは不発に終わる。
「ユーリ。これは何だ?」
父様の興味はサンドイッチにしかない。
馴染みのサンドイッチとは別に分厚く黄色い物が挟まれていたら思わず警戒してしまう。
「玉子だよ」
正直に答えた。父様の思考は停止した。息も忘れるくらいに。
「あのね。玉子焼きっていって、目玉焼きじゃない玉子料理だよ」
百聞は一見にしかず。
あれこれ考える悩む前に食べたほうが早い。
あーんをすると人目も気にせず一口食べた。
頑張ってふんわり玉子焼きを作ったので、多少の衝撃はあるだろう。
というか、あってほしい。
「これをユーリが作ったのか?」
「うん!」
「料理人に任せたではなくて?」
「焼くのも切るのも一人でやったよ」
「怪我はしてないか?」
「ん?うん。大丈夫!」
心配をさせてしまった。
こんな子供が包丁を握ったりするのはあまりよろしくないことだったのか。
平民ならともかく、貴族が自ら厨房に立つことさえ中傷の口実を与える。
私が玉子料理の新たな可能性を発見……見せたことでエックの料理人魂に火がついた。
固定概念に囚われず他の食材でも新しい料理を作ってみせると意気込む。
私も元の世界の料理が食べられるのは嬉しいので、協力は惜しまない。
「お口に合わない?」
「いいや。とても美味しいよ」
「えへへ」
なら良かった。
「もう食べながらでいいから話をしてもいいか」
陛下が咳払いをすれば全員の背筋が伸びて、話し合う体勢に入る。
私は父様の膝に座らされたまま。
一人だけ早めの昼食を摂っていても、誰も何も言わない。
ストフォード様はサンドイッチを狙っていたけど、父様の殺気のこもった「黙れ」の一言に口を閉ざした。
丸く長いテーブルの真ん中には紙が広げられている。
何が書かれているのか見たい。
「あれ何?」
「地図だ。見るか?」
「うん」
アトゥル様がスッと地図をこちらに寄せてくれた。
えーーっと。ここが私の住む国か。こっちがセインの故郷。
およ?海があるではないか。ということは魚もいるはず。
海があるのに海鮮料理をお目にかかれないのは、もしやこの世界に魚は存在しないのでは。
なんとも悲しい事実。
「で、先程の話だが。リミック。物資が届くまでの間、テロイ家から各家門に配ってはくれないか」
「お断りします。災害に備えていないのが悪いのです」
父様は毅然とした態度で答えた。
物資が届く?思わず頭の中で整理し始める。
あぁ、補償するための食料や資材が外から入ってくるってことか。
「今頃はリマンド国に商人が到着しているだろう。早くても彼らが来るのは1週間はかかる」
リマンド国は森を挟んだもう一つのお隣さん。
地図を見てもそこまで広い森ではない。数時間あれば余裕で抜けられる。
私は父様の袖をそっと引っ張り森を指差した。“ハザックの森”を抜ければすぐ着くよと意味を込めて。
「ユーリは地図が読めるのか?」
「ん?うん!」
私は自信を持って答えた。
「そうか。読めるのか」
あれ?ダメなの?
そんなに細々していないから、誰でも読めると思うんだけどな。
「ユーリは何歳なのだ?」
ヴィバル様は興味深く聞いてきた。
おずおずと指で歳を教えるとヴィバル様の口元が微かに上がる。
「4歳か。まだ文字が読めるかも怪しい歳頃ですね」
アトゥル様は顎に手を当てながら考えるような口ぶり。
む、読めるもん。これでもほとんど毎日、絵本を朗読しているんだから。
地図を確認して一つずつ指で差しながら
「ここがお城。んー……あ!この前パーティーしたとこだ。テロイ家。ロットオルフォン家。リザーク家。アライド家。シュバルツ家」
あれ?何でこの五家だけ色が違うんだろ。疑問が私の胸に湧き上がる。考え込むこと数分、私は閃いた。
「ヴィバル様は雷魔法なんですね。ジーメリナ様は水魔法でアトゥル様は土魔法。ストフォード様は風魔法。父様も含めた皆様はそれぞれの魔法属性においてトップ。ということですね」
周囲の目が私に注がれる。
「ほう、なぜそう思う?」
陛下が静かに尋ねた。
「家門の紋章が、それぞれ属性を表す色で示されているからです」
これは果たして偶然だろうか?いいや、違う。
他の家門に色が付いていないことも、私の推理に確信を与えた。
色もちょうど五色。テロイ家が赤色の時点で、そういうことなのだろう。
──あれ?でも、今のロットオルフォン家はリファラ叔父さんが当主だから風魔法だよね?
