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不穏な噂

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「しかし…キャシーの友達はヨルハイム嬢ではなかったのかい?
いつの間にオルグストー嬢と友達になったのかな?」
おぉう、妹の友好関係は把握済みですか、お兄様。

「年明けのパーティーの時にですわ」
「ああ、あの時か」
納得した様に頷いている。

兄の頭の中の【妹データ】が更新された様です………。

「ふむ…ヨルハイム家か……」
父と爺様が目と目で会話をしている様だけど、何かあったのか?

「キャスティーヌ、ヨルハイム家の娘から何か困った事を言われたりされたりしてはいないのかい?」
思わず「はぁ~⁈」って口から出そうになったかど、堪える。

「一体何のことですの?
クリスティーナ様は私の一番のお友達ですわ!
成績も体術もトップで優秀ですし、いつも私を庇ってくださって、今回だって私のせいでクリスティーナまで酷いことを言われていたのですよ?
学校の成績だけではなく、いろんな事を熱心に学ばれていて、でもそう言った事をひけらかす事もなく、とても素敵な、大好きなお友達ですわ!」

思わず力説してしまった。
大好き発言に反応してる人が3人ほどいるけど、放置。

「そうですよ、お爺様。
ヨルハイム嬢はいつもキャシーを気遣っていますね。
彼女がキャシーを困らせることはないかと思いますよ」

おお、珍しくと言うか、兄の口から女性への褒め言葉が出たの、初めて聞いた気がする。
「いや、その令嬢がと言うより、ヨルハイム家が最近良い噂を聞かないのだよ。
だからもしかしてと思ってな。
別にキャスティーヌの友達を悪く言うつもりでは無かったのだよ」
すまんねと、爺様が頭を下げてきた。

「謝られることはないですわ。
…………それより、クリスティーナ様のお家がどうかされたのですか?」
「そうだね、なにも事情を知らないと、どんな事に巻き込まれるか分からないから、キャシーにも少し説明しておくよ」

父が教えてくれた話だと、クリスティーナの父親は、領地経営があまり上手ではなく、療養していた妻の入院費や薬代で懐事情が芳しくなかった。
それでもなんとかかんとかこの一年やってきたのに、クリスティーナの三つ上の長男が、悪い友達に唆され、博打にハマってカモられて、女に騙されて酒に溺れてと、転落の黄金パターンに乗っちゃったと。

それでも亡き妻との最初の子だからと、放り出す事もできず、かなりやばい状態らしい。


「………クリスティーナ…そんなに大変な事が起こっているのに、私なにも知りませんでしたわ…………。
相談できないほど私って頼りないのでしょうか」
何も言ってもらえなかった事がショックだ。
俺の中のキャスティーヌが、懐いていた分傷ついている気がする。

「キャシー…それは違うと思うよ。
彼女はきっと心配かけたくなかったのではないのかな」
兄が言うけど、
「それでも!…………それでも言って欲しかったと思うのは我儘でしょうか……」
そう思っちゃうよ。

「そうだね、もしリズが大変な事になっているのに、僕に何も言ってくれなかったら……怒るし傷つくね。
何で何も言わないんだよってぶっ飛ばすね」

兄が言うと、それまで黙っていたリズヴァーンが言う。
「きっと相談しても仕方ないと思ったのではないのか?
大切な友達に愚痴を零すなんて、情けないところを見せたくなかったのでは?」
「ほう、リズは僕の心配より自分の自尊心を取るんだね」
ムッとした顔の兄に、首を振るリズヴァーン。

「プライドと言うか、やはりいつでも頼れる俺でいたいだろうな。
愚痴は聞く方が気分悪くなるじゃないか」
「それは自分のことしか考えていないと言うことなんじゃないのかな?
愚痴を零したり、情けないところを見せたくないとか、それこそ相手のことを考えていないと思うよ。
薄っぺらい付き合いならまだしも、弱音を見せられないほどの軽い付き合いなんてごめんだね」

「アル………」
「リズはよく愚痴を零す僕の事もそんな風に思っているんだ。
わかったよ、これからは情けないところを見せない様取り繕わさせてもらうね」
「アル!そうじゃない…俺はそんな事思っていない。
ただそう言う考えなのではないかと言っているだけだろ」
「ふん!どうだか」

えっと……俺たちは何を聞かされてるのかな?
痴話喧嘩かな?

「お兄様…話がずれてきていませんか?
言いたいことはわかりますけれど、続きはお二人でなさって下さいください」

「キャシー……ごめん」
「すまない、キャスティーヌ」

謝る言葉まで被ってる二人の事を、両親達はどう見ているんだろう。
俺にはカップルの痴話喧嘩以外には見えないのだけど…………。

おっと、話が明後日の方向へ行ってるよ。
「とにかく、ご実家がどうあれ、クリスティーナは大好きなお友達です。
これからもずっとお友達ですし、あり得ないですけれど、万が一クリスティーナが道を誤りそうになったら、その時は私が引き止めますわ」

「大好き……」

いやだから!そこ反応するとこじゃないって!

「そうね、キャスティーヌなら引きずられる事なく、お友達を助ける事ができると思うわ。
大切なお友達と寄り添うこと、正しく導くことは、大変ですけれど大切なことですわ。
でも何かあれば私達に相談するのですよ。
一人で無理しない様に」

お約束できるかしら?と首を傾げる母に、大きく頷く。

「ええ、そこで私まで引きずられてしまったら、逆に彼女の負担になりますもんね」
「そうね、貴女に何かあったら、相手の方が後悔するでしょう。
まだ若くてしがらみも少ない今なら、少しくらいの無茶はしてもいいと思うの。
だから貴女の思う様にやりなさい」
「お母様………ありがとうございます!
大好き!」

思わずソファーから立ち上がり、気持ちの赴くまま母に抱きついた。 

「あらあら、キャスティーヌは甘えん坊さんね」
コロコロと笑う母が頭を撫でてくれる。

「父様も力を貸すからな、キャシー」
言いながらカモーン!と両手を広げる父に顔だけ向けて
「お父様もありがとうございます」
と言う。 

「え?大好きは?ハグは?」

そんなボヤキは聞こえません。

新学期になったら、クリスティーナから話を聞き出してやる。







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