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1章
7.イマジナリー
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ニールは天蓋付きの豪華な寝台の上で目を覚ました。
空は白みかけているが、朝日は完全に登っておらず夜はまだ明けていない、静寂の時間のはずだった。
ニールは、誰かがボソボソと話しているような声を聞いた。でもそれが誰かわからず怖くて、そっと起きて辺りを探った。声は寝室の奥にある扉の中から聞こえてきているようだった。明かりも少し漏れ出ている。
ニールは姿勢を低くして、光が漏れ出ていた扉の隙間から中を覗き見た。
中にいたのはレオンハルトだった。そこは衣装が沢山かけられているクローゼットで、奥に姿見があった。レオンハルトは姿見に身体を預けて立ったまま、何かを呟いていた。
「ようやく聖女召喚の儀式が終わったと思ったら、やはり魔法はど素人で一から教えなければならないなんて、ふざけやがって。どれだけ金がかかったと思う?もう嫌だ。」
「我慢しろ、もう少し。瘴気の浄化が終わるまでの辛抱だ。」
「そうもいかない、異世界から召喚したんだ。責任を取らされて、あいつが私の正妃になる。少なくとも母上はそのつもりだ。嫌だ嫌だ。」
「よく見たら、可愛い顔をしているじゃないか。大丈夫・・。」
「可愛くない。胸もないし、黒目黒髪なんて無理、魅力がない。愛がない結婚になってしまう。」
「王族の結婚なんてみんなそんなものだ。結婚後、信頼関係を作っていくんだ。」
(質問や疑問を口にしているのも、それに答えているのも、どちらもレオンハルト殿下?鏡を見ているけど、魔道具ではないよな?魔法の気配は感じないし。)
レオンハルトの表情は見えなかった。
ニールは見てはいけない物を見てしまったような気がして、手にじっとりと汗をかいた。
「それとあいつ、ニール・ノーラン。俺の寝台で寝やがって。男に襲われた直後に、男の寝台で熟睡するなんて何考えてる。」
「あいつは・・明日には出ていくから、大丈夫。」
(俺の寝台?!ではここは、レオンハルト殿下の寝室だったのか・・!昨日浴室で寝てしまって・・ああっ、ごめんなさい・・・!)
ニールはこれ以上聞いてはいけないと思い、あわてて寝台に戻った。布団を被って、動かないでいると暫くして、クローゼットが閉まって寝室から人が出ていく気配がした。ニールはほっと胸を撫で下ろした。
(しかしあれは、殿下の本音だと思うけど、、愚痴を言う方と正論で慰める方と、どちらがより本音なのだろうか?)
質問をするのも答えるのも自分・・・それも鏡に向かい合って。鏡の向こうの、空想の自分と対話しているかのようだった。
そこからニールは一睡もできなかった。
と、思ったのだが、布団を被っていたら眠ってしまっていたらしい。起きた時、既に日は高くなっていた。まもなく正午、という時間になってレオンハルトに起こされた。
「王妃殿下がお呼びだ。支度をしてくれ。」
「は、はい。」
レオンハルトはニールの服まで用意してくれたようだった。特に怒られはしなかったのだが、ニールはレオンハルトの本音を知っていたから、恐ろしくて顔を見る事ができなかった。
着替えを終えると、すぐにレオンハルトについて王妃・ソフィアのところに向った。
「遅い!」
「申し訳ありません。」
(先日謁見の間で、全く話さなかった王妃が、開口一番喋った!!)
ニールは驚いたが、レオンハルトは慌てた様子もなく冷静だった。
そこは王妃専用の応接室とのことだった。瀟洒な装飾が施されたテーブルに、ソファー。テーブル上には美しい彩りの菓子とティーセットが置かれていた。王妃を上座にして、向かい合って座った。
「王立魔法学校の入学式の件ですが、総代はレオンハルトに決まりました。挨拶の準備をなさい。」
「かしこまりました。」
レオンハルトが答えると、ソフィアはテーブルを拳で叩いた。ティーセットがガチャン、と音を立てて揺れた。ニールは驚いて、固まった。
「本来、今年の総代はそこにいるニール・ノーランでした!ニール・ノーランが兄の魔力を使ったという一件があった為に、貴方は運良く恥をかかずに済んだのです!」
「もうしわけ・・」
レオンハルトが言いかけた瞬間、ソフィアはティーカップのお茶をレオンハルトに投げつけた。
「それでも王家の人間ですか?!恥を知りなさい!」
「申し訳ありません。」
ニールは顔面蒼白でそのやり取りを見ていた。陛下が王妃に絶対服従の意味がわかった。
(お、恐ろしすぎる・・!)
「今後卒業まで、如何なる理由があろうとも王家の名に恥じる行為は許しません!いいですね?!」
「肝に銘じます。」
レオンハルトはそう言って頭を下げると、その場を後にした。
ニールは固まったまま、動けなかった。
「あなたも、陛下の初恋の男の子供だからと調子に乗るなら、ただじゃおかない。」
(先日、息子さんにも同じことを言われました!)
そう言うわけにもいかず、ニールはただただ固まっていた。
「レオノーラの魔法の基礎についてはあなたに任せる事にいたします。しかし、闇魔法のことは口外しないこと。いいですね?」
「か、かしこまりました・・。」
(休み返上、決定・・・!)
