上 下
76 / 161
第三章 異世界の馬車窓から

マモランドでの滞在………ストレス爆発

しおりを挟む

マモランドに到着した翌日、町へ出た………。

3日目、城の中を散策した………………。

4日目……部屋に閉じ篭った…………………………。

*****

「おーーい、ウチ、どうしたんだよ」
ドアの外からニトが声をかけてくるけど、僕はベッドの上で頭から布団を被っている。

「ホラ、飯持って来てやったぞ~。
食わないと大っきくなれないぞ~~」
どうせ大人サイズになるのに何百年もかかるんだから、一、二食抜いたって変わんないだろ。

「ドア開けないとスイが怒ってるぞ~~~」

……………………僕はドアを封鎖している力の妖精に、ドアを開けるように伝えた……。

「一体どうなされたのですか?」
嘘つき、スイ怒ってないじゃん。

「昨日も一昨日も、俺は身内に挨拶回りに行ってたから知らないけど、スイは一緒じゃなかったん?」
「いえ、私はネイ団長と次からの打ち合わせや、国への連絡、こちらの国の大臣との会議などで離れていました。
なかなかこちらまで来られませんので、色々仕事をしていたのです。
近衛の方々に護衛を頼んだのですけれど、ウチ様がとても人気があったとしか、報告はありませんでしたけど……」

…そう、僕は町でも城内でも人気者だった。
大人気だった……空港でファンに囲まれるハリウッドスターより、セクハラが発覚して報道陣に囲まれる政治家より…。

2日目、スイもニトもどちらも付いて来られないと分かった時に、外出はやめるべきだった。
自分の体質をもっと良く考えるべきだった……。

ええ、ええ、囲まれましたとも。
抱っこされまくりましたとも。
触られまくりましたとも…。

最初は一人二人と、ふら~と寄って来て、
「何だかソワソワする」
「私はドキドキする」
「尊い~~」
「ヤバイよ、ヤバイ!」

などと言いながら、頭を撫でるくらいだったけど、2人が5人、5人が10人、10人が……と増えていき、身動きが取れなくなったのだ。

護衛の団員さん達は、
「流石ウチ様、人気者ですね」
と、人垣の向こうでニコニコ笑顔で、ちっとも助けてくれなかったんだよ。

一緒に居たのがニトなら、何か上手いこと言って助け出してくれただろう。
スイとなら……そもそも取り囲まれなかったと思う。

そんなわけで、精も根も尽き果ててしまった僕は、次の日は城内を案内してもらったり、庭園を散策したりしたんだけど、正直言って町より酷かった……。

メイドさんの間で、誰が僕を抱っこして城の中を案内するかでバトル勃発。
それを止めに来た筈の兵士さんの間で取り合い、そこへたまたま通りかかったお偉いさんの奥さんに拉致られ、部屋に連れ込まれ、抱きすくめられているところに旦那さん来訪。
あわや夫婦喧嘩勃発か?と思いきや、旦那さん(モニモニメタボのイノシシの魔物……オークって言うんだっけ?)にむぎゅむぎゅされて。
そのまま2人に連れられて、別のお偉いさんの部屋へ。
そこで自慢するオーク夫婦。
自慢された鹿の角の生えた魔物は、
「こちらへもよこせ」
「嫌なこった」
「わたくしにも抱かせなさいよ」
「オホホホホ、ご冗談を」
と、諍いが……。
騒ぎを聞きつけた別のお偉いさん夫婦も交えて………………。


「ニト…この国どうなってんの?」
「いや~、国民の9割以上が魔物だからねぇ。
しかもその内の半数以上が純粋な魔物だから、仕方ないっちゃあ仕方ない事かも」
目を逸らしながら言う。

「じゃあこうなる事がわかってた?」
「ん~、ある程度は?」
ヘラっと言うニトに枕を投げるが、悲しいかな幼児の筋肉は、ベッドの横に立つニトに枕を当てることさえ出来ない。

「いや、俺ハーフじゃん?だからウチの事抱っこしたいな~とか、グリグリしたいな~とか思っても、そこまでガチ触る!とまでは思わないから、大丈夫かなぁって思ったんだけど……甘かった?」
小首を傾げたって可愛くないよ、逆にイラッとくるよ!

「甘いよ!激甘だよ!僕のライフゲージはマイナスだよ!」
「それにスイが一緒だと思ってたし。
ほら、スイってドラゴンハーフじゃん、だから他の奴らって気軽にそばに近づけないから、問題起きないだろうって思ってたんだよ」
ニトの言葉にビックリ。

「何?スイって群衆避けになるの?」
「知らなかった?
ハーフとは言え、最強種族のうちの一つのドラゴンの血が流れてるからね。
滲み出るものがあるみたいで、近寄り難いんだよ。
特に純粋な魔物にとっては、なるべくなら視界にも入りたくないらしいよ」

知らなかった、スイにそんな魔物避けの効果があるなんて。

「……否定はしませんが、少々大袈裟なのでは?」
「いやいや、ご謙遜を」

いつものように2人で言い合ってるけど、そんな事よりもスイの新たな可能性に考えが向かう。

そうして3人で話しているうちに、少しはストレスも薄らぎ、ニトの持って来てくれた朝食を食べながらも、今日は一日部屋で過ごすことにした。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】アラサーの俺がヒロインの友達に転生?ナイワー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:33

続・剣の世界 人間界の魔王

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【完結】異世界に召喚されて勇者だと思ったのに【改訂版】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:21

カースト上位の婚約者と俺の話し

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:5

処理中です...