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第28話 値段交渉
しおりを挟む「ほお、これは何でしょうか?」
「そちらがコショウ、そしてこちらの2つが俺の故郷で作られている秘伝の香辛料です。こちらの香辛料にもコショウが使用されています」
「コショウですって!? あ、失礼しました。商人ではなく、個人でこれだけの量のコショウを持ち込まれるのは珍しいことでして……失礼ですが確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
バロスさんはコショウとアウトドアスパイスの香りを嗅いだり、ほんの数粒を口へ含み味を確かめている。
「……確かに本物のようですね。それもコショウの方はかなり品質が良く、こちらの香辛料2つについては今まで味わったことのない味で、どちらも微妙に味が異なりました」
コショウについては普通にスーパーで市販されているものだったのだが、こちらの世界では高品質なものらしい。
「すみません、こちらの交渉につきましては私ではできかねますので、会頭を呼んできます。大変申し訳ないのですが、このまま少しお待ちいただけますか?」
「はい……」
あれ、ちょっとまずいな。あんまり大事にはしたくないのだが……
いくらコショウが高価とはいえ、この商会のトップを呼ぶほどのことなのか? もしかしたら商会でもない個人が持ってきたから問題だったのか?
よし、いざとなったら、この商店の中にキャンピングカーを出して、他の人が驚いているところをみんなで逃げよう。
「大変お待たせしました、エミリオ商会の会頭を務めておりますエミリオと申します」
部屋に入ってきたのは30代前後の男だった。長く美しい金色の髪を後ろで束ねている。この商会のトップということだから、でっぷりと肥えて白髪の生えたおっさんかと思っていたのだが、想像していた会頭のイメージ像とだいぶかけ離れていた。
スラリとした体型で凝った造りだが決して派手すぎないお洒落な服を着ている。元の世界でお洒落にあまり詳しくはない俺でもわかるこの人の服の着こなし。そして俺よりも高い身長でスッとした顔立ちのイケメン。きっとたいそうおモテになることだろうな。
「はじめまして、旅をしておりますシゲトと申します」
「シゲト殿、この度はわざわざエミリオ商会まで足を運んでいただきまして誠にありがとうございます」
おっと、たかだか一介の旅人に商会のトップが頭を下げるなんて意外だな。
「おや、商会のトップが簡単に頭を下げるのはそんなに意外ですか?」
「……そんなに顔に出てましたか?」
「私は今ではこの商会のトップとはいえ、昔はただの行商人でしたからね。その際は大勢の人たちと交渉をしてきたので、ある程度は交渉相手の考えていることがわかるのですよ。そして私が頭を下げる理由も簡単です。商人たるもの利益のためならば、無料で下げられる頭などいくらでも下げられますよ。もちろん下げる相手は選んでいるつもりですがね」
「………………」
さすが行商人から商会のトップに立っただけの男だけはあるな。そして一応は頭を下げてもいい相手くらいには思ってもらえているようだ。
「それでは早速買い取りの件について話をさせていただきましょうか。なんでも素晴らしい品質のコショウと見たこともないような香辛料をお持ちだとお聞きしましたよ」
「はい、実は買取価格についてお願いしたいことがございます」
「なんでしょうか?」
「買取価格についてはエミリオさんに決めていただきたいのですが」
さあ、交渉を始めよう。
「……買取価格を私にですか?」
「はい。正直に申し上げまして、私がこの国に来てからまだ日が浅く、お金の価値や相場も分からないのが現状です。普通に交渉しようとしても、エミリオさんが提示した金額に多少上乗せるくらいしかできません」
そもそもお金の価値や相場すらも知らないのだ。まともに交渉できるわけがない。それならば下手な小細工をせずに直球勝負だ。最悪例の特効薬を購入できるだけの金額があればいい。
……とはいえ、会ったばかりのこの人を完全に信用できるわけでもない。もしもぼったくられそうな金額なら他の商会に行けばいいだけだ。
「本当に私が決めてしまってもよろしいのですか?」
「ええ、お願いします。ただし一点だけ。今後も定期的に同じものの買取をお願いする前提での価格でお願いします」
「……ふむ、こちらのコショウと香辛料を定期的に買い取らせていただけるということですか?」
「ええ、一月に一度くらいの割合で同じ量を定期的に納めることが可能です。あ、仕入れ先を探らずに他の人には秘密にしておくというのも追加でお願いします」
本当はもっと用意できるのだが、あまりやりすぎるとよくない輩に狙われてしまいそうだ。俺はこの異世界で争いごとに巻き込まれたくはない。のんびりとキャンピングカーで旅さえできればそれでいいのだ。
「……なるほど、これは大きな取引になりそうですね。すみませんが、私も確認してみてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「それでは失礼致します。……ふ~む、この品質と香り、そしてこの風味。これならかなり高額な金額でも販売できそうだ。懇意にしている貴族、そして高ランクの冒険者にも間違いなく売れる。そうなると売値と仕入値がこうなって……」
エミリオさんが真剣な眼差しで自分の世界に入ってしまったようだ。今頭の中では必死に仕入値や売値などを計算しているのだろう。
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