不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.22 休日のお出掛けで買い物

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 夕食時、俺の隣に腰掛けるデシリアだ。視線を向けると気付いて「何? 顔になんか付いてる?」なんて聞いてくる。
 付いていると言えば付いてるな。口の端に飛び跳ねたらしきスープの雫。実は涎だったりして。

「口の端に」
「え、何が?」
「雫」
「あ」

 慌てて手で拭って「弟に指摘された」なんて言ってるし。やっぱり弟扱いだよな。
 ひとりの男性として意識してもらうのは無理そうだ。勝手に俺が意識してるだけで。
 こうして生活にゆとりが生まれると、恋愛感情を持つのか。まだ本気で惚れたわけでもないけど、意識してしまう存在ではある。
 周りのメンバーを見ると、にやにやしてるけどね。

 食後部屋に向かう際「明日朝九時、だからね」と言って、デシリアは自室に入ったようだ。
 何の用件かは聞かされていない。ただ用事が無ければ付き合えと。デートとかだと嬉しく思うけど、なんかそんな感じでもないんだよな。

 すっかり自室として使用している部屋に入り、寝衣に着替えベッドに寝そべる。
 天井を眺めながらも少し期待する自分が居て、でもデシリアにその気は無さそうだなんて。

 何となく意識を手放し目覚めると朝だ。
 部屋の掛け時計を見ると午前七時半くらいか。起きて着替えを済ませ顔を洗い、ダイニングに向かうとヘンリケさんが居て、食事の用意をしているようだ。

「おはよう。休みなのに早いのね」
「あ、おはようございます。他の人は?」
「休日はみんな遅くまで寝てるから」

 どこの世界も一緒か。

「あ、そうだったね。デート」
「え」
「デシリアとデートでしょ」
「それとは違うと思います」

 誘われたならデートだ、なんて言ってるけど違うと思う。
 少ししてデシリアもダイニングに来て「イグナーツ、おはよ。九時に出るから準備済ませておいてよね」なんて言ってる。
 椅子に腰を下ろすと「お金ある?」と聞いてくるから、多少はあると言うと。

「服買おうね」
「え、服?」
「だって、いつも同じ服着てる」

 最初にもらった服と替えの服としてもらったもの。二着を着回す状態だ。
 他にはラビリントに潜る際に着る戦闘服みたいなものが一着。

「探索時に着る服と普段着。安くてもセンスのいい店があるから」

 一緒に行って選んであげる、だそうで。
 確かにお金はもらった。二日分で二万二千ルンド。日本円で三万三千円相当だ。今後もラビリントに潜る度に支払われる。でも、もらった額を全部使うことはできない。家賃や食費、それに自腹で弾薬を買ったり、メンテナンス費用も。それと意識していなかったけど、稼ぎに応じた額を納税する必要もある。
 所謂所得税だ。それらを差し引いて残った額が小遣いに。

「あの、でも。そんなには無いですよ」
「大丈夫だって」
「全部は使えないですし」
「だから任せて」

 強引だ。
 任せて、と言ってるから某作業服店のような店や、ファストファッション系の店があるのかも。
 食事を済ませ出掛ける準備を整え、と言ってもいつもと同じ格好だけど。
 だからデシリアが誘ったんだ。

 ホームの玄関先で待っているとデシリアが来て「じゃあ行こうか」と、俺の手を取り歩き出す。こういうところで勘違いするんだよ。なんか普通に手を繋ぐ感じになってるし。男女としての距離感が壊れてるのかも。
 前を見ながらだけど歩いている間「少し遠出するから」なんて言ってる。

「どこに行くんです?」
「ダールフローデン」
「えっと、どこです?」
「ここから汽車で三十分くらいかな」

 この町はフォーベリエットと言う。町の中心に鉄道駅があり駅名はミッティフォン。
 ホームから徒歩で十五分程度。汽車は上下ともに二時間に一本しかない。一日に上下足しても十五本。それでも、この国では発着本数が多い方だそうで。鉄道沿線沿いにラビリントが数多くあるから、らしい。
 乗り遅れると二時間も待つことになる。だから急がされるわけで。

