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番外 クリスティーナ 1
しおりを挟む私の名前は、クリスティーナ・ヨルハイム、今のところ子爵令嬢ですわ。
私が幼い頃に祖父母が亡くなり、子爵家を継いだ父は、気が優しく穏やかで、周りの意見をよく取り入られる方です。
……つまり、小心者で周りの意見に流されやすい方。
領地運営も下手で、領民の声をどんなことでも聞き入れてしまうの。
例えば「市へ向かう途中荷車が脱輪して、商品が全てダメになったので、補填してくれ、その上税金も免除してくれ」なんていかにも怪しい話でも、調査も裏付けもせず、言われるままに見舞金を渡し、減税してしまった事もありましたわ。
我が父ながら無能としか言いようがありません。
領民の言いなりなので、人気は有りますけどね。
頼りない父の代わりに母が領地を仕切っていました。
でなければ早々に没落していたでしょう。
母は普通に領地を収めていたので、父の様に融通が利かないと、一部の領民から疎まれていましたわ。
それは言いなりな父のせいなのですけどね。
私には5歳年上の兄が一人います。
交友関係の広い、流行を取り入ることができる社交的な兄です。
……つまり、周りのバカに乗せられて、酒に博打にと手を出し、その支払いを全て家に回す愚息。
父は大事な跡取りだからと甘やかすばかりで、母が一人で尻拭いをしていまして。
そんな生活を続けていて、母が倒れるのは当たり前だと、なぜあの二人は気づかなかったのかしら。
元々父と母は、この国では珍しい、政略結婚でしたの。
勿論公には伏せていましたけれど。
母は元々身体があまり丈夫ではなく、動き回れない分学問に熱中していたそうですの。
身体が弱い上に、その辺の殿方より頭の回転が早かったので、倦厭されていて、親しくされた方がいなかった様です。
その頭の良いところを見込まれて、父の助けになって欲しいと申し込まれ、他に嫁ぐ相手もいなかったので受けたと母から伺ったことがあります。
母の手腕に、父は全ての仕事を母に任せて、ご自分は趣味と領民との交流に勤んでいたそうよ。
兄様の性格は絶対に父譲りだと思いますの。
私が12歳の時、とうとう母が倒れてしまいました。
母は療養のため、家を出て母の実家へ戻りました。
私も母の世話をするためにと、一緒に付いて行ったわ。
母の実家は男爵家なのですけれど、そちらは叔父が跡を継いでいるので、一人で老後を過ごしている祖母の元で世話になっていたのです。
けらどあのバカ兄が、お金がないと無心に来るのですよ。
可愛い孫の頼みだからと、私がやめてと言っても、祖母は兄にお金を渡し続けたわ。
父は父で、領地の運営が滞っていると、何度も何度も母に戻るように手紙を出してくるの。
折角引き離したのに意味がなく、あの二人のせいで母は一向に良くならず、逆に衰えていったわ。
私が14歳になる頃、兄が祖母からお金を受け取っているのを知った叔父から、縁を切られてしまったの。
私と母は祖母の家から出て行くように言われてしまったの。
その後田舎の小さな村で母とひっそり、平民として暮らしていたのに、父と兄に見つかって、また仕事の押し付けと、お金の無心の日々が始まってしまったわ。
そして、一年も経たないうちに母は亡くなってしまいました………。
そのまま逃げようとしたけれど、無理やり連れ戻されてしまったわ。
母を追い詰めた二人の元へなど戻りたくは無かったけれど、まだ成人もしていない私には、一人で生きて行く術がなかったの。
さすがに母が亡くなったことにより、父は領地経営を頑張っているみたい。
兄も博打から足を洗ったようだけど、二人ともきっと一時的なことだと思うわ。
だから私は、一人で生きていける知恵と術と力を手に入れようと決めたの。
一年遅れたけれど、学園に通って、知識を得て、できればコネなども掴めればいいわね。
などと考えていたのですけれど、学園の貴族子女は悪い意味で、【貴族の子達】でしたわ。
コネどころの話ではありません。
もう、これは一人で生きて行くための下準備の場所と割り切って、学べることを学び卒業まで過ごそうと思っていました。
そんな時に、数人の女性に囲まれ泣いている子供を見かけましたの。
要らぬお節介だとは思いましたけど、ついついその子供を助けてしまいましたわ。
まあ、実際は子供ではなく、同級の伯爵令嬢でしたけれど。
噂話が嫌いでしたので、知りませんでしたけれど、学園内でも有名な、優秀なお兄様がいらっしゃる方のよう。
そのお兄様に庇われているのが面白くない方がいらっしゃるようですわ。
それと、幼い顔立ちに似合わぬ豊満なバストが嫉妬されているみたい。
オドオドしていて、思ったことも口に出せず、いつもお兄様の影に隠れて、自分の中に篭っているような方ですわ。
正直……虐められるのはわかります。
でも、そんな彼女が、私だけに懐いてきますの。
はにかみながらも笑顔を見せて、私のことを尊敬の眼差しで見つめてきます。
ちょっと自尊心をくすぐられますわ。
それに、小動物に懐かれたようで、可愛く感じてきましたの。
その彼女、キャスティーヌ・サリフォル様は、私の唯一の友達となりましたわ。
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