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第一章
騎士の館 2
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自分が他人と違うことは、物心ついた頃には、すでに理解していた。ブルーフィスの家に来る前のことは ほとんど覚えていない。それでも、自分に見えるモノも、聞こえる音も、侍女や両親に話しても通じないことが多かった。だから、無闇に話すことを止めた。
そして、感情を抑えられきれず、魔力を暴走ささかかった時に悟った。怪我をさせてしまった侍従、それを見ていた侍女たちが、自分に向ける目は、自分たちと〝違うモノ〟を見る目だと。幼いながら、自分は誰とも違うのだと、それを見せてはいけないことに気付いたのだ。
魔道具で押さえても、押さえきれないその力。それでも兄は、制御の仕方を根気良く教えてくれたし、父や母はその力のことが外に漏れないように力を尽くしてくれた。それでも時々は暴れる力を持て余すことがあった。誰も傷つけないようにしても、壊れたものや部屋を見た使用人たちは、恐れを見せた。それは、仕方がないことだった。
そして、13の時に知らされたのは、それが神の力だということ。
その力が必要だと言われた時は嬉しかった。今まで忌み嫌われた力が、誰かの役に立つのだと知って、本当に嬉しかった。
たとえ、力の本質は変わらないとしても、認めてくれる人がいるだけで、全てが許された気がした。
ただそれでも、忘れられない〝色〟がある。
鮮やかな、白と赤のコントラスト。
記憶に無い記憶。それは、恐怖として体が覚えているモノだった。
-----
規則的な振動。何かの乗り物に揺られている。そして、すぐそばでは誰かが話をしている気配がする。デティは、覚醒し始めた意識の中、ぼんやりと考える。ここはどこだろう。
「……少し目を離すと、すぐこれです。まったく、私はどうなっても知りませんからね」
「どうしても会ってみたかったんだもん」
「だからって、術まで使ってすることはないでしょう」
「だって、説明するの面倒じゃん」
「ルシス、あなたって人は……。これでは誘拐です」
そんな声を聴きながら、デティはゆっくりと目を開けた。
「あ、気が付いたみたいですよ」
そういったのは、目の前に座っている男性。年のころは二十代後半……いや三十代前半くらいか。ラウルよりは年上だろうその男性は、長い金髪を後ろで一つに結っている。
「ほんとだ。おはよう」
その声はデティの隣から。ゆっくりと目を向けてみれば、そこには青い瞳の少年がいた。歳の頃はデティと同じくらいだろう。しかし、まぶしいくらいの笑顔は少し幼くみえる。無邪気とも言えるその笑顔に、デティは状況が呑み込めず、唖然と少年を見つめるしかない。そんなデティの様子に、金髪の男性が心配そうに声をかけた。
「具合が悪いところはありませんか?」
「いえ……、大丈夫です」
実際、気分的にはすっきりしていた。リザも言っていたが、連日の“夜のお勤め”で寝不足ではあったのだ。足りてなかった睡眠をとったためか、体はとても軽い。だからといって、今の状況が飲み込めたわけではない。見回してみれば、そこは馬車の中のようだった。しかも、移動中である。
「どこへ……?」
思わず零れたデティの呟きに、隣の少年が答える。
「王城だよ」
「王城……」
何故、という疑問とともに、そもそも目の前の二人は何者なのかという疑問にたどり着き、デティは身を堅くした。
「……あの、貴方達は」
「ああ、怪しいものではありませんよ」
今更ながらのデティの問いに、目の前の男が柔らかくほほえむ。しかし、怪しい人間がわざわざ「私は怪しいです」なんて言うわけがない。デティはそう思って、警戒を強め、改めて男たちを観察する。
男の黒いローブには金の留め具。どこか、教会の司祭の法衣を思い出すが、聖教会のそれは白か薄い青だ。対して、二人のそれは、漆黒。ふと、その胸に見覚えのある紋章を見つけて、デティは目を見張った。
「聖十二騎士……」
そこにあったのは竜をモチーフにした聖十二騎士の紋章。そんなものを付けている黒衣の人物ということは。
