突然、カバディカバディと言いながら近づいてくる彼女が、いつも僕の平穏な高校生活を脅かしてくる

こげ丸

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【第18話:かばでぃとなんかムカつく】

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「カバディカバディカバディカ……こんな感じで良いかな?」

「うん。もういいんじゃないかな?」

 二人に十分すぎるほど効果を発揮したのを確認したので、もう解いてもらっても問題ないだろう。

 ただ、この貴宝院さんの異能は、効果を解くにはただ待つことしか出来ないので、二人で今の効果について話をしながら待つことにした。

「貴宝院さんの能力って、ただ認識できなくなるって感じじゃなくて、貴宝院さんの存在自体が徐々に意識できなくなっていく感じなんだよね?」

 今更だが、初めてその能力に気づくきっかけになったあの時、放課後にクラスメートのみんなでカラオケにいこうと盛り上がっていた時の事を思い出す。
 あの時のことを、もっとちゃんと考えていれば、もっと早く気づけたかもしれない。
 貴宝院さんはクラスメートの皆に囲まれている状況から能力を使い、その後クラスメートたちは、まるで何事もなかったかのように下校したのだから。

「そうみたいね。ただ、実際にどういう風な感覚でそうなっていくのか、その感じ方や過程は聞いたことがないから、ちょっと今から楽しみかも?」

 さすがにこの能力をずっと使ってきた貴宝院さんは、その効果のおよび方についてはだいたい把握しているようだが、その感想を聞けることに興味津々といった感じだ。

 そんな会話をしている時だった。
 僕が貴宝院さんと話しているのを、正が不思議そうに眺めてから、話しかけてきた。

「なぁ、とまっちゃんよぉ。いったいさっきから誰と話してんだ?」

 どうやらまだ効果は完全には切れていないようだが、僕が誰かと話しているのは気づいたようだ。

「ん~? 正は誰だと思う?」

「誰っておまえ、そりゃぁ……だれだ? 知らねぇやつ」

 正の効果は話してるうちに徐々に弱まっているようだが、まだ効果が切れるまでにはいっていないらしい。

「な、なにこれ……えっと、あなたは確か……く、クラスメートの……」

 ただ、小岩井は正よりも効果が薄まってきているようで、

「あぁぁっ!? 貴宝院さん!」

 気づいた瞬間、思わず大きな声を上げていた。

「はーい。小岩井さん、貴宝院さんですよ~♪」

 その大声に一瞬驚いた表情を見せた貴宝院さんだったけど、楽しそうに手を振って返した。

「な、なんか貴宝院さん、楽しそうだね……。えっと、それで小岩井、どんな風に感じた? というか異能についての話はちゃんと覚えてる?」

 僕がそう尋ねると、小岩井は一瞬きょとんとした表情を浮かべてから、その表情を真剣なものへと変え、確かめるように呟いた。

「え? えっと、お、覚えているわ。うん。ちゃんと覚えてる……」

 そして、ようやく頭がすっきりしたのか、しっかりと話し始めた。

「貴宝院さん! す、凄いわね! ほんとにこんな能力を持った人がいるなんて! ほんと凄いよ!」

 と言って、テンションが振り切れてしまったのか、貴宝院さんに抱きついた。

「きゃっ!? ちょ、ちょっと小岩井さん!?」

 も、もっと……じゃなくて、なんか目のやり場に困るんだけど……。

「えぇ~! だって、凄いよ! 美人で成績優秀で運動も出来て、おまけに性格良くて皆に好かれていて、それで異能持ちとか、ちょっとどれだけ属性持ちなのよ!」

 恥ずかしがる貴宝院さんが身をよじって逃げようとするのが、なんかこう……。

「むっ? 兎丸! 目がエロい! あと顔もエロい!」

「顔はほっといてよ!?」

 そんなやりとりをしていると、そこで正が話しかけてきた。

「なぁ、とまっちゃん?」

「ん? なに?」

「その小岩井が抱きついてる子は誰だ?」