ということは緑色ではなくてはならないはず。
浮かび上がった小さな疑問。少し考えて、ロットオルフォンの血筋ではないため反映されていないということ。
家門の色は血統に根ざした魔法属性の証なのだろう。
自信満々に披露したのに周りはみんな黙り込む。
どこか間違っていたのかな?ええー、めっちゃ恥ずかしいじゃん。
答え合わせはみんなの羽織でも充分だった。
父様の羽織には自身の炎とアネモスの風をモチーフに刺繍が施されている。他の四人も属性に関わる刺繍。
これらが本当に単なる偶然だとしたら上手いことミスリードに引っかかってしまった。
「驚いた。まさかここまで賢いとは」
ヴィバル様は本当に驚いていた。アトゥル様の目も微かにだけど開く。
「その歳でこんなにも賢い子は見たことがない」
「えへへ」
褒められると嬉しいものだ。
ついつい顔がニヤけてしまう。
気付いたのはそれだけではない。ヴィバル様のロットオルフォン家はリファラ叔父さんが婿養子に入った侯爵家でもある。
現当主はリファラ叔父さんだけど、会議にはヴィバル様が参加するらしい。
同じ血筋の人が集まるのはあまりよろしくないことで、リファラ叔父さんがお願いをしたそうだ。
とっくに当主を引退したとはいえ、暇を持て余しているからと快く引き受けてくれた。
「どんな教育をしたらこんな賢くなるんだ、リミック?」
「教育ではない。ユーリの才能だ」
得意げな父様が可愛い。私が褒めれて喜んでいるのがよくわかる。
父様の親バカ発言に、古くからの付き合いがある人達は絶句。
ストフォード様の驚き方は群を抜いていた。
「ハザックの森を抜けたらすぐだよ」
「そう、だな」
妙に歯切れが悪い。
国境は別に記されているから森を抜けることは造作もないはず。
「ここには最上位魔物、キングゴブリンが生息している森。足を踏み入れたら最後、命はない。不可侵……つまりは侵すことの出来ない領域だ」
「その説明ではユーリには難しいんじゃないのか?」
「いや。そうでもないぞ。見ろ、あの顔を」
不可侵領域。禁断の領域というわけか。
最上位魔物が住む森。ずっと昔に何らかの条約が結ばれて、人間は森に入れないということ。
森を抜けられないとなると、かなりの大回りになるため日数を要する。
災害は恐ろしい。人の命を簡単に奪う。
居場所も思い出も全部飲み込んで。
水害によって各領地の被害は甚大。王都だけは無事であるけど、近くに川が流れている町や村、山付近に住む人達はかなりのダメージを受けた。
かろうじて家は無事だったらしいけど、畑は使い物にならない。そう、食料がないのだ。
他にも生活に不可欠な物資も。
王都を除く全ての地域に配るとなると、保管している量だけでは到底足りない。そこで、テロイ家の出番。
テロイ領は広大な土地と綺麗で大きな川が流れている。大雨が降って氾濫しないように高く頑丈な堤防を作った。
おかげで水が街に流れ込んで被害をもたらすことはない。
何が起きてもいいように、災害の対策はしっかりしている。
聞けば頑丈な高台も作っているとか。
もちろん、他の領地もきちんと対策をしているとはいえ相手は自然。こちらの予想を大きく超えることだってある。
今回がまさにそれ。
予想以上の大雨に被害は計り知れない。幸いだったのが人命が失われていないこと。