唖然と、二人を見つめたデティに、目の前の金髪の男は微笑んで言った。
「わかりました? 私は、ギアツ・タスチナ。聖十二騎士の4の騎士を務めております」
ふと、自分の横を伺えば、青い目の少年の胸にも同様の紋章がある。
「僕はルシス・アルア。6の騎士だよ」
その名に、デティはセルマの言葉を思い出した。アルア家の馬車、最年少の聖十二騎士。頭の中でそれらの事柄がつながった。
「……つまり、わたくしを呼んだのは、ルシス様なのですか?」
「そうだよ。それと、僕のことはルシスでいいよ」
にっこり笑って少年ーールシスが答える。
「どうしても、君に会ってみたかったんだ。僕と同い年の12の騎士に」
ルシスの言葉にデティは目を見張った。
「なんで、それを……」
デティが12の騎士である事は公開されてないはずなのだ。その疑問に気づいたのか、金髪の男ーーギアツが答えた。
「我々には知らせが来ていたのですよ。12の騎士として、デティ・ブルーフィスを任命する。そして、その存在は口外してはならず、極秘とする。とだけですがね」
つまり、同僚に当たる他の騎士たちにはデティのことは伝わっているということなのだ。名前だけとはいえ、“ブルーフィス”の者だと分かれば、調べるのは簡単だろう。ブルーフィス公爵家の長女デティ・ブルーフィスは秘密でも何でもないのだ。勿論、同一人物か確信できるかは別だが。
「……でも、女学院で呼び出したのは何故なのですか?」
そんなことをすれば、デティが聖十二騎士だとバレてしまうかもしれない。そんな危険を冒してまで呼び出したのには、理由があるはずだ。そう思ってデティは聞いたのだが、ルシスはにっこりと笑って答えた。
「さっきもギアに言ったけど、君に会ってみたかったから。お屋敷だと行く理由が無かったし、学院なら僕も生徒だしね」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
満面の笑みで言い切られてしまい、デティは返す言葉がない。
「勿論、君のことは秘密だから、学院側には僕の名も出さないようにお願いしたよ」
確かに、学院では先生に客の名も告げられなかったので、ルシスの言うとおり、学院側では何のためにデティが呼ばれたのか理解していないだろう。しかし、ルシスがデティを呼び出した事実は残る。つまり、二人に繋がりがあることは知られてしまう。そうしたら、その繋がりが聖十二騎士であるという事実にたどり着いてしまう可能性もあるのだ。
固まったまま内心頭を抱えるデティに、ギアツが申し訳無さそうに言う。
「すみません。私が目を離した隙に、こんな事になって」
「いえ……、わたくしも油断してましたし」
アルア家の馬車に、ルシスの存在。その話を聞いていたのだから、多少警戒してもよかったのだ。それに、デティ自身、女学院から連れ出されるなんて思っても見なかったので、油断していた。
「いいじゃん、終わったことだし」
呑気に笑ってルシスが言う。そんなルシスに、ギアツがため息をついた。恐らく、ルシスのこういう行動は今に始まったことではないのだろう。なんとなく、デティもそれを感じ、保護者の役割を持つのであろうギアツに、少し同情した。
「……それはそうと、ルシス様」
ふと、デティが呼ぶと、ルシスは不満げに眉を寄せた。
「だから、“ルシス“だよ」
それはつまり、敬称が気に入らないということか。とはいえ、今会ったばかりの相手を馴れ馴れしく呼ぶのも気が引ける。
「しかし……」
デティは渋るが、ルシスも引く気は無いようだった。
「ダメったらダメ。敬語は禁止。仲間だし、年も同じなんだよ」
ルシスの言葉にデティは一瞬ギアツを伺う。貴族の男性の中には、良家の女子は言葉遣いにも気をつけるべきだと気にする人もいる。ルシスがよくても、ギアツはどうなのか気になったのだ。そんなデティの視線に気づいたギアツは、苦笑して頷いた。
「……私のことは気にせずに。嫌でなければルシスに付き合ってやってください」
「むしろ、ギアも呼び捨てでいいよ」
ルシスはそう言ったが、さすがにそれはどうなのだろうか。とギアツを伺えば、ギアツは苦笑していった。
「……まぁ、私もその方がやりやすいですし、ルシスやラウルなんてギアと呼びますからね」
