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●本編●

11.誕生日パーティー【開始】①

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 ただの挨拶でこれ程、寿命が縮む思いを何度も味わえるとは思いもよらなかった。
濃厚過ぎる時間を、豪華な客室で堪能して、もうお腹一杯。
ついでに心も頭も一杯一杯だった。

わたくし達はあの後、早々に客室から帰還した。
と云うのも、お父様が我慢の限界になり、一方的に挨拶らしきものを超早口で捲し立てて、風のように去ってきたのだ。

風のように、は正しくないか。
正確に言うなら、転移魔法でパッと戻ったのだ。
向かうときには使わなかったのに、何故?と問うのは、愚問だろう。

大魔王様は、愛娘にたかる悪い虫予備軍に、遂に堪忍袋の尾がブチッと千切れてしまった。
最初の失礼極まりない、オーヴェテルネル公爵への絡みもある種の牽制だったらしい。

確かに、あんな失礼な発言をするお父様と、進んでお近づきには、なりたくないだろう。
だからって、もうちょっとましなやり方は幾らでもあったとは思うが。


 兎にも角にも、何とか、窮地を脱してホッと一息…つく暇もなく。
私達はパーティー会場で、挨拶を返している最中だ。
魔法でパッと帰ってきたら、会場にてお客様をお迎えする時間となっていた。

続々と会場入りされる招待客達が、会場の奥にいる私達へと挨拶する列に並ぶ。
今回はプライベートなパーティーなので、それほどマナーに厳しくはしていない、とのこと。
ただ、公爵家主催という事実は変わらないため、爵位が低い来賓達の大半は、緊張感を隠せていなかった。

そんな大人の事情は、幼女には難しすぎる。
ということにして、マナーをキチンと覚えるまでは、何かやらかさないように極力家族の側を離れるまい!と心に決める。

そして、せっかくのパーティーなのだし、アルヴェインお兄様が言ってくれたように、どうせなら楽しく過ごしたい。
同世代の子女を擁する貴族家が招待されている、とのことだったし、同世代のお友達を作る絶好のチャンス!
脱☆ボッチ悪役令嬢人生!!

ゲームでは、悪役令嬢ライリエルは、取り巻きさえ作らず、独りで行動を起こしていた。
公爵家の令嬢として恥ずかしくない立居振舞、礼儀作法、教養を備え、凛とした高嶺の花のごとく、魅力溢れるキャラクターだった。


 孤高の一匹狼タイプも捨て難いが、やっぱり、現実問題としては、ボッチは断固回避の方向で!
大きい声では言いたくないが、敢えて言います!!
こちとら16年+3年=19年間、ボッチ人生歩んでますから、いい加減、友達が欲しい!!!

このまま、ボッチで人生終わりたくない!
さっき一応、友達(仮)はできたはずだけど、同性の友達もできれば居て欲しい。
そしてもっと言えば、大人し目な、本物の仔犬系統の少女が良い。

レスター君(部屋から去る前に強要された呼び方)は、偽仔犬だったから、手放しで愛でられない。
だって、とんでもない狂犬を内包していたのだもの。
羊の皮を被った、ならぬ、仔犬の皮を被った狂犬だったのだ、擬態するのも大概にしてほしい。
客室での出来事で、私のガラスの心臓グラスハートひびだらけになったわ!

あれだけ、爽やかイケメンキャラが人格崩壊していたのだから、私がボッチ悪役令嬢で無くなったっところで、全然大丈夫なはずだ。
そうでなければ、不公平だもの!

私だけゲームの本筋シナリオに縛られたままなんて、理不尽極まりない。
そんなコト、抗わずにいられませんから!
大人しく何もしないまま、ラスボスになると思うなよ~~!!

決意も新たに、何に対してかは謎だが、対抗心を激しく燃やしながら、自らに課したミッションを開始する。
可愛い仔犬~、仔犬な令嬢は~、居らんかね~~??