「うちの領地はそこまで被害はなかったが、念の為に1週間分の食料を分けてほしい。頼む、リミック」
「お前とは長い付き合いだ。断る理由がない。ロットオルフォン家は大丈夫ですか」
リファラ叔父さんがいる家は贔屓めで、兄として助けたい気持ちが全面に押し出ている。
「作物がほとんど流されたが、屋敷にある分でギリギリ凌げるはずだ」
「すまないが私のほうに支援してくれ」
「アライド家は山に囲まれた領域だったな。退路は絶たれていないのか」
「馬車一台なら通れるようになった。が、隔離状態に変わりない」
「それでしたら、我がシュバルツ領に避難してはどうですか。二次災害の恐れがありますので、安全が確保されるまでの間だけでも」
地図を見てわかる通り、アライド領とシュバルツ領はご近所さん。歩いてすぐに行ける距離ではないけど、馬車が使えるのであれば1時間ちょっとで着く。
「それは助かる。リミック。すまないがシュバルツ領に食料と物資を届けてくれるか」
「すぐに手配する」
「本当にすまない。ありがとう」
「公爵。些か、贔屓が過ぎるのではないか」
ごうを煮やした偉いおじいちゃんが横から口を挟む。
おじいちゃんと言っても80歳90歳ではなく、おじちゃん?に近いのかな。定年は確実に迎えているだろう。
ただちょっと……ねぇ。見た目が老けているため、おじいちゃんのほうがしっくりくるだけ。
同年代であろうヴィバル様に老いを感じさせないからか、おじいちゃん達はより目立つ。
賛同するかのように、他の人もうなづいた。
さっきまであんなに支援しないと断言していたのに、ストフォード様達には簡単に手を差し伸べるのとが気に食わないらしい。
優先順位を履き違えていると豪語している。
「最初に助けるべきは我々のはずです」
「どれだけ国に貢献し、貴方を助けてきたとお思いか」
「はい」
勝手に喋るのは空気が読めないと思われそうで手を挙げた。
自分の意見を述べるときにはこうするべきだと習ったから。
「どうしたんだ、ユーリ」
「どうして皆さんは、そんなに助けてもらうのが当たり前だと思っているんですか?」
「はい?」
「助けてほしいならちゃんと、お願いしますって言わないとダメなんですよ」
弱き者に手を差し伸べるのが貴族の義務だったときても、ここまで傲慢に上から目線の人を助けたいとは思わない。
しかも、この様子では感謝すらしないだろう。
いくら優しい父様だとしても、最低限の礼儀も弁えない人は嫌いだ。
身分云々ではなく、人としてのマナーは守るべき。
「幼いユーリのほうが、無駄に歳を食った貴様らよりしっかりしているようだな」
何か面白いことがあったのか。ヴィバル様は笑っていた。
「ぅ、ぐっ……」
「公爵。我々にも支援をしてくれ」
「お願いしますって言わないと」
肝心なことが抜けているので教えてあげた。
命に関わる怪我をした人がいないとはいえ、食事や水を摂れないのは厳しい。それこそ本当に命に関わる。
父様の支援がなければ危険な状況に変わりないのであれば、私としても協力してもらえるように手を貸したい。
「「お、お願いします」」
「はぁ……。被害の大きい所から順番に届けさせる」
ちょっと嫌そうだった。
というか。ほとんどの領地に配れるほどの食料や物資を大量にストックしているテロイ家に驚きだよ。
物語の中心となる家門でもあるわけだし、作者が意図的に差をつけたとしても不思議ではないか。
