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おじさん♡逆襲です③
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アレックス♡
君という人を、我らは見損なっておりました。
兄上方と火花を散らす口論を繰り広げたあと…
君は一転して、黙り込んだ。
それから私にお茶のお代わりをお申し付けになったのです。
「はぁ♡久しぶりにいっぱい喋ったから喉が渇いたよ」
そんなふうに仰ったので、温めの紅茶には花梨の砂糖漬けを浮かべてございます。
君は百合の模様が可愛らしいティーカップに、柔らかな唇を押しつけて喉を鳴らしておいでだ。
「甘ぁい♡」
『アレックス♡本当に気が利く子だなぁ』
お褒めに預かり光栄です。
『思いつきでお願いしたのに、あちこちに心遣いを感じる…嬉しい♡大好き♡』
…何となく、兄上方に抜けがけした様で気不味いですが。
君がゆったりとお茶を啜っている。
そんな様子はとても和やかで、兄上方は思わず険を削がれておしまいだ。
しかし君は、いきなり話し蒸し返した。
「僕がどんな人か、何ていう事は…おいおい分かって下さい」
これは、肩透かしだ!
「何故だ?ひと思いに、知らせてくれたまえ」
当然、マクシミリアンが食い下がる。
「だって、一言じゃ言えないよ」
『僕、そんな簡潔な人じゃないもん』
君は成熟した大人であり、私の倍の年月を生きておいでだ。
今に至る、その間には何がどうあったのだろう。
私には想像がつかぬ。
ただ何も無かった筈がないと、そう思う。
「それに自分がどんな人間かなんて、上手く説明なんか出来ないよ」
『僕はスピーチなんてした事ないもん。やり慣れない事をして、結果うまく出来なくてドツボにハマったことは数知れないけどね』
確かに自分の全てを、正確に語ることは難しい。
下手を打てば更なる誤解を受けよう。
「だから、これからは事あるごとにちゃんと伝えるね。僕の本当の気持ちを君達にちゃんと言います」
『僕は器用じゃ無いし、記憶力は悪いし、説得力も無い。そんな事はよく分かってる。だから無理しないもん』
なるほど、小出しになさるのか!
それは今まで君が口に出さずに飲み込んだ、事の多さを窺わせる。
…私は切なくなりました。
だから、口をついてしまいました。
「はい!これからは、思いを存分に仰って下さい」
この性急な私の発言に、兄上方は困惑した。
私は小さく頷く。
これが能力を発揮しての事であると悟った兄上方は、不承不承も請け負うた。
そうして、昼下がりの茶会は続く。
小腹が減ったとマクシミリアンが言い、私は軽食を用意した。
リリィは胡瓜のサンドイッチがお気に入りだ。
それに温かい木の子のミルクスープをおつけした。
しかし、これでは彩りにかけます。
今日は採れたての良い冬苺があったので、たっぷりの生クリームと共にお出ししよう!
「美味しい♡アレックスってば、本当にスゴーイ♡」
お褒めに預かり光栄です。
…しかし兄上方の尖ってささくれた御心が、痛い!
彼らには骨つきの鹿肉をお出しした。
濃厚な赤ワインを煮詰めたソースがたっぷりとかかった野生の肉に、貴公子らしくもなくかぶり付いておられる。
その御口に赤いソースを滴らせるのが…
とにかく、恐ろしいのだった。
そんな微妙な空気の中、口火を切ったのはリリィだった。
「女子の皆さんの気持ちは、分かった。いや、しっかし…おっかないねぇ」
先程、かいつまんで説明した淑女方の生態と動向に…
君は恐怖なさまいました。
一瞬にしてセバスティアンの身の内に殺気が漲る。
怯える妻を思うが余りに迸る、彼らの感情が痛い程伝わってきた。
かく言う私も、全身に怒りが満ちる。
けれど、君は笑った。
「とりあえず、女の人達と一度きちんと話してみよう」
「いけない。彼女達と会話する事は危険だ」
妻の意見に、セバスティアンは一も二も無く反論した。
「ああ。虎視眈々とつけいる隙を狙っている」
マクシミリアンもすかさず賛同する。
「君もおっかないと言ったではないか!その通りです!」
私とて!
