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新生リズヴァーン

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妊娠が発覚してから十日程過ぎた。
リズヴァーンの両親は領地へ戻り、リズヴァーン本人はそのまま滞在している。

両親達は今まで以上に俺に激甘だ。
でもそれに輪をかけてリズヴァーンが甘い。
こいつこんなキャラ違ゃうやん!って突っ込みたくなる程甘々だ。
そんな甘い日々に少しずつ慣れて来ている今日この頃。

これからの大まかな予定としては、俺は予定通りに王都へ戻ることとなる。

現代社会と違い、出産で命を落とす女性は少なくないそうだ。
だからこそ、万が一を考えて、腕の良い医者が多い王都で出産する事に。

赤子の死亡率も高いから、生後半年から一年は王都で過ごし、その後結婚式を挙げ、リズヴァーンの領地で新生活を開始する。
そんな流れになるそうだ。

生まれた子は乳母が育てるのが貴族なんだそうだが、うちの両親もリズヴァーンの両親も、サポート役として乳母は雇うけど、自分で育てたと聞いた。

元庶民としては、自分で育てるのは当たり前って気がするけど、サポートはありがたい。

ほら、よく【育児ノイローゼ】とか耳にしてたし、夜泣きにキレて子供に暴力振るうとかも聞いたことがあるから、手伝いの手はありがたい。

しかし子連れの結婚式……うん、またぐるぐるなるから今は考えないでおこう。


美味しいものを食べ、体を動かすために庭や領地を散歩して、疲れたら部屋で本を読み、兄からお店のことについて色々聞き、母や婆さまから子育てのこと(俺や兄の赤子の頃の話)を聞き、のんびりと過ごす。

全てに付き添うリズヴァーン。
最初は違和感あったけど、そのうち慣れた。

母に教えてもらいながらお守り刺繍もしている。
赤ちゃんグッズ(スタイや靴下など)を作り、刺繍を入れていく。
なかなか上手くいかないけど、頑張っている。

珍しくリズヴァーンがそばに居ず、母と二人きりでチクチクしていた時に、母が話してくれた。

「なぜあんなにもリズヴァーンが気を配っているのか不思議でしょう」
「ええ、そうですわね。
いつもならお兄様と離れな……一緒に……えっと…」
なんと言ったらいいのやら。

「ほほほ、リズヴァーンはアルバートの事が大好きですものね。
出会った頃からずっと側に付き添っていたわ。
それが今では貴女に付きっきりですものね。
ちょっと鬱陶しく思っているのではなくて?」
母よ、言いにくい事をズバッと言うねぇ。

「そんな鬱陶しいだなんて。
私を思ってのことなのですから」
「きっとマギーも言わないでしょうから、私が伝えておくわ。
リズヴァーンには三つ下のきょうだいが居たはずなの」
え?初耳なんですけど?

母が教えてくれたのは、リズヴァーンが生まれた3年後、マギーおばさんが妊娠したらしいんだけど、本人も周りも気づかず、普段通りに狩に参加していた時に、魔獣の突進を避けて転び、流産してしまったと。
自覚のないまま流れてしまった子供にショックを受けたおばさんは、暫く塞ぎ込んでしまい、泣き暮らしたそうだ。

いつも元気な母が泣く姿を近くで見ていたリズヴァーンの心にも、少なからず傷を残したようで、リズヴァーンまで暗く沈みがちになってしまい、これではダメだと立ち直ったそうだけど、それ以降どんなに望んでも子供はできなかったそうだ。

リズヴァーン本人は兄との出会いの衝撃で色々吹っ飛んだみたいで、あっという間に元どおりになったそうだ。
それから兄への依存のような執着が生まれたようで、実はうちもリズヴァーンの両親も、このままでは不味くないか?と心配していたそうだ。

そんな時に俺…いや、キャスティーヌがリズヴァーンに想いを寄せるようになって、これは是非とも二人をくっつけてしまえ!となったんだって。

しかしまぁ、なかなか頑ななリズヴァーンに、無理なのか?と思っていたら、少しずつ俺達の壁がなくなって来て、いきなりの婚約申し込み。
よし!この機を逃すな!と思っていたけど、なんだかんだで距離が縮まっただけのまま。

このままでは俺が不幸になるのでは?
と思っていたら、まさかの妊娠発覚。
その衝撃の事実がリズヴァーンの過去の傷にどう働いたのか、今の新生リズヴァーンになったんだって。


んー、物心ついた頃に母親が泣き暮らしていたらトラウマにもなるよね。
それが新しい命を育むことで傷が無くなるのなら、それはいいことだと思う。
本人も言ってた【家族】に対しての感情も加わると、あの喜びもわかる気がする。

でもこれで俺が流産でもしようものなら………考えるだけで恐ろしい。

こりゃあリズヴァーンとその両親の為にも頑張って元気な子供を産まなけりゃなんないよね。
頑張って安静にして、栄養とって、心穏やかにストレス溜めず、妊娠生活を送らなければ………ん?何か矛盾がある気がする?

でもまあ、そんな重い話抜きにしても、母子共々無事に出産を終えたいよね。

折角の第二の人生、キャスティーヌの意識を乗っ取っている現状、俺の記憶が戻らないままなら、100%キャスティーヌが送っただろう新婚生活を円満にする為にも、まずは無事に出産。
俺としても、結婚から逃れられないんだから、穏やかな生活を送りたい。

何より死にたくない。
勿論新しい命の炎も消したくない。

周りのためにも、お前自身のためにも、元気に育って無事に生まれて来てくれよ。

そんな事をつらつらと考えながら刺繍を入れる昼下がりの一幕でした。






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