審美眼を出力最大で作動させる。
果たして、お眼鏡に叶う仔犬な令嬢は……。
待てど暮らせど、現れなかった。


 挨拶しに来る子女の割合は、圧倒的に、男児が多かった。
私が女児だから、あわよくば…、といった思惑もあるのだろう。
近いといえば近いが、どう見ても私より数歳上の男児たちだった。

しかも、その面々は、転生してから初めて目にする顔のパーツ配置と仕様で……。
遠回しに言えば、好みのタイプ(顔面)じゃなかった。

ダメだ、視覚から入ってきたダメージが、言語中枢に損傷を与えたようだ。
本音しか出てこない、全然婉曲えんきょく表現できなかった!

なまじ、家族の顔面偏差値が高かったせいで、この世界の人々の顔面偏差値も、平均して前世よりハイクラスだと、信じて疑いもしなかった。

そりゃそうなるわ、だって、基準にしたのは攻略対象者を排出した、フォコンペレーラ公爵家ですもの~。
基準にする家、間違えたぁあああぁあぁあ~~~!!


 高まりきった期待値を、下回り続ける現実に、挨拶もおざなりになってしまう。
目に見えてしょげ返る私に、助け舟を出してくれるのは、やはりこの人!
我が家の天使担当、アルヴェインお兄様であった。

「ライラ、少し疲れたか? さっきから立ちっぱなしだものな。 こっちにおいで、挨拶はお父様とお母様に任せよう。」

現在の私の立ち位置はというと。
右から順に、お父様、お母様、私、アルヴェインお兄様、エリファスお兄様…?!、次兄はいつの間にかトンズラこいた模様。
主役じゃないからって、自由か?! 羨ましすぎる…!!
私も魔法の腕を磨いて、トンズラスキル身に付けちゃおっと!!!

話を戻して、そんな並びで居たため、声をかけられた私は自然と、挨拶に並ぶ来賓の方々に背を向ける体勢となっていた。

優しく促してくれるお兄様に、好感度爆上がりだったが、よく見ると笑顔が若干硬い。
どうしたのだろうかと、動向を観察すると、チラッとある方向を気にしている模様。
今の私からは後方、そのある一点を気にしているようだった。

その方向を振り向こうとした私の顔を、すかさず、お兄様の両手に左右両側から挟み込まれ、中途半端な位置で制止された。
横からの容赦ない圧迫に、頬肉は中心に寄り、唇は火男ひょっとこの変顔完成~♪
不可抗力だ、抗いようがない。

「ぶはっ……、くくっ…、くっ、ふふっ……。 す、すまない、ライラ。 あ、んまり、可愛くて…、ふはっははっ…!」

乙女の顔面を見て笑うなんて~~!
いくらお兄様だからって、ゆ~る~~~っっす!!
だって、可愛い♡
お兄様の屈託のない笑顔、かわゆす~♡♡
そっくりそのまま、可愛いはお兄様に返上いたします♡♡♡
モエモエ~でキュンッキュンッなラブリー過ぎるスマイルに、怒りなんて微塵も湧かない。

はわわ~、いつまでも眺めてられるぅ~~♡
もう、お兄様が居れば生きていけるかも~~♡♡

現実って世知辛いし☆
ちょっと3歳児には、現実リアルの洗礼は早すぎたみたい☆☆


 洗礼といえば、レスター君が口にしていた。
洗礼式後のパーティーで、パートナーを~、と言っていた、あれだ。
ゲームにも、説明文とイメージ画だけでだが、登場していた。

ヒロインが聖女だと解る大事な儀式だったから、忘れるはずもない。
没落寸前の子爵家令嬢のヒロインが、何とか漕ぎ着けた洗礼式で、人生を盛り返す切掛になった出来事だ。

その後にパーティーがあることは、初耳だが。
ゲームの補完だろうか、所々、知らない行事が組み込まれてくるが、今のところ概ねは、知っている流れが割合多い。

洗礼式とは、数えで7歳(満6歳以上ならOK)になる子供が皆、貴賤にかかわらず受けることができる儀式だ。
その中で、神代の遺物とされる石板に1人ずつ触れる。
すると、自分の加護やスキルの有無、魔法属性、マナ保有量などが光る古代文字で石板に記される。

しかしこの石板の凄いところは他にある。
古代文字であるにも関わらず、記された自分に関する内容は、今の自分が理解できる文字に自動変換されて読める、それと同時に、頭の中に直接その情報内容が流れ込んでくるらしい。

