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第6話 案内1日目の終了

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「ミルネ様、おかえりなさいませ」

「おお、アンリ。待っていてくれたのか、すまないのう」

「いえ、とんでもございません」

 江ノ島での観光を終えて、ミルネさんの転移魔法により、本日の宿である箱根の温泉宿にやってきた。すると喜屋武きゃんさんが宿の前で待っていた。移動をする際には逐一喜屋武さんに連絡をしていたから、晩ご飯を食べているあたりから待っていてくれたのかもしれない。

「本日はいかがでしたか。存分に楽しめましたでしょうか?」

「うむ、とても楽しかったのじゃ! こちらの世界のいろんな場所に連れていってもらったし、どの料理も本当に美味しくて言うことなしじゃな!」

「それはよかったです。日本では温泉といって地中から湧き出た熱い湯に入ります。ここ箱根も温泉地として有名ですので、本日の疲れを癒してください」

「おお、それは楽しみじゃ! タケミツ、今日は本当に楽しかったぞ。明日もよろしく頼むのじゃ!」

「ええ、お任せください。そうだ、これは鎌倉のお土産の鳩サブレーです。小腹が空いたら食べてくださいね」

 鎌倉のお土産で有名な鳩の形をしたサブレーである。ちなみに神奈川で有名な崎陽軒の焼売を食べるのは新幹線を利用する時くらいで、食べたことのない神奈川県民も実は大勢いるんだよね。

「おお、ありがとうなのじゃ!」

 満面の笑みでお礼を言うと、温泉へ走っていくミルネさん。なんだかんだで今日は結構歩いたのに、まだまだ元気そうだ。もしかしたら俺よりも体力があるかもしれない。

「本日はお疲れさまでした。佐藤さんも温泉で今日の疲れを癒してください。そのあと明日以降の打ち合わせをしましょう」

「俺を転移魔法の実験台にしたことについてもじっくり話しましょうね!」

「佐藤さんの部屋の鍵はこちらです。2時間後に佐藤さんのお部屋まで行きますから、明日の旅のプランを用意しておいてください」

「……わかりました」

 くそっ、実験台のことについてはあくまでもスルーする気だな。とはいえ箱根の温泉にタダで入れるのはありがたい。今日の食事代も宿代もすべて国が持ってくれるし、実験台にしたことさえ除けば、本当に良い仕事なんだけどさ。





「佐藤さん、入りますよ」

「はい、どうぞ」

 温泉で疲れを癒したあと、明日の旅行プランを確認していると喜屋武さんが部屋へやってきたようだ。

「失礼します」

 ガラッ

「………………」

 部屋に入ってきた喜屋武さんはいつもの黒のスーツではなく、温泉宿の浴衣姿であった。喜屋武さんのロングの黒い髪は結い上げられている。メガネの長身の女性の風呂上がり姿ってなんかいいよね。

「どうかしましたか?」

「いえ、朝とは喜屋武さんのイメージがだいぶ違ったもので、少し驚いています」

「セクハラです」

「今ので!?」

 イメージが違うって言っただけじゃん! しかも良い意味で言ったのに!

「最近はコンプライアンスも厳しいのですよ。私にでしたら慰謝料請求くらいで勘弁しますが、ミルネ様になにかしたら国際問題にもなりかねますから注意してくださいね」

「いや、慰謝料請求も勘弁してください……それに間違ってもミルネ様にセクハラなんてしませんよ」

 いくら俺でもさすがにそこまで馬鹿じゃないぞ。

「まあ明日からは私もついていくことになりましたので、何かあったら物理的に対処させてもらいますよ」

「えっ!? 喜屋武さんも一緒に来るんですか?」

「……嫌なんですか?」

「いえ、どこかに出かけるなら人が多いほうが楽しいですし、俺ひとりより喜屋武さんがいたほうが心強いので助かりますよ」

 よくよく考えてみると、今いる温泉みたいに男女別の場所もあるだろうし、ひとりは女性の付き添い人がいたほうがミルネさんのためにも助かる。それに旅や旅行をするなら人が多いほうが楽しいからな。

「……本当に私を嫌がってなさそうです。責任者が言っていたように、佐藤さんは本当にお人好しなようですね」

「何か言いましたか?」

「いえなにも。それではまずは転移魔法についていろいろと教えてください。それと医師による簡単な診断を受けてくださいね」

 喜屋武さんの後ろから白衣を纏った医師達が入ってきた。どうやら医師の人達は温泉を楽しんで浴衣姿というわけではないらしい。

「そうだ。さすがに人体実験をしていないなら、ちゃんと事前に言ってくださいよ!」

「人体実験とは人聞きが悪いですね。ミルネ様や異世界の人達の身体がこちらの世界の人と大きな違いがないことは確認しましたし、ちゃんと外国での転移魔法による人体への影響がないというデータは確認しておりました」

「ああ、外国ではもうすでに人の転移魔法を試していたんですね。それならまあ……」

 異世界との門が繋がっている外国では、すでに魔法の検証が行われている。転移魔法なんて、最初にいろいろと検証されていてもおかしくない魔法だ。それならそうと言ってくれれば、俺ももっと安心できたのに。

「あとは日本での最終的な検証として、死刑囚による検証だけだったのですが、倫理的な面で許可が下りるのに時間が掛かって無理だったんですよね」

「それ完全に人体実験のやつ!」

 死刑囚による人体実験とか、完全にアウトのやつじゃん!

「さすがに冗談です。安心してください、どうせ明日は私も同じモルモットですから」

「もう実験台モルモットなのを隠そうともしていませんね!」

 まったく、何をどう安心しろと言うんだよ……
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