わたし、ダンジョン救います。バレなければ、ですけど!

聖sai

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へんしんっ! マジカル・ジョブチェンジャー!!

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 ベッドの上で、私は仰向けにごろんと転がっていた。

 お尻が……じんじんする。

「うぅ~……ひどい目にあった……」

 頬をふくらませてつぶやくと、ベッドの足元で尻尾をくるんと巻いていた黒猫──じゃなくて、迷宮精霊のブラウニーが顔を上げた。

「大丈夫か? けっこうガッツリやられてたけど」

「痛いよ~……でも、これくらい慣れっこだから平気」

 ふぅっとため息をついて、私はそろりと上体を起こした。

 ズボンとパンツを引っ張り上げると、腫れたお尻に圧が……ふたたび「いったぁ……」と声が漏れる。

 それでもなんとか、刺激を与えないように、そーっとベッドに座りなおすと、私はブラウニーを見つめて尋ねた。

「それで? 私は何をすればいいの?」

「話が早くて助かるね」

 ブラウニーはくいっと尻尾を立てて、まるで講義を始める先生みたいに喋り出す。

「ダンジョンのエネルギー、ほんとはコアに集まって循環する仕組みになってるんだけどさ」

「うん」

「今、それがどっかで抜けてるっぽい。供給されないせいで、ダンジョンが痩せてきてるんだ。崩壊寸前」

「崩壊って、ダンジョンが?」

「うん、ていうか、その上にあるこの都市もまとめて」

「………………」

 さすがに私でもそのヤバさはわかった。

「だから、エネルギーを集め直してくれ。ダンジョンの中か、あるいは外で何かに取り憑いてる可能性もある。見つけて、回収して、持ってきてくれればオーケー」

「でも……私、子どもだよ? ダンジョンって、子どもは入っちゃダメだよね? 前に入ろうとしたら、ものすっごく怒られて、しばらく椅子にも座れなかったんだよ?!」

 そういう私に、ブラウニーはにっと笑って答えた。

「大丈夫。いいモン、持ってるから!」

 どこからともなく尻尾の先で取り出したのは、白くてすべすべの……手甲? リストバンド?

 中央に、大きな赤い宝石がはめ込まれている。

「わぁ……」

 私は思わず見とれてしまった。光の角度でキラキラ色が変わる宝石は、まるで生きてるみたいだった。

「これは《マジカル・ジョブチェンジャー》。ダンジョンの特別なアイテムだ。さあ、つけてみろ!」

「い、いいの? 本当に?」

「いいって言ってんだろ。ほら、早く早く!」

 私は手甲を両手で包みこむようにして、そっと左腕にはめた。ぴたっと吸いつくように装着される。

 ──その瞬間。

「入るぞー、いくぜぇー!」

「えっ?」

 ブラウニーが叫んだかと思うと、ふわっと浮き上がり、まっすぐ赤い宝石の中へ飛び込んだ。

「わあっ!? えっ、えっ!? 入った!? 中に入った!?!?!?!?」

 思わず手を振り回すが、外見は変わらない。けれど、宝石の奥で光がゆらめいているように見えた。

(おーい、聞こえるかー?)

 ──頭の中に、ブラウニーの声が響いた。

「うわっ! 聞こえる!! これ、すごい! すっごい!!」

(へっへっへっ。じゃあ言ってみろ。“アドゥルト”って)

「アドゥルト……?」

(それが呪文だ。唱えりゃ分かる! せーの!)

「ア、アドゥルトっ!」

 次の瞬間、私の身体がぐらりと揺れた。

「え、え……ええええええええええええええっっっっっ!?」

 ぐん、と視界が高くなる。手足が伸びる。胸がちょっとだけふくらむ。服が大きくなる。そして、お尻の痛みが……ちょっとマシになった?

