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第1章
10 気になるのは…
しおりを挟む「シャウ、こっちだよ」
僕を見つけたイラザが手を振っている。
集合場所でもある父さんの所に戻ると、イラザひとりが待っていた。
しかし、先に戻ったはずのラオスがいない。
ラオスがいないことに不安を感じて、イラザに問いかける。
「ラオスは?」
「先に帰ると言って帰ったよ」
「…そう、なんだ、なんか…突然落ち込んで、様子がおかしかったんだけど……」
先に帰ったと言われてすごく心配になってきた。さっきのラオスはあまりにも変だったから。
「確かにそんな感じだったけれど、…いつも、次の日には何もなかったようにけろっとしてるだろう? そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
シャウが不安がっているのに気付いたイラザは安心させるように笑い、冗談っぽく言う。
「そうかな?」
そうだといいなと思いながら、イラザがそう言うなら信じることにした。
(明日会ったとき、ラオスが今日のようなままだったら理由聞いてみよう。そしたら、教えてくれるよね)
何も言われず、そのままいなくなってしまったラオスにちょっと傷ついたシャウは、落ち込みそうになる気持ちを振り払い、いつものラオスに会えることを信じることにした。
「シャウ?」
心配そうな視線に気付いて慌てて笑顔を浮かべる。
「何? あ、そういえば作業は終わったの?」
改めて周りを見回してみると、トントンもコクチョウも今日集まった人達の姿さえなく、少し離れたところで、父さんとウルガが書類を見ながら話しているだけだった。
「ええ、もう帰っていいと言われてます」
「そうなんだ」
ヨシと気合いを入れて、シャウは一度深く息を吸い込む。
『とうさーん! 先に帰るねー』
声を張り上げ、帰る挨拶をすると、話して合っていた父さんが一度顔を上げ、手を振ってくれた。
あいさつを終えて、イラザを見て、あれっ、もしかして……と思う。
イラザ一人がここで待っていたということは……。
「もしかしなくても待っててくれた、んだよね? やっぱり……」
「ええ」
当たり前でしょうとでも言いたげな顔で頷き返された。
もしかしなくても、かなり待たせていたのかもしれない。
長く待たせてしまったことが申し訳なくて、とりあえず感謝を伝えることにした。
「待たせてごめんねっ、イラザ、ありがとう」
シャウの言葉に、イラザは目元を柔らかくして笑う。
「いいえ、それよりもお腹空きましたね」
「うん、今日の夕飯なんだろう」
「ミイシアさんの作るご飯は何でも美味しいですからね」
話しながら外門をくぐり家路につく。
外門から中央へ続く表通りには観光のために訪れる旅人のために、宿屋から武器、服、工芸品、宝石商など様々な店が建ち並んでいる。
そろそろ店じまいの時間なのか、片付け始めている所もあれば、食事処や酒場などは人の出入りが激しく賑わっていて、中から楽しそうな声が響いてきていた。
「イラザ様」
イラザを呼ぶ声のほうを見ると、魔道具屋から出てきたのか、一人の女性が近寄ってきていた。
(誰だろう?初めて見る人だ)
イラザはその女性を見ると立ち止まり、話しかけた。
「ターニヤさん、こんばんは」
「こんばんは。あの、今、少しお時間宜しいですか?」
「うん? …そうですね」
考えるようにチラリとイラザが視線をよこした。
「僕は大丈夫だよ」
イラザに手を振り、その女性に笑いかける。
イラザはシャウの言葉に一度考え込むと、申し訳なさそうにシャウを見る。
「すみません。少しだけ待っていてください。あ、俺の側からは離れないでくださいね」
そう言い残すと、イラザは僕が視界に入る位置に移動してから、話しかけてきた女性と話し始めた。
もれ聞こえてくる言葉から、イラザが関わっている魔道具のことのようだ。
僕は少し離れた場所で待つことにして、二人を観察した。
イラザが僕の知らない女性と話しているのがとても珍しかった。
いつも話している女性は僕も知っている人で、片手で足りるくらいの人数しかいない。
それ以外の女性と話しているところを見たことがなかった。
だから、僕が初めて見る人と話しているのにびっくりした。
でも、よく考えたら、イラザにもいろいろな交友関係があるのは当たり前だと、今、気付いた。
僕が知らないだけで、イラザの知り合いはたくさんいるのだろう。
そしてターニヤさんもその内の一人ということなのだろう。
僕は変な思い込みをしていたことに気付いて恥ずかしくなった。
僕は気持ちを切り替えるために、ターニヤさんを観察することにした。
外見から、人族か、成獣した獣人だと思うけど、どっちだろう。
獣人だとすると僕より五、六歳年上ということになる。獣人の子供は体内の魔力を上手く操作出来なくて人の姿を保つことが出来ないから獣耳と尻尾が生えたままになる。
でも、ターニヤさんは僕と同じくらいの年に見えるから、人族かな?
