わたし、ダンジョン救います。バレなければ、ですけど!

聖sai

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マフィンとブラウニー

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 朝の宿屋は、今日もにぎやかだ。

 宿泊客の朝食に、荷物の運び出し。空になったグラスの回収に、焼きたてパンの配膳。
 そんな中を、私は小さな体でちょこまかと走り回っていた。

 「おはようございますっ、パンのおかわりですか? はーい、すぐ持ってきますねっ!」

 私の名前はマフィン。10歳の女の子。
 ママとパパと、3人でこの“迷宮都市パティシエ”に住んでる。

 パパはちょっと変わったダンジョンの研究者で、ママは元・超つよつよ冒険者で今は宿屋をやっている。
 その宿屋をお手伝いしてるのが私ってわけ。

 ……まあ、さっき途中でちょっと味見とかしちゃったのがママに見つかって、お尻、ペンッ! ってされたけど。
 それはそれ、これはこれ。

 「マフィン、ちょっといいかしら」

 厨房から顔を出したママ──元S級冒険者で今は宿屋の女将、ワッフルが私を呼ぶ。

 「なあに? ママ~!」

 「今日の分の仕入れ、お願いしてもいい? 市場に行って、いつものお肉とお野菜ね」

 「はあい!」

 私は両手に袋を抱えて、宿屋を飛び出した。


 *


 市場は今日も大にぎわいだった。
 色とりどりの果物、香ばしい焼きたてパンの匂い。
 モンスター由来の食材を扱う肉屋さんでは、目玉商品の「羊モンスターのランプ肉」がずらりと並んでいる。

 「これくださいっ!」

 「はいよ、小さいのによく分かってるねぇ!」

 買い物リストをしっかりこなして、袋はちょっと重たくなったけど、気分はるんるん♪

 「さ、帰ったらママにほめてもらえるかなー♪」

 ──そう思った矢先だった。


 路地裏の隅っこ。木箱の影で、なにかがうずくまっている。

 「……あれ? 猫?」

 近づいてみると、それは手のひらくらいの、小さな黒猫だった。

 ぐったりと地面に伏せていて、かすかに呼吸はしているけど、今にも消えてしまいそうなほど弱っている。

 「だ、大丈夫……? ……もしかして、おなかすいてるの?」

 私は慌てて袋をごそごそ探って、中身をひとつずつ差し出してみた。

 「にんじん……だめ? パンは? これもだめ?」

 黒猫は、どの食べ物にも反応しなかった。
 ぷい、と顔をそむける。

 でも、最後に残った一枚──羊モンスターのランプ肉。
 それを見せた瞬間だった。

 黒猫の目が、ぱちんと大きく開いた。
 そして、ふらふらと顔を近づけて──

 ぺろり。
 吸い込むように、一瞬で肉を飲み込んだ。

 「わっ!? な、なにその食べ方!?」

 「ぷはーっ……やっと、やっと気づいてもらえた……!」

 「えっ……?」

 その声は、はっきりと私の頭の中に響いた。しかも──しゃべってる!?

 「お、お、お、おしゃべり猫!?」

 「ちげーし! 猫じゃねえってば!」

 ぴょんっと跳ねるように空中に浮かび上がった黒猫が、力強く叫んだ。

 「ボクは、迷宮精霊! 名前はブラウニー! ずっと、ずーーーーっと、誰にも見えなかったんだぞ……!」

 言葉の終わりが、少しだけ震えていた。

 「ダンジョンがヤバくなって、助けを呼ばなきゃって思ったのに……声は届かねーし、姿も見えねーし……」

 小さな肩を、ブラウニーは落とす。

 「人間の街に出るのも、ほんとは怖かった。でも、ここが崩れたら……みんな、死んじまうかもしれねーんだ……」

 私は、なんだか胸の奥が、ぎゅっとなった。

 こんなにちっちゃいのに、こんなに必死で。怖くて、心細くて、それでも誰かを助けたくて。

 「そっか。……えらいね」

 「は?」

 「ボク、えらい。すごい。……わたしが見つけてあげたから、もう大丈夫だよ!」

 私は笑って、両手を差し出した。

 「いっしょに帰ろ? みんなに紹介してあげる!」

 「へへっ……お前、変なヤツだな。でも──」

 ふわりと、ブラウニーが私の手の中に飛び込んでくる。

 「ありがとな。……ボク、お前のこと、けっこう気に入った!」


 *


 帰り道はちょっぴり重たいけど、心はるんるんだった。

 「うふふー♪ おつかい、大成功~!」

 買い物袋をぶらさげて、私は宿屋の玄関を開ける。

 「ただいまー!」

 「おかえり、マフィン」

 迎えてくれたのは、宿屋の女将であり、私のママ──元S級冒険者のワッフル。
 そして、従業員の二人。背が高くてかっこいいシュトレンと、ふわっとした体格ののんびり屋、プリン。

 「おかえり、マフィンちゃん。荷物、重くなかった?」

 「うん、大丈夫! ……それより、見て見て!」

 私は得意げに、肩の上を指さした。

 「この子! さっき拾ったの。名前はブラウニー! しゃべるんだよ!」

 「……は?」

 「……猫?」

 みんな、ぽかんと私の顔を見てる。

 「ねえ、見えないの!? ここ! 肩に乗ってるの! 黒くて小さくて、にゃーって……!」

 「……いや~、悪いけど何も……」

 「うーん、見えないな」

 (言っただろ? ボクの姿も声も、お前にしか分かんないって)

