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第195話 交渉
しおりを挟む「ああ~わりいが俺はもう冒険者を引退したただのおっさんだ。そういうことなら冒険者ギルドへ行って若いやつらに頼めよ」
まあ、そうなるか。
依頼内容も聞かずに断られてしまった。とはいえ、駄目元だし、もう少し粘ってみよう。
「実は俺たちはちょっと訳ありで、信頼できそうな冒険者を探しているんです。そんな時ガレンさんに助けてもらって信頼できる人と判断しました」
「……訳ありねえ。昨日シゲトが連れていたのは普通のフクロウじゃなくて魔物の森フクロウだろ? 地域によっては神聖視されている魔物のようだな」
おっと、ガレンさんはフー太が森フクロウであることに気付いていたようだ。さすが長年冒険者を続けていただけある。
ちゃんと周りに聞き耳を立てている人がいないことを確認し、小声で俺に話しかけてきた。こういう細かい配慮はありがたい。
「ええ、それもあります。あとはさっきのお酒についてですが、実は特別な方法で手に入れることが――」
「なにっ、さっきの酒が手に入るのか!?」
「え、ええ……。俺の故郷がここから遠いということは本当なんですが、ちょっと特殊な方法で手に入れることができるんですよ。依頼の報酬として渡そうと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「ほう、さっきの酒か……」
酒に酔って顔は少し赤いが、その目はとても鋭く、初めて真剣な顔をするガレンさん。お酒がだいぶ好きみたいだし、やはりこっちの方から攻めるのが正解みたいだ。
もしもガレンさんが駄目だったら、ガレンさんが信頼できそうな冒険者を紹介してもらおうとも思っていたのだが、その必要はないかもしれない。
「それで、どんな依頼なんだ?」
よし、とりあえず第一段階はクリアしたみたいだ。
「依頼内容はスターフェル村とロンデル遺跡への往復の際の護衛です。スターフェル村にある特産品が欲しいのと、ロンデル遺跡を観光したかったのですが、この辺りには魔物が多いと聞いたので、護衛が可能な冒険者を雇おうと思いました」
「……本当にそれだけか?」
依頼内容を正直に話したのだが、なぜか怪訝そうな表情をするガレンさん。
なにか変なことを言ってしまったのか?
「はい、本当にそれだけですよ。一番の目的はスターフェル村にある米という穀物です。俺の故郷にも似たような穀物があって、どうしても手に入れたいんですよね。ジーナは強いので俺たちだけでも大丈夫だと思うんですが、俺は少し心配症なので念には念を入れておきたいんですよ」
「はあ……警戒してこっちが損をしたぜ」
「警戒? えっと、特に嘘を吐いたりはしていないのですが……」
「わりいわりい。冒険者の特性でな、うまい話には裏があるって言うのが相場なんだが、嘘を吐くのならもう少しマシな嘘を吐くだろうよ。ヤバい依頼だと知らぬ間に密輸の相棒を担がされたりするからな」
「な、なるほど……」
冒険者もいろいろと考えることがあるみたいだ。確かにいろんな種族のみんながいて、今まで見たことのないうまい酒をご馳走した男からの依頼と聞くと少し胡散臭い気もする。
とはいえ、俺たちにそんな意図はまったくなく、純粋に護衛をしてほしいだけである。
「報酬は往復で10日くらいを想定していて、金貨100枚。日数が増えるごとに金貨10枚で、それとは別に食事代はこちらもち。先ほど飲んでもらったお酒を毎日少しずつといった感じでいかがでしょうか?」
冒険者ギルドだとCランク冒険者2人で1日金貨10枚だったため、元Aランク冒険者ということで1人で1日金貨10枚。それにプラスアルファで食事代とお酒という大盤振る舞いだ。
盗賊の賞金やレッドドラゴンの鱗などといった臨時収入があったとはいえ、俺たちにとってはだいぶ大盤振る舞いだ。逆を言うと、それほどの対価を払ったとしても米を手に入れたいという気持ちがある。
「……ほう、随分と気前がいいことだな。その距離を護衛をするだけでそんなにもらえるのか?」
冒険者ギルドで聞いた護衛の相場くらいで、元Aランク冒険者であることを想定したのだが、少し多いくらいだったのか。現役のAランク冒険者ならもっと高いと思うが、冒険者の相場感はなかなか難しい。
若干怪しんでいるガレンさん。この世界で買い物をする時に値段交渉をする時は少ない金額から始めるのだが、冒険者と依頼主の場合は適正な金額でと考えていたんだがな。
「報酬が多いと感じるのであれば、その分は空いた時間に私たちを鍛えてくれませんか? 私たちは狩りには慣れているのですが、冒険者のように誰かを護衛しながら戦う術はあまり学んでこなかったので」
横にいたジーナがガレンさんにそう伝える。
【お知らせ】
こちらの作品のコミカライズが9/11より連載開始します!
第3巻も9月中旬に決まり、書影も公開されました!
どちらもよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
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