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ツムギ

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4人台本

『春と桜』(男2:女2)約40分

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登場人物(男:2、女:2)

・ハル/女
16歳の少女で、サクラのボディーガード。クールでリアリスト。サクラを守る仕事に誇りを抱いている。

・サクラ/女
17歳の女子学生で名家のご令嬢。大人しくいつもニコニコしてる優しい性格。たまに無茶する。

・アキヤ/男
18歳の男子学生で生徒会長。サクラの父が経営する会社の重役の息子。王子様と呼ばれる程の美男子。

・父親/男
会社を経営するサクラの父親。合理主義でプライドが高いが、亡き妻を心から愛しており、言葉は厳しいがサクラを大切に育ててきた。

サブキャラクター(兼ね役可能)
・メイド/女…1セリフ
・女子生徒/女…1セリフ
・男子生徒/男…1セリフ

【時間】約40分
【あらすじ】
子供の頃、少女は家族を亡くし施設を飛び出し途方に暮れていた。そんな時サクラと言う少女と出会う。
ハルと名付けられた少女は今はあの時出会ったサクラを陰ながらボディーガードとして守っていた。



【本編】


ハル(モノローグ調)「私の最初の記憶はあの小さいお姫さんだ。世間知らずで無邪気で脳天気。正直嫌いだと思った。こんな見窄らしいガキにノコノコと近付いて笑いかけるなんて…この人にしか出来ないと思った」

回想
風の音
桜の木の下に子供のハルが座り込み、子供のサクラが近づく

子供サクラ「ねぇ、あなたの名前は?」

子供ハル「は?誰だあんた…」

子供サクラ「私はサクラ!あなたの後ろのこの木と同じ名前なの」

子供ハル「聞いてねーし…つーか、あんたみてーな綺麗な格好した奴が、私みてーな汚いガキと喋ってるなんて怒られるんじゃねぇか?」

子供サクラ「何で?あなたと私は同じ人間の女の子じゃない」

子供ハル「……」

子供サクラ「ね?教えてくれる?貴女のお名前!」

子供ハル「……名前なんてない」

子供サクラ「何で?パパとママに付けて貰えなかったの?」

子供ハル「……そーだよ。もうほっといてくれ!」

子供サクラ「じゃあ私がつけてあげるね!」

子供ハル「はぁ!?何勝手なことを…」

子供サクラ「ふふふ…そうねぇ」

現在
扉の閉まる音
ハル、サクラの父親の部屋に入る

父親「遅かったな…ハル」

ハル「サクラ様がのんびりと学校のお友達とお喋りしてましたからね…帰宅時間が10分伸びましたー…」

父親「そうか…なら良い。サクラはいつも通りらしいな」

ハル「…えぇ。問題ありません」

父親「引き続きサクラの護衛を頼むぞハル」

ハル「……はい。サクラ様に気に入られ、ボディーガードとして孤児の私を引き取ってくださった御恩…死ぬまでお返ししますよ」

父親「…相変わらず主人に対しても殺気立っているな…誰が拾ってやっと思っている」

ハル「…サクラ様」

父親「サクラはお前を見つけただけだ。拾って教養と護身術を付ける手筈をしたのは私だ。それだけは違えるなよクソガキ。貴様は家の番犬だ。素質があったから今も生きているだけだぞ」

ハル「……わーってますって。また血圧上がりますよ~」

父親「……口の減らないガキだ。さっさと下がれ」

ハル「しつれーしました!」

ハル、部屋を出る

ハル「クソはどっちだ…あんなんがサクラの父親なんて疑うぜ…サクラは母親似なのかね…まぁ今となっちゃいない人間を知るなんて難しいか…サクラに聞けるわけもねぇし…」


足音

ハル「…!」

メイド「サクラ様、廊下を走ってはいけませんよ!」

サクラ「だって今日のテスト、学年で1番をとったんですもの!お父様に報告しなくては…」

サクラが部屋に入る

ハル「……あっぶねぇ…相変わらず神出鬼没な所があるなぁ…咄嗟に死角に入ったからバレてねぇよな?」

ハル(モノローグ調)「…名前が付けられたあの後、サクラの父に拾われた。サクラの家は由緒ある家系で今も安定した地位にいる。サクラはそこの一人娘。ご令嬢様だ。それに引き換え私は汚い孤児院育ち。サクラと出会ったあの日は孤児院から逃げ出した日だった。そしてサクラと出会い、孤児院で与えられた気に入らない名を捨てハルとしてサクラの身を守ってる」