「そうなんですね……」
一応良家の娘である。年上の男性、しかも初対面の男性を呼び捨てにするのは少しだけ抵抗があった。しかし、当人が良いというのだ。ここで遠慮していても仕方ない。〝仲間〟と言ってもらえたのが、少し嬉しかったのもある。
気を取り直して、デティはルシスに言った。
「とにかく、ルシス。この馬車はどこに向かってるのですか? 王城って……」
「騎士の館だよ。もう少しで着くよ。城門はもう通過したから」
「……わたくし、父に許可を取ってないのですが」
そもそも、普通に女学院から帰ってこなければ、父だけでなく屋敷の者達も心配するだろう。特に、屋敷の者達もデティが十二の騎士だと知らないのだ。取り敢えず、連絡だけでもしなければ大騒ぎになってしまう。そんなデティの危惧を察したギアツが、不意に提案した。
「なら、私から公爵にご連絡しましょう。私の従者なら公爵もご存じですし、安心して頂けるでしょうから」
ギアツの口ぶりからすると、どうやらギアツはデティの父親と少なからず面識があるようだ。
「……ありがとうございます」
「いいえ、ご迷惑をおかけしたのはこちらですから」
そんなやりとりをしていると、外をのぞいたルシスが言った。
「そろそろ着くよ」
その言葉の通り、程なくして馬車が停車する。降りてみれば、城内でもかなり奥まったところまで来てたようだ。王城と一口に言っても、その敷地の広さは、一つの町ほどもある。有力貴族たちは、その広い城内に屋敷や宮を持つこと、また、それがどれだけ本宮に近いところにあるのかで、実力がわかる。ブルーフィス家や、アルア家、タスチナ家、とよく知られた彼ら公爵家の城内屋敷は最も本宮に近い地域に立てられている。
そんな地域に、騎士の館もあった。館の前で、馬車を降りたデティは、目の前に建つ屋敷を見る。大きさは三階建て、部屋の数もそれなりにあるようだ。外観は黒で統一されているごく普通の屋敷だ。
黒。それは、聖十二騎士の色であるとも言える。十二人の騎士の制服は黒で統一されている。それ故に、聖十二騎士を一般の人は黒騎士とも呼んだりするのだ。
「デティ、どうしました?」
なかなか屋敷に入らないデティに、ギアツが声を掛ける。
「あ、はい。今行きます」
そう言ってデティは、騎士の館に入った。
そして、感情を抑えられきれず、魔力を暴走ささかかった時に悟った。怪我をさせてしまった侍従、それを見ていた侍女たちが、自分に向ける目は、自分たちと〝違うモノ〟を見る目だと。幼いながら、自分は誰とも違うのだと、それを見せてはいけないことに気付いたのだ。
魔道具で押さえても、押さえきれないその力。それでも兄は、制御の仕方を根気良く教えてくれたし、父や母はその力のことが外に漏れないように力を尽くしてくれた。それでも時々は暴れる力を持て余すことがあった。誰も傷つけないようにしても、壊れたものや部屋を見た使用人たちは、恐れを見せた。それは、仕方がないことだった。
そして、13の時に知らされたのは、それが神の力だということ。
その力が必要だと言われた時は嬉しかった。今まで忌み嫌われた力が、誰かの役に立つのだと知って、本当に嬉しかった。
たとえ、力の本質は変わらないとしても、認めてくれる人がいるだけで、全てが許された気がした。
ただそれでも、忘れられない〝色〟がある。
鮮やかな、白と赤のコントラスト。
記憶に無い記憶。それは、恐怖として体が覚えているモノだった。
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規則的な振動。何かの乗り物に揺られている。そして、すぐそばでは誰かが話をしている気配がする。デティは、覚醒し始めた意識の中、ぼんやりと考える。ここはどこだろう。
「……少し目を離すと、すぐこれです。まったく、私はどうなっても知りませんからね」
「どうしても会ってみたかったんだもん」
「だからって、術まで使ってすることはないでしょう」
「だって、説明するの面倒じゃん」
「ルシス、あなたって人は……。これでは誘拐です」
そんな声を聴きながら、デティはゆっくりと目を開けた。
「あ、気が付いたみたいですよ」
