不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.36 豪華な建物で演劇鑑賞

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 手を繋ぎ鉄道駅のミッティフォンに着くと、停車中の客車に乗り込み座席に腰を下ろす。

「イグナーツの手」

 デシリアが俺の手を取り見ているけど、まだ火傷の痕が残っていて軽度のケロイドになってる。有効な治療薬は無いらしく、加療士の能力で少しずつ改善するしかないそうだ。

「こんなになるまで、やらなくて良かったのに」

 手のひらを撫でてる。くすぐったいんだけど。
 目が合うと「二度とやらないで」と言ってる。

「あたしたちは誰かに無理をさせてまで、ラビリント攻略をしたいわけじゃない」

 みんなが平等に負担を分かち合い、ひとりに寄り掛かる攻略はしないのだと。無理をして怪我をされても困るし死なれても困る。
 全員が無傷で生還する、それこそが一番大切なことだと。
 互助の精神で乗り切って来た。これからも同じ方針だそうだ。

「モルテンも気にしてたしヘンリケも気にしてる」

 無理をさせたと反省するモルテンだそうで。そして傷を癒しきれないことで、力不足を実感したヘンリケだとも。
 ヴェイセルも弟子に負担を掛け過ぎたと後悔してるそうだ。だから銃をプレゼントしたのだろうとも。

「うちのパーティーは家族同然だから」

 全員が等価。誰かが上で誰かが下もない。

「イグナーツも同じ家族。だから無理はしないで」

 真剣な表情を見せるデシリアだ。
 確かに無理をしたと思う。少しでも邪魔にならないように、足手纏いにならないように、少しでも成果を上げようとして焦りはあった。みんなが凄すぎるから、並び立つためには無理を承知で、と思ってたし。
 重機関銃を抱え持ってしまえば、即応しやすくなるからそうした。
 ここで頑張らないと自分の存在価値は無い、そう考えてしまったのもある。

「失敗しても間に合わなくても、誰も咎めないから」

 そういう時は遠慮なく周りに委ねて欲しいと。
 そのための仲間。ましてや家族であれば支え合う関係じゃないのかと。

「分かった?」
「あ、はい」
「じゃあ次から絶対無理はしないこと」
「あの、ごめんなさい。心配掛けて」

 笑顔を見せるデシリアが居て「分かればよろしい」と言って、手を離し背もたれに背を預け「焦らないで、ゆっくり慣れればいいからね」だそうで。
 実戦経験が浅いのは百も承知。経験が浅いのだから対処しきれなくて当然。無理を押して致命的なミスをしなければ、それでいいと言う。対処できない時は周りを使えとも。みんな相応の経験を積んでいるから、ひとりの失敗をカバーするくらいはできる。だから頼れ、だそうだ。

「あ、それでね。今日の演劇だけど」

 急に話題が切り替わった。

「身分差の恋に悩む男女の話しなんだよ」
「そうなんですか」
「貴族の女性と一般市民の男性」

 この世界には貴族制がまだ残ってる。爵位はあっても権限は無いけど。所謂門地だけの存在。民衆が価値を認めることで存在を許される程度。
 国王は勿論居て、でも権限は無いに等しい。決して専制君主国家ではない。議会主義的君主制だから国王は君臨すれど統治せず、だ。
 民衆によって統治が成される民主主義でもある。立法も行政も議会による話し合いだから。

 これで専横政治だったら俺の処遇なんて、奴隷だっただろうな。差別は酷いけど移動までは制限されないし、奴隷にされることもない。一応、職業も選べる。就けなかったけど。
 その辺は民衆の意識の問題なんだろう。

「貴族の女性が古いしきたりのせいで、男性との恋を成就できないの」

 どこか似たような話があった気が。

「それで駆け落ち。あ、これ以上言うと」
「いえ、何となく分かります」
「え、知ってるの?」
「いえ。何となく想像できるような感じです」

 暫し汽車に揺られるとダールフローデンに着き、下車して今回は自腹で運賃を支払った。デシリアが払うと言ったけど、前回それなりの手当をもらえたことで、懐は温かいと言って押し切ったから。