ハル「つっても、あの日からサクラと面と向かって会話したことねーけど…ま、会わなくていいよな。お姫さんとそれを守るスナイパーの女なんて…どーいうシチュエーションだよ」

ハル(モノローグ調)「サクラの父親は計算高く合理主義だ。その為敵を作りやすい。家は繁栄を保ってるが物騒な争い事に巻き込まれる事が多く、暗殺だ誘拐だなんてザラにある。サクラも危険な目に遭っていたが、それは全て私が消した。相棒であるこのライフル一本で…そしてサクラは私の事を知らない。きっとあの日の事も忘れてるんじゃないかな…」

ハル「にしても、あの天真爛漫さは変わってねぇなぁ」


父の部屋

サクラ「それでね、お父様!クラスの友達にも私の勉強法を教えたらその子もテストの点数が上がって…」

父親「そうか、それは良かったね…それよりサクラ大切な話があるんだ」

サクラ「お話…?何ですか?」

父親「お前の婚約者が決まった」

サクラ「はぁ…そうですか。どちらの方ですか?」

父親「…あまり驚かないんだね」

サクラ「予想はしてました…」

父親「そうか。相手は私の友人の息子であるアキヤ君だ」

サクラ「あぁ、アキヤさん!最近お話し出来てませんが同じ学校の先輩なんですよ」

父親「そういえばそうだったな…彼は昔、何度か家にも遊びに来てくれていただろ?…妻がまだ生きてた頃だったが…」

サクラ「……アキヤさんなら安心です。生徒会長としての責務も大変でしょうが、またご挨拶しておきますわ!」

父親「そうかい…詳しい事はまた後日話すよ」

サクラ「わかりました、失礼します」

サクラ部屋を出る

サクラ「…はぁ、結婚かぁ。現実味が無いなぁ…でも、アキヤさんは本当に優しい人だし…もっと仲良くなれるといいなぁ」

サクラの足音が遠のく

ハル「……サクラが婚約ねぇ…アキヤ…あの親父が経営してる会社の人間の子供で、サクラの一個上か…あの親父と友人関係だし優秀な部下の子供だから信頼が置けるってところか…嫁入りって事は私の仕事もそろそろお役御免かな…サクラが結婚するまでのボディーガードだからな…後もう少しで…」



