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第1章 番外編 ラオス*イラザ目線side
4-1 番の匂いはたまらない ラオスside
しおりを挟むシャウの匂いが充満するこの家で、朝方、客間に放り込まれた。
体はガルアさんの扱きで精も根も尽き果てているのに、ベッドで一睡も出来なかった。
いつもいい匂いだと思っていたシャウの匂いが、抗いがたいほど強く薫っていた。
その匂いが休みたいと訴えている体も精神も休ませてくれなかった。
そのまま朝日が昇り、ミイシアさんが料理を作っている音が聞こえてくる。
このままここに居ても眠れるわけがなかったので、下に降りてミイシアさんの手伝いでもしようと部屋を出る。
すると、向かいの客間からイラザが同じような顔をして出てきた。
互いに一瞬視線を交えた後、そのままミイシアさんの方へ歩いていく。
何も言わずともイラザも同じ状態だったのが嫌と言うほどわかった。
「「おはようございます」」
キッチンまで行くと、ミイシアさんが鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
「あら、おはよう。…ふふっ、二人とも酷い顔してるわね」
ミイシアさんの言葉に苦笑いしか返せない。
扱きの傷跡の事を言っているのか、寝不足で隈がある顔の事を言っているのか。
「ミイシアさん、何かお手伝いすることはありますか?」
イラザがミイシアさんに聞いていた。
それに俺も頷く。
「大丈夫よ。あと少しで出来るから座って待っていて」
「わかりました」
怠い体を動かし椅子に座ると、全身から力が抜けていく。
眠い頭を両手でささえ肘をついて下を向いていると、シャウの匂いが流れてきた。
階段を下りる音とともに、シャウの匂いが部屋を満たしていく。
自然と立ち上がったラオスは、濃くなる匂いで頭がクラクラしてくるのを感じながら、シャウが現れるのを待った。
部屋に入ってきたシャウは、ラオスの目を刺激した。
ぶかぶかの寝間着が肩から落ちて、シャウの滑らかな肌を晒していた。
普段は隠れている柔肌に、その下に続く膨らみを想像して頭に血が上っていく。
「おはよう、シャウ」
ミイシアさんが明るい元気な声でシャウに声をかける。
「おはよう…」
シャウがミイシアさんに挨拶を返す。
まだ眠いのか目を擦る腕に引き上げられた寝間着の裾が引き上がり、シャウの素足が太ももまで見えた。
白く透き通るような肌に、目が吸い寄せられていく。
「そんな格好のままで、二人の前に立つのは恥ずかしいことよ。早く着替えてらっしゃい」
ミイシアさんの言葉に、やっと俺達に気づいたのかシャウが俺を見た。
不思議そうな顔をしながらも、シャウは笑顔で挨拶してきた。
「おはよう、ラオス、イラザ」
「「……」」
シャウの笑顔に見とれていて、返事ができなかった。
返事を返さなかったのを心配したのかシャウが近寄ってくる。
シャウの匂いがより強くなり、興奮してきた。
「大丈夫?」
シャウの手が俺に触れそうになったとき、鼻から何かが飛び出した。
ブシャー
ブシャー
「っおぁ!?」
シャウが驚いて声をあげる。
俺の鼻が限界値に達していたらしい。
鼻血が飛び出した。
しかも、隣からも同じ音が聞こえてきた。
ちらりと横を見ると、イラザも見ていて同じ状況なのがわかった。
情けない顔で、俺の鼻血を被ったシャウを見つめるしかできなかった。
いつの間にか近くに来ていたミイシアさんから布を手渡される。
「ラオスとイラザはこの布で鼻を押さえてその椅子に座ってなさい」
ミイシアさんの言葉に、鼻を布で押さえ示された椅子に座る。
「ちょっと刺激が強すぎたみたいね。先にお風呂に入ってきなさい」
ミイシアさんの言葉に「ウッ」と声が漏れでた。
「お風呂」の言葉に、シャウの裸を想像してしまい、また新たに鼻血も出てきた。
