キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ

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3巻

3-1

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 第一章 準備していたもの


「すっげ~! このキャンピングカーってやつの中はこんなふうになってんのか!」
「この中で快適に生活できるようになっているんだよ」

 俺――吉岡茂人よしおかしげとは日本からこの異世界へとやってきた。だが、俺はこの世界へ裸一貫で来たわけではない。
 長年の夢であったキャンピングカーを購入し、オートキャンプ場で初めてのキャンプをしていたら、キャンピングカーごとこの世界に来てしまったのだ。
 これまでに散々危険な魔物に遭遇してきたが、このキャンピングカーと、一緒に旅する仲間達とで力を合わせて切り抜けてきた。
 今、キャンピングカーの中を見て驚いている女の子の名前はカルラ。燃え盛る炎のような真っ赤な髪を横で一つに束ね、頭からは白い角が二本生え、背中には一対の翼がある。
 彼女は龍人族りゅうじんぞくという珍しい種族で、一人でずっといろんな場所をまわっていたらしいが、アステラル火山かざんで俺達と出会い、こうして一緒に旅をすることになった。
 彼女がキャンピングカーに乗るのはこれが初めてになるので、いろいろと説明をしてあげないとな。

「カルラはよくそれほど楽しそうにキャンピングカーの中に入れましたね……」

 カルラの隣にいるジーナは、まばゆい白銀色の髪をポニーテールにしており、エルフ特有の長く尖った両耳が突き出ている。

「僕も最初はちょっと怖かったかな……」

 くせのある黒い髪とオオカミのような耳が生えた少女のコレットちゃんは、獣人じゅうじん黒狼族こくろうぞくという種族だ。腰の辺りからは髪と同じ黒色のもふもふとした尻尾が生えている。

「ホー」

 そして、定位置である俺の右肩に留まっている真っ白でもふもふしているのは、もりフクロウという種族のフー。真っ黒でつぶらな瞳、胸にある黒色の紋様は、元の世界のフクロウとは異なる証だ。まあ、体の大きさを変化させることができるフクロウなんていなかったもんな。

「シゲト、こいつはなんなんだ?」
「これは冷蔵庫という道具だよ。ほら、この中は冷えていて、食料なんかを入れておけるんだ」
「うおっ、確かに冷たいぜ。すげ~な!」

 初めてキャンピングカーの中に入るカルラはとても楽しそうだ。うん、本来キャンピングカーに入った時はこういうワクワクとした気持ちになるもんだよな。
 車を見たことがないこの世界の住人には、大きなキャンピングカーは魔物に見えるらしいから、ジーナの時みたいに覚悟が必要というのもわからなくはないけれど。

「とりあえず人目につかない場所まで移動して、ドラゴンを解体しようか。そのあと街でドラゴンの素材が売れるかを調べてみよう」

 俺は今後の行動をみんなに伝え、出発の準備を整える。
 俺達が今いるのは、アステラル村から少し歩いたところ。
 観光に来たアステラル火山で、運悪くレッドドラゴンと遭遇してしまい、命がけで戦って勝利した俺達は、一晩休息をとり今朝村を出発した。
 キャンピングカーを見られない場所まで来てから、みんなで乗り込む。

「それじゃあカルラは……後ろの椅子に座ってくれ。コレットちゃん、カルラにシートベルトの締め方を教えてあげてね」
「うん! カルラお姉ちゃん、シートベルトはこうやって締めるんだよ」
「へえ~体を押さえる紐か。おおっ、引っ張ると伸びるんだな」

 後部座席にはコレットちゃんとカルラ。運転席には俺、助手席にはジーナとジーナに抱き抱えられたフー太。これからはこの乗車位置で進んでいくつもりだ。
 俺はカーナビを操作して次の目的地を考える。
 ハーキム村を出てから約半月が過ぎた。そろそろジーナを村まで送り届けることを考えて、ハーキム村に戻ることも視野に入れて目的地を決めなければならない。
 ここから東の方へ進むと川があって開けた場所があるから、まずはそこを目指すとしよう。
 そしてそこからさらに東へ進むと、ノクターラの街というそこそこ大きな街があることはアステラル村で教えてもらった。そこでドラゴンの素材が売れるかを確認して、いろいろな物資を補給するとしよう。