 変わっていく自分の体が、くすぐったいような、もぞもぞするような、不思議な感覚だった。

 そして──

「わ、わ、わたし……すごっ、足長い!? 手もきれい!? 髪も……わたし、金髪!? なにこれ!? え、誰これ!? え、え、ええええ!?!?!?!」

(おちつけって)

「すごい! すごいすごい! おもしろい! わたし、大人になっちゃったあああああああああ!!」

(あー、こりゃ当分落ち着かねーな)

 くるくる回りながら跳ねる私を、宝石の中からブラウニーが静かに見守っていた──。







 翌朝、私は今まででいちばんそわそわしながら市場に向かっていた。

 隣には、宿屋の従業員──シュトレン。

 背が高くて、かっこよくて、頼れて、ちょっぴり不器用で優しい人。

 今日は、宿の買い出し。
 それだけのはずなのに、私はまるで遠足に行くみたいに、胸がどきどきしていた。

「マフィン、こっちは肉屋。いつもの羊モンスターのランプ肉をお願いな」

「う、うんっ! 任せてっ!」

 大きな返事をして、私は小走りで駆け出す。
 ふり返ると、彼が優しく微笑んでくれていた。

 それだけで、胸の中があったかくなる。


 市場は、朝から活気に満ちていた……けれど、今日はなにかが違った。

 声はにぎやかなのに、空気が少しだけぴりっとしている。

 ──嫌な予感がした。

「なんだこれ……?」

「マフィン、こっち来い」

 シュトレンが、私をぐっと手で引き寄せた。

「な、なに? どうしたの?」

「気をつけろ。……ダンジョンから、何か出てる。これはやばい」

 そのときだった。

 地響きのような振動が、通りの奥から迫ってきた。

 ドン……ドン……ドン……!

 人混みが割れる。商人たちが悲鳴を上げて一斉に逃げ出す。

 ──現れたのは、真っ黒な毛並みに、燃えるような赤い目。
 子牛ほどもある巨体で、牙をむいてうなりを上げる四本足の魔物。

「……ダークウルフっ!」

 シュトレンが青ざめた顔で、ぎりっと歯を食いしばった。
 その魔物は、こちらを狙っているのか、ゆっくりと歩いてくる。

「マフィン、逃げろ!」

「で、でも……!」

「早く!」

 強く言われて、私は思わず足を止めてしまった。

 シュトレンはあたりを見回し、近くの惣菜屋からのぼりの棒を引き抜いた。
 細身の体で構え直す。その姿が、無謀だけど──すごく、かっこよかった。

(……あれ、普通のモンスターじゃねぇぞ)

 肩で跳ねたブラウニーが、ピリリとした声で言った。

(間違いない。エネルギーを持ってる。あいつから回収だ。ボクじゃどうすることもできない。お前がやるしかねえ)


 私は急いで、物陰に駆け込んだ。

 手甲の赤い宝石を見つめる。迷いはなかった。

「アドゥルト!」

 光がはじけ、体が変化する。

 金色の髪が風に舞う。
 大人びた声が喉から自然に出た。

 大人になった私は、昨晩教えてもらった戦闘スタイルになるキーワードを唱える。

「チェンジ! ジョブ……ファイター!」





 再び通りに飛び出すと、シュトレンは追い詰められていた。

 のぼりはへし折られ、棒は転がっている。

 牙を剥いたダークウルフが、彼の前脚を振り上げる。

「シュトレンっ!」

 私はシュトレンの前に割って入り、ショートソードで牙を受け止めた。

 キィン! と鋭い金属音が響く。

「なっ……だ、誰……?」

 戸惑うシュトレンの前に立ち、私は短く言った。

「ここから先は任せて、シュトレン」


 ダークウルフが低く唸った。
 今度の相手が、ただの人間ではないと理解したようだった。
 ダークウルフが低く唸る。

 赤く光る瞳が、私を正面から射抜いてくる。

(ビビんなよ。あいつ、強そうに見えるけど中身はエネルギーでパンパン。バランス崩れてるぶん、隙も多い)

(うん、わかった)

 私は短く返事して、剣を握り直す。
 それを合図にしたかのように、ダークウルフが跳びかかってきた。


 ──でも、私のほうが速かった。

 地を蹴って、一気に間合いを詰める。

 剣を低く構えて、滑り込むように相手の脇に回り込む。

 背中を一閃──!