ハル「そしたら、私はどうなるんだろう……?何の為にここに居ればいいんだ…?」


放課後(チャイム音)
生徒の声

女子生徒「サクラちゃん、昨日はありがとね!また明日~」

サクラ「はい、また明日」

男子生徒「あ、サクラー。何か生徒会長が呼んでるってよー」

サクラ「え、アキヤさんが?…わかりました、すぐに向かいますわ」

廊下

サクラ「アキヤさん!わざわざ二年の階までいらっしゃって…どうなされたんですか?」

アキヤ「ごめんね、突然。驚かせちゃったね」

サクラ「……はい」

アキヤ「その、婚約の事は聞いてる?」

サクラ「あ、はい!宜しくお願いします!」

アキヤ「ふふっ、まだ確定事項じゃないんだけど…そうか、よかった。君も結婚には前向きに考えてくれてるんだね。嬉しいよ」

サクラ「あ、すいません…アキヤさんは優しいので全く知らない方と婚約するより安心で…」

アキヤ「僕もだよ。君で良かったと心から思う」

サクラ「そんな…。貴方さえ宜しければ、私は貴方の事をもっと知りたいです」

アキヤ「サクラさん…!じゃあさっそく、今日はこの後予定あるかい?」

サクラ「特にないですけど…」

アキヤ「では僕に付き合ってくれないかな?うちの車で送ってあげるから」

サクラ「え?でもご迷惑ですし、うちにも車が…」

アキヤ「あぁ、それは心配しないで?お義父さんにサクラさんの送迎は当分僕に任せて下さいって連絡しておいたから」

サクラ「え!?いつのまに…しかも当分なんですか?」

アキヤ「うん!でも、僕も生徒会の仕事があるから無理な時はあるけど、君との時間を作りたい。これからの為にも…」

サクラ「これから…って」

アキヤ「僕は君との婚約を心から嬉しく思ってる。初めて出会った時から君を想ってる。だから強引でも君と一緒にいたい。特に今は…」

サクラ「そうでしたか。…私もアキヤさんと仲良くしたいです」

アキヤ「有り難う!とても嬉しいよ。じゃあ早速行こうか」

サクラ「はい、少々お待ち下さい」

ハル「………随分と手の早い婚約者様だな…サクラもあの男に懐いてるみたいだし…つか、学校の廊下で堂々とイチャつくなんて羞恥心がねぇのかよ、あの坊ちゃんと嬢ちゃんは!胸焼けする光景だな」



ハル「帰るか…一人で帰るのは慣れてるのに…あいつを見守らずに帰るなんて初めてだな…ほんと、これからどうしよう…」


校門前
アキヤの車へ乗り込むサクラ

アキヤ「さぁ、乗って」

サクラ「失礼します」

サクラ車に乗り込む。アキヤの電話が鳴る

アキヤ「失礼、ちょっと待ってて」

サクラ「はい」

アキヤ、電話をとる

アキヤ「なんだ?…あぁ、そうかい。分かった……フフッ」

サクラ「……?」

アキヤ「ごめんねサクラさん。行こうか」

サクラ「あ、はい…」

アキヤサクラの隣に乗り込む

サクラ「別の方の車に乗るなんて久し振りです。なんだか緊張しますわ」

アキヤ「僕も、いつもの送迎車なのに君が隣にいるだけでドキドキしてしまうよ」

サクラ「え、そんな…」

アキヤ「嘘じゃないよ。今もドキドキしている…ほら、手を貸して?僕の胸を触ってごらん」

サクラ「ちょっ!いきなり何を…!」

アキヤ「くくっ…本当にウブだねぇサクラさんは…あの思慮深いお義父さんと違って近づきやすいよ…」

サクラ「え…?」

アキヤ「もう我慢できない!車を例の場所まで向かわせろ」

サクラ「アキヤさん!?一体何をするつもりなのですか!?」

アキヤ「大丈夫…君やお義父さんが抵抗しなければ酷い事はしない…つもりだよ?」

サクラ「あ、アキヤさん…?」

アキヤ「邪魔者はいないようだし、婚約者として近付いただけでこんなにすぐチャンスが来るなんて…あーあ、今まで君と仲良くしてた事がちょっと無駄だったかも…」

サクラ「………(恐怖で身が竦む)」

アキヤ「安心して、サクラさん…僕は君自身になんら興味がないから…でも大人しく従ってくれるのならそうだね…第一夫人のポストをあげるよ?」(笑う)