何とも親切な仕様だ。
神様(?)、グッジョブ!!
さすが、初心者も安心♪な乙女ゲームの世界だ。


 可愛らしく笑い続けているお兄様の顔面を超至近距離から眺めながら、洗礼式の事を考えていた。
イケショタの顔面には、思考回路を円滑に動かす潤滑油のような効果もあるのだ!
とまあ、これは真っ赤な大嘘だが、下降していた気分はアゲアゲ⤴⤴に上がりっぱなしになった。

「センレーシキ、お兄しゃまもうけたの?」

「ん? あぁ、受けたよ。 エリファスも今年受けたな。 どうして急に…、そうか、レスター様の言っていたことを覚えていたのかい? それはもう、気にしなくても大丈夫だ。 お父様に任せておけばーー」

「どうなると云うのでしょうか? アルヴェイン様?」

「「 !!? 」」

びっっっっっくりしたぁあ~~~!!!
ゾワッゾワしたぁあ~~~!!!

うわっ、鳥肌立ってる!
居るはずないと思った話題にした当人の声が真後ろから聞こえたのだ、驚かないはずがない。
恐る恐る、振り返る。

そこには、クリックリの真ん丸なサファイヤの瞳で、仔犬に擬態したレスター・デ・オーヴェテルネル公爵令息が、可愛らしく小首をかしげて佇んでいた。


 ぐぬぅ、見かけだけなら、120点満点の大合格な容姿なのに…、やっぱり今も瞳の奥が空っぽだ。
どこかでなにかの栓が緩んでいるのでは?
ちょっくら、その栓を閉める何かを、探してきてあげましょう!!
良き考えだ!今直ぐにでも、探しに行こう、そうしよう~~♪

右足は正面に向けて固定、左足の踵を軸に振り返れるところ迄。
振り向いた姿勢、そこで一時停止させた体を逆再生に動かして、背を向けようとしたところでストップがかかった。
左肩に優しく置かれた、少年の右手によって。

「ライリエル嬢、まだ怒っていらっしゃいますか? 僕のことを、怖いと、お思いですか…?」

えぇ~~?
それって、答えないとダメぇ~~~??
怒ってると云うより、わりかし怯えてますけど?
怖いと云うより、やっぱり恐れてますけども??

だって、これですよ、今も瞳の奥空っぽですもん。
貴方の方こそ、おこなのでは??
誤魔化すと逆鱗だし、危険物取扱の免許でも取得しない限り、おいそれと対峙できないです。

あれ、そう言えば…。
私は、レスター君に許して貰えたのかしら?
謝りはしたけど、はぐらかされた気がする。
この際だ、聞いてみよう!

「レスター君は、おこってないでしゅか?」

「何故ですか?」

「ライリャ、ゴメンナサイしたけど、いいよしてくぇてないかぁ。 おこってなぁい?」

「! そうでしたね、勿論、怒っていません。 謝って下さって、ありがとう。 ライリエル嬢。」

にこっと微笑んだ、その顔は正しく爽やかイケメンの面影があった。
瞳にほんの少し、優しい光が差した。
サファイヤの瞳が煌めきを宿すと、水面が光を弾いて煌めいている様な、淡さを含んだ色味になる。

その美しさに自然と目を奪われる。
オーヴェテルネル公爵とは違う瞳の色だけど、素敵な色よねぇ~♪


 あらあら?
そういえば、挨拶の列が無くなっている?
何でかしら、あんなにいつ終わるかわからないくらい並んでいたのに?

不思議に思って列のあった位置を眺めていると、私の疑問を察したお兄様が説明してくれた。

「挨拶の列なら、オーヴェテルネル公爵家の御一家が会場にいらした時に、自然と散り散りになってしまったよ。 ほら、今お父様達と話されている。」

それは、順番待ちなどさせられるはず無いか…。
縦社会って、大変よね~。
社会人経験もない、一般的な庶民の女子高生だった私に、果たして貴族社会のマナーなんて、身につくのかしら……。
不安しか無いわぁ~~、こんな時は、イケメンに癒されよっと!!

