【R18*TL短編集】身体も心も吸血鬼の紅い瞳に囚われて(ティーンズラブ)

鶴宮りんご

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森のやさしい吸血鬼に本能のままに愛されすぎて快感に溺れてしまうお人好しの薬草師の話(ティーンズラブ)

3. 静かな部屋で

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ファンリンの手は微かに震えていた。ユーシェンの体力は限界に近づいていたが、弱さを見せまいとする意志がその姿勢に表れていた。顔や首に残る深紅の痕跡は狩人たちの追跡の名残であり、生来の冷静さを保とうとする彼の姿が今はどこか脆く見えた。ヴァンパイア・ハンターの使う武器は、彼を傷つけることのできる特別なものだった。

小さく質素な家の中には、薬草と乾燥させた花々の濃厚な香りが漂っている。彼女の指先が彼の腕に触れ、血で汚れた服をそっと脱がせた。その動きは迷いなく、目の前の治療に集中していた――吸血鬼を自分の手で介抱しているという奇妙な状況に意識を向ける暇もなかった。

彼女はこれまでに数えきれないほど吸血鬼についての噂を耳にしてきた――冷酷で、計算高く、危険だと。
しかし、森で出会ったユーシェンは、その恐ろしい話とは全く違っていた。彼の赤い瞳には悪意の炎など宿っていなかった。代わりに、そこには抑えきれない悲しみと静かな嘆きが漂っていた。それは、彼女自身もよく知る孤独の響きだった。

「ここにいる必要はない」ユーシェンはかすれた声でつぶやいた。「助けてくれなくてもいい。」

ファンリンは動きを止め、部屋の向こうから彼に目を向けた。彼の瞳の中には葛藤が見て取れた。孤独に生きることを宿命づけられた存在の持つ警戒心――だが、さらにその奥にはどこか訴えるような、かすかな信頼の光が見え隠れしていた。

「あなたが何者かは知っているわ」彼女は柔らかな声で答え、手にしていた薬草を脇に置いた。「でも、私はあなたを怖がっていない。」

ユーシェンの唇がわずかに開き、何か言いたげに見えたが、結局言葉は出なかった。代わりに、彼は目を閉じ、枕に頭を沈めた。その表情には痛みが浮かんでいたが、最小限に抑えようとする彼の強さが見て取れた。

ファンリンは静かに手を動かし、彼の傷から血を洗い流していく。植物を粉砕した葉とエキスを混ぜて、感染を防ぐために丁寧に塗布した。その作業はゆっくりと、慎重に進められ、彼の苦しみを少しでも和らげようと心を込めて行った。急ぐことはなかった。
部屋の中は静寂に包まれ、その静けさこそが二人にとっての癒しだった。言葉がなくても、互いに通じ合っている気がした。

なぜ彼を助けなければならないのか、なぜ彼を拒絶できないのか、ファンリンには分からなかった。彼が何者であるかを知っているのに、どうしてこんなにも心が引き寄せられるのだろう。
もしかしたら、森の中で彼が優しく迷子のウサギを家族の元に戻した時に見せた思いやりが、彼女の心に残っているからかもしれない。それとも、深層では、理解されない孤独を抱えた者同士、無意識のうちに共鳴しているのかもしれなかった。

「どうして、こんなことをしてくれる?」

長い沈黙の後、ユーシェンがかすかな声で問いかけた。

ファンリンは一瞬手を止め、彼に視線を落とした。彼の目が彼女を捉え、探るようなまなざしが交わった。その瞬間、彼が初めて彼女の家に入った時とは違い、少しだけ警戒心が解けたように見えた。

「私にはできるからよ」ファンリンはシンプルに答え、優しく、安心させるような笑顔を浮かべた。「そして、あなたが助けを必要としているから。」

ユーシェンはすぐには返事をしなかった。彼の視線は天井へと移り、まるで彼女の言葉をじっくりと考えているかのようだった。彼女が傷を手当てし終える頃、彼の息は次第に落ち着き、薬草の効果がゆっくりと現れ始めていた。

「ありがとう」ユーシェンはようやくつぶやいた。その声はとても静かで、まるで秘密を共有するような感覚だった。「こんなこと、俺には…」

ファンリンはしばらく彼のそばに座り、彼の呼吸が深くなり、体の緊張が少しずつほぐれていくのを見守った。彼女は未来がどうなるのか、彼が癒えたらすぐに去ってしまうのか分からなかった。

でも今、この静かなひとときの中で、二人の間にあったのは平穏だった。それは、どちらも長い間知らなかった感覚だった。
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