そういったのは、目の前に座っている男性。年のころは二十代後半……いや三十代前半くらいか。ラウルよりは年上だろうその男性は、長い金髪を後ろで一つに結っている。
「ほんとだ。おはよう」
その声はデティの隣から。ゆっくりと目を向けてみれば、そこには青い瞳の少年がいた。歳の頃はデティと同じくらいだろう。しかし、まぶしいくらいの笑顔は少し幼くみえる。無邪気とも言えるその笑顔に、デティは状況が呑み込めず、唖然と少年を見つめるしかない。そんなデティの様子に、金髪の男性が心配そうに声をかけた。
「具合が悪いところはありませんか?」
「いえ……、大丈夫です」
実際、気分的にはすっきりしていた。リザも言っていたが、連日の“夜のお勤め”で寝不足ではあったのだ。足りてなかった睡眠をとったためか、体はとても軽い。だからといって、今の状況が飲み込めたわけではない。見回してみれば、そこは馬車の中のようだった。しかも、移動中である。
「どこへ……?」
思わず零れたデティの呟きに、隣の少年が答える。
「王城だよ」
「王城……」
何故、という疑問とともに、そもそも目の前の二人は何者なのかという疑問にたどり着き、デティは身を堅くした。
「……あの、貴方達は」
「ああ、怪しいものではありませんよ」
今更ながらのデティの問いに、目の前の男が柔らかくほほえむ。しかし、怪しい人間がわざわざ「私は怪しいです」なんて言うわけがない。デティはそう思って、警戒を強め、改めて男たちを観察する。
男の黒いローブには金の留め具。どこか、教会の司祭の法衣を思い出すが、聖教会のそれは白か薄い青だ。対して、二人のそれは、漆黒。ふと、その胸に見覚えのある紋章を見つけて、デティは目を見張った。
「聖十二騎士……」
そこにあったのは竜をモチーフにした聖十二騎士の紋章。そんなものを付けている黒衣の人物ということは。
唖然と、二人を見つめたデティに、目の前の金髪の男は微笑んで言った。
「わかりました? 私は、ギアツ・タスチナ。聖十二騎士の4の騎士を務めております」
ふと、自分の横を伺えば、青い目の少年の胸にも同様の紋章がある。
「僕はルシス・アルア。6の騎士だよ」
その名に、デティはセルマの言葉を思い出した。アルア家の馬車、最年少の聖十二騎士。頭の中でそれらの事柄がつながった。
「……つまり、わたくしを呼んだのは、ルシス様なのですか?」
「そうだよ。それと、僕のことはルシスでいいよ」
にっこり笑って少年ーールシスが答える。
「どうしても、君に会ってみたかったんだ。僕と同い年の12の騎士に」
ルシスの言葉にデティは目を見張った。
「なんで、それを……」
デティが12の騎士である事は公開されてないはずなのだ。その疑問に気づいたのか、金髪の男ーーギアツが答えた。
「我々には知らせが来ていたのですよ。12の騎士として、デティ・ブルーフィスを任命する。そして、その存在は口外してはならず、極秘とする。とだけですがね」
つまり、同僚に当たる他の騎士たちにはデティのことは伝わっているということなのだ。名前だけとはいえ、“ブルーフィス”の者だと分かれば、調べるのは簡単だろう。ブルーフィス公爵家の長女デティ・ブルーフィスは秘密でも何でもないのだ。勿論、同一人物か確信できるかは別だが。
「……でも、女学院で呼び出したのは何故なのですか?」
そんなことをすれば、デティが聖十二騎士だとバレてしまうかもしれない。そんな危険を冒してまで呼び出したのには、理由があるはずだ。そう思ってデティは聞いたのだが、ルシスはにっこりと笑って答えた。
「さっきもギアに言ったけど、君に会ってみたかったから。お屋敷だと行く理由が無かったし、学院なら僕も生徒だしね」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
満面の笑みで言い切られてしまい、デティは返す言葉がない。
「勿論、君のことは秘密だから、学院側には僕の名も出さないようにお願いしたよ」
確かに、学院では先生に客の名も告げられなかったので、ルシスの言うとおり、学院側では何のためにデティが呼ばれたのか理解していないだろう。しかし、ルシスがデティを呼び出した事実は残る。つまり、二人に繋がりがあることは知られてしまう。そうしたら、その繋がりが聖十二騎士であるという事実にたどり着いてしまう可能性もあるのだ。
