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夏休み②

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 1人になった図書室で、りつはとりあえずランドセルを下す。
 少し迷ってシリアルバーはポケットにしまった。
 お昼のことはすっかり頭から抜け落ちていた。
 どうせ3時になったら時の館でのお茶があると思っていたのだ。
 そんなことよりも、もし、夏休みに時の館に行けなかったらどうしようという気持ちが大きかった。
 昨年まではりつにとって夏休みは地獄だった。
 まず、とにかくやることがない。暇を持て余しすぎて、配られた宿題は大抵最初の1週間で終わってしまっていた。
 終業式の日に図書室で借りられるだけ本を借りて、1ページずつ大切に読んでいく。
 そして、夏休み期間に3回ほどある図書室開放日の日に、また借りられるだけ本を借りる。
 去年は、それでもすることがなくなって仕方なく町の図書館まで行った。
 子供の足で、40分。重たい本を借りに行くにはなんとも行きづらいところだ。

「今日こそ、聞かなきゃ」
 意を決してりつは歌を歌う。
 図書室に響いた歌声は、そのままりつを時の館へと運んだ。

「いらっしゃい!もうすぐランチができるわ!」
 時の館へ着くと、間髪入れずにリートが飛んできた。
「ランチ……?」
「そう。今日終業式で午前授業なんでしょ?お昼ご飯一緒に食べようってレーゲルが腕を振るってる」
 どうやら、関先生がくれたシリアルバーの出番はないようだった。

 いつものお茶のテーブルで食べるのかと思い、りつがそっちに足を向けると、立ち塞がるようにしてリートが目の前に来る。
「あ!今日はここじゃなくて隣の部屋。キッチンは前に行ってたけど、ダイニングはまだ案内してなかったわ!」
 リートに「ついてきて!」と言われるがまま、隣の部屋に足を踏み入れると、そこは今までで見たほかの部屋とは異な木製の机と椅子があるシンプルで温かみのある部屋だった。
「そこの奥の扉がこの前言ったキッチンに繋がってるの!」
 部屋にはすでにいいにおいが充満していた。

「りつちゃんおまたせ。そこ座って」
 レーゲルが持ってきたのはふわふわとろとろのオムライス。半熟の卵と真っ赤なケチャップがとてもおいしそうだった。
「あ、オムライス」
 りつは思わず、声を上げる。何を隠そう、オムライスはりつの1番好きな食べ物だった。
「そう。りつちゃんの大好物」
 心の中で「あれ、好きだって言ったっけ?」とつぶやく。
 でも、そんなことはどうでもよくなるぐらい、目の前のオムライスはキラキラ輝いていた。
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