『目的地が設定されました。目的地まで案内を開始します』


「うおっ、誰だ!?」
「カルラ、今のは道を案内してくれる声だから、あまり気にしなくて大丈夫だよ」

 初めてキャンピングカーに乗った人がカーナビの声に驚くのは、この世界では毎度のことである。

「よし、それじゃあ出発!」
「ホホー!」

 アクセルを踏むと、キャンピングカーがゆっくりと進み出す。

「うおおおおお! すげえ、こんなにデカいのが走ってるぜ!」
「カルラお姉ちゃん、あんまり身を乗り出すと危ないよ!」

 後ろからは窓の外を見てはしゃぐカルラと、それを止めようとするコレットちゃんの声が聞こえてくる。新たなる同行者が増えて、旅がまた楽しくなりそうだ。


「よし、無事に到着っと。特殊機能とくしゅきのうの【透明化とうめいか】も発動しておこう」

 三時間ほど走って、カーナビで設定していた目的地に到着した。
 川のほとりで近くには何もない。キャンピングカーの透明化を発動したから、魔物などがキャンピングカーを見つけて寄ってくることもないだろう。

「次のレベルアップまでは残り九百キロメートルか。まだまだ先は長いなあ」
「新しい道を走ったら、どんどん快適になるなんておもしれえな」

 カルラには道中で、このキャンピングカーの拡張機能や、レベルアップで得られる特殊機能のことを明かしてある。すでに獲得してある拡張機能や、現在キャンピングカーがレベル2であることなんかも説明した。
 透明化のような便利な特殊機能を早く増やしたいところではあるけれど、この世界の路面状況はあまりよくないから、それほどスピードは出せない。レベルアップの方は焦らず、安全運転を心掛けていこう。

「さて、ドラゴンの解体作業をする前に、まずは昼食にしよう」

 解体作業をするとベトベトの血と臭いが染みつくことはすでに経験済みだ。先に昼ご飯を食べてから、解体用の汚れてもいい服に着替えて作業に取り掛かることにする。


 いよいよドラゴンの解体作業を始める。
 ちなみに昼食はお手軽なホットサンドにした。やはり簡単にできておいしく、中身をいろいろと変更できるホットサンドは旅に最適である。
 みんな食後にアイスクリームを食べたがっていたけれど、さすがに朝昼晩でアイスクリームを食べていたら間違いなく太る。そのため、基本的にアイスクリームは晩ご飯のあとに少しだけ出すことに決めた。
 カルラは特にがっかりしていたけれど、移動はキャンピングカーだし、カロリーの高いアイスクリームはほどほどにしないといけない。

「……改めて見ても大きいな。これで子供だっていうのだから、大人だったらどれだけになるんだか」

 あまりの迫力に、つい呟きが漏れる。

「ホー……」
「よくこのドラゴンを倒せましたね……」

 フー太とジーナも、改めてその迫力に驚いているようだ。
 俺達の目の前には、昨日倒したレッドドラゴンの遺体の一部がある。もっとも、爆発で黒焦げになった部位や内臓は置いてきたから、これでもだいぶ小さくなっている。

「まずは食用になりそうな部位を切り出して、アイテムボックスに収納していこう。そのあとは売れそうな鱗や爪や牙なんかを順番に少しずつ分けていこうか」

 俺はみんなに簡単に流れを伝える。

「おう。ドラゴンはとんでもなく旨いらしいから楽しみだぜ」

 そう、カルラの言う通り、ドラゴンは食べることができるらしい。
 ドラゴンの肉にはとても興味はあったが、あの恐ろしいドラゴンを目の前にした時はそんなことを考えている余裕はなかった。どうやって逃げるかを考えるだけで精一杯だったからな。
 だが、いざドラゴンを倒したとなると、その肉の味には興味しかない。やはり異世界へ来たのなら、ドラゴンの肉は一度食べてみたかった。
 ちなみに、龍人族であるカルラがドラゴンを食べることは共食いにはならないらしい。まあ、カルラにはドラゴンらしい特徴もあるけれど、明らかに別種族だよなあ。
 とりあえずざっくり切り分けようと包丁を当てるが、うまく刃が入らない。

