時の記憶に触れる者

時々

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勇者と魔王

動き出す時間

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―???-


 今は誰も住んでいない廃墟には、5つの人影があった。たった5人。しかし、その中の一つは召喚王国を単独で滅したほどの力を誇っている、つまりは魔王と名乗る男だった。
 魔王の男は自分の前に横一列に膝馬づく4つの人影に申し訳なさそうに口を開く。


「すまんな、お主らをこんなことに巻き込むことを許してくれ」


 魔族は、強い。個々が人間とはかけ離れた存在であるがゆえに縛られることを嫌う。本来であれば魔族が5人とはいえ集団でことをなすことはない。それに魔王の男の目的は本当に自分勝手なものだ。そのことに対しての言葉だった。
 魔王の男の前に跪くのは、大罪の意思を継ぐ魔族。遥か昔から受け継がれてきた意思は魔族に宿りそのまま変わることなく受け継がれてきた。あまりにも強大な力を持ちそれ故に世間に干渉せず、その存在と名は有名だが表立った歴史は存在しない。
 傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲の七つは特に七大罪と呼ばれ、世間に恐れられる存在である。
 力であれば魔王の男のほうが上だ。しかしそれに準ずるほどの力を持つ彼らは本来であれば協力などしない。互いに不干渉を貫くのが普通なのだが、憤怒のサタニア、嫉妬のレヴィ、怠惰のフェール、強欲のマンモンはそれぞれの意思で魔王の男の目的に協力することにした。自分たちの意思と目的と恩義のために。


「いえ、気にしないでいただきたい。我はただお主に恩義があり、願い出ただけだ」


 サタニアは端正な顔立ちの青年であり、すらっとした体形と紅い髪、赤い切れ長の目は彼の大罪を示すかのような雰囲気を相手に与える。


「うん。僕たちは、ただ、あなたの目的に賛成しただけ」


 レヴィは小さな声で、しかし強い意志が見え隠れするような声音で話した。身長は低く少女にしか見えない彼女は腰まで垂れる青い髪を一本に結んでいる。垂れ目は蒼く染まっておりその目は深海を覗き込んでいるような気分にもなる。


「「…………」」


 残りの二人はしゃべらない。心中は全く異なるもので、フェールは喋ることが面倒くさい、マンモンは口下手だ。フェールは男性、マンモンは女性。フェールのほうは長い黒髪を無造作に伸ばし顔が隠れてしまっている。おまけに猫背でやる気が全く感じない雰囲気を醸し出している。マンモンは黄色い髪を肩まで伸ばし、できるお姉さんのような顔立ちだが、きれいな金色の目が左右をうろうろしており、おどおどした雰囲気だ。何かしゃべりたくて口を開けては閉じを繰り返していたが、やがてぴったりと口を閉じてしまった。


「わしはただ、あの子の居場所をこの世界につくりたいだけじゃ。そのためには、ヒト、いや人間はいらん」


 いったいお前はどう思うのじゃろうな?わしを殺すのか?それとも……


「王都イステルダムを潰すことにしたのじゃ。宣戦布告をして堂々と潰す。そしてこの世界に我らの存在を示す」


 王都イステルダムは人間にとっての重要国家であり、魔王の男の真の目的のためにはここをどうしても狙わなければいけない理由があった。
 魔王の男はずっと隣においていた勇者の女の首をつかむと静かにその場を去った。


♦♦♦


―王都イステルダム―



「おじーちゃん、これちょーだい!」


 白い髪の女の子、マシロは露店の前で、売っているビクトリーボアの串焼きを指さしながら元気よく声を発していた。


「おや、嬢ちゃんはあの時の……。えぇーっと、お金は持っているのかい?」

「うんっ!きょうはちゃんともってるよ!はい!……これでたりるよね?」


 少し不安そうにしながらも小さな手のひらに8枚の銅貨を乗せて店員さんに差し出した。
 そして無事に串焼きを手に入れたマシロは喜びと幸福感を思いっきり顔に表しながら近くにあったベンチに腰掛けて食べ始める。すっかりこの味が好きになってしまい、今では好物の一つにビクトリーボアの串焼きがランクインしているほどだ。


「おいしかったぁ。また、たべたいなぁ」


 肉のついてないただの串となった棒切れを名残惜しそうに眺めながら、ふと通りに視線を移した。
 相変わらずにぎやかな商店通り。いかにも幸せそうに笑いながら親と手をつないで歩いている子供たち。欲しいものを子供からねだられても嫌な顔をせず付き合う親。4,5人で集まって今後の計画を話し合っている冒険者たち。マシロは自分と重ねてみる。横を見てみても誰もいない。自分の手を見つめても握ってくれる相手はいない。
 