 まるで、戦い方を最初から知っていたかのように身体が動く。

 赤黒い毛がぱっと散って、ダークウルフがよろめいた。

「もういっちょ!」

 ひらりと飛び上がり、今度は真正面から喉元を狙って踏み込む。

 ダークウルフが咆哮するが、遅い。

 そのまま、剣の切っ先がぐっと肉に沈み──

 グゥゥゥ……ッ!!

 大きな体が、地面に崩れ落ちた。

 

 ──静寂。

 

 その巨体が完全に動かなくなったあと、ダークウルフの口元から、ころん、と何かが転がり出てきた。

 小さな、赤く光る宝石。

「これが……」

(ああ、それがエネルギーの結晶だ。回収しとけ)

「うん」

 私はそれをそっと拾い上げ、胸元のポーチに収めた。

 

「すごい……」

 その声に振り返ると、シュトレンが私を見つめていた。

「ありがとう。ほんとに助かったよ。君が来てなかったら……それに俺の名前……俺達知り合いだったかなあ?」

 あ、やばい。すっかり忘れてた! 今は大人の姿だったんだっけ。

「あ、そうだ! 名前……教えてくれない?」

 返答に困った私は適当にごまかそうとする。
 でも、答える前に──

「そこだ! 魔物の反応はこっちだ!」

 衛兵の声が通りの向こうから響いた。
 面倒なことになりそう。早く逃げなきゃ!

「ごめん、また今度ねっ」

 私はひらりと手を振り、身を翻して路地裏へ駆け込んだ。

 


 変身を解除して、マフィンの姿に戻る。

 赤い宝石が静かに光っていた。

「……ふぅ、なんとか間に合ったね」

(ナイス。上出来だ)

「えへへ……ちょっと楽しかったかも」

 私はこっそり笑いながら、また市場の通りに戻った。

「マフィン!」

 待っていたシュトレンが駆け寄ってくる。

「大丈夫だったか!? 物陰に隠れてたんだろ?」

「う、うん。怖かったけど……大丈夫! シュトレンは?」

「そっか……いや、実はさ。すっごいカッコいい女の人が助けてくれたんだよ!」

「へぇ~」

シュトレンは興奮気味に、先ほどのことを熱っぽく語っていた。
 



 夕方。

 宿屋のホールには、すでに噂が広がっていた。

「市場で魔物が出たんだってな!」

「マジで? 誰かケガしたのか?」

「いや、なんか通りすがりの冒険者が倒したらしいぜ!」

 その輪の中心で、シュトレンが得意げに言った。

「俺、現場にいたんだ! 助けてくれたんだよ! あの子に!」

「へぇ~、どんな子だったんだ?」

「すっごく可愛くて、めっちゃかっこよくて……金髪で、紫の目で……」

 私はカウンターの奥の影から、そっとその様子をのぞいていた。

 ──可愛くてかっこいい、だってさ。

 頬がにやけてしまう。

 

「──なんであんたが照れてるんだい?」

 突然、背後から聞こえた声にびくっとなる。

 振り返ると、ママが腕を組んで立っていた。

「ひゃうっ!? お、驚かさないでよ、ママっ!」

 あわてて取り繕う私に、ママはふうっと笑って──

 そのまま、私をぎゅっと抱きしめた。

「まったくもう……でも、無事でよかった」

「……うん」

 その手のぬくもりに、私はそっと目を閉じた。

 誰にも言えない秘密が、ひとつ増えた午後だった。



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