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最上位魔物
今度こそ、本当に帰ります
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父様は良い顔をしない。行かせてくれるつもりはないようだ。
事前でも事後でも、結局は怒られているような?
──気のせいであってほしい。
船が使えるってことはもっと色んな国とも貿易が出来る。国にとってはメリットしかない。
可能性があるならそれにも賭けても損はないと思う。
「行くの、海!」
「最上位魔物は通常の魔物より強さの桁が違う。リンシエやレーゼルでは太刀打ちが出来ない」
「ん……。父様と一緒に行く」
これで万事解決。
「行くとしても次の土耀だ」
「今から!」
「これからハザックの森に行き、商人を待たなくてはならないんだ」
それは文官である父様の仕事なの?
商人からしたら通い慣れた道ではなく、これまで避けてきたハザックの森に行けと言われたら戸惑うし、恐怖しかない。
顔馴染みで、剣術にも精通している父様が森の入り口で待っていてくれると安心はする。
そういう意味で父様が選ばれた?
それだけではない気がする。
迎えに行くだけなら将軍でもあるストフォード様でも良いわけだ。
父様が向かわなければならない理由。商人が到着してすぐ売買が行われるから。
個人ではなく国としての商売なら陛下が信用している人が行うしかない。
地図と実際の距離は違うとはいえ、見た感じでは半日で着くかは微妙なところ。
予定よりも早く着いたとして、品物の確認や支払いといった仕事があるために父様が帰ってくることはない。
届いた物資を各地に届ける作業もあるわけだし。
でも、私としてはすぐにでも交渉に行きたい。
「では、儂と行くのはどうだ?」
「ヴィバル様と?」
「あぁ。儂なら相手が最上位魔物でも簡単に負けたりはしない」
「ロットオルフォン侯爵。余計なことを言わないで下さい」
「明日の朝、迎えに行ってもいいか?」
「侯爵!!」
ヴィバル様がいてくれるなら心強いし、ニカルともまた会える。
「待ってる」
足にしがみついた。
「ユーリは素直だな。そういうことだ、リミック。諦めろ」
「なっ……はぁ。怪我だけはさせないで下さい」
「儂の命に代えても守るさ」
嫌々ながらにも許可は得た。
明日の9時。ヴィバル様はテロイ家に来てくれる。
今日はもう夜更かしをせずに早く寝ないと。
「キングゴブリン。すぐ森に戻るぞ。これ以上の滞在は王城の人間に恐怖しか与えない」
【軟弱だな。人間とは】
「ばいばい。またね」
【また……?】
「そうだよ。また会いに行くからね」
ゲールの瞳が潤み揺れた。
当たり前に交わす約束でさえ魔物からしてみれば特別。
ましてやゴブリンなら尚更。
また、なんて、これまでの人生にはなかった。
【あぁ。待っている】
控えめに浮かぶ笑み。イケメンだな。
早馬が使えないので私同様にアネモスに飛ばしてもらうらしい。
私はジーメリナ様に送ってもらうことになった。
ヴィバル様が名乗りを上げた瞬間に、父様がジーメリナ様を指名したのだ。
じとーっと軽く睨む視線をも無視して、時間が惜しいからとキングゴブリンと共に退室した。
「ユーリ。私達も行くとしよう」
「はい」
ジーメリナ様の手を掴むと、しばし固まる。
意外と好感触だと思っていたけど、そんなに好かれてなかったかな。
歩くときは手を繋ぐのが癖になっているので、ジーメリナ様に確認もせず勝手なことをしてしまった。
手を離せば風の速さで繋ぎ直してくれる。
それは嫌われていない証拠。
嬉しくなると頬がだらしなくなるのが恥ずかしい。
ジーメリナ様は馬は薄い茶色。何とも穏やかな顔をしている。
失礼して馬車に乗り込む。
スピードはあまり出さない。ゆっくりだ。
「ジーメリナ様は」
「ジーナでいいよ、ユーリ」
愛称で呼ぶ許可を貰った。
「ジーナ様のお仕事は何ですか?」
「騎士の育成だな。本来はストフォードの仕事なのだが、あれは人に教えることが向かん」
感覚派の武人か。言われてみれば、ぽいな。
「それに女の私に負けるような奴らが騎士になったところで、主君を守れるはすない。いい采配だと思っている」
「アトゥル様は?」
「あれは宰相だ」
……え、若くない?実は見た目に反して歳取ってる?