余りに無用心な君の発言は聞き捨てがならない。
「彼女達は恐るべき魔女だ!」
…つい、言い過ぎてしまった。
『…アレックス、実のお姉さんだろ。魔女はナイんじゃないかな』
君に目上の女性に敬意を払わぬ、無礼な人物だと思われました。
胸が痛い…
『セスもだけど、君達って基本的に女性不信だよね。αの世界って女尊男卑なの?』
…否めなません。
基本的に男性が女性に気を許す事は、許され無い。
いつでも、いつの時も…
気を張り巡らし、有能なる方々のご気分を害さぬよう務めあげよ。
決して無礼があってはならぬ。
…と躾られて参りました。
「つい、本心を吐露してしまった。面目無い…」
ああ、更につい余計な事を申しました!
「え。…アレックス…そっか、そうなんだね。…本心が、つい、ね。そうかぁ…いや、大した悪口でもないさ!誰も告げ口なんかしないし。大丈夫だよ~」
…悪口。
励ましが痛い。
私は、卑小な男であります。
『グレちゃん、お淑やかな雰囲気の美人だけどパンチ効いてそうだもんな。アレックス、ドンマイ!』
…グレちゃん。
君と言う人は!
あの姉上を、愛称でお呼びですか!
斬新です!
「いやいや。もう、みんなしてなんだよ。僕ってそんなに隙だらけかい?」
君は、ポリポリと頭を掻いた。
…あまり、お似合いにならぬ仕草だ。
「酷いなぁ。確かに、色々と流されてしまいがちだけど…」
『これでも、僕ってそれなりに打たれ強いんだよ』
そんな、信じられぬ!
「やっぱりさ。自分の目と耳で、見て聞いて、それで判断しないと僕は嫌なんだ」
思いがけず、君は頑な目をした。
「君は、私の忠告はあてにならぬ、と言うのか?」
怒りを堪えて、セバスティアンは殊更にゆっくりと妻に問うた。
「うん。ならない」
…即答だ。
君という人は、激昂王セバスティアンにも軽やかに口答えなさる!
「よし。この際だから、はっきり言う」
こんな君は、知らない。
キラキラと据わった目が、眩しい。
「セスだけじゃなくて、マックスもアレックスの事も!ちょっと色々…どうかと思ってる」
…激昂王が焚き付けた火が、飛び火した。
とんだ火傷です!
「どうかと、とは…どういう意味だ?」
マクシミリアンが困惑している。
私も訳が分からぬ。
「いや、最初から君達って我道をぶっ通してきたじゃないか」
兄上方は、優秀な上位者だ。
導き手としては当然の振る舞いでしょう。
「僕からしたらね、君達って何につけても非常識で薄情過ぎて…恐怖でしたよ」
…嘘でしょう。
君の感性は底知れぬ!
「君達には女子ーズの事をとやかくなんて、言えないんだからね!」
絶句だ。
余りに衝撃的であるため、みっともなくも腰を抜かさんばかりである。
「あとね!君達にとって僕は『リリィ』だとしても、実の所の僕は『視作生』なんだ」
視作生。
それは、覚醒前のβ種族に紛れていた頃の君の名だ。
「記憶喪失した訳じゃあるまいし、なんだって別人として扱うんだい。まぁ、この見た目だ。か弱い乙女だと思いたいのかもしれないけど、違うからね!」
…どう、違うのだ。
君は純真無垢なる可憐なΩ女王である。
「僕、おじさんだからね!」
…おじさん。
おじさんとは何でしょう。
叔父、伯父?
