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ガラスのピアノ①
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「私の名前......そうね、レーゲルとでも呼んで」
レーゲルは少し思案した後、そう言って席を立った。
りつはその時、ふと彼女に昔どこかであったことがあるような気がした。
レーゲルーー。りつは心の中でつぶやく。美しい響き。
最後と決めたはずなのに、りつの頭には次から次へと疑問が浮かぶ。
レーベルは美しい。つややかな黒髪に伏し目がちな切れ長の目が印象的で、すらっと長い手足は人形のように白い。顔立ち自体は特別目立つ訳ではなく、素のままの、手付かずの自然のような美しさがそこに存在する。
だが、外国人のようには見えない。どちらかと言うと生粋の日本人。
レーゲルという呼び名には異国の響きがある。
青い表紙の本に出てきた管理者たちは、レーゲルのように異国の、西洋の響きの名前から、東洋の響き、日本の響の名前と様々だった。
この館も、レーゲルのことも、知れば知るほど疑問が湧いてくる。そして、たぶんそれは尽きることがない。
「りつちゃん、いらっしゃい」
ピアノの横でレーゲルがりつを呼ぶ。
考えるのは家に帰ってからでもできる。
りつはカップを倒さないように、そーっと立ち上がり、レーゲルの元へと向かった。
「今日は何を弾く?昨日と同じ?」
譜面台には昨日弾いたドビュッシーの子供の領分が置いてあった。
ふと、りつの脳内にランドセルの中の楽譜が思い浮かぶ。
「あ」
せっかく早起きして用意してきたのに、全部図書室に置いてきてしまった。今日は時間があるならばちゃんと練習がしたいと思っていたのに。
「どうしたの?」
「自分の楽譜、持ってきたのに置いてきちゃった」
肩を落としつつ、りつは答える。
「あら、それは残念。ここにも楽譜はあるけれど、自分の楽譜の方がいいわよね。ミスをしやすいところとか、印がつけてあったりするから弾きやすいし」
「うん......」
「機会はまだあるんだから、明日以降のお楽しみね」
そーっとレーゲルは椅子を引く。
「どうぞ」
昨日は気づかなかったが、ピアノの椅子はりつ専用かのようにぴったりと高さが合っていた。
りつは譜面台の楽譜をめくる。
すぅーっと大きく深呼吸をして、散歩を指先まで行き渡らせる。
指先は温まり、頭は冷静に冷える。
しんと静まりかえる空間。
世界に自分しかいないと思えるような、ここ瞬間がりつは何より好きだ。
レーゲルは少し思案した後、そう言って席を立った。
りつはその時、ふと彼女に昔どこかであったことがあるような気がした。
レーゲルーー。りつは心の中でつぶやく。美しい響き。
最後と決めたはずなのに、りつの頭には次から次へと疑問が浮かぶ。
レーベルは美しい。つややかな黒髪に伏し目がちな切れ長の目が印象的で、すらっと長い手足は人形のように白い。顔立ち自体は特別目立つ訳ではなく、素のままの、手付かずの自然のような美しさがそこに存在する。
だが、外国人のようには見えない。どちらかと言うと生粋の日本人。
レーゲルという呼び名には異国の響きがある。
青い表紙の本に出てきた管理者たちは、レーゲルのように異国の、西洋の響きの名前から、東洋の響き、日本の響の名前と様々だった。
この館も、レーゲルのことも、知れば知るほど疑問が湧いてくる。そして、たぶんそれは尽きることがない。
「りつちゃん、いらっしゃい」
ピアノの横でレーゲルがりつを呼ぶ。
考えるのは家に帰ってからでもできる。
りつはカップを倒さないように、そーっと立ち上がり、レーゲルの元へと向かった。
「今日は何を弾く?昨日と同じ?」
譜面台には昨日弾いたドビュッシーの子供の領分が置いてあった。
ふと、りつの脳内にランドセルの中の楽譜が思い浮かぶ。
「あ」
せっかく早起きして用意してきたのに、全部図書室に置いてきてしまった。今日は時間があるならばちゃんと練習がしたいと思っていたのに。
「どうしたの?」
「自分の楽譜、持ってきたのに置いてきちゃった」
肩を落としつつ、りつは答える。
「あら、それは残念。ここにも楽譜はあるけれど、自分の楽譜の方がいいわよね。ミスをしやすいところとか、印がつけてあったりするから弾きやすいし」
「うん......」
「機会はまだあるんだから、明日以降のお楽しみね」
そーっとレーゲルは椅子を引く。
「どうぞ」
昨日は気づかなかったが、ピアノの椅子はりつ専用かのようにぴったりと高さが合っていた。
りつは譜面台の楽譜をめくる。
すぅーっと大きく深呼吸をして、散歩を指先まで行き渡らせる。
指先は温まり、頭は冷静に冷える。
しんと静まりかえる空間。
世界に自分しかいないと思えるような、ここ瞬間がりつは何より好きだ。
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