「シュバルツ家は代々、宰相を務める家柄だ。だが、先代が早くに亡くなってしまってな。まだ成人したばかりのアトゥルが職を引き継いだ」
アトゥル様では若すぎると批判の声も多かっただろう。
小さなミスでさえ揚げ足を取ってくるような人達に囲まれて仕事をするのは辛い。
しかも。親を亡くしたばかりでは気持ちも追いついていなかったかも。
悲しみや寂しさに負けてしまわないように、現実と向き合うのは簡単なことではない。
「では、アトゥル様のご家族はお母様だけなんですか?ご兄弟は?」
「夫人はアトゥルが学園に入る前にお亡くなりになられた」
アトゥル様は成人を迎える前に家族と永遠に別れてしまった。
天涯孤独。埋まらない心の穴。
私には少しだけアトゥル様の気持ちがわかる。
若くして一族の当主となり、宰相の座にも就いた。
周りから舐められないように必死に自分を追い込む。
シュバルツの名に恥じないように。不意に襲ってくる孤独と戦いながら。
「独りは……すごく寂しいです」
「独りじゃないさ。私達がいる。アトゥルを独りになんてさせない。絶対」
そうか。良かった。独りじゃないのなら寂しくない。
「ま、アトゥルが一番信頼しているのはリミックだろうがな」
「父様を?」
「アトゥルの場合、何の準備もなく当主になったからな。一族の人間がこぞってその座を奪おうとしてきたんだ。それらを跳ね除けて守ったのがリミック・テロイ」
不慮の事故で命を落とした先代シュバルツ当主。
息子であるアトゥル様と父様は面識もあり気にかけていた。
お金と権力に群がってくる親戚は言葉巧みにアトゥル様から全てを奪おうとした。無一文で追い出すつもりだったのだ。
そこに無関係であるはずの父様の登場。
地位も名誉も全て守られた。
「皆さんの羽織はお揃いで作ったんですか?」
「これはリミックが提案したんだ。我々五家は建国以来、王家に忠誠を誓い、魔法も各属性の中で一番強かったからな。象徴という言い方はおかしいかもしれないが、一目で五家の人間であるとわかるようにと」
羽織の刺繍は個人の属性ではなく初代当主の属性を施していた。
由緒ある家柄はきちんと家系図を保管しているので、過去を遡ることが可能。
なるほど。地図に書かれた文字色もそういう意味だったのか。
そりゃそうだよね。当主が代わる度に新たに地図を作成するなんて無駄な作業をするわけがない。
今の当主がたまたま初代と同じ属性だっただけであり、私の推理は外れていてもおかしくはなかった。
──ふぅ、危ない危ない。
あの場で初代当主の話題に触れなかったのは私への配慮。
五大貴族とは、テロイ公爵家、リザーク伯爵家、アライド伯爵家、シュバルツ公爵家。そしてミトン公爵家だった。
が、近年の五大貴族にミトン家はおらずロットオルフォン侯爵家が数えられる。
元々、ロットオルフォン家も忠誠を誓っていた家門ではあるものの、魔法の属性と同じく五家を中心とするため一歩引いたのだ。
今のミトン家には五大貴族に数えられるだけの価値はないと判断され、地図は作り直された。
「アトゥルは悪い奴ではない。嫌いにならないでやってくれ」
「なりません!好かれるように頑張ります!」
「(既に好かれているのだがな)」
ジーナ様の伸びた手は頬を優しく撫でる。
わかる!同じ女性としてこのもち肌は羨ましいよね。ついつい触りたくなる。
持ち主としては、だらしなく緩んだりするので引き締めたい。
屋敷に到着すると日傘を差した母様が門でお出迎えをしてくれていた。
「お久しぶりです、公爵夫人」
「ええ、お久しぶりです。お元気でしたか?ジーメリナ」
「はい。お陰様で」
朝からここで待っていたのかな?そんなんわけよね。
まだ夏前とはいえ、ずっと陽の下にいるのは危険。
「ユーリ。お話しましょう」
はう!怒ってる!!何で!!?
ジーナ様は私を母様に預けて、すぐさま帰路につく。
中に入るとすぐにリンシエもいて、その目には涙が浮かぶ。
無言で食堂へと向かい、昼食は話が終わった後に運んでくるように指示を出した。
「ユーリ、貴女。ハザックの森に行ったそうね?それも無断で」
なぜそれを……!?母様はエスパーですか。
「えっと……」
「リミックから連絡がありましたよ」
あ、なるほどね。通信魔道具があるんだ。
父様は事前に母様から連絡を受けていて、私がお城に着いた時点で魔力感知をしていたのか。
種がわかると合点がいく。
公爵家だし色々な物を持っているのが普通。お守りの魔道具もあるわけだし。
「ユーリ?」
「ひゃい!!」
ほっぺたをむにーっと伸ばされる。
自分でも弾力があって伸びがいいなと思ってしまう。
お説教中に上の空だった私が悪い。
これでも反省はしている。だからこそ。人魚姫に会いに行くと事前報告したのだ。
事前でも事後でも、結局は怒られているような?