血縁関係を説明する場合以外で、その呼称を使用した覚えが無い。
「だから大丈夫!」
…何でしょう。
どう大丈夫なのだ。
兄上方は理解がお出来だろうか。
チラリとお二人を伺い見ると能力を使うまでも無く、分かった。
日頃の凛々しさが嘘の様に、兄上方は顎を外さんばかりに驚愕なさっている。
「はっきり言って、僕はしぶとい」
…なんと!
「あと、案外としつこい。その上、したたかだ」
止してくれ!
優美なるご自身に、全くそぐわぬ形容だ。
「そんな僕を、君達は知らないだろうけど…」
君はそこで、急に不安げになさいました。
「…そんなの知りたくもないよね」
一度は俯いて言い淀む。
だかスッと面を上げると我らを見据えた。
「思っていたのと、違っててごめん!」
我らが思う、君と言う人は…
「いつもニコニコしてて、エッチでか弱いリリィちゃんじゃなくて!本当にごめん」
君は、優美で淫美で無防備でしょう。
間違いない。
「…いや、違うか。そう言う所も有る。けど、僕の一部です。僕の全部じゃない」
馬鹿にするな、と君の心が言った。
「僕はちゃんと、ふてぶてしいからね」
…そうか。
我々は、確かに知らなかったのだ。
「せっかく、こんなに可愛いのにね。台無しだよねぇ」
困ったように君は笑った。
そんな苦笑いはリリィらしくない。
…なんだか、渋い。
「でも、それが僕だ」
とても、静かな眼差しです。
見つけました!
君の中の『おじさん』は、凛々しい。
…知ろうともしなかった。
そんな事は考えもつかぬのが、我々なのだ。
君と言う人は、よくも今まで『リリィ』である事を受け入れておられましたね。
その逞しい気質にはなんとも噛み合わず、難儀であったろう。
そのような究竟にあって、それでも…
君のその素晴らしい肢体に似た、しなやかで柔らかな魂は、折れぬ。
「…我らはなんとも、至らぬ夫であったのだな」
セバスティアンが自身に問うかの如く囁いた。
彼にしてはしては酷く朴訥とした…
子供じみた言い様だった。
「ふん、そして奢った男でもあったのだ!」
マクシミリアンは苛立ちを露わに、拗ねてしまわれた。
こちらも、酷く彼らしく無い。
つまらぬ男の意地であったと、兄上方は悔しくお思いなのだ。
私にも、分かります。
…切ない。
「そうだよ!君達は揃いも揃って頑固で思い込みが激しい。本当に気をつけなね」
…君は、容赦がない。
「君達はね、自分達だけで抱え込みすぎだ。僕も仲間にいれてよ」
…仲間。
もし、君が我々の『仲間』だとしたら…
世界がひっくり返る!
「これからはホウ、レン、ソウね!よろしく!」
…?
しかし何故、急に野菜の話題をなさるのだ。
「リリィ…いや、視作生。青菜がなんだというのだ」
「視作生、それは何かの比喩かね?」
兄上方は虚を突かれておいでです。
私は…
正直なところ、余り好かぬ野菜です…
「は?そんな訳ないでしょう。報告、連絡、相談です」
…初耳です。
視作生。
君は急に自我を露わにされましたね。
これが本当の貴方らしい振る舞いなのだ。
実にあっけらかん、と戦線に合流した君はイキイキとしておいでだ。
そして麗しい笑顔を閃かせ、我が君はうっとりとおっしゃった。
「僕は幸せだよ♡」
私には…
いや、我々には皆目見当もつかぬ。
こんなふうに差し迫った状況で、どうしてそんな満ち足りたお顔でおいでだ。
「こんなに頼もしい味方がいてくれる。君達と幸せになるために!僕は頑張れるよ♡」
君は!
ご自身こそが、この戦いの大将だとお言いか!
…いえ、はい。
我々は貴方の、守手でございます。
ええ。
それは間違いございません!
しかし、我らが指揮官が…
まさか守るべき妻、その人だったとは!
思い及ばずとて、仕方ない!