一人で街をブラブラと歩くハル

ハル「こうしてアイツを見守らずに一人で帰るなんて初めてだな…アイツがいないだけでこんな自由に歩き回れるんだな…」



ハル「いや、この財布の金もあいつを守り続けて得た金か…このままじゃ職も失う上に私の立場も…」

ハルのスマホが鳴る

ハル「はい、ハルです。なんすか?旦那様」

慌てた様子のサクラの父親

父親「おい、ハル!サクラは何処だ!?」

ハル「は?」

父親「お前は今何処にいるだ!」

ハル「は?何言って…」

父親「サクラを守るのがお前の仕事だろ!一体何をしてるんだ!」

ハル「ちょっと待ってくれ…サクラがどうかしたのか!?」

父親「は?何故お前が知らないんだ?お前はサクラのボディーガードだろ?」

ハル「え?サクラは婚約者の車で…」

父親「何を言ってる!とにかくすぐに私の下へ来い!」

電話が切られる

ハル「……どういうことだ?」

困惑しながら走ってサクラの家に向かう


ハル、サクラの家父親の書斎へ入る

ハル「失礼します…ハルです」

父親「遅い!何が起きたか一から説明しろ!サクラに何かあってみろ?お前の首が飛ぶぞ!」

ハル「待ってくれ!何があったんだ?サクラは婚約者の車で帰ってくるんだろ?」

父親「何の話だ?サクラの送迎は家の車でしかしないぞ」

ハル「え?…だってサクラは婚約者と一緒に帰るって…運転手にも確認した!帰りは婚約者の車だって」

父親「そんな命令した覚えはない!運転手からもそんな報告は受けていない!」

ハル「はぁ?…だって運転手はあんたから許可を受けたって…」

父親「そんな筈は…くそっ!それは今はいい、後で問い詰めてやる!とにかく今はサクラの行方だ。婚約者…アキヤ君の車で帰ると言ったのか?」

ハル「あぁ…運転手もそう言ってた…」

父親「……それが本当ならいいんだが…サクラはまだ帰ってきていない…」

ハル「…二人とも仲良さそうだったし、ちょっと寄り道してるんじゃね?」

父親「…だとしたらあの子からも連絡が来る筈だ、連絡はマメだし、アキヤ君も何も言わず連れ回すなんてふざけている…」

ハル「あんた人を信用しなさすぎだろ。サクラの婚約者様はあんたの優秀な部下の息子だろ?」

父親「…信用、していたの間違いだった…」

ハル「え?」

父親「俺は信用していたんだ…彼だけは……一方的にだったようだが…」

ハル「どういう意味だ…?」

父親「お前はサクラを大切に思っているが、サクラはお前のことを知らない…それと少し似ている」

ハル「…」

父親「信用していたのは俺だけだったようだ…信用に置ける他人は指の数もいらないと思っていたのにその内の人間に裏切られるとは…婚約は破棄するつもりだった…」

ハル「え!?」

父親「ついさっき決まった事だ…。奴の不祥事が公になって芋づる式に今迄の悪事が顕になった。俺を信用させて俺を陥れようとしていたみたいだ。その前に突き止めてやったがな…」

ハル「旦那様…」

父親「妻を亡くしてから唯一信用していた他人だ…なのに、俺を嫌い他の社員からの信用を落とそうとしていたらしい。最近の動向で不審に思っていた処は多々あったが…サクラの婚約が正式に決まったこのタイミングとは…」

ハル「じゃあサクラは!」

父親「奴曰く、アキヤ君も父親側だ。父の地位を上げる事によって自分の将来を約束させてたみたいだ」

ハル「…サクラ…そうだ!GPS………くそっ、あいつスマホの電源切られてんのか!?」

父親「こっちも場所についてはお手上げだ…捜索にはまだ時間がかかる、警察に頼るか…だとしても手掛りがないのにすぐに見つかるものか…」

ハル「………チィッ!あんたは警察にでも何にでも連絡してろ!私はサクラを探す!」

父親「待てハル!お前一人でどうなる!?サクラの場所も分からないくせに」

ハル「あんただって警察すらも信用してねぇのにどうなると思ってやがる!私はサクラの為にこの街の全てを把握してるし、情報を得る方法もある。あんたがお得意だった、汚い手も自分の為なら容赦無く使う、だ!…そうやってのし上がって来たあんたの信念だけは信用してた」

父親「……ハル」

ハル「身分は違うが似てると思った…大切な人が居るところも…それが奥様で私とってそれはサクラだ。私の仕事はサクラを守る事……決めた。何があってもこれからも私はサクラを守る!危険な目に合わせるのはこれで最後にしてやる」

父親「……ハル、そこまでサクラの事を…」

ハル「……サクラの為だけじゃねぇ、私の存在意義でもある…私の為でもあるんだ…あいつは……あいつは私の……………」

ハッとして踵を返す

ハル「なので、私はサクラを助けに行きます」

父親「待て、ハル!」

ハル「…まだ何か?」

父親「サクラを救いたい気持ちは同じだ。あの子は妻の忘形見…、私の娘だ。手を貸そう」

ハル「…フッ、父親らしい顔って今のあんたみてーな顔の事なのかな…。ありがとうございます!」


アキヤの隠れアジト
アキヤ電話をしている

アキヤ「あ、そう。父さんの事もうバレちゃったのか…折角娘を捕まえてきたのに、あのくそ親父はこそこそと逃げ出したのか…」

アキヤ電話を切る

サクラ「こんなことをして、何になるのですか!?すぐに私を解放して下さい」

アキヤ「は?何を言ってるの?そんな事をしたら僕だけが咎められてしまう…そう簡単に君を手放すなんてする訳ないだろ?」

サクラ「っ………」

アキヤ「君は交渉材料だ。僕と父親に最高のポストを与えてもらえる様にする為に」

サクラ「私がお父様に言ってどうにかしますので、こんな事はやめて下さい…」

アキヤ「信用できる訳ないだろ。何であんたの父親を信用出来る?その子供であるあんたも信用なんて出来ないんだよ!」

サクラ「そんな…やってみないと分からないじゃないですか」

アキヤ「お前みたいな脳内お花畑が俺に有利になる交渉が出来る筈ねぇだろ!いいか?今お前は人質だ…親父が使い物にならなくなった今、頼れるのは俺自身だ。使い物にならない奴は要らないんだよ!」

