男女逆転の女性上位異世界に転生した俺が、何となく考えていることがわかる能力で成り上がっていく

第9話 支配欲と性欲の強い母

当主であるファルクの母、ルーア夫人は、執務室で広げられた書類の山を前に、静かに目を閉じていた。眉間に刻まれた深い皺は、日中の激務と男爵家を背負う重責を物語っている。しかし、その心の声は別の思考で満ちていた。

（今日の夜は…誰にしようかしら）

彼女の心の中には、複数の男たちの顔が次々と浮かび上がっては消えていく。ルーア家は、魔力に優れる女系貴族の家系だ。この世界では、男は魔力を持たないゆえに、子孫を残し血筋を繋ぐことは、当主である彼女の最も重要な責務だった。

魔力を持つ女性の多くは、その強大な力に比例するように、性欲もまた強く要求不満になりやすい。そのため、それを解消する必要があった。彼女は、一晩に何人もの男を相手にすることさえあった。妊娠しても魔力の力で比較的楽に過ごすことができ、安産ですぐに仕事に戻れることも、彼女のこの生活を可能にしていた。

この世界では、女性の支配欲が強くそそられるため、華奢な体つきの男がもてはやされる傾向にあった。男のあそこ、すなわち生殖器の大きさが魅力の一つとされ、優れた血筋を次代へ繋ぐための重要な要素として見なされていた。

（昨晩は、あの者が張り切っていたけれど、少々粗野だったわね。もう少し洗練された者が好みだわ。それに、彼のあそこは大きいけれど、もう少し繊細な扱い方ができれば…）

彼女は、昨日、床を共にした夫の一人を思い出した。その男の心の声は、彼女の命令を忠実に果たそうとする忠誠心と肉体的な欲望で満ちていた。しかし、夫人にとってはそれはあくまで「義務」であり、「血筋を繋ぐための手段」でしかなかった。

（一昨日の彼は、もう少し優しかったけれど、刺激が足りなかったわ。彼のあそこは平均的ね）

別の夫の記憶が蘇る。彼の心の声には、夫人への畏敬と、彼女に認められたいという切なる願いが込められていた。だが、夫人にとって、それらの感情は取るに足らないものだった。彼女の関心は、いかに性欲を解消出来るかと、魔力の強い女の子が出来るかだ。

夫人の脳裏では、それぞれの夫の持つ魔力の質、肉体の相性、そして何よりも子を産むための「効率」が冷静に比較検討されていた。彼らは、彼女にとって愛情の対象ではなく、優秀な血筋を繋ぐための「種馬」であり、その役割を果たすための「道具」でしかない。

（今夜は、一番華奢で支配欲のそそられる彼にしようか。それとも、まだ若いあの者に新しい可能性を見出すべきかしら…彼のあそこは、まだ成長途中だけれど、将来性はありそうね）

彼女の心の声は、まるで牧場の主がどの種馬を交配させるかを選ぶかのように、冷徹で合理的だった。夫人の顔には微かな微笑みが浮かんでいたが、その心の奥底には、愛や情欲とはかけ離れた家系の繁栄と自身の魔女としての責務を全うしようとする強固な意志だけが宿っていた。

彼女にとって、男たちは血筋を繋ぎ家を維持するための資源であり、彼女の望むままに支配されるべき存在なのだ。その冷徹な視線は、まだ幼いファルクにも向けられている。ファルクの存在は、今のところ彼女の計算の中にはない。魔力を持たない男児は、この家においては、何ら価値を持たないからだ。

ファルクは、乳母の腕の中でその冷徹な母の心の声を聞いていた。彼には、母の抱える責任やこの世界の女性が持つ権力の全てを理解できるわけではなかった。

しかし、その声が、父や他の男たちを「道具」と見なしていることは、幼いファルクにも痛いほどに伝わってきた。
彼は、父や兄、そしてこの屋敷の隅でひっそりと生きる他の男たちの絶望を身をもって感じ取っていた。

（このままではいけない。この母を変えなければ…！）

ファルクは、まだ言葉を話せないながらも、心の中で強く決意した。彼の持つ「心の声を読む能力」は、単なる観察の道具ではない。それは、人々の心の奥底に隠された真実を暴き出し、彼らの行動や感情に影響を与えることのできる強力な武器なのだ。
彼は、この冷徹な母の心を動かしこの不条理な世界を変えることができるのか。まだ幼いファルクの挑戦が、今、始まろうとしていた。