「そのくらい払うのに」
「甘えてばかりいられないです」
「甘えじゃないんだよ」
「別の機会に何かあればその時に」

 駅から少し歩くと荘厳さを見せつけられ圧倒される、ルンハーヴ王立劇場と呼ばれる建物を前に立つ。ああ、そうだ。この国はルンハーヴ王国が正式名称。通常王国ってのは省略されルンハーヴ、と呼んでる。意味もあって静穏な海、らしい。複雑に入り組んだリアス海岸が多く存在する、風光明媚な海洋国家でもある。また島も数多く存在し無人島だらけだとか。

「なんか場違いな気がします」
「そんなことないから」

 一般市民に開放された娯楽の場なのだと。
 でも、どっしり構えた石造りの建物は、ファサードに飾り柱が複数あって、手前は広大な広場になってて。馬車や蒸気自動車が多数停車してるし。
 着飾ったスカート丈の長い淑女と、黒いフロックコート風の紳士ばかり。俺やデシリアのような軽装は居ないし。年齢層も高めで若者の姿もないから、凄く浮いて見える。
 金持ちの道楽の場としか見えない。

「気にしなくていいんだってば」

 気後れしていると手を取りエントランスに向かうデシリアだ。
 エントランスでチケットを購入するけど、受付の人の目が「この田舎者風情に何が分かるのか」って感じだった。冷たいんだよね視線が。
 全く臆することのないデシリアだったけど。ただ、チケット代は高い。一万五千ルンド。日本円で二万二千五百円。俺の財布にはそんな額は入ってないから、結局、デシリアの奢りになってしまった。弾薬買ったから残金はそんなに多くないし。

「あの、今度返します」
「返す必要無いからね」
「でも」
「お姉さんの好意は素直に受け取るもんだよ」

 押し切られた。しかもしっかり姉貴風を吹かせて。実際に姉として接してるんだろうな。彼氏に昇格するのは無理そうだ。
 手を取られホールに入ると立派な座席が多数並び、上を見ると天井が滅茶苦茶高くて四階席まである。至る所に細かい装飾があって、豪華絢爛って言葉がピッタリだ。

「場所はどこです?」
「えっとね。あ、三階席だね」

 二万二千五百円払っても三階席。天井桟敷じゃないだけましだけど。特等席って幾ら掛かるんだろう。
 ホールを一旦出ると階段を探し、上階に移動しホールに入ると、正面座席じゃなく右側の席だった。

「もっと高い座席券を買えば良かった」

 ここで充分です。一体幾ら掛かるのかと考えると、落ち着いて観劇なんてできないから。
 座席に腰を下ろし静かに待機。少々の声は聞こえるけど、総じておとなしく開演を待つ観客のようで。
 そしてホール内の照明が落とされステージだけが明るくなる。

「ここって、電気が来てるんですね」
「そうだね。一般家庭はまだガス灯だけど」

 金を掛けられる場所には電気がある。ガス灯よりやっぱり電灯は馴染みがある。日本はLEDに続々切り替わってたけど。
 竹製のフィラメント使ってたら寿命は短いんだろうな。何を使ってるかは知らないけど。

 開演すると会話はご法度。静かに演劇を楽しむ。
 でも退屈な演目だった。他人の恋物語なんて見ててもなあ。むしろ俺の隣に居るデシリアとの恋が成就したら、なんて思ったりも。
 意識すればするほど気になってくるし、なんか好きって気持ちが強くなるし。
 軽くため息が出た。

 デシリアは食い入るように見ていたようだ。女性って恋物語が好きなのかな。
 真面目な恋物語じゃなくて、ラブコメくらいならなあ。俺でも楽しめたと思う。少し堅苦しい感じで、何度欠伸が出そうになったか。
 終わると席を立ち「感動したぁ」なんて言うデシリアが居た。

「どうだった?」

 正直な感想は言えないよな。

「それなりに楽しめました」
「そう? イグナーツには少し退屈だったかな」

 なんかバレてる。

「令嬢が家を飛び出す場面とか感動しなかった?」

 覚えてません。

「伯爵の追っ手から逃げたりする場面は?」

 まじでごめんなさい。高額なチケット代をふいにしました。
 凡人には高尚すぎる内容です。
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