サクラ「…使い物って…人を、自分の父親を何だと思ってるんですか?」

アキヤ「…自分の利益だけを得る人間が父親だなんて許せないんだよ。今まで、父親の為に勉強をして優等生として生きてきた。でも、あいつは俺を一つの手駒としてしか見てなかった…お前の父親だって似たような物だろ」

サクラ「………」

アキヤ「子供をなんだと思ってる…それでも俺は父さんのために頑張ってたのに…見えない所で汚い手を使いまくって俺以外の奴まで騙してた…そんなの許せるはずないだろ!?でも今!父さんの悪事がバレたこのタイミング!社長の娘を人質に取った俺は父さんにとって今必要な存在のはず…!父さんが俺に縋って俺を頼ってくるんだ!」

サクラ「……アキヤさんはお父さんに認められたいんですか?」

アキヤ「……は?」

サクラ「聞いていればお父さんに認められたいと言う承認欲求が見られます。」

アキヤ「…ハハッ、そーかもね。そー見えるかもね…でも違うんだよ…俺の、俺の時間を奪ったあの父親が憎いんだよ!何の為にここまで優等生を貫いてやったと思ってんだ!俺は…何の為に…」

サクラ「アキヤさん、私もそうです。お父様は亡くなったお母様の事ばかり…私の事なんてあまり気にしてくれてないと思います…似てるんですよ、私たち…」

アキヤ「サクラ、さん…」

サクラ「ね?だからもう止めましょう。結婚は破談になってしまうでしょうが、貴方とはお友達でいたいんです」

アキヤ「…………………」

沈黙

アキヤ「これだから脳内お花畑なお嬢様は…」

サクラ「え?」

アキヤ「誰が手前なんかと同じだって?似てる?何処が?何一つ似てねぇよ!馬鹿か!」

サクラ「アキヤさ…」

アキヤ「あのねぇサクラさん。お前は俺とは全く違う。取り繕わず、誠心誠意優しい言葉を掛ければ落ちると思ってる?俺はそんな生温い言葉は聞き飽きてんだよ。お前は温室育ちの箱入りだ。天真爛漫で心を開いてる友人も理解者も沢山いるだろう?たった一つの共通点だけで分かった気してんな!」