「「「えっ!?」」」

 その質問に三人の驚きの声が重なった。
 もう小岩井は効果が切れてだいぶん経つというのに、正は未だその効果が切れていないようだった。

「誰って、正、まだわからないの?」

 僕のその質問にも、どうもまだ貴宝院さんの事がはっきり認識できないようで、うんうんと唸っている。

「あ、なんかクラスメートにそんな子いたような? 陰薄いやつだったか?」

「う、うん。そうだね。クラスでこれ以上にないぐらいダントツで目立っている子なんだけどね……」

「変ね。私はもう完全に効果が切れてるのに、本郷はまだ中々元に戻らないみたいじゃない」

 どう言うことだろうか。
 今回の貴宝院さんが異能が使えるって話はすぐには信じなかったが、なんでも鵜呑みにしてすぐ信じる奴だから、能力の効きが良いとかだろうか?

 そんな事を考えていると、少し口を閉ざして何かを考えていた貴宝院さんが口を開いた。

「えっと……今まであまり意識はしてなかったんだけど、今思い返してみると、いつも能力を使う時、すぐに目に見えて効く人と、少し時間差で効く人がいたような気がするわ」

 人によって効き方が違うと言うことか。
 言われて考えてみれば、僕みたいにまったく効かない奴がいるぐらいなのだから、それも当然かもしれない。

「なるほど。僕みたいに全く効かない人はほとんどいないにしても、人によって効き方が違うのは普通にありえる話だね」

 僕が自分の考えを言ってみたところ、

「えぇぇ!? 兎丸には効かないの?」

 小岩井が、僕が効かないということに驚いていた。

「そうなんだ。それで貴宝院さんとも少し話すようになって」

 と、話をしていると、今度は僕の隣から大声があがった。

「あっ!! 貴宝院じゃん!」

 遅いよ……そして超うるさいよ。
 店中の人が一瞬こっち見たし!

 まぁ、正の顔見てすぐ目をそらしたけどね!

「本郷やかましい……でも、ようやく効果が切れたみたいね」

 しかし、中々話が進まないな。
 とりあえず早く小岩井にどんな感じだったのか、教えてもらおう。

「ちょっと正のことは少し置いておいて、先に小岩井の感じたことを教えてよ」

「あっ、そうね。話そうとしていたところだったわね」

「小岩井さん、お願いします」

 と、ようやく話が進むかと思ったんだけど……。

「えっと、その前に……心愛で良いわよ。女子はだいたい下の名前で呼んでるし……」

 え? なに? なんでこのタイミングで小岩井がデレてるの?
 とか思ってたら睨まれた……。

「わかった。じゃぁ、心愛も私のことは葵那でいいよ」

「りょうかい。じゃぁ、葵那。それでどう感じたかなんだけど、まず私はなるべく葵那の認識がはずれないように集中してたのね」

 たしかに正と違って、小岩井はなんとか覚えておこうと抵抗を試みていたように感じた。

「でも、集中は切れてないのに、徐々に葵那のことをちゃんと見ていられなくなっていったわ」

「ちゃんと見ていられなくってのは?」

「そっか……兎丸もこの感覚わかんないのか。なんかムカつく……」

「いや、ムカつかれても!?」

 僕の扱いが理不尽だ……。

「まぁいいわ。それで具体的に言うと、葵那はそこにいるのはわかっているのに、徐々に気にならなくと言うか……まるでどうでも良い存在のような気がして、それで葵那のことを考えられなくなる感じ?」

「へ~そんな風になるんだ」

「やっぱ、なんかムカつく……兎丸のくせに……」

 やっぱり僕の扱いが理不尽だ……。

「ま、まぁ神成くんのことは置いておいて、でも、そんな風に感じて認識できんくなるのね。教えてくれてありがとう」

 その後、皆でポテトを摘まみながら二回ほど実験をし、明日、みんなでお昼を一緒に食べる約束をして、その日は解散したのだった。

 あれ? そんな簡単にお昼を一緒に食べる約束して大丈夫だったんだろうか……。
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