 肩の上で、もふっとした黒猫──じゃなくて、迷宮精霊のブラウニーがふんぞり返って言った。

 「えええ~っ!? ほんとに~!?」

 (うん、マジマジ。お前だけだよ、ボクの姿が見えるのは)

 「そ、そうなんだ~……!」

 私はとりあえず笑って、買い物袋をごまかすようにママに手渡した。

 「はいっ、買ってきたやつー! じゃあちょっと自分の部屋に行くねー!」

 「ちょ、マフィン──」

 ママの声を背に、私は急いで階段を駆け上がった。


 *


 「ふぅ~~……」

 部屋のドアを閉めて、私は自分のベッドに飛び込んだ。
 ぽふっと肩から飛び降りたブラウニーが、毛づくろいしながらぴょこんと隣に座る。

 「で、話って何? ほんとに猫じゃないの?」

 「ボクは迷宮精霊だってば。名前はブラウニー。ここのダンジョンを守ってんの」

 「ダンジョンって、パティ=スリー?」

 「そそ。あそこ、今ヤバいんだよね。エネルギーがさ、コアに届かなくなってて。放っとくと崩壊するぜ?」

 「……えぇ~、やばくない?」

 「やばいよ! ていうか、都市まるごとぶっ壊れるって話!」

 「え、それめっちゃ大ごとじゃん」

 「だろ? で、助けてくんない?」

 「え、私が?」

 「うん! お前、見えるし! 気に入ったし!」

 なんかすごく軽い理由だけど、ブラウニーは胸を張って得意げだった。

 「……うーん、よく分かんないけど、面白そうだし、いっか! やる!」

 「おっしゃー! さっすが話が早いな、お前!」

 にししっと笑うブラウニー。なんかこの子、ちょっとムカつくけど、可愛い。

 ──と、そこに。

 「マフィン?」

 突然、部屋のドアが開いた。

 ママが現れて、私をじーっと見る。

 「さっきの買い物袋……お肉、入ってなかったんだけど?」

 「ああっ! えっ、え~~っと……そ、それはねっ! あの、そのっ……落とした! スライムが出てきて、ぺろんって!」

 (雑だな~、嘘ヘタクソだぞ~?)

 「……マフィン」

 ママの眉がピクリと跳ね上がった。

 「こっちに来なさい」

 「ひぇぇぇぇっ!? ま、ままままママ~!?」

 「どうせまた野良犬にでもあげちゃったんでしょ? そうやって嘘をつく悪い子は、おしおきです!」

 「いやぁあああああああ!! ちがうのぉおお!! ほんとにっ!!」

 私は必死に手を振り回して抗議したけど、ママの目は全然聞いてない感じ。

 「マフィン、はやくこっちに来なさい」

 「やだっ! やだやだっ!! ほんとにちがっ──!」

 でも、問答無用だった。ぐいっと引っ張られて、私はママの膝の上に無理やり乗せられる。
 ママは慣れた手つきでズボンとパンツを下ろし、私の可愛いお尻をむきだしにした──

 「おしり……出てる……うぅぅぅっ……! これ、本気のやつだぁ……!」

 「じゃあ、どうしてお肉がなくなったのか、ちゃんと説明しなさい」

 「だから……猫が! 違う! 精霊が! 黒くて、小さくて、しゃべって、食べちゃって……!」

 我ながら、言ってて無理があるって思った。でも、ほんとにそうなんだ。

 「マフィン。ふざけてるの?」

 「ちがうっ! ほんとなのっ!! 信じてよぉおおお!!」

 ジタバタ暴れてみても、ママの腕は鉄のようにがっちり私を固定してる。

 そして──

 パァン!

 「ひぐぅっ!!」

 一発目が、お尻に直撃。思わずのけぞるくらいの痛さ。

 「嘘を重ねると、もっと叩きますよ」

 「うそじゃないもん……! ホントのこと言ってるのに……!」

 でも、ママは手を止めてくれない。
 二発、三発と、容赦のないママの平手が、私の柔らかいお尻に降り注ぐ。

 パチン! パァン! ピシィッ!

 「いたっ! やあっ! うぅぅぅっ、 ママの鬼ーー!!」

 「じゃあ、ちゃんと“見える猫がしゃべって肉を食べた”っていうお話、ママが信じると本気で思ったの?」

 「……おも、わない……」

 ……だって、信じてもらえないって、わかってた。

 だから最初から、ごまかそうって決めた。でも……それでも、ちゃんと話したのに、叩かれるのはズルい。

「ううう……うえええぇ……」

 しだいに熱を帯びて赤くなっていくお尻。
 もう恥ずかしいやら、痛いやら、涙がぶわっと出てきた。

 次の衝撃に備えて身体をこわばらせる。
 私の経験では、このおしおきは、まだまだ終わらないだろう……。

 パンッ! パンッ! パァン!

 「ごめんなさあああああい!! もうゆるしてえええええええ!!」


 (……うーわ、めっちゃ叩かれてる~。つーかボクのせいか、これ?)

 ブラウニーは、棚の上でふせながらぽつりとつぶやいた。

 (マジで、信じてもらえねーって、つれぇな……)

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