サクラ「私は、そんなつもりで言ったわけでは…」

アキヤ「何もかもが煩わしいんだ!手前の存在が俺を惨めにする!今まで演技で作り上げたものをお前は全て持ってやがる!俺とお前の何が違うんだよ!」


突如アキヤの電話が鳴る

アキヤ「………なんだ?」

アキヤ、電話に出る

ハル『アキヤ様…か?』

アキヤ「女の声?一体誰だ…?この番号は俺の部下の…」

ハル『あー、失礼。私はサクラ様の父親の部下で~す』

アキヤ「!?」

サクラ「?」

ハル『ひひっ、びっくりした?』

アキヤ「っ、待て!貴様今何処にいる!?部下はこのアジトの…」

ハル『あー、お察しの通りアジトの玄関っすね~。あんたとサクラは何処だ?此処にいる事はわかってるんだけどなぁ』

アキヤ「くそっ!」

アキヤ電話を切る

サクラ「な、何ですか?」

アキヤ「おい!お前すぐに車を裏口につけろ!」

部下「は、はい!」

部下、部屋を出ていく
廊下で銃声

部下「うわぁ!?」

アキヤ「!?」

バンッとドアが蹴破られる

ハル「サクラ!無事か!?」

サクラ「え!?」

アキヤ「くそっ!」

ハル、牽制で銃を撃つ

アキヤ「くっ…!?」

ハル「次はドタマぶち抜くぞ?ガキは馬鹿な事やってないで、お家でお勉強でもしてな」

アキヤ「何故ここが…GPSと追跡は…」

ハル「舐めてもらっちゃあ困るな。私はサクラのボディーガードだ。その程度で巻けると思うなよ?」

サクラ「あなたは…」

ハル「サクラを解放しろ。今ならお咎め無しにしてやらんこともない。外や廊下にいたあんたの部下達の、命の保証もしてやる」


アキヤ「……ふっ、何を言ってる?こいつはまだ人質だ。元孤児のボディガードが消えたところで、こいつが無事なら交渉材料だ。大人しくするか、今ここで死ね!」

アキヤ、拳銃をハルに向ける

ハル「……ガキが危なっかしい物を持ってんなよ。使い方も危ういくせに無理をするんじゃねぇ!」

アキヤ「近づくな!撃つぞ!」

ハル「私を殺した所でサクラが無事ならいいだろ?ん?殺せるのか?出来もしねぇ事で粋がんなよ!撃って後悔しないなら撃ってみろよ!」

アキヤ「くっ……!」

サクラ「アキヤさんもうやめて!貴女も…貴女は…何者…?」

ハル「…………ハル!あんたを守る者だ」

サクラ「……ハル?きゃあ!」

アキヤ、サクラを抱え込み、拳銃を頭につける

アキヤ「お前、今すぐその銃を置け!でないとサクラの頭に穴が開くぞ!」

ハル「はぁ…本当にバカだな。サクラは人質じゃなかったのか?殺したら元も子もねぇだろ?」

アキヤ「うるさい!!」

ハル「…サクラは殺させない。これでいいか?」

ハル、銃をその場に置く

アキヤ「ふふっ…素直だな…こいつがいないとお前はまた小汚い小娘に逆戻りだもんな」

サクラ「…っ……」

ハル「………」

サクラ「ハル……さん?」

ハル「え?」

サクラ「……逃げ…て、下さい…」

ハル「………」



ハル「馬鹿かよ。逃げた所で何になる…サクラ、あんたは私の主人だ…主人を置いて逃げるなんて……私はお断りだね!!」

ハル、アキヤの方へ駆け出す

アキヤ「っ!動くんじゃねぇ!」

銃声、アキヤの手から拳銃が落ちる
ハルの手には小型の拳銃

アキヤ「っ、え!?」

ハル「サクラから離れやがれ、クソガキぃぃ!」

アキヤ「ぐっ……!?」

ハルがアキヤを殴り飛ばし、倒れるアキヤ
よろけるサクラをハルが支える

ハル「大丈夫か?サクラ」

サクラ「えぇ…貴女こそ」

ハル「…くくっ、一番危険だったのはお前だったのに…私の心配かよ!流石サクラ様だぜ!」

サクラ「なんで笑ってるの!?」

ハル「は?」

サクラ「っ、血が…怪我をしてるの?早く手当を…アキヤさんの事もありますし…」

ハル「……ふふっ、すげぇな…ほんと面白い主人だよ…サクラは」

ハルが床の銃を拾う

ハル「サクラ、安心しろ。あんたの父親には連絡してるから、すぐに迎えが来る。アキヤもその時に引き渡す。処分はあんたの父親が決めるだろうが」
サクラ「…そうですか、そうですね。いくらアキヤさんの境遇を鑑みても、今回の件は許し難いですね」

