追放された錬金術師、素材1つで世界を壊す。俺だけ“純度100%”を作れるから

ケルベロス

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《第三章:戦争編・世界核編》

第37話 生命樹の内部──白律“観測者”本体との遭遇

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生命樹の内部は、  
外界とはまったく別の“世界”だった。

まるで巨大な生き物の体内にいるような、  
温かく、しかし不気味な脈動が空間全体を満たしている。

壁はやわらかな光の膜に覆われ、  
足元には“未来の芽”と呼ばれる光の粒が無数に漂っていた。

ユリは震える声で言った。

「……ここ……怖いのに……でも、温かい……  
 変な感じ……」

ノアが目を細めた。

「生命樹の内部界なんて、  
 森国の巫女でもめったに入れないよ……  
 僕たちは、守護者に認められたってことだ。」

影がふらつくレオンの肩を支える。

「レオン……大丈夫……?」

レオンは小さく頷いた。

「……生命線は……まだ持つ……  
 それより……」

前方から、嫌な“歪み”が近づいてくる。

影が立ち止まった。

「白律の気配だ……  
 すぐ近くに……“本体”がいる。」

生命樹内部の空気が、  
一瞬で冷え切った。

未来を育む空間に、  
“未来を殺す力”が侵入している。

レオンは足を踏みしめた。

(ここで……決着をつける……)

そのときだった。

カン……カン……  
カン…………

静かな音が鳴り響く。

まるでガラスを細い棒で叩いたような音。  
律動でも脈動でもない。

“観測”の音。

ノアが顔を青ざめさせた。

「やばい……  
 本体の“観測式”が始まってる……!」

そのとき、  
闇のような白い霧が吹き込んできた。

影が即座にレオンを抱き寄せる。

「来る!!」

薄い霧が徐々に形を成し、  
やがてゆっくりと“人型”へと変わっていく。

顔は白紙。  
髪も衣もすべて白。  
ただ“観測のためだけ”に存在する、  
無表情の存在。

しかし霧の奥からもう一つの気配がした。

低く深い声が響く。

──青核の保持者か。  
──未成熟の律にしては、よくここまで来た。

影が震える声で言った。

「……これ……本体じゃない……  
 “白核”そのものの声だ……!」

白い霧が裂け、  
“観測者の本体”が姿を現した。

それは人間に似た形を持ちながら、  
身体は常に揺らぎ、  
未来の可能性の線に縛られているように見えた。

二つの瞳だけが“白い渦”になっている。

レオンが息を呑んだ。

(未来の渦……あれが……白核……)

観測者は静かに頭を傾けた。

──青律。  
──世界の揺らぎ。  
──不要。

影が怒りの声で叫ぶ。

「不要なんかじゃない!!  
 未来が一本しかない世界なんて……  
 それこそ“死体”だ!!」

観測者の渦が影に向く。

──黒の律。  
──存在余白。  
──もっと不要。

影の胸が光らず、逆に“凍りつく”。

影が苦しむ。

「……っ……!!  
 僕の存在が……また削られてる……!」

ユリが叫ぶ。

「やめて!!  
 影は……未来を奪われていい存在じゃない!!」

白い観測者は、全員の言葉など聞いていないようだった。

ただ未来を読む。  
ただ未来に印をつける。

──この森国の未来は“死”に固定する。  
──緑は繁りすぎた。  
──均衡を崩す自然は切り落とす。

ノアが震えた声で反論する。

「そんな自己都合で……  
 自然の未来を決めんな!!  
 森は、繁るから森なんだ!!」

観測者が首を傾ける。

──繁りすぎは破滅。  
──未来が壊れる原因。  
──白核は“正しさ”を観測し、未来を削る。

レオンの胸に、強烈な痛みが走る。

(未来を……削る……  
 それは……世界の……否定だ……!)

レオンは立ち上がり、青律を発動した。

青い線が生命樹内部で光り、  
観測者の白い視界を乱す。

観測者の声が低く響く。

──青律……未来の乱数……  
──確定を妨害する存在……  
──排除対象。

観測者の手がレオンへ向けられる。

未来の線が“死一点”に向かって締まる。

影が叫んだ。

「レオンから離れろぉぉぉぉッッ!!」

蒼黒律が爆発した。

白い観測に黒い霧がぶつかり、  
空間全体が激しく軋む。

ノアが叫ぶ。

「ここで戦ったら……  
 生命樹が崩れる!!  
 でも……今しか……ない!!」

レオンは前へ進む。

未来の渦が近づくほど、  
生命線が強烈に痙攣する。

胸が裂けるほど痛い。

それでもレオンは観測者に届く距離まで歩いた。

そして――  
青律を逆回転させた。

「反転・初式……ッ!!」

青い線が一気に広がり、  
観測者の“確定未来”を崩す。

白い渦が歪む。

観測者の声が低く揺れた。

──青き反転……  
──未来の揺らぎ……  
──白律にとって……致命の干渉……

影がレオンの隣に立つ。

「やった……効いてる……!!」

ノアが叫んだ。

「生命樹が……揺らぎを取り戻してる!!」

観測者は未来の線を乱され、  
初めて“後退”した。

──青核……  
──観測に逆らう律……  
──殺す価値あり。

レオンは真っ直ぐ立ち、胸に刻まれた青い線を燃やす。

「殺したければ来い。  
 未来を……奪わせはしない!」

観測者の背後で白い霧が渦を巻く。

ついに――  
白核が本気になる。

「来るぞ!!」

影が叫んだ瞬間、  
生命樹内部が閃光に包まれた。

白い観測 vs 青の反転。  
そして蒼黒の余白が混じる。

三つの律がぶつかり合い、  
世界樹の核は前章最大の戦闘へ突入した。
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