──気のせいであってほしい。
船が使えるってことはもっと色んな国とも貿易が出来る。国にとってはメリットしかない。
可能性があるならそれにも賭けても損はないと思う。
「行くの、海!」
「最上位魔物は通常の魔物より強さの桁が違う。リンシエやレーゼルでは太刀打ちが出来ない」
「ん……。父様と一緒に行く」
これで万事解決。
「行くとしても次の土耀だ」
「今から!」
「これからハザックの森に行き、商人を待たなくてはならないんだ」
それは文官である父様の仕事なの?
商人からしたら通い慣れた道ではなく、これまで避けてきたハザックの森に行けと言われたら戸惑うし、恐怖しかない。
顔馴染みで、剣術にも精通している父様が森の入り口で待っていてくれると安心はする。
そういう意味で父様が選ばれた?
それだけではない気がする。
迎えに行くだけなら将軍でもあるストフォード様でも良いわけだ。
父様が向かわなければならない理由。商人が到着してすぐ売買が行われるから。
個人ではなく国としての商売なら陛下が信用している人が行うしかない。
地図と実際の距離は違うとはいえ、見た感じでは半日で着くかは微妙なところ。
予定よりも早く着いたとして、品物の確認や支払いといった仕事があるために父様が帰ってくることはない。
届いた物資を各地に届ける作業もあるわけだし。
でも、私としてはすぐにでも交渉に行きたい。
「では、儂と行くのはどうだ?」
「ヴィバル様と?」
「あぁ。儂なら相手が最上位魔物でも簡単に負けたりはしない」
「ロットオルフォン侯爵。余計なことを言わないで下さい」
「明日の朝、迎えに行ってもいいか?」
「侯爵!!」
ヴィバル様がいてくれるなら心強いし、ニカルともまた会える。
「待ってる」
足にしがみついた。
「ユーリは素直だな。そういうことだ、リミック。諦めろ」
「なっ……はぁ。怪我だけはさせないで下さい」
「儂の命に代えても守るさ」
嫌々ながらにも許可は得た。
明日の9時。ヴィバル様はテロイ家に来てくれる。
今日はもう夜更かしをせずに早く寝ないと。
「キングゴブリン。すぐ森に戻るぞ。これ以上の滞在は王城の人間に恐怖しか与えない」
【軟弱だな。人間とは】
「ばいばい。またね」
【また……?】
「そうだよ。また会いに行くからね」
ゲールの瞳が潤み揺れた。
当たり前に交わす約束でさえ魔物からしてみれば特別。
ましてやゴブリンなら尚更。
また、なんて、これまでの人生にはなかった。
【あぁ。待っている】
控えめに浮かぶ笑み。イケメンだな。
早馬が使えないので私同様にアネモスに飛ばしてもらうらしい。
私はジーメリナ様に送ってもらうことになった。
ヴィバル様が名乗りを上げた瞬間に、父様がジーメリナ様を指名したのだ。
じとーっと軽く睨む視線をも無視して、時間が惜しいからとキングゴブリンと共に退室した。
「ユーリ。私達も行くとしよう」
「はい」
ジーメリナ様の手を掴むと、しばし固まる。
意外と好感触だと思っていたけど、そんなに好かれてなかったかな。
歩くときは手を繋ぐのが癖になっているので、ジーメリナ様に確認もせず勝手なことをしてしまった。
手を離せば風の速さで繋ぎ直してくれる。
それは嫌われていない証拠。
嬉しくなると頬がだらしなくなるのが恥ずかしい。
ジーメリナ様は馬は薄い茶色。何とも穏やかな顔をしている。
失礼して馬車に乗り込む。
スピードはあまり出さない。ゆっくりだ。
「ジーメリナ様は」
「ジーナでいいよ、ユーリ」
愛称で呼ぶ許可を貰った。
「ジーナ様のお仕事は何ですか?」
「騎士の育成だな。本来はストフォードの仕事なのだが、あれは人に教えることが向かん」
感覚派の武人か。言われてみれば、ぽいな。
「それに女の私に負けるような奴らが騎士になったところで、主君を守れるはすない。いい采配だと思っている」
「アトゥル様は?」
「あれは宰相だ」
……え、若くない?実は見た目に反して歳取ってる?
