時の記憶に触れる者

時々

文字の大きさ
19 / 27
勇者と魔王

ツァルトハイド

しおりを挟む
 それは、昔、遥か昔の記憶。しかし確かに存在し、繰り返してきた記憶
 私は愛するヒトに裏切られた。だから復讐した
 私は守ったヒトたちに恐怖され排除されそうになった。だから抗った
 俺は守りたいものを殺された。だから全てを壊そうとした
 僕は何もかもどうでもよくなった。だから思考せず欲望に素直になった
 私は自分とヒトとの違いに絶望した。だから終わりを求めた

 それは、憎悪と絶望の記憶。しかし――
 奥深くに眠る、たった一つの記憶には確かにあった。純粋に、ただ、ただ……
 ――――――という記憶が


♦♦♦


―王都イステルダム―

 王城では、私室にて国王ゼスティリーアが頭を抱えていた。


「遅い。遅すぎる」


 待っていたのは報告だ。召喚王国で勇者が召喚されるというのを聞かされていたのが、もう2週間前の話。しかしその日を境に召喚王国に忍ばせておいた密偵から連絡が来なくなった。何か問題でも起きたのだろうか。


「しょうがない。調査隊でも出すか」


 何が起きたかを探るため。少人数の調査隊を出すことに決めた。
 しかし嫌な予感がしていたため、おかしいと思ったらすぐに撤退するように命じておいた。
 結果的にその予感は的中しているのだった。最悪な方向に。


♦♦♦


 裏通りを右へ、左へ何度も曲がってその突き当りに一軒の酒場兼鍛冶屋がある。普通は共存できなさそうなものだが、ある特殊な事情で綺麗に成り立っている。
 外見はただの家。とても店だとは思えない。
 扉を開けると店主の姿があった。ノワールはその姿に懐かしみを覚え、

 ドゴッ!!

 飛んできた拳を受け入れた。ノワールは受け身すら取らなかったので結構な距離を飛ぶことになった。


「ふん。今のでチャラにしておいてやる」

「悪かった」


 何で殴られたのか理解していた。こうなることは予想していたのだ。


「急に消えて心配させやがって。このクソガキが!」


 そう言って立ち上がったノワールを抱きしめてきた。それは、例えば親が家出した子供に対する態度だった。


「心配しなくても、僕は死なないよ。でも、その、黙って消えてすまなかった、ツァルト」


 ツァルトハイド。それが店主の名前だ。酒場と鍛冶を同時に経営していて、ノワールが知る中で最も鍛冶の腕がいい。ノアたちの武器もすべて任せている。
 その技術は、現在最高の職人といわれている稀代の名工、ドワーフの中でも最高の技術を誇る者を軽く圧倒するほどの差がある。とはいっても彼の場合、普通の火事ではなくエルフらしく魔法を使った家事をする。武器も功績などといった素材を使うのではなく、術式と呼ばれるものを利用する。そうなると出来上がるのも必然、普通の武器ではない。術式武器とも呼ばれる、特殊な武器になる。
 そう、ツァルトハイドはエルフの青年だ。年は千を超えているはずだが、まぁとりあえずエルフだ。最初会ったときはその種族と、やっていることと性格が合わな過ぎて違和感しかなかったがもう慣れた。
 店に客の姿はノワール以外いない。というよりこの店の存在を知っている者がノワール以外いない。こんなんで生活がよく成り立っていると思うが、十分すぎるほどの蓄えがあるらしいことは前にもう聞いた。
 ノワールの事情を過去の世界転移含めすべて知っている、数少ない友人の一人だ。

 ノワールはカウンターに座って、ツァルトが出してくれた酒を片手に久方ぶりの会話を楽しんだ。
 ツァルトも雲隠れしていたことには触れず、ノワールの話に耳を傾け続けた。ツァルト自身も珍しいことに積極的に話題を振ってきて、結局数時間ずっと話し続けた。その姿はノワールの身長が低いことも相まって本当の親子のようだった。


「ふ、相変わらずか。お前さんところの嬢ちゃんたちは」

「ああ。昨日なんて森の中でケンカしやがって周囲一帯更地にしてくれたよ。そのあと双子にはお灸をすえておいたが」

「かっかっか!そうかそうか。ま、元気があるのはいいことじゃ」

「もうそんな年じゃないんだが?そろそろ大人になっても良い年頃のはずだが?」

「無理じゃな。嬢ちゃんたちが変わるとは思えんな。かっかっか」

「笑い事じゃないけどね。なまじ力があるから止めるのも大変だ」

「お前さんが鍛えたんじゃろが。自業自得じゃな。それに鍛え、育てたことに後悔はないんじゃろ?」

「……まぁな」


 古くからの付き合いがある二人にとって、ノワールが雲隠れした期間は短いといえるだろう。ノワールの強さも知っている。しかし、ツァルトは本気で心配してくれたし、こうしてまた話に付き合ってくれる。何ともそれが嬉しくてノワールの声にも弾みがでる。
 そして二人はしばらくの間、また他愛ない会話を続けた。


「あの頃のお前さんはやさぐれておったからのう。何もかもどうでもよさそうな面しておってからに。あのお嬢さんたちには感謝せんとのう」

「ほっとけ。……結構話し込んじまったな。そろそろ本題と行こうぜ」


 ノワールは飲んでいた酒をカウンターの上においてそう話を切り出す。思ったより昔話に入り込んで時間を忘れてしまっていた。そろそろ聞きたいことと用事を済まして帰ろうとノワールは思ったのだ。


「うむ。どうせ情報がほしいのじゃろ?わしは情報屋じゃないんじゃが。召喚王国フォアラは知っているじゃろ?」

「ああ。行ったことはないが、たしか勇者を異世界から召喚することができる小国だったはずだ」

「そう。そのフォアラは今や地図上に存在しない」

「…………」

「噂によると魔王に滅ぼされたとか聞いたんじゃがな。真偽はわからん。なにせ今はもう更地じゃからな」

「……そうか。わかった。他にはもう情報はないのか?」

「お前さんが知らなそうな情報はそんなもんじゃな。どれ、そろそろお前さんたちの武器を持って来るとするかの。しっかりと保管しておいたし、手入れも怠っておらん」


 そう言うと、ツァルトは奥に消えていった。
 勇者が召喚された、あるいはされそうになった。そして魔王の存在、か。


 そのあと、アイがいるため武器を必要としないノワール以外の武器をすべて時魔法によって作られた別空間にいれてツァルトに改めてお礼を言い別れを告げた。


 静謐の森に帰る途中、ふと先ほどのツァルトとの会話が脳裏をかすめる。



「お前さんは、もしこの国が戦火に巻き込まれたら、どう動くのじゃ?」

「さぁな。だがここは、冒険者の国だろ?」

「そうじゃな」


 守るのも見捨てるのも個々人全ての自由意志次第。そうであるべきだ。この国は冒険者の国なのだから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...