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第29話 高額な買取金額

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「シゲト殿、それでは今回はコショウを金貨15枚、そしてそちらの秘伝の香辛料も同様に金貨15枚ずつ、次回以降も同額でいかがでしょうか? この2つの香辛料に関しましては、お客様の需要によって買取金額は多少前後する可能性がございます」
 
 ……まじか。思ったよりも高値で売れるな。これだけの量なのにその値段とは、この世界の香辛料はかなりの値段のようだ。

 合計で金貨45枚ということは45万円相当である。正直に言ってこれだけでは足りないと思って、リュックの中には他の調味料やキャンプギアを持ってきていたのだが不要だったらしい。

 アウトドアスパイスがコショウと同じ価格なのは、まだ他の食材と合わせてどんな味がするか分かっていないからかな。

「ええ、そちらの金額でよろしくお願いします。思ったよりも高額な金額だったので驚きました」

「本来ならばもう少し安く仕入れたかったのですが、定期的に納めていただけるとなれば話は別です。貴族や高ランクの冒険者に多少伝手はあるので、良い贈答品にもなりそうです。それにシゲト殿とは長い付き合いになりそうな気がしましてね。実は今回は利益の出るギリギリの金額を提示しております」

「こちらとしても長い付き合いになると嬉しいです。それではこちらからもお近付きの印にこれをどうぞ」

 俺はリュックの中から小さな小瓶を取り出す。中には黒っぽい液体が入っている。

「シゲト殿、これは?」

「こちらも俺の故郷で使われている調味料のタレになります。焼いた肉につけるととても美味しいですよ。液体のためあまり日持ちはしませんので、商品にするには少し難しいかもしれませんから、個人で楽しんでください」

 このタレは焼肉のタレである。お近付きの印として用意しておいたものだ。液体かつ少量のため、商売としては使えないから、エミリオさん自身が使ってくれるだろう。元の世界の焼き肉のタレは香辛料なんかが少ないこの世界では重宝されることは間違いないはずだ。

 こちらとしても、定期的に香辛料などを卸してこの世界の現金を手に入れられる伝手は確保しておきたい。そのため念には念を入れて、長期的な商売相手となるエミリオさんに良い取引相手だと思わせる必要がある。

 先ほどの様子を見ると必要なかった可能性もありそうだけれどな。あんまりこちらから渡し過ぎると向こうが強硬手段を取って来る可能性もあるため、塩梅が難しいところではある。

「ありがとうございます。後ほど試させていただきますね。それでは金貨を用意して参りますので、少々お待ちください」

 エミリオさんが部屋から出て行った。

「……ふう~、なんとかなったか」

「す、すごいですね。金貨45枚なんて大金初めて見ます。それにそんな高価な香辛料をあんなにかけて食べてしまったなんて……」

「そこは気にしなくていいって。それで村長さん、今の香辛料の買取価格はそこまで悪い金額じゃないんですよね?」

「え、ええ。私も香辛料の相場についてはそれほど詳しくはありませんが、少なくともそこまでおかしな金額ではないかと思います」

 俺もあれだけ高ければ全く問題ないと思う。とはいえ、次の取引をする時までにもう一店くらい持ち込んでどれほどの値段なのか確認はしておきたい。我ながら疑り深い性格をしているよ。

 とりあえず今は他の店に持ち込んでいる余裕もないので、特効薬の金額以上のお金で売れれば問題ない。

「それなら大丈夫です。とりあえずこれで特効薬は買えますね」

「シゲト。この度は本当になんとお礼を言ってよいのか……」

「ああ~ジーナ、そういうのはいいから。俺が自分自身のため、勝手にやったことだ。それにまだエリナちゃんが助かると決まったわけじゃない」

「……そうですね。ですが、それでもありがとうございます!」

 

 そのあとエミリオさんが金色に輝く45枚の金貨を持ってきてくれて、無事に取引が完了した。

 そしてそのまま村長さんの案内でドルダ病の特効薬を販売している店へと向かい、金貨20枚の特効薬を2つ購入して、キャンピングカーで村へと急いだ。

「シゲト殿、この度はなんとお礼を言えばいいことか……」

 キャンピングカーで急いで村へ戻っている最中、後ろの座席に座っている村長さんから、先ほどのジーナと同じお礼の言葉をもらった。

「さっきもジーナに言いましたが、俺が自分自身のためにしたことですから気にしないでください」

「本当に感謝します。エリナの分のドルダ病の特効薬だけでなく、もうひとつも余分にいただけるとは……」

 コショウやアウトドアスパイスが想像以上に高く売れたことで、特効薬を2つ購入した。というのも、ひとつはエリナちゃんのためだが、もうひとつは予備のためである。

 ジーナの母親もこの病に倒れたと聞いていたし、何年かに一度とはいえ、村の人がこの病を患ってしまう可能性はそれほど低くないようだ。そして一度この病にかかってしまえば、先ほどの街まで遠いあの村の人は助からない。

 もうここまで来たら乗りかかった船だ。かなりの期間持つクスリらしいし、もうひとつは余分に購入しておいて、誰か別の人が発症した時に使ってもらうとしよう。
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