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連載
第215話 真っ白なご飯
しおりを挟む「さて、ご飯は炊飯器で炊くが、うまく炊けるといいな。車載用の炊飯器は小さいのが難点だよなあ」
まずはご飯を研いでからキャンピングカーにある炊飯器のスイッチを入れる。本当はしばらく水に浸した方がいいのだが、今回は省略だ。
最近ではスペースをとらず、シガーソケットからでも電源を取れる車載用の炊飯器が出ていて助かるのだが、これは一度に炊ける量が2合しかない。一人ならこれで十分なのだが、異世界に飛ばされることがわかっていたら5合炊きを買いたかったところだ。
初めは米をメスティンというアルミ製の飯盒や鍋で炊いていたのだが、さすがに毎回これで米を炊くのは面倒なんだよ……。あと火加減を間違えると簡単に焦げてしまう。最初の米炊きでいきなり盛大に焦がしてしまったのはいい思い出だ。コゲを落とすのは大変だったなあ……。
「問題は水加減だ。一応スターフェル村の人に聞いたが、適切な水加減を見極めたいところだな」
「ホホー!」
元の世界の米とは違っているので、この炊飯器でうまく炊けるのかが気になるところだ。それと2合では足りないので、普通に鍋でも水加減を測って炊いてみるとしよう。
一応スターフェル村でご飯を炊くところを見せてもらい、普通の米よりも少し水分量を多くしてみたのだが、炊く時間については実際に試してみないとわからない。水分量を調整しながらすべて試してみるとしよう。
やはり日本人として、ご飯についてはベストの状態で食べられるように研究しなければな。
「シゲトお兄ちゃん、お肉をこんなに薄く切っちゃっていいの?」
「ああ。昨日はブラッディベアの分厚いステーキをご馳走になったから、今日はよりご飯にあう料理を作るつもりなんだ」
「うわあ~楽しみ!」
料理を手伝ってくれているコレットちゃんが目を輝かせている。
昨日の豪快な特大ステーキは十分に堪能したから、今日はよりご飯にあう料理を作ってみるつもりだ。あとはうまくご飯が炊けることを祈るとしよう。
「今日のご飯はブラッディベアのすき焼き丼だよ」
テーブルに並んだ丼からは白い湯気が立ち昇る。下には真っ白なご飯が敷き詰められ、その上にはすき焼き風に味付けされた薄切りのブラッディベアの肉がこれでもかとのっている。
「ほう、うまそうな匂いだな。ご飯の上に直接肉や野菜をのせたのか」
「ああ。俺の故郷では丼と呼ぶ料理なんだ。カツ丼、牛丼、親子丼に海鮮丼といった感じでご飯の上にいろんな食材をのせる身近な料理方法なんだよ」
「ホホー♪」
「それほど様々な種類がある料理なのですね」
もちろん米が流通していないこちらの世界では丼という料理の概念がないのだろう。ガレンとジーナが知らなくても当然だ。
しかし、俺の世界ではファーストフード店でもよく見かけるとても身近な料理なのである。特に牛丼なんてうまくて安くて早いから、頻繁に食べていたな。
「すっごくおいしそうだね!」
「ああ、こいつはうまそうだ。早く食べようぜ!」
今日は森の中ということで、外ではなくキャンピングカー内で晩ご飯を食べるのだが、甘辛い割り下の香りが車内に漂っている。
この香りはとても食欲をそそるもので、みんなのお腹はもう限界のようだ。
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
「ホホー!」
みんなで両手を合わせていただきますをする。ガレンも含めて、いただきますの所作には慣れたものだ。
「うおっ、こいつはうめえ! 甘辛いタレと肉の味がこのご飯ってやつによく合っているぜ!」
「普通に食っていたら物足りねえ味だったけれど、この濃い味のタレに合わせると最高にいけるな!」
ご飯を単体で食べた時はパンの方が好きだと言っていたガレンや、あまり味がしないと言っていたカルラもすき焼き丼の味には満足しているようだ。やはりご飯は他の料理と一緒に食べてこそ、その味の真価を発揮するのである。
薄く切ったブラッディベアの肉にしっかりとめんつゆと砂糖と醤油で味付けをしたすき焼き風味の甘辛い割り下の濃厚な味が染みこんだ肉の味と、これまたタレの味が十分に染みこんアツアツのご飯がそれをどっしりと受け止めた。
噛むたびに、濃厚な肉の旨みと脂の甘みが混ざり合い、ご飯がそれを優しく受け止めてくれている。このブラッディベアの肉はすき焼きの濃厚な味にも決して負けておらず、肉の旨みをしっかりと主張しつつも、他の野菜やご飯と絡み合っていた。
「ご飯と一緒に食べるともっとおいしくなるね!」
「ええ、こちらの半熟の卵にもよくあっています。なるほど、シゲトがあれほどご飯を熱望していた理由が少しわかりました」
「そうだろう!」
やはりタレの染みこんだご飯の味はみんなにも通じるものがあったようだ。日本の丼という料理はご飯があってこそなのだ。
炊飯器でちゃんとご飯を炊けるか少し心配していたけれど、見事にふっくらと炊きあがってくれた。しかしこれでもまだ妥協するつもりはないぞ。あの米のベストな炊き具合を絶対に見つけて見せる!
そしてすき焼きと言えば卵は生卵なのだが、スターフェル村で頂いた新鮮な卵とはいえ、ガレンもさすがに生卵では不安があると思い、最後にカツ丼のように熱を少し通して卵でとじるようにしてみた。これでもタレ味がたっぷりと染みこんでうまい。ぶっちゃけこのタレの染みこんだ半熟卵だけでもご飯一杯はいける自信があるぞ。
ハーキム村でもらった新鮮な卵はすでになくなってしまったので、卵も少し補充できたのは助かったな。やはりこの世界では街で売っている卵だと少し不安だから、村で産みたての卵のほうが安心できる。
「シゲト、お代わりを頼む」
「俺もお代わりだ」
早くもガレンとカルラはお代わりを希望している。もちろん俺もお代わりをして、それに続いて他のみんなもお代わりをした。
炊飯器と鍋を合わせて一気に5合炊いたのだが、フー太も入れて6人で食べきってしまいそうな勢いである。
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