今は家族以外の目もあるから、ガン見は不味いわ。
チラ見で我慢!
顔は正面に固定したまま、全力の横目でのチラ見!

正直、ガン見して白い目で見られたほうがましなくらい、辛い。
目が、眼球が、引き攣りそう!

無駄な方向に努力しながら、オーヴェテルネル公爵をチラ見する。
そして、チラ見した眼が、とんでもない美貌の公爵を映す。

頑張ってチラ見した努力も虚しく、正面からその麗しいお姿を拝見するため、自然と体ごと向き直っていた。
これは全くの無意識の行動だった。

か、か……、かみっ、かみみみぃ~のけ~がぁあああぁあぁあ~~~!!!
オールバックゥ~~~?!!
そんな、何ってこと?!
こんなこと、許されて良いの?!?

そんな、惜しげもなく美貌のっ、黄金比率に配置されたパーツのおさまった、最っ高に整ったお顔を、堂々と晒して下さっちゃって、どうしてくれるの??!!

しかもその笑顔、何カラットの輝きなの?
百万ドルの夜景も霞んじゃうんですがぁ??
もう致死量だから、昇天しちゃうからぁあ~~、でももっと見せて下さいます???


間近で、何の心の準備もなく見てしまった、私の心臓は破裂寸前にまで、昂ぶってしまったわ!
心拍数が異常値…!!
動悸が息切れして、死にそうですぅ!!!

客室では、距離が十分あり、視界のぼやけで顔もぼやけていたので、美声に脳髄が溶かされるだけで、事無きを得た。

しかし、今回は駄目だった。
見てしまったのだから、くっきりはっきり、輪郭がブレない距離で。

ゲリラ生物リアルイケメン、ハイスペック顔面偏差値の威力ーーー!!!
浴びたぁーー、浴びてしまっとわぁあぁーーー!!!

瞬きを忘れた瞼のせいで、私の眼球は乾いてきてしまった。
でも、目が離せない。
離したくない、離すくらいなら、このまま失明するのも厭うぅーーーー!!!

失明は駄目だ、絶対駄目だぁっ、落ち着けっ、取り敢えず、落ち着こうっ!!

眼球に潤いを取り戻すため、高速瞬きを繰り返す。
その動きが、カメラのシャッターのようだと思い、私の眼球に撮影機能が搭載されていなかったことを、真剣に悔やんだ。

通常の人間には無い機能、それを当たり前に欲してしまう。
異世界転生したのだから、それくらいの人外機能、搭載してくれよ!!

そしたら、悪役令嬢だったのは、ちょっとは、赦してやれないこともないのに…。

イタイ願望を煩悩に衝き動かされるまま、好き勝手に無理難題を並べ立てる。
その間も、高速瞬きは継続、視線は公爵の顔面をロックオンしていた。

そんな麗しい公爵のご尊顔の後ろに、黒いもやのようなものが揺蕩たゆたうのが見えた。
無性に気になって、靄を目で追う。
よく見ると、それは公爵の隣に佇む公爵夫人に纏わり付いているようだった。

公爵夫人の呼吸に合わせて、膨張したり収縮したり、まるで、それ自体が生物であるかのような動きをしていた。
本能に訴えてくる、ゾワッとした悪寒が身体を走り抜けた。

あれが何であるのか、まったく想像が及ばない。
しかし、決してし、このまま放置して良い予感はしなかった。

何かしなければ。
何とかして、アレを公爵夫人から追い払わねば。

幼い頭をフル回転させる。
何かないか、今の自分に出来る、悪いものを追い払う手立ては、何か無いだろうか?
そうだ、コレだ!!
コレしかない!!!

思うが早いか、公爵夫人に駆け寄る。
そして、掴める位置にあった、夫人の左手を両手で掴み取りーー!

「イタイのイタイの、とんでけぇ~~~!!」

 遂に私は、やらかしてしまった。
公衆の面前で、奇行を敢行してしまった。
手を振り上げた姿勢のまま、この微妙な雰囲気を、どうやって打開するか。
冷や汗をダラダラ流しながら、次に口を開くまでの短い間で、必死に考える事となった。
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