不遇だった荷物持ちは国内最高峰探索者パーティーに拾われた

鎔ゆう

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Sid.66 帰還と治療と打ち合わせ

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 対処が難しいってことで撤退。
 ただし、三十九階層から戻ると夜になる。結果、一泊してから戻ることになった。
 食事を済ませ今回の攻略に関して、反省会が開かれるけど、準備不足ってことで次は水や盾を用意して挑むってことに。
 そして就寝するけど。

「イグナーツの怪我は大丈夫なの?」
「あちこち痛むけど、我慢できるんで」
「治してもらえば?」

 いえ。場所が場所なんで。股間周辺にも浴びてるから、ちょっと出すのは憚られるし。
 俺の隣で寝袋に包まるデシリアが、こっちを見て心配してるんだけどね。
 でも、モルテンとかアルヴィンも怪我してるし、デシリアだって飛沫を浴びてる。痛いのはみんな一緒だと思う。

「今回は失敗しちゃったけど」
「良くあるの?」
「あるよ。初めて向かう場所はね」

 撤退自体は初めてのことではなく、往々にしてあるのだそうで。ラビリント内は未知のことが多く、足を踏み入れて初めて分かることの方が多い。
 引き際をどこで見極めるかで、その後の命運すら左右されてしまう。
 この判断がベテランとラビリント攻略に慣れ始めた、半端な探索者パーティーで異なるそうだ。なまじ経験を半端に積んでいると、もう少し行けそうだ、なんて考えて結果死ぬ。
 用心深さは生き残りに必須の要素らしい。

 翌朝ラビリントを出た際に守衛が驚いていたな。

「どこまで潜ったんだ? 酷い有様じゃないか」
「三十九階層だな」
「何があるとそこまで」

 ベテランパーティーですらも、無傷で済まないラビリント。
 攻略の最前線に立つも常に進めるわけでもないのは、守衛も分かってはいるようだけど。さすがに全員が草臥れた感じだと驚かれるんだな。
 あまり無理はするな、と言われラビリントを離れた。

 ホームに帰ると簡単なミーティングをする。
 みんなぼろぼろの状態だから、まずは怪我の治療や入浴に着替えを済ませる。怪我を治療されるのは俺だけど。他のメンバーに比べると一番飛沫を浴びてるから。

「脱いで」
「えっと」
「全部」

 リビングでは恥ずかしかろう、と言うことで自室で丸裸にされる。下着まで脱がなくてもと思ったけど股間の周囲にも浴びた。だから丸出し。
 全身隈なくチェックされ股間を前に、平然と治療するヘンリケって、治療中は一切気にしないんだな。でも見られると猛烈に恥ずかしい、なんて思ってたら「デシリアに使う予定の場所、浴びなくて良かったね」とか言ってるし。別に予定は立ってないし、デシリアにとか関係無く溶けたら困るな。
 背中も一応診てるようだけど、バッグを背負ってたから溶解液は浴びてない。

「はい、終わり」

 ペシっと尻を叩かれると「お風呂入っちゃいなさい」と言われる。なんか子ども扱いされてる気もしないでもない。
 ヘンリケも溶解液を浴びて怪我をしてるのに。そのせいでところどころ服に穴空いてて、白い素肌が見えるんだよね。肝心な部分は見えてないから、気にはしないようだけど。

「ヘンリケさん、自分の治療は」
「あたしは後回し。症状の度合いに応じてだからね」

 周りが守ってくれることで軽傷で済んでるそうだ。加療士を守り切れれば怪我の治療はできる。加療士が居ないと応急処置だけになり、探索自体が厳しくなるからだと。
 守ってるのはモルテンとかアルヴィンだよね。二人も結構、溶解液を浴びてたようだけど。俺より躱すのが上手いから酷くはなってないのか。

 部屋からヘンリケが出て行くと、服を着て風呂に入りに行き、戻るとバッグの状態も確認しておく。
 やっぱり穴が開いてるし。これだと破けてくるだろうし、新しいものを用意した方が良さそうだ。

