拾われた異世界転移者

デスVoice

文字の大きさ
7 / 45
序章 《始まった物語》

第六話 「なってはいけない職業」

しおりを挟む
「魔法剣士…?おとぎ話…??」

「レイジは知らないのか!?」

この世界だと誰しもが知っている、とあるおとぎ話がある。異世界から来たレイはもちろん知らないだろうが、この世界ではあまりに有名だ。魑魅魍魎の類ですら知っている。レイには後でちゃんと教えておこう。

「大昔に大陸を割った黒龍を殺した、伝説上の英雄が魔法剣士だったんだ。君には彼と同じ、魔法剣士になれる素質がある。そんな逸材、レアなんてものじゃない。
店で見た時運命だと思ったね。俺は君のその素質を生かしきれるような、そんな剣をこの手で作ってみたいんだよ。
魔法剣士の剣...一体どんなのが完成するか、ものすごく楽しみだ!
それに、英雄の剣を作った鍛冶屋なんていったら名があがるからなぁ。ワハハハ!」

「僕が、英雄に…?」

レイはただただ困惑しているようだ。無理もない。彼にとって今日は情報量が多すぎる。急に英雄だの伝説だの言われてもな。

「フライドさん、私たちはまだ貴方を知りません。信用するに値する人物かどうかの判断もまだつかない状態で、貴方の話を鵜呑みにする訳にも行きません。詐欺の可能性だってありますからね」

「あ、そう言えば、剣を作ってもらうことになったとしてそのお代の方は…?」

「まぁ...俺も商売だからな。お代はいただくが、安くしとくぜ?キリよく1,000,000@でどうだ?」

「@ってのはこの国の通貨のことですか?アンナ、100万@ってどれくらい?」

「……さっきの食事が2人で500@ぐらいした…。100万@あったらさっきの武具店で全装備を7セット買ってもお釣りが来る……かなりの大金だ」

私の職業は少々特殊で、一応払えないことはない。しかしそれを支払ってしまうと、生活がだいぶ苦しくなるのも事実だ。雇い主にも迷惑がかかるかもしれない。

しかも剣一本でこの値段だ。他にも買い揃えなくてはいけないものもある中、この出費はかなり痛い。冒険者ギルドに所属してない私は、魔物を討伐して稼ぐことも出来ないから起死回生も出来ない。

しかし、レイに本当に魔法剣士の才能があるのなら私のせいでその可能性を潰したくない。子供を寺子屋に通わせる親はこんな気持ちなのだろう。将来性があればあるほど、それにかけたくなる。

だから。この男が信用できるようなら、そのオーダーメイドの剣をレイに買ってやるのも悪くは無い。

やれやれ、これは当分野宿だな…

「わかりま」

「申し訳ございませんが、お断りします」

え?レイ?
私の返事は遮られた。

「フライドさん。僕は駆け出しでお金は全くありません。稼げるようになるまで今はアンナにお金を払ってもらってます。アンナは得体の知れない、貧乏で無知な僕を助けてくれました。面倒を見てくれました。知識をくれました。旅に連れていってくれると言ってくれました。
恩人なんです。
そんなアンナへの負担は出来るだけ増やしたくないんです。折角の申し出大変嬉しいのですが、今の僕に贅沢に高級な武器を手にする資格も理由もないんです。
帰ろうアンナ。
ありがとうございました、フライドさん。またいつか僕が立派になったら会いたいです」

「レイ…」

まさかレイがそんなことを考えていたとは知らなかった。私はただ、放っておけなかっただけなのだが...必要以上に恩を感じる性格なのか。

レイは私の腕を掴み、フライドさんに会釈をすると工房を後にした。フライドさんは何も言わず最後まで黙ってこっちを見ていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「よかったのか?レイ」

私たちは工房を後にし、チェックインした宿屋の食堂で注文した晩御飯を食べていた。すっかり日は落ち、辺りは暗くなっていた。

「いいんだ。特製の高級武器なんて要らない。僕のためにアンナに負担をかけるのは、僕の望みじゃない。
でも...ただ最低限アンナの足でまといにならず、少しでも力になれるように武器と防具を買ってくれないかな…?
どうか、お願いします!」

「それは勿論いいんだが……
すまない、レイ。私のせいでお前の未来の可能性を奪ってしまった」

「アンナが謝ることじゃないよ!本当に感謝してる、ありがとう」

彼は本当に気にしていないようだった。

「それに、僕働くよ!この世界では皆冒険者になるんでしょ?稼ぎも良さそうだし、僕ギルドで契約して、冒険者になってアンナを助ける」

「ギルドはダメだ!!!」

「アン……ナ…?」

つい怒鳴ってしまった。レイは驚いた顔でこちらを見ている。

「すまない...でもギルドに入ることだけは絶対にしないと約束してくれないか。お願いだ...」

「わかった、誓うよ。僕はアンナを信じてる、アンナがそう言うならそうした方がいいんだよね?」

「…」

「ねぇアンナ、過去に何があったの?アンナの旅の目的はなんなの?ギルドを嫌う理由もあるんでしょ?」

「……」

「あ、ちょっと!」

私は黙って宿部屋へ駆け込んでしまった。

レイは悪くない。
でも.....聞かれたくなかった。話したくない.....。

私は過去を話せなかった自分が嫌だった。レイは仲間なのに…信用するって決めたのに……。
仲間なら打ち明けてもいいはずだ。でも.....出来なかった。

また裏切られるのが怖かった。

話すということは信頼の証。自分が寄せた信頼が、偽物だったと知らされるあの感覚を二度と味わわない為、私は逃げた。

いつまでもトラウマにひっぱられて、恐れを拭えないでいる自分が醜かった。







その晩、悪夢を見た。
昔の仲間が出てきた夢だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...