それに母さんに似て美人だ。違うところをあげるとすれば母さんが薄茶色の髪と瞳で、ターニヤさんが焦げ茶色の髪と瞳くらいだ。
二人を観察し続けていると、ターニヤさんは話が終わったのか持っていた道具や書類をまとめて抱え直した。
そして、道具や書類を一度ぎゅっと抱きしめる。
「あの、また今度、ふ、二人で魔道具の話をしませんか?」
顔を紅くして、俯きがちにイラザにお願いしていた。
イラザは一瞬目を見ひらき、少し困ったような笑顔を浮かべる。
「そうですね。二人の時間を合わせるのは難しそうですが、研究室には顔を出せると思いますので、そちらで宜しければ、魔道具の話を致しましょう」
「は、はい…」
残念そうに俯いたターニヤさんは、一度手を握り締めると少ししてから顔をあげた。
そのターニヤさんの目には何かを決意したかのような意思の力を秘めていた。
(綺麗な目だな…)
ターニヤさんの真っ直ぐな意思が宿る目に、シャウは惹きつけられた。
「それでは、失礼いたします。シャウ様もお時間をいただきありがとうございました」
深々と頭を下げ、ターニヤさんは雑踏の中に消えていった。
ターニヤさんを見送っていると、イラザは僕を見つめて申し訳なさそうに眉を下げた。
「大分、お待たせしてすみませんでした」
「大丈夫、大丈夫! 仕事の話でしょ? それよりも時間は足りたの? 僕、先に帰っても良かったんだよ?」
仕事の話をしてたから、話しかけられなかったけれど、イラザが少しでもこちらを見てくれたら、先に帰ることを伝えようと思っていた。
「シャウを一人で帰らせることは出来ません。緊急性のものは終わりましたし、他は話が長くなりそうだったので明日に回しましたから……それよりも疲れてませんか?」
「全然。それよりも、今の人、僕のこと知ってるんだね」
「それは…、シャウのことを知らない人はあまりいないと思いますよ」
あー、僕は族長の娘だものね。知らないわけないよね。
「そうだね。挨拶すれば良かった」
「…もしかして、ターニヤさんと初めて会ったのですか?」
「うん、美人な人だね」
イラザは僕の言葉にとまどいながら、言葉を探しているようだった。
「確かに美人だと言われていますが」
「あまりイラザが女性と話しているところ見たことなかったから、びっくりしたよ」
僕の言葉に、イラザの方がびっくりした顔をした。
イラザは僕をじっと見つめつつ、何故かおそるおそる聞いてきた。
「……気になりますか?」
「うん。なんかキラキラして見えたんだ。人族の人?」
「えっ? ええ、ターニヤさんは人族ですが、キラキラしてる?」
「そう、最後、目が綺麗だったでしょ」
「ああ、…それが気になったんですか……」
「イラザも気になるでしょ?」
イラザを覗き込むと、イラザの目が揺れ動き、じっと見つめられる。
「…俺が気になるのは別のこと、なんですよ」
「別のこと?」
「ええ、いつかシャウに分かってもらえたら嬉しいですね」
イラザの目には、先ほどのターニヤさんと同じ、なにかを決意した意思の力が宿っていて、シャウはまたしても惹きつけられて目が離せなくなった。
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