「皮がだいぶ硬いな。包丁じゃうまく切れないぞ」
「おっ、それなら俺に任せてくれ」

 そう言ってカルラは自分の爪を伸ばし、その爪を器用に使ってドラゴンの肉を切り分けていく。カルラの爪は伸縮自在しんしゅくじざいで、かなりの切れ味があるみたいだ。

「助かるよ。それじゃあ、肉の切り分けはカルラに任せて、俺はアイテムボックスに収納していくか」


 入れた物の時間が経過しない便利な『アイテムボックス機能』だが、俺しか扱うことができないから、カルラが細かく切り分けてくれたドラゴンの肉を収納するのは俺の役割だ。

「カルラ、こちらの方もお願いします」
「おう、任せておけ」

 ジーナは持っているロングソードを使って、ドラゴンの体を大きく切り分けてくれる。彼女が持つロングソードはドラゴンの首を切断できるほど鋭く、鱗も切ることができるようだ。
 ジーナが大きく切った部位をカルラが細かく切り分けて、俺が収納するという役割分担だ。

「シゲトお兄ちゃん、こんな感じで大丈夫?」
「うん、いい感じだね。肉を切り分けたら俺達も手伝うから、それまでよろしくね」
「うん」

 コレットちゃんには、持っているナイフでドラゴンの鱗を一枚ずつ剥がしてもらっている。魚の鱗のように包丁で一気にできればよかったのだが、ドラゴンの鱗は一枚一枚が大きく、結構な力を入れる必要があるため、ナイフを使って一枚ずつ剥がしていくしかない。
 ドラゴン用の鱗取りが欲しいものである。元の世界のゲームとかでは魔物を倒したらボタン一つで簡単に素材を手に入れることができるけれど、現実はこうして魔物を解体して、素材を自分達で採取していくしかない。

「ホーホー」
「フー太、あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ」
「ホ~♪」

 フー太には俺達が解体作業をしている間、周囲に魔物が近寄ってないかを見張ってもらっている。ドラゴンの血の匂いに誘われて魔物が寄ってくる可能性もあるからな。
 空から周囲を見張ってくれると俺達も安心できる。それにウサギなんかの小動物がいたら狩ってくれる。


「……よし、半日でほとんど終わったな。やっぱり人が増えると作業はその分楽になるね」
「ホーホホー♪」
「ええ、カルラがいてくれたおかげで、だいぶ楽でした」
「カルラお姉ちゃん、すごかったね!」
「いやあ~それほどでもねえよ。それに俺はちまちました作業が苦手だから、そっちの方は助かったぜ」

 無事にドラゴンの解体作業が完了した。以前に解体したダナマベアよりも大きな体をしていたが、カルラが加わったこともあって、予想よりも早く終わってくれた。
 鱗の方も綺麗に剥がすことができたし、適材適所で作業をするのが一番効率がいい。

「それじゃあ、順番にシャワーを浴びて、晩ご飯にしよう」


「うおおお、こいつは気持ちいいな! 温かいお湯が毎日使えるなんて最高だぜ!」
「カルラお姉ちゃん、狭いからあんまり動いちゃ駄目だよ」

 ……カルラのやつはだいぶ声がでかいな。キャンピングカーの外にいるのに、シャワー室の中の声が聞こえてくる。
 まあ、初めてキャンピングカーのシャワーを浴びた時は、ジーナもコレットちゃんもだいぶ驚いていたか。

「とてもいい香りですね。晩ご飯がとても楽しみです!」
「ホホ~♪」
「うん、それに焼いてみたらだいぶ柔らかくなったからね。どんな味がするのか楽しみだよ!」

 先にシャワーを浴びた俺とジーナとフー太は、キャンピングカーの外で晩ご飯の準備をしている。
 今回使用する肉はドラゴンの腰周りの部位だ。牛に照らし合わせるのならサーロインになる。
 ドラゴンの肉は牛肉よりも鮮やかな赤色をしていて、純白のサシが入っていた。見た目は、非常に美しい肉である。
 肉質は少し硬めで包丁を入れるには力が必要だったが、試しに一欠片だけ焼いてみると、その肉はとても柔らかくなった。これくらいの柔らかさなら、タマネギのみじん切りに漬けるなどの柔らかくする処理は必要なさそうだ。
 ドラゴンといえば、まずはあの料理を作らなくちゃな!


