不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.23 異なる町で買い物デート

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 凡そ三十分程度の乗車時間でダールフローデンに着いた。
 駅舎が大きく車両の全てが屋根の下に。他にも発着路線があるようで、ホームや線路が複数並ぶ。
 下車して改札に向かい窓口で清算するデシリアが居る。
 清算が済み振り返ると「行くよ」と言って、またも俺の手を取るし。勘違いするからやめた方がいいと思うけどな。好かれてるとか、もしかしたら愛されてたり、なんて。
 絶対無いと思うけど、男って勘違いしやすいんだよ。俺だけかもしれないけど。

 駅舎を出ると、フォーベリエットより栄えた雰囲気の、大きな町と言った印象を持つ。
 五階建てくらいの石造りの建物が多数並び、一階部分は商店のようで多くの人が歩いていて、店に入ったり袋を提げて出てくる人も。みんな楽しそうだ。
 服装も現代に近い感じで、男性はスーツっぽい姿で、女性は華やいだ服装が多いな。特に女性は引き摺りそうなロングスカート姿ばっかり。しかも肩パッド入りでウエストの位置がかなり高い。
 デシリアを見ると脹脛ふくらはぎくらいのスカート丈。

「何?」
「え、あの。流行りなのかなって」
「何が?」
「長いスカート丈と腰の位置が高いのって」

 自分のスカート丈を見て「あのね、年齢によるんだよ」だそうで。
 ちょっと不機嫌になった感じなのは、俺の言い方がまずかったのだろう。暗に流行に乗れていないデシリアって言ったのに等しいから。

「あ、違うんです。ある程度の年齢の人って足を一切見せないから」
「十代はね、少し丈が短いのがいいんだよ」

 ロングスカートは体形の崩れた、おばはんが身に着けるのだとか、一所懸命力説してるし。ウエストを絞って細さを演出してるが、実際には下腹が出ていたり、弛んだ腹の引き締めにコルセットを使ってるとか。足も大根足だから隠すのだと。
 でもデシリアって二十代。まだ十代で居たいのかな。
 それでも女性は流行に敏感ってことで。

「あの、ごめんなさい。悪気は無いんです」
「いいけどね。この方が動きやすいから」

 繋いでいた手が離れてしまった。失敗したかも。
 それにしても女性たちの露出度の低さ。元の世界ではミニスカート姿が多数居た。女子高生の制服なんて、ちょっと屈んだら見えそうなくらいだったし。
 それとファッションも多種多様だった。こっちは均質。みんな同じ感じだし。

「デシリアさん、そのスカートが凄く似合ってると思います」
「お世辞?」
「違います! 断言します。とても素敵です」
「まあいいけど。じゃ行こうか」

 そう言って再び手を取り歩くデシリアだ。少しだけ機嫌がよくなったのかも。
 暫く歩くと露店のような店のある場所に来た。一般的な店舗を構えない店ってのは、どこにでもあったけど、この手の店は確かに安価で入手できるのだろう。

「ここはね、何でも揃う庶民向け市場なの」

 立派な建物に店舗を構える店は、どれもこれも高額な商品ばかりで、実用性に乏しいものが多いそうだ。
 見た目の派手さを競い虚栄心を満たすのが目的。だから無駄に値段が高い。
 しかし、市場には安価な既製品が並び、庶民が気軽に手にできるものばかり。実用性を考慮したものが多いから、動く際に邪魔になるものはないそうで。

「これとかどうかな?」

 デシリアが手にしたのは白いシャツ。至って普通に見える。服なんて着れればいいんだけど。贅沢できる身分じゃないし。

「いいと思います」
「そう? それとね、これを合わせれば」

 そう言ってジャケットを手にして俺の前に提げてる。着た時の感じをイメージしてるんだろう。更にチノパンみたいなものまで。
 上から下までコーディネートされ、まずは普段着を買わされた。

