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第23話 明日の生活を楽しむため
しおりを挟むジーナと一緒にエリナちゃんとその家族が住んでいる家の前に行くと、そこには村のみんなが集まっている。しばらくすると、家の中から村長さんが姿を現した。
「村長、エリナの具合はどうなんだ?」
「今朝いきなり倒れたけど無事なのか?」
「みな、落ち着いて聞いてくれ。エリナの全身には赤い発疹が出ていた。ヨル婆にも診てもらったが、間違いなくドルダ病だ。あとはもう言わなくてもわかるな……」
「そんな!? 嘘だろ!」
「エリナが!? あんないい子がどうしてだよ!」
「くそっ! ここ数年はドルダ病にかかった者は出なかったのに」
村のみんなの反応を見るところ、エリナちゃんがドルダ病という病に倒れたということは分かる。そしてその病がとてつもなく重いということもだ。
「ジーナ、ドルダ病というのは?」
「……この辺りの国で本当にごく稀にかかる病のことです。全身に赤い発疹が出る特徴があり、発症してから数日の内に死に至る恐ろしい病です」
発症から数日で死に至る病……
くそっ、俺は病気の知識がほとんどないうえにここは異世界だ。救急キットに入っている応急薬程度じゃ対応などできるわけがない。
「どうにかできないの?」
「……この病への特効薬がひとつだけあります」
「特効薬があるのか!? じゃあ早くそれをあげないと!」
「残念ですが、その特効薬はこの村にはありません。薬を売っている一番近くの街でも、ここから片道5日はかかります。そして、この村には特効薬を買えるようなお金もありません。この村でドルダ病にかかることは死を意味します。せめて残された時間は家族や村のみんなと一緒に安らかな時を過ごすことしかできないのです」
ジーナの碧眼の両の瞳からは涙が溢れていた。
「……私の母もこの病で亡くなりました」
「………………」
村長さんの話では、ジーナの母親は数年前に病で倒れたと言っていた。自分の母親が患った病か……エリナちゃんを自分の母親と重ねてしまっているのだろう。
すでに村にいる他のみんなも悲嘆に暮れている。この村でそのドルダ病という病にかかるということは、死の宣告を受けたことに等しいようだ。
「……シゲトとフー太様はどうか村を出発してください。こうなってしまっては我々にできることはありませんし、それにこれはこの村の問題です。おふたりが気にする必要はありません」
「「………………」」
涙を流しながらそんなことを言うジーナ。こんな状況でも俺やフー太を気遣ってくれる本当に優しい子だ。
「……ジーナ、その特効薬というのはいくらするんだ?」
「金貨で20枚ほどです。この村にあるお金をかき集めても半分もいかないでしょうね。それにたとえお金があったとしても、時間がありません」
昨日村長さんに聞いたこの国でのお金の価値。食事や宿代、街へ入るための金額などから逆算すると、アバウトに日本円へ換算して銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円ほどになる。金貨20枚ということは20万円くらいか。
……もしかしたらエリナちゃんを助けることができるかもしれない。だが、数日前に出会ったばかりの女の子を助けるために、俺のキャンピングカーの秘密が漏れたり、俺が街の人に狙われるようなリスクを取るべきなのか?
「………………」
俺は聖人なんかじゃない。自分の命を捨ててまで悪人と戦うようなヒーローでもない。ジーナに案内されてこの村に案内してもらった時も、何かあればキャンピングカーを出してすぐに逃げようと、いつも保身のことばかり考えている人間だ。
今もこうして苦しんでいる女の子を目の前にして、何も考えず人を助けるために動ける人とは違い、自分の立場のことを考えてしまうくらいちっぽけな男だ。
だけどな、そんなちっぽけな男で、自分のことを何よりも考える男だからこそ、俺はエリナちゃんを助けたい。ここで女の子を見捨てて、明日見る景色が綺麗だと感じることができるか? 明日食う飯がうまく感じるか? そんなわけがないだろ!
自己中だろうと自己満足だろうと知ったことか! 俺は俺が明日の生活を楽しむため、俺自身のためにエリナちゃんを助けるんだよ!
「……なんとかなるかもしれない」
「っ!! ドルダ病の特効薬を持っているのですか?」
「いや、特効薬は持っていない。だが、1日で街まで行くことは可能だ。あとは特効薬を買うお金だが、それもなんとかなるかもしれない」
「本当ですか!? シゲト、私にできることなら何でもします! お願いします、どうかエリナを助けてください!」
俺に向かって深く頭を下げるジーナ。
「まずは村長さんと話をしたい。ジーナ、フー太、一緒に来てくれ」
「はい!」
「ホー!」
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