父様のおかげで国民の命は繋がれる。
良かったと安心するのも束の間。すぐさま別の議題へと移る。
私の登場により中断されてしまった会議を再開してほしくて話題に触れた。
詳細は聞いているとはいえ、知らぬ存ぜぬを押し通すために、わからないふりは不可欠。
が、私のバカなふりは不発に終わる。
「ユーリ。これは何だ?」
父様の興味はサンドイッチにしかない。
馴染みのサンドイッチとは別に分厚く黄色い物が挟まれていたら思わず警戒してしまう。
「玉子だよ」
正直に答えた。父様の思考は停止した。息も忘れるくらいに。
「あのね。玉子焼きっていって、目玉焼きじゃない玉子料理だよ」
百聞は一見にしかず。
あれこれ考える悩む前に食べたほうが早い。
あーんをすると人目も気にせず一口食べた。
頑張ってふんわり玉子焼きを作ったので、多少の衝撃はあるだろう。
というか、あってほしい。
「これをユーリが作ったのか?」
「うん!」
「料理人に任せたではなくて?」
「焼くのも切るのも一人でやったよ」
「怪我はしてないか?」
「ん?うん。大丈夫!」
心配をさせてしまった。
こんな子供が包丁を握ったりするのはあまりよろしくないことだったのか。
平民ならともかく、貴族が自ら厨房に立つことさえ中傷の口実を与える。
私が玉子料理の新たな可能性を発見……見せたことでエックの料理人魂に火がついた。
固定概念に囚われず他の食材でも新しい料理を作ってみせると意気込む。
私も元の世界の料理が食べられるのは嬉しいので、協力は惜しまない。
「お口に合わない?」
「いいや。とても美味しいよ」
「えへへ」
なら良かった。
「もう食べながらでいいから話をしてもいいか」
陛下が咳払いをすれば全員の背筋が伸びて、話し合う体勢に入る。
私は父様の膝に座らされたまま。
一人だけ早めの昼食を摂っていても、誰も何も言わない。
ストフォード様はサンドイッチを狙っていたけど、父様の殺気のこもった「黙れ」の一言に口を閉ざした。
丸く長いテーブルの真ん中には紙が広げられている。
何が書かれているのか見たい。
「あれ何?」
「地図だ。見るか?」
「うん」
アトゥル様がスッと地図をこちらに寄せてくれた。
えーーっと。ここが私の住む国か。こっちがセインの故郷。
およ?海があるではないか。ということは魚もいるはず。
海があるのに海鮮料理をお目にかかれないのは、もしやこの世界に魚は存在しないのでは。
なんとも悲しい事実。
「で、先程の話だが。リミック。物資が届くまでの間、テロイ家から各家門に配ってはくれないか」
「お断りします。災害に備えていないのが悪いのです」
父様は毅然とした態度で答えた。
物資が届く?思わず頭の中で整理し始める。
あぁ、補償するための食料や資材が外から入ってくるってことか。
「今頃はリマンド国に商人が到着しているだろう。早くても彼らが来るのは1週間はかかる」
リマンド国は森を挟んだもう一つのお隣さん。
地図を見てもそこまで広い森ではない。数時間あれば余裕で抜けられる。
私は父様の袖をそっと引っ張り森を指差した。“ハザックの森”を抜ければすぐ着くよと意味を込めて。
「ユーリは地図が読めるのか?」
「ん?うん!」
私は自信を持って答えた。
「そうか。読めるのか」
あれ?ダメなの?
