シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
52 / 67
第1章

閑話 ラオスの決意

しおりを挟む

俺は決闘でユリベルティス殿下に惨敗したあと、シャウに合わせる顔がなくて、本来の仕事であるシャウの護衛役を他人に任せてしまった。
いや、シャウの前に立てる勇気がなくて、シャウから逃げたんだ。
あれだけユリベルティス殿下に啖呵を切って決闘を申し込んだくせに、玩ばれるように俺の攻撃が躱され手も足も出なかった。
ユリベルティス殿下の実力は本物だ。
ガルアさんに匹敵するほどの剣術で、ウルガとはいい勝負が出来るのでないかと思える腕前だった。
決闘をしている最中にそれは分かった。実力差は歴然としていた。それが分かってしまったけれど、取りやめることなど出来なかった。

〖負ける〗

ラオスは事実として認識した。

〖力が及ばない〗
〖シャウを護れない〗

その事実をユリベルティス殿下に突きつけられた。
その事実にラオスは打ちのめされた。

俺ではシャウを護るには役不足だと証明されてしまった。
それを認められなくて足掻いて攻撃していた俺にユリベルティス殿下は最後の決定打として芸術的な剣戟を繰り出して俺にトドメを刺した。

喉元に突きつけられた剣に俺は項垂れることしか出来なかった。
その後、イラザが決闘していたけれど、見なくても結果は分かっていた。
イラザは俺と実力的には拮抗していた。だからこそ、ユリベルティス殿下に勝てるはずもない。

唇を噛みしめすぎて血の味がしていたし、手のひらは握り締め過ぎて血が滲んでいた。

──悔しい
──情けない
──シャウに呆れられるのが怖い

そんな感情が俺の中でぐるぐると回っていた。

イラザも負けたあと、ユリベルティス殿下の忠告がラオスの耳に入る。
その言葉はガルアさんやウルガに言われていた言葉と同じだった。
ラオスは恥ずかしくなった。
ガルアさんやウルガの指摘を軽視していたわけではなかったが、真剣に訓練をしてこなかったことを見抜かれているようで顔を上げられなかった。

決闘が終わった時には、俺は逃げるように訓練場を出た。
シャウの顔を見ることは出来なかった。
シャウの目に失望した色や呆れた色が乗っていたら、立ち直れない。
……ただの言い訳だな。俺がシャウの目を見返せないだけだ。

俺は家に帰り、今後のことを考えた。
今のままではユリベルティス殿下にシャウが捕られてしまう。
それだけは赦せる筈がなかった。
では、どうすればいいのか。
そんなのは判りきっている。俺がユリベルティス殿下よりも強くなるしかない。
そうと決まればあとは行動するのみ。ウルガのところに行って、シャウの護衛役を代わって欲しい事と訓練の相手をして欲しい事を伝えた。
ウルガのところに来たときイラザもちょうどやってきていた。イラザの顔を見れば何しに来たのかくらい判る。やはり俺と同じ事を頼んでいた。

イラザにも負けるものかと、次の日から訓練に明け暮れた。
ズタボロになるまでガルアさんとウルガに叩きのめされ、家に寝に帰り、次の日も朝からガルアさんとウルガに訓練に付き合ってもらってズタボロにされる。
そんな毎日を送っていた。
ウルガから時折世間話の一環でシャウとユリベルティス殿下の様子を聞かされ、胸には焦燥感が募る。
俺が力を付ける前にユリベルティス殿下との仲が深まっていくのではないかと焦りが出てくる。
本当に力がついているのか、間に合うのか判らない。
それでもシャウの前に立つときはユリベルティス殿下と対等に渡り合えたときと決めていた。じゃないと、自信を持ってシャウの目を見返せない気がした。
シャウを護りたい男としてそれだけは譲れなかった。


そんな決意をしていた俺の目の前に、シャウがユリベルティス殿下を伴って現れた。

俺はウルガに頼まれて武器屋に使いに行く途中だった。
久しぶりに街中を歩いていたら、前からアーリュセリアが歩いてきていて俺を見つけると走って近づいてきた。嬉しそうな顔で近づいてきたアーリュセリアの気持ちは分かっていたが、俺には答えるつもりもなかったので穏便に躱そうとした。だがそれで遠慮するような女は俺の周りにいるはずも無く、アーリュセリアももれなく俺の腕を絡め捕り話しかけてきた。
母から言われている言葉が戒めとしてラオスに根付いているために、アーリュセリアを振り払えなかった。
シャウに名前を呼ばれたときがアーリュセリアに腕を絡め捕られた時だった。
女性には優しく、その戒めのせいで、俺はシャウに誤解されるような状況だった。

俺は久しぶりに会うシャウに驚きを隠せないでいたが、シャウの隣に立つユリベルティス殿下の姿が視界に入ってきて、会えた嬉しさよりもユリベルティス殿下が当たり前のように俺の立ち位置に居ることに憮然としてしまった。

シャウはその間にもアーリュセリアを見て驚いた顔をしたあと、アーリュセリアの腕が絡みついている腕を凝視していた。
そして、くしゃりと悲しそうに顔を歪める。

シャウが傷ついた顔をしていた。
その顔は初めて見るもので、ラオスに僅かな期待が生まれる。
だからこそ走り去ったシャウを追いかけた。だが、その先で見た光景にラオスはまた打ちのめされた。
シャウは泣いていた。その涙の意味は俺が期待した意味の涙であって欲しい。
けれど、そのシャウを慰める役目が俺でないことに、ユリベルティス殿下とシャウの距離を感じて悔しくなる。

俺はそれ以上近づけなくて、また逃げた。

逃げた俺は、決闘した時から成長していないことに少しして冷静になってから気が付いた。
シャウの傷ついた顔が頭から離れない。あんな顔をさせるためにシャウから離れたわけではない。
それなのに俺がシャウを傷つけた。

俺は何のために強くなろうとしていたのか。
シャウを護るためだったはずだ。
それなのに側を離れ、俺がシャウの心を傷つけた。シャウの側に居なくては護れるはずもないのに。
そんなことにもシャウが傷ついた顔を見なければ気づけないなんて、それこそ男として情けなく思った。

まだユリベルティス殿下には追いついていないだろう。
追いつくまではシャウの前に立てない。立つべきではない。そう思って訓練してきた。
だが、もうそんなくだらない矜持は捨てることにした。

俺にとっての一番はシャウの側でシャウの心と身体を護ること。
それ以外は元からどうでもよかったはずだ。

──そうか、ただそれだけのことだった。

そう昔はそれだけだったはずだ。
そんな単純なことに気づくのにかなり時間がかかってしまった。
ユリベルティス殿下が現れて、あまりにも力の差が歴然とした強敵に怯んで寄り道をしてしまったけれど、昔も今も俺にとっての生きる意味はシャウを護ること。
それだけが俺の信念だと今なら言い切れる。

気持ちがすっきりと晴れると、あとは行動あるのみだ。

シャウに側に居ることを許してもらい、俺の想いを告げる。
そして、必ずユリベルティス殿下に勝つ事を誓う。
それを側で見ていて欲しいと願おう。

ラオスはさっぱりとした顔つきになり、真っ直ぐ前を向くことが出来た。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...