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第207話 ご飯の味
しおりを挟む「それで今回はいかがしましたかな? そちらの方々の護衛とうかがっておりますが?」
ガレンと村長さんの挨拶が終わり、俺たちの方へと顔を向ける村長さんたち。
米、米、米、米……。
先ほどから俺の頭の中にはコメという二文字がひたすら頭の中を駆け巡っているが、さすがにガレンとの話に割り込むことができなかった。これでようやく本題へと入れる。
「初めまして、シゲトと申します。こちらの村で育てられているという米を食べてみたいと思い、ガレンに依頼をしてここまで護衛をしてもらいました」
「ほう、わざわざ米を食べにこんなところまで?」
「はい。この先にあるロンデル遺跡を見たいというのもありますけれど、米が一番の目的です。ここからかなり離れていますが、日本という俺の故郷でも米を育てていました」
「なるほど、そういうことでしたか。まだ収穫した分が残っておりますので、ぜひ食べていってくだされ」
「ありがとうございます!」
ガレンの信用のおかげもあって、無事に米にありつけることができそうだ。
「おおっ、確かに米だ!」
目の前にある純白の小さな固い粒。これはまごうことなき米である!
「これがシゲトの言っていた米か。固くてあんましうまそうじゃねえなあ……」
「これはこのまま食べるんじゃなくて、火を使って炊いて食べる穀物なんだよ」
「確かあのお粥という料理も米を使った料理なのですよね?」
「ああ、その通りだ」
「ホホー」
ジーナは初めて出会った時にレトルトのお粥を食べたことはあるが、元々こちらの世界へやってきた際に持ってきた米がほとんどなく、カルラはまだご飯を食べたことがなかった。
「これが俺の故郷で作った米です。やはり少し形が異なるみたいですね」
「ほう、確かにそっちの方が少し粒は小さいな」
「ここ以外でも米を育てている地域があったんだな」
収穫していた米の保管場所まで案内してくれた村の人たちに俺の世界の米を見せる。俺がキャンピングカーと共に異世界へ来た時に積んでいた米はもうほとんど残っていないが、この世界で米を探す時に実物はあった方がいいと思い、少しだけ残していた米だ。
スターフェル村で収穫した米は日本の米よりも少しだけ長い。だが、粒の幅は同じくらいだった。確か元の世界では日本人が普段食べているジャポニカ種の他にも様々な種類の米が存在し、細長い種類もあった。
インドで食べられているビリヤニという料理などで使われている米は俺も食べたことはあるが、それよりは短くて粒の幅は大きいように見える。もしかすると実際に炊いてみたら変わるのかもしれないが、ここは異世界なんだから俺の世界の米と違う種類の可能性もあるか。
「もうすぐ晩ご飯だからその時に味を見てくれ。気に入ったんなら余分にある分は売ってやるよ」
「ありがとうございます!」
たとえ味が俺の舌に合わなくとも、米は米なのである程度の量は購入するつもりだ。このスターフェル村に米が存在したという事実がなによりも大きい。別の場所で育てられた違う種類の米が存在している可能性があるわけだからな。
「おおっ! この香りはまさにご飯の香りだ!」
俺の目の前にある皿の上には湯気がふんわりと立ち上る炊き立てのご飯が載っている。ご飯特有の甘い香りが鼻をくすぐる。
この異世界へ来てから一ヶ月近くご飯を食べていない俺にとってはご飯の香りだけで興奮してしまう。
「へえ~本当に炊くと柔らかくなるんだな」
「真っ白で綺麗だね」
カルラとコレットちゃんがスプーンですくってご飯をじっくりと見ている。スターフェル村も含めてこちらの世界に箸はなく、スプーンとフォークが使われている。それにご飯もお皿ででてきたし、やはり日本とは風習や文化なども異なるからだろう。
「……さて、まずはこのままで」
村の人たちがガレンや俺たちが来てくれたということで、ご飯の他にも様々な料理を振る舞ってくれているのだが、何はともあれご飯からである。
本来であればおかずと共に食べるご飯だが、まずはご飯単体で食べてみる。
「……っ!!」
温かく柔らかな食感が舌に広がり、ほのかな甘みと米の旨味がじんわりと染み出す。噛むたびにふっくらとした弾力が返ってきて、喉を通る瞬間に至福の満足感が体全体を包む。
元の世界では毎日のように食べていたが、こちらの世界へ来てからは全然食べられていなかったせいか、とても懐かしい味がする。
ああ、これは間違いなくご飯の味だ!
「シ、シゲト……大丈夫ですか?」
「……うん。ご飯の味を噛みしめていただけだがら大丈夫。俺の故郷のご飯とは少し違うかもしれないけれど、これは俺が求めていた味だよ!」
隣にいたジーナが心配そうに俺の表情をうかがっているみたいだが、あまりの懐かしさにその味を噛みしめていただけである。
確かに日本のご飯に比べると少し甘みと粘り気が足りないかもしれないが、この香りや味は俺がこの世界でずっと求めていた米だった。久しぶりに米を食べられたという補正を除いても、十分においしいご飯だ!
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