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第五章 問題は尽きないようです
一回戦
しおりを挟む「さて、勝負をするのは良いけど、こっちが勝った時のメリットが少な過ぎるとおもうんだが?」
髭がいちゃもんつけて来る。
「こっちが勝っても、不法侵入を罰するだけだろ?
それって普通の事だ。
いきなり無断で執務室に入って来るのは国際問題だろ?」
「成る程!」
だからクマ将軍!
「そっちが勝ったら、不法侵入を無かったことにした上、交渉の場まで設けるんだから、フェアに考えると、こちらにも何かメリットが無いとおかしい話だよな」
「成る程!」
………ダメだ、将軍は交渉に向いてない。
同じ脳筋の筈なのに、髭は流石に国のトップだね。
役者が違うよ。
でも髭の言う事は最もかもしれない。
いきなり目の前、城の執務室に移転して来たら、速攻で捕まって牢屋に入れられても仕方ないよね。
それを交渉の場まで作ってくれるって言うんだから、一度だって負けるつもりはないけど、負けた時に国から出ていくってだけじゃフェアじゃないかも?
「なに、難しい事じゃない。
こちらが一勝でもしたら、一つだけいただきたいモノがある」
金か?
多分どうにか出来るたろうから頷くと、髭がニヤリと笑った。
「ならこちらが三勝であんたらの処刑、二勝で投獄、一度でも勝ったら国外追放と………アンタを貰おうか」
「なっ!!」
髭がイヤらしい笑顔で指を刺したのは、スイだった。
「いやー、アンタから強者の気配がビンビンと感じるけど、どんな風に強いのか全く見当もつかない。
拳闘士って訳でもないし、肉弾戦に向いている身体だとも見えない。
かと言って似合う武器もない」
強いて言うなら鞭か?
ニヤつきながら髭が言う。
ちょっと「あ、似合うかも」と思ってしまったのは押し隠して、一歩前に出る。
「人を渡せとは、随分な要求かと思いますけど?」
「どのみちこっちが勝ち続ければアンタらの命はこっちのものなんだから。
全勝したってそいつだけは助けてやろう。
俺の片腕として働いてもらおうかな」
ま、それ以外にも使い道はありそうだしと、ニヤケている髭に応えたのは、クマ将軍だ。
「よかろう、その条件をのもう」
クマーーーーーーーーーー!!!!
思わず蹴りを入れてしまった。
身長差の有る蹴りは、弁慶の泣き所に決まる。
蹲り脛を撫でながら、クマ将軍がそっと耳打ちをして来た。
「大丈夫ですよ、ウチ様。
例え一度でも負けるわけがない」
まあ、見てて下さい、と言ったクマ将軍は、腰から剣を抜き、対戦相手に剣先を向けた。
「さあ、では始めましょうか」
「あー、退屈でちょっとイラついたから、手加減なしで行かせてもらうぜ」
肩にかけていた戦斧を両手で持ち、将軍の対戦相手が構える。
「では一回戦といきますか」
皆が壁際まで下がり、髭が合図を出すと、戦斧を構えた男が、想像以上の速さで将軍に駆け寄り、その大きな斧を振りかぶった……。
手合わせと言っても形式ばった試合ではなく、勝つか負けるかの勝負なので、審判などはいない。
倒れた方が、死んだ方が負け。
フェンディスの手合わせはいつでも真剣勝負なのだそう。
流石に命までは取らないだろうけど、怪我した時のため、ニヤを呼んでおこう。
………なんて要らぬ心配でした。
男の振りかぶった戦斧は、斜めに構えた将軍にいなされ、勢いで僅かに体勢が崩れたところに、追い打ちをかける様な、将軍の足払いで男が地面に転んだ。
その男の首の横に剣を立てる。
「勝負有りでいいな」
言いながら剣を少しばかり首筋に当てる。
「ま…まいった」
呆気ない勝負だった。
瞬殺過ぎて、観客からブーイングの嵐だ。
「確かに体勢は崩したが、直ぐに立て直しただろ、あんな瞬間によく判断できたな」
ネイを挟んだ向こうに居る髭が呟く。
確かにほんの一瞬だったと思う。
重さのありそうな戦斧を振りかぶった時点で狙っていたのでなければ、転ばす事はできなかったと思う。
「流石と言ったところか。
アイツも欲しいな」
やらないよ、将軍は。
勿論スイだってやらないからね。
呆気なくても瞬殺でも、まずは一勝だ。
ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー
実はこの回、別サイトでアップした時漏れた回なんです。
今回修正していて気づいたんですけど、今更かとあちらでは抜けたままです。
なので辻褄が合わないったら………。
しかも二年前の作品なので、スイを欲しがる髭とあっさり勝つクマ将軍の話だとは覚えていても、詳細は遥か彼方……。
流れ的にこんな感じだと思います。
しかし一話丸々記載漏れで気付かないなんて………
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