そんなに細々していないから、誰でも読めると思うんだけどな。
「ユーリは何歳なのだ?」
ヴィバル様は興味深く聞いてきた。
おずおずと指で歳を教えるとヴィバル様の口元が微かに上がる。
「4歳か。まだ文字が読めるかも怪しい歳頃ですね」
アトゥル様は顎に手を当てながら考えるような口ぶり。
む、読めるもん。これでもほとんど毎日、絵本を朗読しているんだから。
地図を確認して一つずつ指で差しながら
「ここがお城。んー……あ!この前パーティーしたとこだ。テロイ家。ロットオルフォン家。リザーク家。アライド家。シュバルツ家」
あれ?何でこの五家だけ色が違うんだろ。疑問が私の胸に湧き上がる。考え込むこと数分、私は閃いた。
「ヴィバル様は雷魔法なんですね。ジーメリナ様は水魔法でアトゥル様は土魔法。ストフォード様は風魔法。父様も含めた皆様はそれぞれの魔法属性においてトップ。ということですね」
周囲の目が私に注がれる。
「ほう、なぜそう思う?」
陛下が静かに尋ねた。
「家門の紋章が、それぞれ属性を表す色で示されているからです」
これは果たして偶然だろうか?いいや、違う。
他の家門に色が付いていないことも、私の推理に確信を与えた。
色もちょうど五色。テロイ家が赤色の時点で、そういうことなのだろう。
──あれ?でも、今のロットオルフォン家はリファラ叔父さんが当主だから風魔法だよね?
ということは緑色ではなくてはならないはず。
浮かび上がった小さな疑問。少し考えて、ロットオルフォンの血筋ではないため反映されていないということ。
家門の色は血統に根ざした魔法属性の証なのだろう。
自信満々に披露したのに周りはみんな黙り込む。
どこか間違っていたのかな?ええー、めっちゃ恥ずかしいじゃん。
答え合わせはみんなの羽織でも充分だった。
父様の羽織には自身の炎とアネモスの風をモチーフに刺繍が施されている。他の四人も属性に関わる刺繍。
これらが本当に単なる偶然だとしたら上手いことミスリードに引っかかってしまった。
「驚いた。まさかここまで賢いとは」
ヴィバル様は本当に驚いていた。アトゥル様の目も微かにだけど開く。
「その歳でこんなにも賢い子は見たことがない」
「えへへ」
褒められると嬉しいものだ。
ついつい顔がニヤけてしまう。
気付いたのはそれだけではない。ヴィバル様のロットオルフォン家はリファラ叔父さんが婿養子に入った侯爵家でもある。
現当主はリファラ叔父さんだけど、会議にはヴィバル様が参加するらしい。
同じ血筋の人が集まるのはあまりよろしくないことで、リファラ叔父さんがお願いをしたそうだ。
とっくに当主を引退したとはいえ、暇を持て余しているからと快く引き受けてくれた。
「どんな教育をしたらこんな賢くなるんだ、リミック?」
「教育ではない。ユーリの才能だ」
得意げな父様が可愛い。私が褒めれて喜んでいるのがよくわかる。
父様の親バカ発言に、古くからの付き合いがある人達は絶句。
ストフォード様の驚き方は群を抜いていた。
「ハザックの森を抜けたらすぐだよ」
「そう、だな」
妙に歯切れが悪い。
国境は別に記されているから森を抜けることは造作もないはず。
「ここには最上位魔物、キングゴブリンが生息している森。足を踏み入れたら最後、命はない。不可侵……つまりは侵すことの出来ない領域だ」
「その説明ではユーリには難しいんじゃないのか?」
「いや。そうでもないぞ。見ろ、あの顔を」
不可侵領域。禁断の領域というわけか。
最上位魔物が住む森。ずっと昔に何らかの条約が結ばれて、人間は森に入れないということ。
森を抜けられないとなると、かなりの大回りになるため日数を要する。
災害は恐ろしい。人の命を簡単に奪う。
居場所も思い出も全部飲み込んで。
水害によって各領地の被害は甚大。王都だけは無事であるけど、近くに川が流れている町や村、山付近に住む人達はかなりのダメージを受けた。
かろうじて家は無事だったらしいけど、畑は使い物にならない。そう、食料がないのだ。
他にも生活に不可欠な物資も。
王都を除く全ての地域に配るとなると、保管している量だけでは到底足りない。そこで、テロイ家の出番。