\\\٩(๑`^´๑)۶////
君という人を、我らは見損なっておりました。
兄上方と火花を散らす口論を繰り広げたあと…
君は一転して、黙り込んだ。
それから私にお茶のお代わりをお申し付けになったのです。
「はぁ♡久しぶりにいっぱい喋ったから喉が渇いたよ」
そんなふうに仰ったので、温めの紅茶には花梨の砂糖漬けを浮かべてございます。
君は百合の模様が可愛らしいティーカップに、柔らかな唇を押しつけて喉を鳴らしておいでだ。
「甘ぁい♡」
『アレックス♡本当に気が利く子だなぁ』
お褒めに預かり光栄です。
『思いつきでお願いしたのに、あちこちに心遣いを感じる…嬉しい♡大好き♡』
…何となく、兄上方に抜けがけした様で気不味いですが。
君がゆったりとお茶を啜っている。
そんな様子はとても和やかで、兄上方は思わず険を削がれておしまいだ。
しかし君は、いきなり話し蒸し返した。
「僕がどんな人か、何ていう事は…おいおい分かって下さい」
これは、肩透かしだ!
「何故だ?ひと思いに、知らせてくれたまえ」
当然、マクシミリアンが食い下がる。
「だって、一言じゃ言えないよ」
『僕、そんな簡潔な人じゃないもん』
君は成熟した大人であり、私の倍の年月を生きておいでだ。
今に至る、その間には何がどうあったのだろう。
私には想像がつかぬ。
ただ何も無かった筈がないと、そう思う。
「それに自分がどんな人間かなんて、上手く説明なんか出来ないよ」
『僕はスピーチなんてした事ないもん。やり慣れない事をして、結果うまく出来なくてドツボにハマったことは数知れないけどね』
確かに自分の全てを、正確に語ることは難しい。
下手を打てば更なる誤解を受けよう。
「だから、これからは事あるごとにちゃんと伝えるね。僕の本当の気持ちを君達にちゃんと言います」
『僕は器用じゃ無いし、記憶力は悪いし、説得力も無い。そんな事はよく分かってる。だから無理しないもん』
なるほど、小出しになさるのか!
それは今まで君が口に出さずに飲み込んだ、事の多さを窺わせる。
…私は切なくなりました。
だから、口をついてしまいました。
「はい!これからは、思いを存分に仰って下さい」
この性急な私の発言に、兄上方は困惑した。
私は小さく頷く。
これが能力を発揮しての事であると悟った兄上方は、不承不承も請け負うた。
そうして、昼下がりの茶会は続く。
小腹が減ったとマクシミリアンが言い、私は軽食を用意した。
リリィは胡瓜のサンドイッチがお気に入りだ。
それに温かい木の子のミルクスープをおつけした。
しかし、これでは彩りにかけます。
今日は採れたての良い冬苺があったので、たっぷりの生クリームと共にお出ししよう!
「美味しい♡アレックスってば、本当にスゴーイ♡」
お褒めに預かり光栄です。
…しかし兄上方の尖ってささくれた御心が、痛い!
彼らには骨つきの鹿肉をお出しした。
濃厚な赤ワインを煮詰めたソースがたっぷりとかかった野生の肉に、貴公子らしくもなくかぶり付いておられる。
その御口に赤いソースを滴らせるのが…
とにかく、恐ろしいのだった。
そんな微妙な空気の中、口火を切ったのはリリィだった。
「女子の皆さんの気持ちは、分かった。いや、しっかし…おっかないねぇ」
先程、かいつまんで説明した淑女方の生態と動向に…
君は恐怖なさまいました。
一瞬にしてセバスティアンの身の内に殺気が漲る。
怯える妻を思うが余りに迸る、彼らの感情が痛い程伝わってきた。
かく言う私も、全身に怒りが満ちる。
けれど、君は笑った。
「とりあえず、女の人達と一度きちんと話してみよう」
「いけない。彼女達と会話する事は危険だ」
妻の意見に、セバスティアンは一も二も無く反論した。
「ああ。虎視眈々とつけいる隙を狙っている」
マクシミリアンもすかさず賛同する。
「君もおっかないと言ったではないか!その通りです!」
私とて!