「お待たせ、今日の晩ご飯は、ドラゴンステーキだよ」
「んっ、これが肉なのか? 銀色で綺麗だけれど、全然旨そうじゃねえぞ……」
「カルラお姉ちゃん、これはアルミホイルっていって、この中にお肉が入っているんだよ」

 他のみんなはダナマベアのステーキを食べた時にアルミホイルを見たことはあるが、カルラは初めてだったな。
 スキレットを熱して牛脂ぎゅうしならぬドラゴン脂を引いて、ドラゴンの肉の両面を炭火で一気に焼き上げる。そしてアルミホイルに包んでしばらく置いた。こうすることにより、肉の中心部までじんわりと加熱され、少しレアな状態で食べることができる。

「おっ、確かに中から肉が出てきたな。こりゃあ旨そうだぜ!」
「ええ、これはとてもおいしそうです!」
「ホ~♪」

 アルミホイルの中には綺麗な焼き目をしたドラゴンステーキ。カルラもジーナもフー太も、キラキラした目で見ている。そして、香ばしく焼けた肉の香りが辺りに広がっていく。
 これは我ながらうまく焼けたみたいだ。

「まずは肉の味を味わうために軽い塩コショウで食べてみよう」

 いつも通り、まずはシンプルに塩コショウのみで味わう。アウトドアスパイスやソースなどで食べるのも間違いなくおいしいのだが、肉本来の味が一番わかるのはこれである。
 ナイフをドラゴンステーキに通すと、スッと肉が切れていく。
 肉の断面にはまだ少し赤さが残っている。さて、味の方はどうかな。

「うん、中から旨みの凝縮された肉汁が溢れてくるな! 牛や豚、それにダナマベアよりもさらに一段上の味だ!」

 噛み締めた瞬間、熱々の肉汁がジュワッと出てくる。外は香ばしくカリッと焼かれ、内側はとろけるような柔らかさで、濃厚な肉の旨みが舌の上に広がる。さらに、香ばしい脂の香りが鼻をくすぐり、思わず目を閉じてしまうほどの幸福感。噛むたびに溢れる旨みの洪水に心まで満たされていくようだ。

「すごい、今まで食べたどんなお肉よりもおいしいよ!」
「ええ、香りもすばらしいですし、想像よりも柔らかく、赤身と脂身が少しもくどくなくて最高においしいです!」
「なんじゃこりゃあ! ブレスで焼いた肉よりも遥かにうめえじゃねえか!」
「ホーホホーホー!!」

 みんなも今までで一番の反応だ。これはもう肉そのものの味が凄まじい。
 どうしてあんなに凶暴そうなドラゴンの肉がこんなに旨いのか不思議でしょうがないが、今はただ、この瞬間にみんなと一緒にこの味を楽しめることに感謝しよう。

「次は別の味で食べてみよう。これはアウトドアスパイスという様々な香辛料が合わさっている万能ばんのう調味料だよ。こっちはドラゴンステーキを焼く時に出た肉汁と調味料を合わせたオニオンソース、そっちはポン酢という調味料を使ったおろしだれソースだ。好きなものを使って食べてみてね」

 カルラには初めてのものもあるので、軽く調味料の説明をする。
 みんな早々にドラゴンステーキを平らげ、続いて二枚目のステーキを前にする。ステーキは時間差を付けて焼き上げ、アルミホイルで休ませている間に次のステーキを焼いてある。
 たとえお腹がいっぱいになって余ってしまったとしても、焼き立てのままアイテムボックスに保存できるのは便利だよな。

「おおっ、こっちの方がうめえぜ。肉にいろんな味が付いていやがる!」
「ええ。やはりこちらの香辛料を掛けると、どんな肉でもおいしく食べられますね!」

 カルラにとってアウトドアスパイスの味は初めてだ。この世界は香辛料などがまだ高価だから、こういった味に出会う機会はなかっただろう。

「うわあ~、こっちのソースもドラゴンのお肉にすっごくよく合うよ。ソースだけでもとってもおいしいね!」
「ホホ~♪」
「うん、おろしだれソースもさっぱりとしていていけるな。しかし、どの味付けにも決して肉の味が負けていない。やっぱりこの肉はすごいな!」