固まったまま内心頭を抱えるデティに、ギアツが申し訳無さそうに言う。
「すみません。私が目を離した隙に、こんな事になって」
「いえ……、わたくしも油断してましたし」
アルア家の馬車に、ルシスの存在。その話を聞いていたのだから、多少警戒してもよかったのだ。それに、デティ自身、女学院から連れ出されるなんて思っても見なかったので、油断していた。
「いいじゃん、終わったことだし」
呑気に笑ってルシスが言う。そんなルシスに、ギアツがため息をついた。恐らく、ルシスのこういう行動は今に始まったことではないのだろう。なんとなく、デティもそれを感じ、保護者の役割を持つのであろうギアツに、少し同情した。
「……それはそうと、ルシス様」
ふと、デティが呼ぶと、ルシスは不満げに眉を寄せた。
「だから、“ルシス“だよ」
それはつまり、敬称が気に入らないということか。とはいえ、今会ったばかりの相手を馴れ馴れしく呼ぶのも気が引ける。
「しかし……」
デティは渋るが、ルシスも引く気は無いようだった。
「ダメったらダメ。敬語は禁止。仲間だし、年も同じなんだよ」
ルシスの言葉にデティは一瞬ギアツを伺う。貴族の男性の中には、良家の女子は言葉遣いにも気をつけるべきだと気にする人もいる。ルシスがよくても、ギアツはどうなのか気になったのだ。そんなデティの視線に気づいたギアツは、苦笑して頷いた。
「……私のことは気にせずに。嫌でなければルシスに付き合ってやってください」
「むしろ、ギアも呼び捨てでいいよ」
ルシスはそう言ったが、さすがにそれはどうなのだろうか。とギアツを伺えば、ギアツは苦笑していった。
「……まぁ、私もその方がやりやすいですし、ルシスやラウルなんてギアと呼びますからね」
「そうなんですね……」
一応良家の娘である。年上の男性、しかも初対面の男性を呼び捨てにするのは少しだけ抵抗があった。しかし、当人が良いというのだ。ここで遠慮していても仕方ない。〝仲間〟と言ってもらえたのが、少し嬉しかったのもある。
気を取り直して、デティはルシスに言った。
「とにかく、ルシス。この馬車はどこに向かってるのですか? 王城って……」
「騎士の館だよ。もう少しで着くよ。城門はもう通過したから」
「……わたくし、父に許可を取ってないのですが」
そもそも、普通に女学院から帰ってこなければ、父だけでなく屋敷の者達も心配するだろう。特に、屋敷の者達もデティが十二の騎士だと知らないのだ。取り敢えず、連絡だけでもしなければ大騒ぎになってしまう。そんなデティの危惧を察したギアツが、不意に提案した。
「なら、私から公爵にご連絡しましょう。私の従者なら公爵もご存じですし、安心して頂けるでしょうから」
ギアツの口ぶりからすると、どうやらギアツはデティの父親と少なからず面識があるようだ。
「……ありがとうございます」
「いいえ、ご迷惑をおかけしたのはこちらですから」
そんなやりとりをしていると、外をのぞいたルシスが言った。
「そろそろ着くよ」
その言葉の通り、程なくして馬車が停車する。降りてみれば、城内でもかなり奥まったところまで来てたようだ。王城と一口に言っても、その敷地の広さは、一つの町ほどもある。有力貴族たちは、その広い城内に屋敷や宮を持つこと、また、それがどれだけ本宮に近いところにあるのかで、実力がわかる。ブルーフィス家や、アルア家、タスチナ家、とよく知られた彼ら公爵家の城内屋敷は最も本宮に近い地域に立てられている。
そんな地域に、騎士の館もあった。館の前で、馬車を降りたデティは、目の前に建つ屋敷を見る。大きさは三階建て、部屋の数もそれなりにあるようだ。外観は黒で統一されているごく普通の屋敷だ。
黒。それは、聖十二騎士の色であるとも言える。十二人の騎士の制服は黒で統一されている。それ故に、聖十二騎士を一般の人は黒騎士とも呼んだりするのだ。
「デティ、どうしました?」
なかなか屋敷に入らないデティに、ギアツが声を掛ける。
「あ、はい。今行きます」
そう言ってデティは、騎士の館に入った。
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