突然、カバディカバディと言いながら近づいてくる彼女が、いつも僕の平穏な高校生活を脅かしてくる

こげ丸

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【第15話:かばでぃと考察】

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 貴宝院さんのお弁当は、いかにも女の子らしいお弁当箱……かと思いきや、古風な漆塗りっぽいお弁当箱だった。

 中身も、筑前煮のような煮物類や焼き魚の切り身など、なかなか渋いお弁当だ。

「貴宝院さんのお弁当って、ザ・和風って感じだよね」

「な、なによ? ザ・和風って……まぁ、今日のお弁当のテーマが『和』だから、間違ってはいないけど」

 最近の女の子は、お弁当にテーマなんてつけるのか……?

「なにその『今日のお弁当のテーマ』って……?」

 僕がそう尋ねると、少し恥ずかしそうに視線を逸らしてから答えてくれた。

「さ、さやかがね。ちょっとだけ好き嫌いがあるの。それで、何とか色々食べさせるのに、お弁当サイコロを自分でふらせて、そのテーマに沿ったお弁当を次の日に出しているのよ」

 そして最後に「自分で決めたテーマのお弁当なら我慢して食べてくれるの」と言って、フキノトウをぱくりと口の中に放り込んだ。

 まさかのお弁当サイコロの存在……。
 残り五面の内容が気になる。

「へ~凄いな。でも、それって大変じゃない?」

「お料理は趣味みたいなとこもあるから、楽しいし、そうでもないよ」

 と言って、今度は筑前煮と思われるコイモをパクリと。
 なんか、パクパクとちょっと食べ方が意外と可愛らしい……。

 そんな風に思っていたら、

「あ、あんまり食べるとこ、じろじろ見ないで……」

 と言って、注意されてしまった。

「あぁ、ごめん。なんか可愛い食べ方してるから」

「わ、悪かったわね……多少は、変な食べ方かなぁって自覚はあるのよ……多少は……」

 なんかちょっと気にしていたみたいで、少し拗ねたようにそう言って口を尖らせた。
 少し拗ねた様子の可愛らしい仕草は、いつでも凛としていて、貴宝院さんにはそういうイメージが無かったので、なんだか新鮮に見えた。

「そ、それより、本題に入りましょ!」

 そうだった。
 元々、貴宝院さんの能力の説明を聞いて、なぜ僕にその能力が効かないのかを考えようって話だった。

「ごめんごめん。じゃぁ、まずは貴宝院さんの能力について、詳しく聞かせて貰える?」

「うん。まず、私の能力だけど、自分が決めた特定の言葉ワードを繰り返し口に出す事で徐々にその効果を発揮していくの」

 この特定の言葉ワードというのは、前に少し聞いていた。
 貴宝院さんは「かばでぃ」で、さやかちゃんは「みーん」だ。
 だけど、徐々に効果が出るというのは初めて聞く話だった。

「という事は、いきなり一言だけ『かばでぃ』って言っても効果はなくて、何度も繰り返す事で徐々にその効果が出てくるってこと?」

「そう。二言目から徐々に効果が発揮されるわ。それで、ずっと繰り返していると、言うのを止めてもすぐに効果は切れず、徐々にその効果が薄まっていくの」

 能力の発動の仕方は何となくわかったかな?
 徐々に効果が薄まるのなら、目の前に突然貴宝院さんが現れたような事にもならないだろうし、使う時に変な気を使わなくて良いかもしれない。

「効果がどういう風に発揮されるかは何となくわかったよ。それで、肝心の能力の方は? 認識がされなくなるみたいだけど、それって具体的にはどういう事なのかな?」

 と、一番重要な点を尋ねてみたのだけれど、貴宝院さんは少し難しそうな顔をして、あまり期待した答えは返ってこなかった。

「具体的にって言われると説明が難しいな……例えば、教室で私が能力を使ったとすると、特に関心のない一クラスメイトみたいな感じるんじゃないかなぁ? もしかすると、机や椅子みたいな感じかもだけど……」

 ん? なんだか自分の能力の認識がいい加減だな。
 一クラスメイトと机や椅子とは、だいぶんかけ離れていると思うのだけど……。

「もしかしてだけど……貴宝院さん自身、自分の能力についてあまりよくわかって無いの?」

「そ、そうなの。実は私自身にはこの能力が効かないから、実際にどう感じるのかわからないのよね……」

 という事は、さやかちゃんに聞くことも出来ないという事か。

「ん~……ちなみに、僕以外で貴宝院さんのその能力の事を知っている人っているのかな?」

「今、この能力を受け継いでいるのは親類の中でもうちだけなのよね。だから、親戚にも知っている人はいなくて、お母さんとさやか以外では、神成くんだけかな?」

「僕だけなのか。困ったな。まずは能力をしっかり把握したかったんだけど……」

 僕しか知らない秘密とか言われると、ちょっと嬉しい気もしないでもないけど、いきなり行き詰った……。
 正や小岩井になら話しても口外する事は無いだろうと僕は信用しているけど、そこまで付き合いの無い貴宝院さんに強いるのもちょっと悪い気がする。

「能力の詳細を把握するのは、これ以上考えても仕方ないし、一旦置いておこうか。しかし、どうして僕に効かないのかさっぱりわからないね」

「ごめんなさい。今までそんな人出会ったこと無かったし、お母さんともそういう話をした事なかったからな~」

「そっかぁ……あ、でも、それなら念のため、お母さんに今までそういう人がいなかったのかとか聞いてみてよ」

 そういう話をした事がないのなら、意外と実は今までにも何人かそういう人と出会っているのかもしれないと思い、お願いしてみた。

「そうね。今まで話をした事なかったから、あらためて聞いてみたら、何か知っているかもしれないわね」

 そんな会話をしていると時間もあっという間に過ぎていき、貴宝院さんのスマホがもうすぐ昼休みが終わりだと、アラーム音を響かせた。

「っと……そろそろ戻らないとだね。どうしよ? バラバラで戻ろうか? かばでぃ言い続けるの疲れるでしょ?」

 ここまでずっと言い続けるのも大変そうだったので、そう提案したのだけど、

「一緒で良いわよ。どの道、教室までこの能力使って戻らないと、いろいろ尋ねられるから」

「そ、そうなんだ。貴宝院さんって、ほんとにいつも苦労してるんだね……」

 思わず口をついて出た言葉だったけど、貴宝院さんに

「や、やめてよね……なんかそんな事言われたら、ほんとに惨めな気分になるじゃない……」

 と言って、乾いた笑いを浮かべさせてしまった。

「ご、ごめん! そういう意味じゃなかったんだけど、大変だなぁと思っただけで」

「別に大丈夫よ。あまり考えないようにしてただけで、もう慣れたから。それに……神成くんに秘密を打ち明けてから、ちょっと気が楽になったしね」

 と、今度は自然な笑みを浮かべて、いつもの言葉をつぶやき始めた。

「カバディカバディカバディ……」

 ちょっとでも楽になったのなら良かった。
 そう思いながら、貴宝院さんに袖を掴まれる形で、僕も後に続いたのだった。
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