「シュバルツ家は代々、宰相を務める家柄だ。だが、先代が早くに亡くなってしまってな。まだ成人したばかりのアトゥルが職を引き継いだ」
アトゥル様では若すぎると批判の声も多かっただろう。
小さなミスでさえ揚げ足を取ってくるような人達に囲まれて仕事をするのは辛い。
しかも。親を亡くしたばかりでは気持ちも追いついていなかったかも。
悲しみや寂しさに負けてしまわないように、現実と向き合うのは簡単なことではない。
「では、アトゥル様のご家族はお母様だけなんですか?ご兄弟は?」
「夫人はアトゥルが学園に入る前にお亡くなりになられた」
アトゥル様は成人を迎える前に家族と永遠に別れてしまった。
天涯孤独。埋まらない心の穴。
私には少しだけアトゥル様の気持ちがわかる。
若くして一族の当主となり、宰相の座にも就いた。
周りから舐められないように必死に自分を追い込む。
シュバルツの名に恥じないように。不意に襲ってくる孤独と戦いながら。
「独りは……すごく寂しいです」
「独りじゃないさ。私達がいる。アトゥルを独りになんてさせない。絶対」
そうか。良かった。独りじゃないのなら寂しくない。
「ま、アトゥルが一番信頼しているのはリミックだろうがな」
「父様を?」
「アトゥルの場合、何の準備もなく当主になったからな。一族の人間がこぞってその座を奪おうとしてきたんだ。それらを跳ね除けて守ったのがリミック・テロイ」
不慮の事故で命を落とした先代シュバルツ当主。
息子であるアトゥル様と父様は面識もあり気にかけていた。
お金と権力に群がってくる親戚は言葉巧みにアトゥル様から全てを奪おうとした。無一文で追い出すつもりだったのだ。
そこに無関係であるはずの父様の登場。
地位も名誉も全て守られた。
「皆さんの羽織はお揃いで作ったんですか?」
「これはリミックが提案したんだ。我々五家は建国以来、王家に忠誠を誓い、魔法も各属性の中で一番強かったからな。象徴という言い方はおかしいかもしれないが、一目で五家の人間であるとわかるようにと」
羽織の刺繍は個人の属性ではなく初代当主の属性を施していた。
由緒ある家柄はきちんと家系図を保管しているので、過去を遡ることが可能。
なるほど。地図に書かれた文字色もそういう意味だったのか。
そりゃそうだよね。当主が代わる度に新たに地図を作成するなんて無駄な作業をするわけがない。
今の当主がたまたま初代と同じ属性だっただけであり、私の推理は外れていてもおかしくはなかった。
──ふぅ、危ない危ない。
あの場で初代当主の話題に触れなかったのは私への配慮。
五大貴族とは、テロイ公爵家、リザーク伯爵家、アライド伯爵家、シュバルツ公爵家。そしてミトン公爵家だった。
が、近年の五大貴族にミトン家はおらずロットオルフォン侯爵家が数えられる。
元々、ロットオルフォン家も忠誠を誓っていた家門ではあるものの、魔法の属性と同じく五家を中心とするため一歩引いたのだ。
今のミトン家には五大貴族に数えられるだけの価値はないと判断され、地図は作り直された。
「アトゥルは悪い奴ではない。嫌いにならないでやってくれ」
「なりません!好かれるように頑張ります!」
「(既に好かれているのだがな)」
ジーナ様の伸びた手は頬を優しく撫でる。
わかる!同じ女性としてこのもち肌は羨ましいよね。ついつい触りたくなる。
持ち主としては、だらしなく緩んだりするので引き締めたい。
屋敷に到着すると日傘を差した母様が門でお出迎えをしてくれていた。
「お久しぶりです、公爵夫人」
「ええ、お久しぶりです。お元気でしたか?ジーメリナ」
「はい。お陰様で」
朝からここで待っていたのかな?そんなんわけよね。
まだ夏前とはいえ、ずっと陽の下にいるのは危険。
「ユーリ。お話しましょう」
はう!怒ってる!!何で!!?
ジーナ様は私を母様に預けて、すぐさま帰路につく。
中に入るとすぐにリンシエもいて、その目には涙が浮かぶ。
無言で食堂へと向かい、昼食は話が終わった後に運んでくるように指示を出した。
「ユーリ、貴女。ハザックの森に行ったそうね?それも無断で」
なぜそれを……!?母様はエスパーですか。
「えっと……」
「リミックから連絡がありましたよ」
あ、なるほどね。通信魔道具があるんだ。
父様は事前に母様から連絡を受けていて、私がお城に着いた時点で魔力感知をしていたのか。
種がわかると合点がいく。
公爵家だし色々な物を持っているのが普通。お守りの魔道具もあるわけだし。
「ユーリ?」
「ひゃい!!」
ほっぺたをむにーっと伸ばされる。
自分でも弾力があって伸びがいいなと思ってしまう。
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