テロイ領は広大な土地と綺麗で大きな川が流れている。大雨が降って氾濫しないように高く頑丈な堤防を作った。
おかげで水が街に流れ込んで被害をもたらすことはない。
何が起きてもいいように、災害の対策はしっかりしている。
聞けば頑丈な高台も作っているとか。
もちろん、他の領地もきちんと対策をしているとはいえ相手は自然。こちらの予想を大きく超えることだってある。
今回がまさにそれ。
予想以上の大雨に被害は計り知れない。幸いだったのが人命が失われていないこと。
「うちの領地はそこまで被害はなかったが、念の為に1週間分の食料を分けてほしい。頼む、リミック」
「お前とは長い付き合いだ。断る理由がない。ロットオルフォン家は大丈夫ですか」
リファラ叔父さんがいる家は贔屓めで、兄として助けたい気持ちが全面に押し出ている。
「作物がほとんど流されたが、屋敷にある分でギリギリ凌げるはずだ」
「すまないが私のほうに支援してくれ」
「アライド家は山に囲まれた領域だったな。退路は絶たれていないのか」
「馬車一台なら通れるようになった。が、隔離状態に変わりない」
「それでしたら、我がシュバルツ領に避難してはどうですか。二次災害の恐れがありますので、安全が確保されるまでの間だけでも」
地図を見てわかる通り、アライド領とシュバルツ領はご近所さん。歩いてすぐに行ける距離ではないけど、馬車が使えるのであれば1時間ちょっとで着く。
「それは助かる。リミック。すまないがシュバルツ領に食料と物資を届けてくれるか」
「すぐに手配する」
「本当にすまない。ありがとう」
「公爵。些か、贔屓が過ぎるのではないか」
ごうを煮やした偉いおじいちゃんが横から口を挟む。
おじいちゃんと言っても80歳90歳ではなく、おじちゃん?に近いのかな。定年は確実に迎えているだろう。
ただちょっと……ねぇ。見た目が老けているため、おじいちゃんのほうがしっくりくるだけ。
同年代であろうヴィバル様に老いを感じさせないからか、おじいちゃん達はより目立つ。
賛同するかのように、他の人もうなづいた。
さっきまであんなに支援しないと断言していたのに、ストフォード様達には簡単に手を差し伸べるのとが気に食わないらしい。
優先順位を履き違えていると豪語している。
「最初に助けるべきは我々のはずです」
「どれだけ国に貢献し、貴方を助けてきたとお思いか」
「はい」
勝手に喋るのは空気が読めないと思われそうで手を挙げた。
自分の意見を述べるときにはこうするべきだと習ったから。
「どうしたんだ、ユーリ」
「どうして皆さんは、そんなに助けてもらうのが当たり前だと思っているんですか?」
「はい?」
「助けてほしいならちゃんと、お願いしますって言わないとダメなんですよ」
弱き者に手を差し伸べるのが貴族の義務だったときても、ここまで傲慢に上から目線の人を助けたいとは思わない。
しかも、この様子では感謝すらしないだろう。
いくら優しい父様だとしても、最低限の礼儀も弁えない人は嫌いだ。
身分云々ではなく、人としてのマナーは守るべき。
「幼いユーリのほうが、無駄に歳を食った貴様らよりしっかりしているようだな」
何か面白いことがあったのか。ヴィバル様は笑っていた。
「ぅ、ぐっ……」
「公爵。我々にも支援をしてくれ」
「お願いしますって言わないと」
肝心なことが抜けているので教えてあげた。
命に関わる怪我をした人がいないとはいえ、食事や水を摂れないのは厳しい。それこそ本当に命に関わる。
父様の支援がなければ危険な状況に変わりないのであれば、私としても協力してもらえるように手を貸したい。
「「お、お願いします」」
「はぁ……。被害の大きい所から順番に届けさせる」
ちょっと嫌そうだった。
というか。ほとんどの領地に配れるほどの食料や物資を大量にストックしているテロイ家に驚きだよ。
物語の中心となる家門でもあるわけだし、作者が意図的に差をつけたとしても不思議ではないか。
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良かったと安心するのも束の間。すぐさま別の議題へと移る。
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