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ガチで怖かったよ
しおりを挟む校舎裏から更衣室へ連れて行ってもらった。
コルセットを締めなおさないといけないし、何よりリズヴァーンがモースディブスを殴った時に、嵌っていた残りのボタンが飛んでしまった。
このままでは帰れないから、更衣室にある予備のブラウスを着て帰ることにした。
リズヴァーンに周りを確認してもらい、人目を避けてなんとか更衣室までたどり着いたけど、安心して気が抜けたのか、足から力が抜け、床に座り込んでしまう。
なんだろう、なんだかめっちゃ怖かった。
生前は男の嗜みで、エロ本とかADとか見てたよ。
痴漢ものとか、ちょっと無理やりってやつもあったよ。
普通に見てたけどさ、女の立場からしたらシャレになんないんだね。
自分よりガタイが良くて、力では絶対に敵わない相手に退路を塞がれて………。
アレは演技じゃんとか言うやついるかもしれないけど、そう言うシチュエーション楽しみなよ、って思うやついるかもしれないけど……。
女になってわかった。
ただ、ただ怖い。
あの場では半ばパニクっていて、ぐるぐる色んなことを考えていたけど、思い出したらガタガタと震えてきた。
ちょっと立てそうにもない。
ついでにまた涙が出てきた。
最後までされなかったとか、そう言う問題じゃない。
本当に、本当に怖かった。
コンコンコン…
床に座り込んだまま膝を抱えて泣いてると、控えめなノックの後にドアが開いて、リズヴァーンが入って来た。
リズヴァーンは何も言わず、顔を伏せたままの俺を抱きしめ、背中をポンポンと叩く。
ただそれだけ。
何も喋らず、ゆっくり背中を叩く。
「うっ…………うわーーーん!」
リズヴァーンにしがみ付き、俺の中のキャスティーヌが……いや、俺の中のキャスティーヌと俺が、泣いた。
声を上げて子供のように、ただ、ただ泣いた。
それでも何も言わずに、俺たちが泣き止むまで、ずっと背中を叩いてくれた………。
その後泣き止んだ俺は服を整え、リズヴァーンに家まで送ってもらった。
家に着くまで二人とも無言だ。
家では泣きはらした俺を見た兄が驚き、それでも何かを察したのか、何も言わずに部屋まで連れて行ってくれた。
俺はそのままベッドに潜り込み、そこでまた泣いて、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。
次の日から俺は熱を出してしまい、そのまま週末まで学園を休むこととなった。
俺と一緒に兄も休み、俺の熱が下がるまでそばに付きっきりで、俺の世話をしてくれた。
けれど何も聞いてこなかったのは助かったよ。
思い出したくないし、口に出したくない。
でも、きっとリズヴァーンから聞いているんだろうな。
「お兄様……リズヴァーンから何か聞かれました?」
看病して休んでいる間はいいけど、学園でモースディブスを見つけたら、兄が殺しちゃわない?
「………キャシーが危ない目にあったとだけ…………」
「それだけなのですか?」
兄は頷く。
「キャシーが危ない目に遭っていたのに気付かないなんて、何のための探知魔法だ。
相手を殺してやりたいけど、リズが……口を割らないんだ」
そりゃあ言えないよ。
本気で何しでかすかわかんないんだから。
それに言わないってリズヴァーンが言ってたから、言わないだろうね。
「キャシー…キャスティーヌ、相手は誰なんだい?
僕が仇を打ってあげるから、教えておくれ」
「お兄様……ありがとうございます。
でも言えませんわ」
「なぜ⁈」
「お兄様に罪を犯させないためです」
本当に殺っちゃいそうだもん。
「お兄様、私は確かに怖い目に合いました。
それはうかつにも人目のない場所で、男性と二人っきりになった私の油断もありますわ。
それに相手の方も最初からそう言った目的ではなく、魔がさしたのだと思います。
だって、最初から不埒な目的なら、昼間の学園内、しかもいつ人が通るかわからない校舎のすぐ裏など選びませんわ。
校舎裏と言っても、窓を開ければ見下ろせる場所ですし」
「それでも!それでもキャシーは怖い思いをしたのだろう?」
「ええ、怖かったですわ。
だからこそ、もう二度と同じことがないように、一人で呼び出しに応じたりしないようにします。
例え呼び出しが女の方であっても、待ち構えているのが女性とは限りませんしね。
これからは十分気をつけます」
「それは素晴らしいことだけれど、報復が何もないのは……」
「報復ならば、リズヴァーンが相手を吹っ飛ばしましたわ」
「……そこでトドメをさせばいいのに」
「お兄様、リズヴァーンに犯罪者になれと言われるのですか?
リズヴァーンのおかげで大事に至りませんでしたし、慰めてくれて、家まで送り届けてくれて……。
あ、私お礼も言っていませんでした」
いや、本当どんだけテンパっていたんだか、礼の一つも言ってないなんて。
ん?なんでだか兄が微妙な表情を浮かべている。
「明日の放課後にでも来てくださらないかしら。
お礼を言わないといけませんわ」
「礼なら僕がしておいたから」
なんでだ?珍しく兄の顔が引きつっている?
「いえ、直接言いたいです。
リズヴァーンを呼んでくださいませんか?」
「やっと元気になったキャシーの頼みは聞きたいけど、今呼ぶのは………」
何か小声で呟いてるけど、小さすぎて聞こえないよ。
「お兄様?」
「……………わかった、明日来るように伝えておこう。
だから今日はもう寝なさい。
もっと元気にならないとね」
肩を軽く押されてベッドへ倒れ込んだら、肩まで布団をかけて頭を撫で、兄は部屋から出ていく。
「おやすみ、キャシー」
「おやすみなさいませ、お兄様」
しかし、意外だなあ。
リズヴァーンが兄に何も言わなかっただなんて。
【兄第一主義】【視線の先はいつも兄】なリズヴァーンなのに。
でも言わないでくれてよかったよ。
父に伝わると、きっとモースディブス家の店を潰しちゃうだろうし、学園に知られたら退学、兄に知られたら本当に殺っちゃいそうだし。
嫌なことされたけどさ、怖かったけどさ、やっぱりそこまでされるとさすがに後味悪いもんね。
心から反省さえしてくれて、二度と近づいて来なければそれでいいよ。
その方が早く忘れられそうだしね。
でもなんで、モースディブスの時は死ぬほど嫌だったのに、リズヴァーンとの儀式の時は平気だったんだろう。
初めてだったのに、泣きたくなるほど嫌じゃなかった。
やっぱりあれかな、キャスティーヌがリズヴァーンの事好きだったから、キャスティーヌ的には嬉しかった、とか?
………あまり考えない方がいいかもしれない……、うん、今の考えは無かったことに。
とりあえず、明日はキチンとお礼を言おう。
応援ありがとうございます!
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