余りに無用心な君の発言は聞き捨てがならない。
「彼女達は恐るべき魔女だ!」
…つい、言い過ぎてしまった。
『…アレックス、実のお姉さんだろ。魔女はナイんじゃないかな』
君に目上の女性に敬意を払わぬ、無礼な人物だと思われました。
胸が痛い…
『セスもだけど、君達って基本的に女性不信だよね。αの世界って女尊男卑なの?』
…否めなません。
基本的に男性が女性に気を許す事は、許され無い。
いつでも、いつの時も…
気を張り巡らし、有能なる方々のご気分を害さぬよう務めあげよ。
決して無礼があってはならぬ。
…と躾られて参りました。
「つい、本心を吐露してしまった。面目無い…」
ああ、更につい余計な事を申しました!
「え。…アレックス…そっか、そうなんだね。…本心が、つい、ね。そうかぁ…いや、大した悪口でもないさ!誰も告げ口なんかしないし。大丈夫だよ~」
…悪口。
励ましが痛い。
私は、卑小な男であります。
『グレちゃん、お淑やかな雰囲気の美人だけどパンチ効いてそうだもんな。アレックス、ドンマイ!』
…グレちゃん。
君と言う人は!
あの姉上を、愛称でお呼びですか!
斬新です!
「いやいや。もう、みんなしてなんだよ。僕ってそんなに隙だらけかい?」
君は、ポリポリと頭を掻いた。
…あまり、お似合いにならぬ仕草だ。
「酷いなぁ。確かに、色々と流されてしまいがちだけど…」
『これでも、僕ってそれなりに打たれ強いんだよ』
そんな、信じられぬ!
「やっぱりさ。自分の目と耳で、見て聞いて、それで判断しないと僕は嫌なんだ」
思いがけず、君は頑な目をした。
「君は、私の忠告はあてにならぬ、と言うのか?」
怒りを堪えて、セバスティアンは殊更にゆっくりと妻に問うた。
「うん。ならない」
…即答だ。
君という人は、激昂王セバスティアンにも軽やかに口答えなさる!
「よし。この際だから、はっきり言う」
こんな君は、知らない。
キラキラと据わった目が、眩しい。
「セスだけじゃなくて、マックスもアレックスの事も!ちょっと色々…どうかと思ってる」
…激昂王が焚き付けた火が、飛び火した。
とんだ火傷です!
「どうかと、とは…どういう意味だ?」
マクシミリアンが困惑している。
私も訳が分からぬ。
「いや、最初から君達って我道をぶっ通してきたじゃないか」
兄上方は、優秀な上位者だ。
導き手としては当然の振る舞いでしょう。
「僕からしたらね、君達って何につけても非常識で薄情過ぎて…恐怖でしたよ」
…嘘でしょう。
君の感性は底知れぬ!
「君達には女子ーズの事をとやかくなんて、言えないんだからね!」
絶句だ。
余りに衝撃的であるため、みっともなくも腰を抜かさんばかりである。
「あとね!君達にとって僕は『リリィ』だとしても、実の所の僕は『視作生』なんだ」
視作生。
それは、覚醒前のβ種族に紛れていた頃の君の名だ。
「記憶喪失した訳じゃあるまいし、なんだって別人として扱うんだい。まぁ、この見た目だ。か弱い乙女だと思いたいのかもしれないけど、違うからね!」
…どう、違うのだ。
君は純真無垢なる可憐なΩ女王である。
「僕、おじさんだからね!」
…おじさん。
おじさんとは何でしょう。
叔父、伯父?