 リビングに行きミーティングのために、全員が集合した時点でバッグの件を伝える。

「あの、バッグにも穴が開いてて」
「じゃあ、あとで買いに行こうね」

 デシリアと買いに行くことで決まった。
 決まるとミーティングに入るけど、内容は前日話したことの確認。

「水の量は倍にする。それとシールドだ」
「水を倍にしたらイグナーツに負担掛かり過ぎるよ」
「代わりにヴェイセルの予備弾倉は、自分の使用分を持てるだけ持つ」
「食料も各自で分散して持てばいい」

 ひとり三泊分の飲料が六リットル。全員分で三十六キロもの重量になってしまう。飲料だけでその量だとさすがにきつい。
 重機関銃が二十キロくらいある。予備弾倉とライフルに予備弾薬。それだけで百キロを超えそうだし。寝袋がひとつ二キロ前後で十二キロくらいになる。

 モルテンとデシリアが俺を見てる。

「イグナーツの意見も聞いておこう」
「無理はしないで」

 全員の視線が集まるけど、総重量が百十キロ超えだと過去最大。移動できるとは思うけど、走るのは無理かもしれない。あと戦闘も無理な可能性も。
 帰りは軽くなるから問題無いとしても、行きは相当な負担増になる。
 経験してない重量だから、一度全部詰め込んでみて試さないと。

「試してからじゃないと分からないです」

 と言うことで現時点で必要と思われるもの、穴は開いてるけどバッグに全てを詰め込んで、背負ってみることに。

「どうだ?」
「無理しなくていいからね」
「さすがに無理か」
「半端無いだろ、重さ」

 バッグが破けそうだ。背負って立ち上がってみるけど、相当踏ん張らないと持ち上がらない。重量百十キロ超えてるでしょ。下手したら百二十キロはありそうだ。
 人が担いで動ける重さじゃないと思う。
 それでも気合を入れて立ち上がると、後ろに倒れそうになるから、前屈みになって一歩踏み出す。

「おい、大丈夫か?」
「さすがに無理があるか」
「ねえ、潰れたら意味無いんだよ」
「立ち上がれただけでも凄いな」

 慎重に一歩ずつ進むけど足腰に来そうだ。バッグがずれても背負い直せないかも。
 これは想像以上だ。でも、みんなが必要とするなら何とかしたい。無能で役立たずの汚名返上したいし。
 ゆっくりだけど室内を歩き始めると、少し体が慣れてきたような。それでも気を抜くと引っ繰り返ること間違いなし。

「分かった」
「え、何がですか?」
「水を減らそう」

 水は一・五倍に留め、代わりに盾できっちり守ればいい、となった。
 九キロ程度の軽減だけど、これも試してみることに。中身を減らして背負ってみると、さっきよりは軽く感じる。
 重いものを持ったあとだからだ。歩く上で多少の支障はあるものの、移動できない重さじゃない。走れそうにないけど。

 あれ? でも、仮に六十階層とかの攻略って、今までどうしてたんだろう?

「あの、ひとつ質問があるんですが」
「なんだ?」
「どうやって深い階層の攻略してたんですか」

 スカラリウス無しで、どうやってと思うのは当然だろう。

「転移魔法陣を使い四十階層より下で、中間階層を省いて行き来する」

 どのパーティーも四十階層までは、自力で行く必要はあるが、それ以上に深い階層は転移魔法陣で移動するそうだ。
 四十階層に設置される魔法陣は、他の階層とは異なり特別仕様らしい。魔石の数も六個ではなく二十四個必要になる。
 使用する際はギルドに申請し、使用料を支払う必要はあるそうで。四十階層の魔法陣使用料は三万ルンド。六十階層で五万ルンドらしい。四万五千円から七万五千円。高いのか安いのか分かんないけど、楽できる分、安いと考えるのかどうか。
 使用する場合の条件があり、四十階層の階層主を倒していること。

「まあ、それ以前に四十階層に到達できる探索者は、殆ど居ないけどな」

 四十階層の次は六十階層になり、二十階層毎に特別仕様の転移魔法陣を使うそうだ。
 とは言え、現時点で最深は八十階層。このアヴスラグが何階層あるのかは不明。
 ゆえに初の百階層の期待もあるとかで。
 代わりに難易度が跳ね上がりそうだけど。すでに三十九階層でも怪我だらけだし。生きて帰れるのか不安になってきた。

「あたしが必ず守るからね」

 不安に感じていたことが顔に出てたみたいだ。デシリアに気遣われた。
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