ハル「あぁ…」

サクラ「ハルさん」

ハル「ハルでいい。私はあんたのボディーガードだ」

サクラ「そう言われましても、私は今初めて貴女を認識したのですよ?…もしかして今までずっと私を…?」

ハル「あぁ、あんたが私を拾ってくれたあの日からな…」

サクラ「貴女を拾った…日…?」

ハル「あんたは私に名前をくれた…それが始まりだ春の日…桜の木の下…」

サクラ「春の日…桜…の……木………あっ!?」

ハル「改めて、私がサクラお嬢様のボディーガード…ハルに御座います!」

①①
サクラの家の裏庭
桜の木の根元に座るハル

ハル「はぁあ…何で謹慎なんか食らうんだよ。私はサクラを守っただけだろうが、あのクソじじい!…ちっ、なんだよ…ったく…やってらんねぇなぁ…」

サクラ「何がやってられないのですか?ハル」

ハル「うわぁ!びびった…サクラ?…何でこんとこに…」

サクラ「ここは私の家の庭よ?何処に居ようが勝手ではなくて?」

ハル「そうだけど…おい、何で隣に座る?」

サクラ「ここは私の家の庭です。何をしようが勝手でしょう?」

ハル「……あー、はいはい!ご自由にどうぞお嬢様!」

サクラ「ふふっ、ありがとうございます」

ハル「なぁ、アキヤの処遇はどうなったんだ?」

サクラ「お父様に任せてます。いくらアキヤさんのお父上がお父様の事を裏切ったとは言え、アキヤさんの件とは別物としてる様です」

ハル「ほぉ…あの親父にしては良心的だな」

サクラ「私がアキヤさんの事を説明しましたから…思う所もありましたし…、許し難い事をしたとは言え、彼は根が優しい人なのは知ってます…」

ハル「甘いなぁ…」

サクラ「二度目はありませんが」

ハル「ふぅん…運転手もグルだったか…」

サクラ「貴女に嘘の証言をした方ね…ご家族を盾に取られていたそうですわ…今回限りは不問とするそうです」

ハル「そっか…」

サクラ「………」

ハル「………」



ハル「……サクラ、私は…」

サクラ「貴女の事、お父様から聞きました。子供の頃、この木の様な桜の木の下に貴女はいました。無邪気な私はそんな貴女をおもちゃの様に欲しがった…貴女には申し訳ない事をしたわ」

ハル「おもちゃだなんて…最終的に私を拾ったのはあんたの父親だ。あんたの父親が私にお前を守る術を教えてくれた。何も後悔してない、現にお前を守れたんだから…」

サクラ「貴女はそれでいいの?」

ハル「何がだ?」

サクラ「貴女はもう生きる術を得ている…いつまでもここにいる必要はない。好きに生きていいのよ…ハル」

ハル「………」



ハル「サクラ、私は生きる術を持ち得てないよ。…持ってるのはあんたを守る術だけ…ここ以外に何処に居場所があると思う?」

サクラ「そう思ってるのは貴女だけよ。きっと貴女はここを去っても生きていける」

ハル「邪魔か?」

サクラ「え?」

ハル「私が邪魔か?…そんなに追い出したいのか?」

サクラ「違う!…私は…ただ…」

ハル「ただ?」

サクラ「貴女は女の子ですもの…こんな危険な事させていい訳ありません…心配なのです…」

ハル「…女だからって心配される筋合いはねぇな…私は私だ…クソみたいな親や施設から抜け出して、ようやく私にとってまともな世界にこれた…お前はそれを奪う気か?」

サクラ「…貴女はそれでいいの?」

ハル「私に人並みはまだ難しい…あんたが私を自由にしたいと言うのなら…教えてくれよ…私の知らない事をさ」

サクラ「ハル…」

ハル「私の存在はバレちまったから、これからは堂々とあんたを守る。正直、あんたを守る事は私にとって誇りある仕事だ。辞める気はねーからな、サクラ」

サクラ「……もう、なんて強情な方でしょう…わかりましたわ。貴女は私のボディーガード…そしてこれからは私のお友達ですわ」

ハル「友達?…そんなそんな、恐れ多い…」

サクラ「お友達、ですわ!」

ハル「…………ふふっ。あい、分かりましたよご主人様、私は貴女様の犬…そしてお友達………何か矛盾してるな?」

サクラ「うふふっ!おかしな関係になってしまいましたわね。…でも、素敵だと思います」

ハル「くくっ…ま、いっか…」

サクラ「これからもよろしくお願いしますね、ハル」

ハル「あぁ、任せな。サクラ」

①②

ハル(モノローグ調)「私の最初の記憶はあの小さなお姫さんだ。私はそんな姫さんを遠くから見守ってるだけだった…しかし今は、姫さんの近くで彼女を守っている。あぁ、本当にこの人に見つけられて良かったよ…咲く事も叶わなかっただろう、薄汚れた小さな春の蕾は、」


サクラ「ハル!次は何処に出掛けましょう?」

ハル「………。ふっ、何処へなりともお供しますよ?娯楽と言うものを教えて貰ってるんでね」

サクラ「そうね…じゃあ……」


ハル(モノローグ調)「今、あんたの隣で凛と咲く事が出来たんだ」


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