男女逆転の女性上位異世界に転生した俺が、何となく考えていることがわかる能力で成り上がっていく

bibi

文字の大きさ
7 / 10

第7話 乳母の視点

しおりを挟む
ファルクが生まれてから、乳母は彼の世話を一心に焼いてきた。当初は、魔力を持たない男の子という彼の境遇を憐れむ気持ちが強かったが、日が経つにつれて乳母のファルクへの認識は大きく変わっていった。

初めてファルク坊ちゃまが自分に意識的に反応してくれたあの日以来、乳母は彼の類稀な賢さに驚かされ続けていた。夜泣きをせず、自分が疲れている時に大人しくしてくれる。寂しい時に、まるで慰めるかのように小さな手で触れてくれる。まるで、乳母の心を覗き見ているかのようだ、と何度思ったことか。

そして、最近の坊ちゃまの行動は、乳母の想像を遥かに超えていた。

側仕えのリアが、他のメイドに陰口を叩かれ不満を抱えている時、ファルク坊ちゃまはわざとぐずりリアに注目を集めさせた。

リアが坊ちゃまを抱き上げ、「この子が一番可愛い」と心で呟けば、坊ちゃまは満面の笑みを返した。

それ以来、リアはすっかり坊ちゃまに心酔し、他のメイドからの理不尽な要求にも毅然と反論するようになった。リアの心の声が、坊ちゃまへの純粋な愛情で満たされていくのを乳母は傍らで感じ取っていた。

さらに驚いたのは、病弱なアルヴィン坊ちゃまとのやり取りだった。アルヴィン坊ちゃまは、いつも心を閉ざし誰にも心の内を明かそうとしなかった。それが、ファルク坊ちゃまが彼の指を握り瞳を見つめ、にこりと微笑んだだけでアルヴィン坊ちゃまの心が溶けていくのが分かった。

あの深い絶望と自己嫌悪の心の声が、今は「守ってやりたい」「この子のために」という温かい感情に変わっている。乳母は、アルヴィン坊ちゃまがファルク坊ちゃまのために絵本を読み聞かせ、庭の花について語りかける姿を見るたびに胸が熱くなった。

そして、最も衝撃的だったのは、ご姉妹方との一連の出来事だった。

ルイーゼ様が魔術の難問に行き詰まり苛立っている時、ファルク坊ちゃまがまるでその答えを知っているかのように、書物の一点を指し示された。あの才気溢れるルイーゼ様が、坊ちゃまの仕草にハッとした顔を見せ、まるで憑かれたように魔術書に没頭していったのを、乳母は信じられない思いで見ていた。ルイーゼ様の心の声が、驚きと新たな発見への興奮で満ちていたのを、乳母はすぐ近くで感じていた。

アリエル様との一件も忘れられない。完璧な美しさを追求するアリエル様が、ドレスの襟元のわずかな「邪魔」に不満を抱いていた時、ファルク坊ちゃまがその一点を指し示された。あの高慢なアリエル様が、坊ちゃまの指に導かれるようにドレスの不具合に気づき、心を揺さぶられていた。

その心の声は、「まさか、この子が…」という驚きと、これまでの認識が覆されるような戸惑いに満ちていた。

そして、長姉のエルヴィーラ様。あの方は、常に冷静で、感情を表に出さない。領地の問題で行き詰まり、深い重圧を抱えている時、ファルク坊ちゃまは、まるでその解決策を知っているかのように、資料の数字を指し示された。あの厳格なエルヴィーラ様が、坊ちゃまの何気ない仕草に導かれ、見落としていた計算ミスに気づいた時の衝撃は、乳母自身の心にも強く響いた。

エルヴィーラ様の心の声が、最初は怒りや焦りで満ちていたのが、一瞬で「なぜ気づかなかった!」という自責と、問題解決への糸口を見つけた喜びへと変わった瞬間を、乳母ははっきりと感じ取っていた。

ファルク坊ちゃまは、まだ言葉を話せない赤子だ。しかし、彼の行動は、明らかに意図的で、周囲の人々の心を見透かし、それに応じた反応を見せている。彼が持つこの不思議な力は、一体何なのだろうか。そして、なぜ、魔力を持たない男児である坊ちゃまが、このような特別な力を持っているのだろう?

乳母は、ファルク坊ちゃまを抱きしめながら、彼の未来に、この屋敷の未来に、そしてこの世界の未来に、大きな期待とかすかな不安を感じていた。彼は、この女尊男卑の世界で、一体何を成し遂げようとしているのだろうか。乳母は、全身全霊でこの幼き賢者を守り、見届けることを心に誓うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...