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第194話 最高のつまみ
しおりを挟む「冷えた酒がこんなに飲みやすいとは驚いたぜ。シゲト、こいつはこの辺りじゃ売ってねえのか?」
「残念ながら俺の故郷はここからすごく遠いので、この辺りでは売っていないですね」
「ちぇっ、そいつは残念だ。近場で買えたら間違いなく買いに行ったんだがな」
そう言いながら瓶に残った最後の一滴まで飲み干そうとするガレンさん。うまい酒を見つけたら少し遠くても買いに行こうとする気持ちは酒のみの俺にもよくわかる。
ハーキム村でこれまで貯めていたお酒のほとんどを放出してしまったから、ビールは2缶分くらいの量しかなかったんだよなあ。
「こっちのウイスキーと日本酒の方もおいしいですよ。けれどこっちビールよりも酒精が強いので、もっとゆっくり飲んでくださいね。あとこっちはお酒に合う自家製のツマミです」
「こっちはなんなんだ?」
「レッドドラゴンのベーコンです」
包みに入れていたレッドドラゴンのベーコンを取り出す。すでに手ごろな大きさにカット済みだ。
先日ワイルドディアとダナマベアの肉で作ったベーコンだが、ついにレッドドラゴンの肉で作ったベーコンも完成した。やはり塩漬けしたりソミュール液に漬けたりするのには結構時間がかかる。
とはいえ、出来上がったレッドドラゴンのベーコンは以前に作った2つのベーコンよりもさらにうまかった。
「ほう、レッドドラゴンとは驚いたな。ジーナも多少はやるようだが、あんたが狩ったのか?」
「いえ、私一人では到底敵わない相手でした。仲間と協力して運よく子供のレッドドラゴンを倒せただけにすぎません」
確かにあの時は運がよかった。燃料を爆発させるという裏技で本当に命からがらだったもんなあ……。
ガレンさんは驚いたと言っているけれど、そこまで驚いているようには見えない。元Aランク冒険者だし、似たような強大な魔物を狩った経験は山ほどありそうだ。
「むっ、こいつはうまい! 肉自体もうまいが、この香辛料の味付けが最高にいけるぞ! 本当にこいつはシゲトたちが作ったのか?」
「ええ、そうですよ。ちょっと特別な香辛料を使っているので、そのおかげかもしれませんね」
ベーコンにはたっぷりとコショウやアウトドアスパイスを使っている。香辛料を多めに使っても、レッドドラゴンの肉の旨みがだいぶ強いから全然その味に負けていない。
……俺もエールを飲んでいると食べたくなってくるな。まだレッドドラゴンのベーコンはあるから、またみんなと一緒に食べるとしよう。
「いやあ~本当にうまかったな! ウイスキーと日本酒って酒は酒精が強いくせにしっかりとした香りと深みのある酒だったし、デザートの甘いフルーツなんかも初めて食べる味だったが最高だったぜ」
「……気に入ってくれたようでなによりです」
あれから結局ガレンさんは今回持ってきた3種類のお酒すべてをここで飲み干してしまった。レッドドラゴンのベーコンに続けて、オアシスで精霊さんたちにもらった甘い果物までしっかりと完食した。
日本酒とウイスキーは酒精が強いこともあって持って帰って飲むように言ったのだが、酒には強いからと全部飲んでいた。でも顔は赤いが、そこまでお酒に酔っているわけではなさそうである。この人はドワーフ並みにお酒が強そうだな……。
「どの酒も最高にうまかったのに、手に入らないと聞くと悲しい限りだぜ……」
「すみません、遠くに来すぎて俺もどうすれば日本に帰れるかわからないんですよ」
これは本当のことでもある。情報を探してはいるが、日本に帰る手がかりすらもない状況だ。まあ、今はこの世界を旅している方が楽しいがな。
「こんだけうめえ酒がある日本って国へ行ってみたかったぜ。そういや途中で止まらなくなっちまったが、明らかに俺の方がもらい過ぎたな。どの酒もツマミやデザートに至るまで、今まで俺が味わったことのないものだった。ちゃんともらい過ぎた分の金は払う」
おっと、まさかガレンさんの方からそっちの方に話を振ってくれるとは。
もちろん今のは昨日のガレンさんに対するお礼だが、護衛を依頼する布石という打算もあった。随分と楽しんでくれたみたいだし、交渉の余地は十分ありそうだ。
「昨日のお礼なのでお金は必要ありません。ですが、昨日の件とは別にガレンさんにお願いしたいことがあります。もらいすぎというのなら、その件について検討していただけると嬉しいです」
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