【完結】追放された嫌われ魔法使いは、拾った毛玉を盲愛する

飛鳥えん

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すごく不機嫌な魔法使い

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ロザンナを送り届けた後、水車小屋に戻るとレネは奥の書斎で机の上に何種類かの薬草とすり鉢を置いて調薬を始めていた。
アルコールランプで熱したビーカーの水中に黒い魔法石が沈んでおり、時折脈動するように内側から金色に光った。
レネは書棚から何冊か本をとりだして、文字の上を指先でなぞっていた。
「レネ様、戻りました」
「おかえり。あの子供は無事帰りましたか」
本に目を落としたままレネが言った。
「はい。あの、勝手にあの子を連れてきてしまってごめんなさい」
「沼で溺れていたのでしょう。放っておけば死んでしまうのだから仕方がない。まあ、いささか生意気な口の利き方ではありましたが」
はは、とユシウスは渇いた笑いを漏らした。その後もさんざんレネの悪口を言っていたことは黙っておこう。
「あの子供は何か言っていましたか?」
「え、ロザンナがですか?」
「……もう名前で呼び合う仲になったのですか。そのロザンナはあなたに何か言いましたか。例えば……聖女の事や、王都の魔法使いの事、わたくしの事とか」
考えを読まれたのかと思って焦ったが、どうやら違うようだ。レネにしては歯切れの悪い質問の仕方である。
(そういえば、聖女の祝印の話や他の魔法使いの話をしてたけど……あれはレネ様の悪口みたいなものだし、言わない方がいいかも)
となると、ロザンナがしていた話……ほかに何があっただろうか。去り際に言われたことを思いだした。
「あ、ロザンナに自分の家に置いてやろうかって言われました」
もちろんすぐ断りましたけど、と続けるつもりだった言葉は、レネの背後に立ち上った黒い靄によって遮られた。
レネは勢いよく本を閉じると、何事もなかったように調薬の作業に移った。
薬草をより分け、すり鉢で粉末状になるまで曳いてゆく。終わると粉末を匙ですくい、魔法石と一緒にビーカーで煮詰める。

その間、靄はゆっくり左右に広がり両側からユシウスの身体を包み込むようにまといついた。
「れ、レネ様……?」
靄から目を離せないまま、金縛り状態のユシウスが動かせるのは口だけだった。ゼレニクの小屋で見たよりはるかに濃くて、大きな靄がまるで意思があるかのようにユシウスの腕と足を掴んだ。人間の手のようでもあるし、獣のかぎ爪のようでもある。
レネがすり鉢で乾燥した薬草をすりつぶす、ゴリ、ゴリ、という音が響く。
ゴリ、ゴリ。
とっくに粉末状になってもまだ曳き続けている。
「レネ様!」
本能的な危険を感じて堪らず叫ぶと、ゴリっという音が止み、レネがやっとユシウスの方を向いた。
「それで、あなたはなんと答えたのですか?」
それがロザンナのことを指すと気づいて、ユシウスは早口に答えた。
「断りました!僕はレネ様とここに居たいから君の家には行かないって言いました!」
「どうしてあの子供はあなたにそんなことを言ったんでしょうか。不思議ですねぇ。あなたが期待を持たせるようなことをしたり、言ったのではありませんか」
ユシウスは懸命に首を振った。そんなことはない。レネも分かっていて、わざとそう聞いているような気がして途方に暮れた。
「あの子が好きですか?可愛らしい子でしたね。友達になりたいですか?」
レネの声が優しくなった。それがかえって危険信号だと、ユシウスは瞬時に悟った。
「好きじゃないです」
「おや、どうして?明るくて元気で、一緒に遊んだりしたら楽しそうじゃないですか」
レネはにっこりと微笑んだ。
(さっきまで生意気な子だって言ってたくせに!レネ様は何にそんなに怒ってるんだ?)
もう何が正解なのか分からず押し黙ったユシウスに、レネは大きく息を吐いて顔を逸らした。
その拍子に、ふっと靄は消え去った。
「ユシウス、今晩は早めに夕食にしましょう。明日は街で買う物がありますから一日留守にします。明日の分の勉強は、夕食の後にしましょう」
何事もなかったようなレネに、ユシウスは腕をさすりながら頷いた。そそくさと、戸口を出たところにある貯蔵庫を開けると、途端にその場に座り込んだ。足がすくんでいた。しばらく膝を抱えていると落ち着いたが、ユシウスは心に決めた。
(ロザンナとは関わらないようにしよう。あの子と関わるとレネ様が気分を悪くする)
理由は分からないが、きっとロザンナがレネに偉そうにしたからだろう。レネは無礼な人間が大嫌いだ。

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