血縁関係を説明する場合以外で、その呼称を使用した覚えが無い。
「だから大丈夫!」
…何でしょう。
どう大丈夫なのだ。
兄上方は理解がお出来だろうか。
チラリとお二人を伺い見ると能力を使うまでも無く、分かった。
日頃の凛々しさが嘘の様に、兄上方は顎を外さんばかりに驚愕なさっている。
「はっきり言って、僕はしぶとい」
…なんと!
「あと、案外としつこい。その上、したたかだ」
止してくれ!
優美なるご自身に、全くそぐわぬ形容だ。
「そんな僕を、君達は知らないだろうけど…」
君はそこで、急に不安げになさいました。
「…そんなの知りたくもないよね」
一度は俯いて言い淀む。
だかスッと面を上げると我らを見据えた。
「思っていたのと、違っててごめん!」
我らが思う、君と言う人は…
「いつもニコニコしてて、エッチでか弱いリリィちゃんじゃなくて!本当にごめん」
君は、優美で淫美で無防備でしょう。
間違いない。
「…いや、違うか。そう言う所も有る。けど、僕の一部です。僕の全部じゃない」
馬鹿にするな、と君の心が言った。
「僕はちゃんと、ふてぶてしいからね」
…そうか。
我々は、確かに知らなかったのだ。
「せっかく、こんなに可愛いのにね。台無しだよねぇ」
困ったように君は笑った。
そんな苦笑いはリリィらしくない。
…なんだか、渋い。
「でも、それが僕だ」
とても、静かな眼差しです。
見つけました!
君の中の『おじさん』は、凛々しい。
…知ろうともしなかった。
そんな事は考えもつかぬのが、我々なのだ。
君と言う人は、よくも今まで『リリィ』である事を受け入れておられましたね。
その逞しい気質にはなんとも噛み合わず、難儀であったろう。
そのような究竟にあって、それでも…
君のその素晴らしい肢体に似た、しなやかで柔らかな魂は、折れぬ。
「…我らはなんとも、至らぬ夫であったのだな」
セバスティアンが自身に問うかの如く囁いた。
彼にしてはしては酷く朴訥とした…
子供じみた言い様だった。
「ふん、そして奢った男でもあったのだ!」
マクシミリアンは苛立ちを露わに、拗ねてしまわれた。
こちらも、酷く彼らしく無い。
つまらぬ男の意地であったと、兄上方は悔しくお思いなのだ。
私にも、分かります。
…切ない。
「そうだよ!君達は揃いも揃って頑固で思い込みが激しい。本当に気をつけなね」
…君は、容赦がない。
「君達はね、自分達だけで抱え込みすぎだ。僕も仲間にいれてよ」
…仲間。
もし、君が我々の『仲間』だとしたら…
世界がひっくり返る!
「これからはホウ、レン、ソウね!よろしく!」
…?
しかし何故、急に野菜の話題をなさるのだ。
「リリィ…いや、視作生。青菜がなんだというのだ」
「視作生、それは何かの比喩かね?」
兄上方は虚を突かれておいでです。
私は…
正直なところ、余り好かぬ野菜です…
「は?そんな訳ないでしょう。報告、連絡、相談です」
…初耳です。
視作生。
君は急に自我を露わにされましたね。
これが本当の貴方らしい振る舞いなのだ。
実にあっけらかん、と戦線に合流した君はイキイキとしておいでだ。
そして麗しい笑顔を閃かせ、我が君はうっとりとおっしゃった。
「僕は幸せだよ♡」
私には…
いや、我々には皆目見当もつかぬ。
こんなふうに差し迫った状況で、どうしてそんな満ち足りたお顔でおいでだ。
「こんなに頼もしい味方がいてくれる。君達と幸せになるために!僕は頑張れるよ♡」
君は!
ご自身こそが、この戦いの大将だとお言いか!
…いえ、はい。
我々は貴方の、守手でございます。
ええ。
それは間違いございません!
しかし、我らが指揮官が…
まさか守るべき妻、その人だったとは!
思い及ばずとて、仕方ない!
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