 一人ぼっち。そう考えると周囲の喧騒が遠くに聞こえる。まるで一人世界に取り残されてしまったかのように、否定されているかのように。視野がにじんで狭くなっていく。それが無意識に目から流れる涙であることに気づいたのはどれくらい泣いてからだろうか。しばらく時間がたち袖で涙をぬぐおうとしてから気づく。自分の手には温もりが宿っていることに。女に間違われそうなほど綺麗な銀色の髪の少年のことを思い出したのだ。親切にしてくれて、マシロという名前とたった1日の思い出をくれた少年のことを。
 マシロが涙をぬぐうのと同時に、すぐ隣に男の姿があった。先ほどまで誰もいなかったにもかかわらず、そこにいた。しかしマシロは動じることなく声をかける。その声はまるで別人のように冷たさをまとっている。


「おじさま。もう、じかんなのですね?」

「ああ。帰るぞ、わしらの居場所に。ここにお前の居場所はないんだ。だから、わしがつくってやる」


 男の声には強い意志が宿っている。もう何人なんぴとたりとも男を止めることはできない。


「うん、わかってる。……ひとつだけ、いいかな?おまえってよぶのはやめて。マシロってよんで、おじさま」


 そう男にマシロが告げると男はまるで幽霊でも見たかのような顔でまじまじとマシロの顔を見た。そしてしばらくたって何か思うことがあったのか男は頷いてから右手で優しくマシロの頭をなで、名前を呼んだ。その光景は見るものが見れば孫うことなき親子だったのではないだろうか。
 そんな二人を包み込むかのようにやさしい風が吹く。収まったころにはもう誰の姿もなかった。


♦♦♦


―静謐の森―


 ノワールが孤立ギルド“幻想”の拠点であるギルドハウス兼家の扉を開け中に入ると、足音も気配も感じることなく隣にコハクがたっている。いつものことだが、コハク曰くマスターが帰ってきて一番最初に出迎えるのは私にとって当然の義務とのことらしい。


「マスター、どこに行っていらしたのですか?」


 少し言葉に棘があるのは気のせいだと思いたい。まぁ黙って一人で行ったのはノワールなのだから悪いのはノワールってことになるのだろうか。
 まぁここは素直に非を認めた方がいいかもしれない。


「悪いな、事前に知らせなくて。少しお前たちの武器を取りに行っていた」


 少しツァルトハイドのところであった出来事を話しながらリビングに入ると同時にユヅキとアイ、ノアの全員が会話に参加してきた。だが、マシロのことだけは言わない。これから起こるであろうことも。全ては憶測。


「ま、まぁ私はマスターに限って万が一なんて起こるはずもありませんし、心配なんてしていませんでしたが」

「それは嘘なの。コハクったらマスターがいない間そわそわしまくってたの。見てるこっちが恥ずかしかったの。まったく、いつまでも子供なの」

「それは姉さんでしょ!っていうかいつまで下着姿でいるの!マスターが帰ってきたのよ。早く服を着なさい!」

「今更そんなこと言うの?コハクはうぶなの」

「うるさいです!もう、こうなったら実力行使で行きますっ!」

「ふっ。来るといいの。姉の威厳を見せつけてあげるの」


 双子がいつものように言い争いから取っ組み合いになるのを横目で見ながらアイとノアはノワールに近づいてくる。


「にぃに。しんぱい、したよ?かってにいっちゃ、だめ」

「そうですよマスター。ってなんでノアちゃんだけ頭をなでてるんですかぁ!私もしてほしいです!」

「また今度な」


 ノワールはほぼ無意識でノアの頭をなでていた手を見つめながら苦笑気味に言うと次元ボックスからとってきた武器を取り出す。

 各々が武器を手に取り、じっと見つめていた。先ほどまで騒いでいた双子も今はおとなしい。静かな時間の中で最初にそれを破ったのはノワール自身だった。


「お前たちのためにとってきた。俺から捨てさせておいて何をいまさら。と思うがまた使ってもらいたい」


 昔、冒険者をやめるとき、ノワールは全員に武器を捨てさせた。冒険者にとって武器は命。その時の寂しそうなノアたちの顔をノワールは一生忘れないだろう。すこし返答が怖くて目線をノワールはずらしていたが、ノアたちの続く言葉に思わず視線を合わせる。


「これは、にぃにと、ツァルトさんが、すべてをこめて、つくってくれたもの。もういちどにぃにのてから、うけとれてうれしい」

「使うにきまってるの!これは、マスターと一緒に戦ってきた証なの!」

「マスター、私たちの戦う理由は常にマスターとともに歩むためです。使ったもらいたいだなんて、言わないでください。私たちが拒否するはずがないのですから」

「そうそう、昔っからノワールは気を遣いすぎだよ。マスターはマスターらしく上から目線で命令すればいいの!俺のために戦えって!」


 アイが茶化すように声を上げるのを聞いてるとうだうだ悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる。


「よし。飯でも食うか!何も食ってないから腹減ってるんだよ」

「にぃに。きょうは、のあがつくったよ」

「「「「「いただきます!」」」」」



 人に歴史があるように。武器にもまた歴史という名の記憶が宿る。
 初めて手に取られた記憶。初めて何かを切った記憶。命からがら敵から逃げた記憶。強敵と戦い勝った記憶。その一つ一つがすべて宿っているのが武器。
 その記憶に空白の時間ができたとしても。
 再び持ち主のもとに戻ったのならば、その止まった時間は動くのだ。
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