 おろしだれソースは以前に作って保存してあったものだが、オニオンソースは今回ドラゴンの肉汁を使って作り直した。
 味付けを変えるだけで、ドラゴンの肉の味わいがガラリと変わるが、どれも最高においしい。


「いやあ~本当においしかったなあ。部位によっても味が違っていろいろと楽しめたよ。どれも好きだったけれど、俺は三枚目が好きだったかな」

 ドラゴンステーキを食べ終え、片付けを終えてキャンピングカーの中でまったりタイムだ。

「ええ、どれも味が違いましたね。私は二枚目の味が好きでした!」
「僕はシゲトお兄ちゃんと一緒で三枚目が好きだった!」
「俺は最初のやつが気に入ったぜ!」

 俺が肉の感想を言うと、ジーナとコレットちゃん、カルラも各々の好みを教えてくれる。

「ホホー!」

 フー太は一枚目のようだ。右の翼だけを上げている。三枚目だったら、また以前みたいに両翼と片足を上げて表現していたのかな?
 今回は三種類の部位を用意した。最初の肉は腰周りのサーロイン、二枚目が肩周りのロース、三枚目はお尻に近いランプ辺りの部位をステーキにしてみた。肉の部位によって、同じ個体から取れた肉でも味は全然違うものだ。
 俺もそこまで肉の部位に詳しくないから、ヒレとかミスジとかの部位まではわからなかったな。そもそもドラゴンの肉を、牛の部位と同じように考えていいのかもわからないが。

「肉もソースも全部旨かったぜ。やっぱりシゲトは料理がうまいんだな!」
「ありがとう」

 まあ、料理の腕というよりかは、アウトドアスパイスや醤油にポン酢なんかの、元からこのキャンピングカーに積んでいた香辛料や調味料のおかげではあるが。
 小さめに切ったとはいえ、みんな結局三枚以上のステーキを平らげた。カルラとジーナに至っては五枚も食べたんだからすごい。ちなみに俺とフー太は食べなかったが、三人は食後のアイスクリームまでしっかりと完食していた。
 ドラゴンは子供でもだいぶ大きかったから、まだまだ肉の量はある。まずは定番のステーキだったけれど、これだけ旨いなら他のいろんな料理も作ってみたくなる。カルラが増えたけれど、ダナマベアよりも遥かに肉の量が多いから、当分の間は楽しませてもらうとしよう。

「さて、素材の方はどうしようかな。カルラ、やっぱりドラゴンの素材ってかなり高価だったりするの?」

 他のみんなはドラゴンという魔物自体知らなかったので、唯一ドラゴンを知っていたカルラに聞いてみた。

「かなり高価なもんっていうのは聞いたことがあるぜ。冒険者ギルドに行けば高値で買い取ってくれるはずだ。でも、さすがに冒険者でもねえやつが、どうやってドラゴンを討伐したのかって話にはなるだろうな」
「やっぱりか。キャンピングカーで旅をしていることはあんまり知られたくないんだよね。どうやってドラゴンを倒せたかって聞かれたら、燃料のことを話さないといけなくなりそうだし……燃料のことがバレるとさすがにまずいんだよ」

 百歩ゆずってキャンピングカーという存在がバレるだけならまだいい。だが、燃料はだめだ。
 というのも、燃料は香辛料や調味料のように『燃料補給機能ねんりょうほきゅうきのう』で、毎日増やすことができる。
 ドラゴンを倒した時のように、燃料が強力な武器として使用できることが権力者達にバレてしまうと、俺は監禁されてひたすら燃料を生産する日々を過ごす、なんてこともあり得るかもしれない。

「ドラゴンの素材はあんまり大事にならないように、少しずついろんな街で売っていくか。それなら商売をしながら旅をしている間に偶然入手したと言えるかな。あとはオドリオの街にあるエミリオさんに買い取ってもらえないか相談してみるのもありだ」

 とりあえず、ノクターラの街へ行った時にドラゴンの素材がどれくらいの値段で売られているか確認してから決めるとしよう。今はまだダナマベアの素材と香辛料を売った時のお金が残っているし、それほど焦る必要はないからな。


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