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第十六巻 江戸前寿司と関西寿司
しおりを挟む今や寿司は世界的に最も人気のある伝統料理の一つになりました。言うまでもなくその本場は日本の江戸こと、東京。なかでも江戸、つまり現在の東京23区付近で生まれた寿司を『江戸前寿司』と呼び、現在の握り寿司の原点となってるのです。
江戸前寿司以外にも、日本各地でその土地独自に発展した寿司があります。
江戸前寿司としばしば比較されるのは関西地方の寿司です。
割烹武田の料理人•梅子ちゃんが常連客の鉄さんから寿司の歴史について質問を受けたのだ。梅ちゃんは、偶々江戸前寿司について、京都の調理師学校で一緒に料理の修行をしていた先輩•住友京子(28歳)の実家が大田区で江戸前寿司の店を開いていた。梅ちゃんは東京に観光旅行をした時に先輩の店に立ち寄っていて、江戸前寿司を実際に食していたのだ。その際に先輩の父親•住友伝之助(55歳)から江戸前寿司について、色々と教えてもらっていたのだった。
伝之助曰く「江戸前寿司というのは、江戸の前、すなわち東京湾で獲れた魚をネタにした寿司のことを元々そう言っていたんだよ。まあ、当時は冷蔵庫もなく、その上交通手段も発達してなかったんだよ。だから酢や塩で締めたり、煮たり、タレに漬け込んだりと、生魚に様々な加工を加え日持ちがする工夫をしたのさ。
せっかちな江戸っ子が短時間で空腹を満たす事が出来るように屋台でシャリとネタを一緒に握り提供していたんだ。これが江戸前寿司の原点だよ。」
「そうだったんですね。よく分かりました。」
すると、今度は梅ちゃんが関西寿司について話し出したのだ。
「関西地方では、江戸時代から歴史を遡ること 平安時代に寿司の原形となる調理法が生まれたんです。江戸前寿司とは異なったスタイルの寿司つまり、発酵寿司です。 なれ寿司(注釈1)などがこの名残です。発酵寿司は木型で成形し時間をかけて作るんです。
(注釈1)
なれ寿司とは、主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品で、魚の長期保存を目的とした日本の伝統的な発酵食品です。酢飯を使う現代の寿司とは異なり、乳酸発酵による酸味が特徴です。
使うネタはサバやアジ、サンマといった大衆魚です。その後、瀬戸内海の魚と厚焼き玉子、アナゴやエビなどをすし飯とともに木枠の押し型に敷き詰めて美しく整形した箱寿司を生み出したんです。
これが関西寿司の始まりです。後に巻き寿司やバッテラ寿司、棒寿司などが普及し、これらを総称して大阪寿司と呼んだのです。また、大阪の寿司は握り寿司のように店内で食べるのではなく、主にお芝居や行楽の際のお弁当として親しまれていたんです。」
「そうだったのか。梅ちゃん、ありがとう。まあ、うちの江戸前寿司を食べてみな。」
そう言って、伝之助は小肌や海老等の江戸前寿司を梅ちゃんに提供したのである。
江戸前握り寿司の具材を『タネ』と言う。逆さにした符丁で『ネタ』とも言う。この言葉は同業者しか分からないのだ。
タネの主な物に次のような物がある。
(春が旬の魚介類)
キス、シラウオ、サヨリ、カスゴ、ヒラマサ、トリガイ、アオヤギ、アサリ、ハマグリ、ホタルイカ、シャコ
(夏が旬の魚介類)
アジ、シマアジ、シンコ、スズキ、カツオ、ツブガイ、イサキ、タチウオ、エボダイ、アナゴ
(秋が旬の魚介類)
サバ、コハダ、イワシ、戻り鰹、カンパチ、ミルガイ、イクラ
(冬が旬の魚介類)
カジキ、ブリ、ハマチ、サワラ、ヒラメ、タイ、コウイカ、赤貝、ハマグリ、タイラギ、ホタテガイ、カニ、アマエビ
以下の魚介類は種類や産地に拘らなければ、比較的年中安定して提供される。
マグロ、カレイ、アワビ、エビ、タコ、イカ、ウニ、卵焼き
海苔を巻いた寿司(巻き物)は通常『海苔巻』と呼び、単に『海苔巻』といった場合は細巻きのカンピョウ巻きを言う。海苔半枚で巻いた『細巻き』が本当でありその形から『鉄砲』とも呼ばれる。戦前は盛んだった玉子巻きや伊達巻きの寿司は近年廃れてきている。近畿を中心として『巻き寿司』と呼ぶことがある。
