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第196話 お酒の力
しおりを挟む「なるほど、空いた時間に指南か。ジーナたちも結構やるようだが、確かに狩りと護衛は違う。俺もそこまで大したことは教えられねえが、おっさんなりに経験したことは多いから多少は教えられると思うぜ」
「はい、それでお願いします!」
冒険者として長年経験していたガレンさんから指南をしてもらえるのはとてもありがたい。俺たちもこれまでの旅でいろんなトラブルを切り抜けてきたが、ちゃんとした指導があれば苦労することなく切り抜けることができたかもしれない。
なんならもっと依頼料を上げてもいいくらいだ。
「……ふむ、いいだろう。シゲトの依頼を引き受けるぜ」
「本当ですか! ありがとうございます」
駄目元だったのだが、まさか依頼を引き受けてくれるとは思わなかった。これは嬉しい誤算だ。
「それほど距離があるわけでもないし、指南があってもその依頼料なら冒険者を引退した俺には十分な報酬だ。なによりあの酒が毎日飲めるってんならこれ以上ない依頼だぜ!」
「そ、そうでしたか……」
思ったよりもお酒が効果的だったらしい。俺も酒は好きだが、ここまで効くとは思わなかった。まあ、この世界には娯楽が少ない分、好きな料理や酒なんかに重きを置くことは俺にもよくわかる。そもそも俺が米を手に入れたいと思うのも似たようなものだからな。
そのあとはガレンさんと依頼の細かい部分を話した。すぐに準備をして明日から出発が可能なようだ。俺たちも一度宿に帰り、待ってくれていたみんなと合流して食材などをたくさん購入しておいた。
しばらくの間だが、新しい同行者が増えるというのは少しワクワクする。どんな旅になるのか楽しみだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして翌日の朝。街を出発する前にガレンさんとジーナと冒険者ギルドへやってきた。
「こちらで依頼を受け付けました」
「ああ。引退したばっかだってのに、ギルドを使わせてもらって悪いな」
「いえ、とんでもないです! ガレン様には冒険者ギルド一同お世話になっておりますので。どうぞお気を付けください」
「おう、サンキューな」
冒険者ギルドの若い受付嬢さんが頭を深く下げる。長年この街で冒険者を続けていたこともあって、冒険者ギルドの職員さんと仲も良さそうだ。
すでに冒険者を引退したガレンさんだが、元Aランク冒険者ということで、冒険者ギルドへ多少の融通が利くらしい。俺たちからの依頼料が多少高額であるため、口約束ではなく冒険者ギルドへ正式に依頼を通そうという話になった。
「悪いな。シゲトたちを疑っているわけじゃねえんだが、こういったことはしっかりとしておきたいんだ」
「ええ、俺たちもそっちの方が安心できますよ」
ガレンさんからしても会ったばかりの俺たちをそこまで信用できるわけがなく、先に冒険者ギルドへ依頼料の金貨100枚を渡しておくことにより、無事に依頼が達成されれば確実に報酬が支払われることになる。
俺たちの方からしても、ないとは思うが依頼料を先に全部渡してガレンさんに逃げられるということはなくなり、俺たちの秘密を話したら守秘義務を破ったこととなって罰金が科せられることになる。お互いにとって間に冒険者ギルドを挟んだ方が安心だ。
冒険者というとあまり先のことなど考えずに行動をしていると思っていたのだが、ガレンさんのようにしっかりとリスクやリターンのことを考えている冒険者もいるんだな。逆に言えば、命の危険のある冒険者という仕事で長く生き残るためにはそういったことをしっかりと考えなければいけないのかもしれない。
「シゲト、もういいか?」
「うん、ここまで離れれば大丈夫かな」
冒険者ギルドを出て、宿で待っているみんなと合流してアルカンの街を出た。
街からしばらく離れ、尾行している人がいないことを確認して一度止まった。
「ふう~相変わらず邪魔な外套だぜ」
「……こいつは驚いた。お嬢ちゃんは龍人族だったのか」
カルラが外套を脱ぐと、頭には真っ白な角、背中には真っ赤な羽が現れた。
どうやらガレンさんも龍人族のことを知っているらしい。
「おう、俺はカルラってんだ。よろしくな、ガレンのおっさん!」
「カルラ、ガレンさんって呼びなよ」
ガレンさんは俺よりも年上だけど、そういった呼ばれ方は嫌かもしれない。……俺も三十になるといつおっさん呼びされてしまうかビクビクしてしまう。男は意外とそこには敏感なのだ。
「気にしなくていいぜ。みんなも俺のことはおっさんでも呼び捨てでも好きに呼んでくれ。シゲトもしばらく一緒に過ごすわけだし、もっと気楽に接してくれよ。そん代わりに敬語は苦手だから、俺も勘弁してくれ」
「……ああ、了解だ。しばらくよろしく頼むよ、ガレン。こっちは森フクロウのフー太だ」
「ホーホホー!」
「ジーナです。よろしくお願いします」
「コ、コレットです! よろしくお願いします」
みんなも俺に続いて自己紹介をして、ひとりずつ握手をする。ガレンの手の皮は固くて分厚く、これまで冒険者として長く剣を振るっていたのだと思わされた。
「なるほど、シゲトがやけに依頼主のことを漏らさないように警戒していると思ったらそういうわけか。確かに珍しい種族を狙う悪党は多いからな」
「いや、むしろ本題はここからなんだよ」
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