「早く行かないと乗り遅れちゃう」
「あ、はい」

 柔らかい手のひらの感触。少し冷たさも感じるけど、なんか手汗掻いてきた。気持ち悪いとか思われないかな。ずっと手を繋がれてると妙に緊張してくるんだよ。
 しっかり握られて、ぐいぐい引っ張られてる。

 駅に着くと日本の鉄道駅とは違う。駅舎は木造で中に入ると一部に屋根があり石畳のホームがある。でも日本のホームと違って高さは無いな。
 汽車はすでに停車中で客車に乗り込む。車両ドア横の手すりを掴み、ステップを使って車内に入ると向かい合わせの座席が並ぶ。車両も内部は木製。適当に空いてる席に向かい合わせに腰を下ろすと「間に合ったぁ」とか言ってるし。

 発車すると車掌が車内を移動しながら切符を発行する。
 すでに切符を持っている人は提示するだけ。駅の窓口で発行すればいいのに、と思うけど。ついでに後払いだし。前払いじゃない理由は、もしかして下車先の変更も考えてのことかも。

「あたしが払っておくね」
「このくらいなら」
「千八百ルンド掛かるから、あたしが払う」

 日本円で二千七百円か。懐具合は決して豊かではない。ここは素直に出して貰う方がいいのか。
 以前だったら払うのも困難な額だったな。それでも町から町への移動時は、自腹で支払わされてなけなしの金を使う羽目に。移動が増えると出費ばかり嵩んでいたし。

「じゃあ」
「うん。払っとくね」

 車掌が来ると二人分の切符を受け取るデシリアだ。
 車掌から受け取った切符を一枚俺に渡してくる。

「これ持って」
「あ、はい」

 名刺くらいのサイズがある切符を見ると、発駅としてミッティフォンと印字されている。下車した駅で清算する方式だから着駅の表記は無い。
 今日の日付印が押されていて有効期限は本日中のみ。鉄道会社名やナンバリングもある。
 車窓に目を向けると「イグナーツって汽車の利用は?」と聞いてきた。

「何度かあります」
「どこから来たの?」
「エーデビィって言う村です」
「どこにあるの?」

 よく分からない。エーデビィからリースフェルトと言う町に向かった。
 その時は乗合馬車で一番近い町に向かっただけ。そこで仕事を探したけど門前払いで、別の町に徒歩で移動し六時間掛けて、ティストバッケって町に行ったんだよな。
 そこでも門前払いを食らって、徒歩で八時間掛けてタールスタランドって町に向かい、やっと運搬賦役協会の門を叩けた。
 どこをどう通って、どう辿り着いたかもわからない。

 運搬賦役協会に登録して探索者の荷物持ちになった。
 そこからはクリストフに言われるがまま、移動を繰り返すことに。
 よりによってクリストフたちだったのが運の尽き、と思ったけど。
 辿った道程を言うと。

「タールスタランドなら分かるけど、他は分からないなあ」
「俺もどこだかさっぱりです」
「エーデビィねえ。村の出身なんだ。じゃあ両親は農民?」

 両親ではないけど面倒を見てくれた恩人。

「そうです」
「田舎には帰らないの?」
「時々は帰りたいです」

 年齢が年齢だから一度は顔を見せておきたい。亡くなってたら礼も言えないし。
 少しくらいは恩返しもしたい。何にも返すことができてないから。

「じゃあさ、しっかり稼いで親孝行しようよ」
「そうですね」
「うん。当面の目標ができたね」

 目標を持てば日々の行動や選択に意味を見出しやすい。また目標を達成するために必要なことも見えてくる。
 モチベーションも維持しやすいから、当面の目標として掲げ実現するよう、行動すればいいと言う。

「今までは目標とかあったの?」
「無いです。って言うか、とにかく逃げ出したかったんで」
「ああ、なんか分かるなあ」

 あのバカの下に居て、さぞや窮屈でつらかっただろうと。

「死ねばよかったのに。ああいうのに限って悪運が強いんだよね」

 死ねばとか、一回しか会ってないのに印象最悪だったんだな。
 デシリアがこれだけ嫌うのに、あの聖霊士はクリストフがいいとか、相当悪趣味ってことか。蓼食う虫も好き好きってことだよな。
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