伝之助は江戸前海苔巻について、話し始めた。
「干瓢巻きはなんだがねえ甘辛く煮たカンピョウを芯に巻くんだよ。単に『海苔巻き』とも言うがねえ。鉄火巻きは、マグロの切り身またはスキ身、タタキ身にワサビを入れて巻くんだよ。梅ちゃんは知ってるよなぁ。」
「はい、知ってます。」
「ネギトロ巻きは、マグロのすき身など脂身を具とした巻ものだよ。梅ちゃんも知ってるだろう。」
「はい」
「納豆巻きは味付けしたひき割り納豆を用いてるよ。カッパ巻きはキュウリを千切り、または細長く切った一本を芯に巻いたものをうちでは、提供してるよ。奈良漬巻
は奈良漬を芯に巻いたものを提供してるよ。
梅しそ巻きは梅肉とシソの葉を巻いたものを提供してるよ。ひもきゅう巻きは赤貝のヒモ(外套膜)ときゅうりを巻いたものを提供してるよ。オボロ巻きはエビ又は魚のオボロを芯にして巻いたものを提供してるんだ。山ごぼう巻きはヤマゴボウを芯にして巻いたものを提供してるよ。
このほか、太巻き(一枚巻き)や手巻きを提供することもあるよ。更にちらし寿司は
江戸前のちらし寿司なんだ。白い酢飯の上に生身を中心に握り寿司と同様なタネを盛り付けたものを提供してるよ。関西でもちらし寿司、ばら寿司、と呼んでいるだろう。にんじん、れんこん、油あげ、かんぴょう、たけのこ、しいたけなど生魚以外の素材を混ぜ込んだ五目寿司もうちでは提供してるよ。また、印籠ずしも提供してるよ」
「どんな寿司なんですか?」
「なんだ。梅ちゃんは知らないのか。じゃぁ、教えてやるよすしの分類では、イカやタケノコなどの空洞にすし飯を詰めたすしを印籠ずしと言うんだよ。いなりずしも油揚げの印籠ずしなんだぜ。また、江戸前イカの印籠ずしは、刻んだカンピョウやガリ、もみ海苔などを混ぜたすし飯を煮イカの胴につめ、ツメをかけて食べんだよ。これを印籠詰めとも呼ぶんだよ。分かったかい?梅ちゃん」
「はい、よく分かりました。」
梅ちゃんはこの時、江戸前寿司のことや他の寿司のことを知ったのであった。
今夜も割烹武田は常連客の鉄さん、完ちゃん、拓ちゃんが梅ちゃんの調理がみれるカウンターに座っている。今度も梅ちゃんは忙しいそうだ。
梅ちゃんは、いつも常連さんやその他のお客さんの笑顔で心が癒されるのであった。
「梅ちゃん、このコハダ、美味しいよ。梅ちゃん、いつもありがとうな。」
ー(梅ちゃんから一言)ー
寿司を食べる際のマナーとして、手または箸を使い、醤油はネタにつけるのが基本です。また、お店に入ったら酒とつまみから注文し、握りは白身など淡白なものから食べ始めて下さい。
寿司の食べ方は、箸と手の使い分けをしましょう。
寿司は手で食べても箸で食べても問題ありません。手で食べる場合は、親指、人差し指、中指で軽くつまみ、ネタが崩れないように持ちます。
箸を使う場合は、シャリが崩れないように水平に持ち上げると美しい所作になります。
醤油のつけ方は醤油はシャリではなく、ネタにつけるのが基本です。寿司を横に倒し、ネタ側に少量だけつけましょう。シャリに醤油が染み込みすぎると、味が崩れる原因になりますよ。
食べる順番はつまみが一段落したら、握り寿司を注文します。一般的には、白身魚などの淡白なネタから食べ始めて下さい。
(店での振る舞い)
注文の仕方は最初に酒とつまみを注文し、その後で握り寿司を頼むのが一般的です。おまかせで注文するとスムーズですよ。
(食事の時間)
食事は2時間程度で切り上げるのが目安です。カウンター席では、寿司を置く下駄を動かさず、置かれた位置で食べるのがマナーです。
料理人はプロの職人です。
梅ちゃんとコミュニケーションをとりましょう。
梅ちゃんは寿司のプロなので、食べ方や醤油のつけ方などで迷ったら、気軽に尋ねて下さいね。
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