「靴も新調しよう」
「そんなに買えないです」
「出すよ。プレゼントしてあげる」
「悪いですって」

 好意でやってるんだから気にするな、だそうだ。
 靴も新調し上から下までデシリアコーデ。まあいいけど。俺にセンスは無いし。

「じゃあ仕事着だね」
「自分で買います」
「そう? 少しなら出すよ」
「でも、靴も買ってもらってますし」

 気にしなくていいのに、と。稼ぎは多く金の使い道がないらしい。貢ぐ相手も居ないから自分のために使うだけ。それも何か虚しくなる時があり、せっかくの機会だから世話になれと言ってる。
 少しお節介な人かもしれない。彼氏とか居ないのかな。
 暫し歩くと別の露店でPコートみたいな服を手にしてる。

「じゃあこれ買ってあげる」
「半分出します」
「いいから。ここはお姉さんを頼ればいいんだよ」

 やっぱ弟だ。彼氏としての扱いじゃないんだよ。
 上着を一着買ってもらい、ついでにデニム地のパンツを一本。それとサスペンダー。ベルトが無いからだ。穿いてても落ちてくるから。

「丈夫な生地だから探索者が身に着けるのにいいんだよ」

 デニムパンツなんてあるんだ。
 でも丈夫だし穿き慣れてるから、これはありがたいかも。

「えっと。なんか裾がかなり余るね」

 足短いんです。典型的な日本人体型だから。
 帰ったら裾を詰めるそうで。そもそも体格に差があり過ぎる。長さが合うわけもないんだよ。所詮は日本人だし、身長も高くはないし。
 ちょっとコンプレックスを感じる。この世界で俺に彼女なんてできるのかな。

 買い物が済むと「食事して帰ろう」となった。
 手を取られ引き摺られるように歩き、テラス席のあるカフェのような店に。

「何食べる?」
「えっと」

 なんかよく分からない。そもそも何があるのかも分からないから、お任せで頼むことにした。
 オーダーするとグラヴラックスと、コールドルマルが出てきた。なんだこれ、と思って観察するとグラヴラックスは、クリスプ生地のパンと発酵した鮭。ドレッシングみたいなものと、ケイパーとディルだろう香草が塗してある。所謂、前菜みたいな。
 コールドルマルは見た目、まんまロールキャベツだ。

「どうしたの? 何か嫌いなもの入ってた?」
「いえ。大丈夫です」
「そう? じゃあ食べちゃおうか」
「あ、はい」

 デシリアはルートモース・メド・フレスクとか言う料理をオーダーしていた。茹でて潰したニンジンとジャガイモ、それとカブの一種でルタバガに豚肉の料理。
 それとアルトソッパと言うエンドウ豆のスープらしい。

 地域ごとに料理にも特色があるのだろう。食べ慣れない味だったが、それなりだったと思う。
 こうしてゆっくり食事をすると、醤油とか味噌が恋しく感じる。
 この世界には無いんだろうな。

 食事が済むと時刻を確認し、ダールフローデンをあとにする。
 結局、方々歩き回り四時間程度の滞在。

「疲れた?」
「いえ。全然問題無いです」
「鍛えられてるね」
「農作業やラビリントに居るより楽ですから」

 緊張感は無い。いや、デシリアが手を繋ぐから、そっちで緊張するくらいで。
 異性との距離感が壊れてそうな。

 帰りの汽車に乗ると窓枠に肘を突き、外を見ながら「こうして違う町に行くとね、開放感に浸れるんだ」なんて言ってる。
 ラビリントに潜ってると日の光を浴びたくなるよな。薄暗くて湿っぽくて少し臭い洞窟だもん。外の空気を思いっきり吸って、日差しを浴びれることが幸福だなんて。
 俺を見るデシリアが居る。

「最初見た時は険のある表情だったけど、少し丸くなったね」

 絶望してたからだと思う。抜け出せず足蹴にされて、何ら希望も見いだせずだった。
 でも、シルヴェバーリに来てからは、状況が一転して少しでも頼られてる、そう感じ取れたから。ちゃんと仲間として見てくれるし。ただの荷運びじゃない。
 人として接してくれるのが嬉しかったと思う。

「可愛い雰囲気出てるよ」

 なんかそれは嬉しくないな。可愛いより頼り甲斐のある男を意識してくれたらな。
 まだ今はおんぶに抱っこ状態だから、仕方ないんだろうけど。

「あ、不服そう」
「いえ。事実だと思うんで」
「可愛いってのはね、親しみやすくなったってことだから」

 そう言って微笑むデシリアって、なんか愛らしさがあるな。
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