遠ざかっていくシャウの気配を感じながら、ついつい風呂の想像をしてしまう頭の中を振り払うのに精一杯だった。
しばらくすると、ガルアさんが起きてきて、俺達を一瞥しているのがわかった。
それでも、何も言わずに離れて行ったガルアさんに、いつの間にか詰めていた息を吐く。
「ミイシア、おはよう」
「ガルア、おはよう」
キッチンの方で、朝のイチャイチャしている様子が感じられた。
ちょっとだけ羨ましく思う。
俺もシャウとしてみたいな。
物思いに耽っていると、ガルアさんが食事を始めたようだ。
そして少し経った頃、シャウが風呂から出てきた。
またシャウの匂いが強く薫って、ラオスの脳みそを溶かしていく。
「父さん、おはよう」
「あぁ、おはよう、シャウ」
シャウがガルアさんと朝の挨拶をしているのが聞こえてきた。
その後、ちゅっというリップ音が聞こえ、布をずらしシャウを盗みみた。
見つめた先で、シャウが嬉しそうにガルアさんの頬にキスしている。
そしてガルアさんから嬉しそうにキスをされている。
シャウにキスできるガルアさんが憎かった。
俺はいつの間にかガルアさんを睨みつけていた。
「羨ましいだろう」
俺の視線に気づいたのかガルアさんが見せつけるようにシャウに頬ずりする。
本当に羨ましくて、唇を噛み、眉間にはしわが寄っていく。
「ガルア、子供達をからかってはいけないわ、大人気ないわよ」
ミイシアさんの咎める声にもっと言って欲しいと思う。
「このくらいは耐えられないとこれからやっていけないからな。大変な思いをするのはシャウなんだぞ?」
「あら、こんなことくらい苦もないでしょう? ガルアだって出来たことですもの、ね?」
ミイシアさんの言葉は俺を擁護するものじゃなかった。
ミイシアさんが一番恐ろしい。
最後の「ね?」に、俺の体はビクッとして反射的に尻尾を縮み込ませていた。
「さあ、シャウ、ラオス、イラザも早くご飯食べちゃいなさい」
「はい」
シャウはどういうことかあまりわかってなさそうで、食事に気を取られているようだ。
それでも、俺達が気になったのか、近づいてきた。
「ラオス、イラザ、まだ鼻血が止まらないの?」
様子を見るために覗き込んできたシャウの左手を掴む。
掴んだシャウの手は美味しそうで、まずは匂いを堪能する。
あまりの幸福感にうっとりしてきた。
より味わいたくて、匂いを嗅ぎながらシャウの手首の内側を嘗める。
ああ、幸せだ。
もっともっと感じたい。
「うぇ!?」
シャウが驚きの声を上げていたが気にならなかった。
「ラオス」
「イラザ」
ガルアさんとミイシアさんの威圧と殺気に、酩酊状態だったラオスは体が硬直した。
力の緩んだ手からシャウの手が離れていく。
もっともっと感じたいと思っているのに、体はガルアさんの獅子王の支配力で動かすことが出来なかった。
昨日、扱かれたときにガルアさんが放った威圧。
あれは獅子族の王だけが使えるという獅子族の者を支配する威圧だった。
強制的に意思を操れる力は獅子王だけが使える絶対王者の力。
これは近くに居なくても強制力が働く。
普段は絶対使わないこの力をガルアさんは俺とイラザに使った。
俺達に使った支配力はシャウに欲情して触れようとしたときに、シャウに触れられなくなるようにするようだ。
その事実に打ちひしがれる。
「……………生殺しだろ」
ラオスが呟いていると、隣からも同じ言葉が聞こえてきた。
「……………生殺しですね」
好きな女に触れられないなんて地獄だ。
「お前達も早く飯を食え! 腹が減ってるだろ」
「「はい、いただきます」」
落ち込む間もなくガルアさんの声に俺は慌ててテーブルに着く。
「「「いただきます」」」
シャウの声も重なり、ご飯を一口食べる。
食べると、口いっぱいに美味しさが広がった。
ご飯は美味しいが自分の境遇に泣けてくる。
でも、幸せそうにご飯を食べているシャウを見ると、幸せを感じた。
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