ニールは震えながら、王妃の部屋を後にした。
その後、レオンハルトの侍従から、ニールの部屋をレオンハルトの使用人用の部屋に移すと連絡があった。浴室はないので、レオンハルトの居室の浴室を使うようにと指示された。
レオンハルトの使用人室からは、レオンハルトの書斎の明かりが確認できる仕様だった。王妃から呼び出されたその日から、レオンハルトの書斎の明かりが消える事はほぼ無かった。
部屋の明かりが消える日は、レオンハルトは部屋を抜け出して、魔法学校の庭園に行っていた。あの東屋で、魔法の練習をしていたのだ。
レオンハルトの練習を見る限り、ニールがレオンハルトよりも優れているとは到底思えなかった。
(試験の内容が基礎的な物ばかりで、減点方式だったからではないだろうか・・?私は応用に詳しくない分、基本には忠実だから・・。)
特に、レオンハルトの光属性を利用した治癒魔法は見事だった。自分を傷つけて、一瞬でその傷を癒した。
しかしニールはその行為を、辞めさせたいと思った。直せるとはいえ、自分を傷つけないでほしい。それに睡眠時間が減って、明らかに顔色が悪くなっていた。
(レオンハルト殿下の努力も実力も、もう十分過ぎるくらいだと言うことを、伝えられないだろうか?)
ニールはレオンハルトによく思われていない。なにしろ、今回の原因がニールだから、ニールが何を言っても響かないだろう。
(両親もあれじゃ、難しいだろう。聖女のことも嫌っていたし。では友人は・・・?レオンハルト殿下の親友・・。)
ニールはそこまで考えて、思い至った。
(イマジナリー!)
レオンハルトの「空想の自分」に言ってもらおうとニールは決めた。
早速、レオンハルトの魔力をもらう事にした。
ニールは浴室を借りた際、レオンハルトの書斎の扉を叩いた。
レオンハルトは出てこないかも知れないとニールは思ったのだが、レオンハルトは顔を出して「何の用だ」と言った。
「あまりに遅くまで明かりがついているので、心配で・・。」
と言って、ニールはレオンハルトの手に触れた。その隙に、ニールは少しだけ魔力を吸い取った。
レオンハルトはすぐに、ニールの手を払って部屋へ戻ってしまった。
ニールが以前、空想の自分を見たのも夜明け近くだったから、ニールは夜明け前に決行することに決めた。
魔力は少しだけだから、失敗は許されない。
ニールはレオンハルトの居室の浴室に隠れた。
手元の時計で予定の時間になると、「幻術」の魔法を自分にかけ、レオンハルトに扮した。
レオンハルトの書斎にそっと入って、背後に立つ。
机に座っていたレオンハルトは、窓に映り込んだ自分ー幻術で姿を変えたニールーをみて目を瞠った。
ニールは、少し痩せてしまったレオンハルトの肩を後ろから抱きしめた。
「あなたの頑張りをずっと見ていました。もう十分です。」
「十分なんて事はない。これからはニール・ノーランだけじゃない。聖女も一緒に学ぶんだ。私なんて、直ぐに追い越されてしまう。」
「そんな馬鹿な。如何に聖女であっても、あなたの技術を一朝一夕に得ることは出来ない筈だ。そのくらい、素晴らしい治癒魔法だった。」
「いや、まだまだだ。伝承による、聖女の記録を見れば、それは明らかだ。」
「だとしても、もう自分を傷つけないで欲しい。。身体も、心も!」
ニールはレオンハルトを抱きしめる腕に力を込めた。
レオンハルトは振り返って、ニールを抱きしめ返した。
暫く、二人で抱き合っていた。
ニールが涙を溢すと、レオンハルトは「泣くな」と笑った。
ニールが涙を溢したのが、よくなかったのかも知れない。幻術は、白みかけた夜明けの光にゆっくりと解けていった。
レオンハルトの顔色が変わった事で、ニールは青ざめた。
(しまった・・・!)
そう思った時には、すでに遅かった。
「どういうつもりだ?」
レオンハルトは、表情を消して、呟いた。
「ご、ごめんなさい・・・。どうしても、殿下に少し、休んで頂きたくて、、このままでは、殿下の体が・・でも私の言葉では、届かないと思って、それで・・・!」
ニールが最後まで言う前に、レオンハルトはニールの頬を叩いた。その勢いで、眼鏡が床に落ちた。
レオンハルトはそのまま、部屋を出て行こうとした。
ニールは必死に追い縋った。どちらかがニールの眼鏡を踏んで、パリンという音が部屋に響いた。
「レオンハルト殿下!これだけは信じてください!私はあの日からあなたの努力を陰ながら見てきました!あなたの魔法がその努力の結果、素晴らしいと言うことも知っています!」
ニールは必死に訴えたが、レオンハルトは振り向かずに部屋を出ていってしまった。
ニールはその後ずっと、部屋でレオンハルトを待っていたが、朝になっても、レオンハルトは戻ってこなかった。
空は白みかけているが、朝日は完全に登っておらず夜はまだ明けていない、静寂の時間のはずだった。
ニールは、誰かがボソボソと話しているような声を聞いた。でもそれが誰かわからず怖くて、そっと起きて辺りを探った。声は寝室の奥にある扉の中から聞こえてきているようだった。明かりも少し漏れ出ている。
ニールは姿勢を低くして、光が漏れ出ていた扉の隙間から中を覗き見た。
中にいたのはレオンハルトだった。そこは衣装が沢山かけられているクローゼットで、奥に姿見があった。レオンハルトは姿見に身体を預けて立ったまま、何かを呟いていた。
「ようやく聖女召喚の儀式が終わったと思ったら、やはり魔法はど素人で一から教えなければならないなんて、ふざけやがって。どれだけ金がかかったと思う?もう嫌だ。」
「我慢しろ、もう少し。瘴気の浄化が終わるまでの辛抱だ。」
「そうもいかない、異世界から召喚したんだ。責任を取らされて、あいつが私の正妃になる。少なくとも母上はそのつもりだ。嫌だ嫌だ。」
「よく見たら、可愛い顔をしているじゃないか。大丈夫・・。」
「可愛くない。胸もないし、黒目黒髪なんて無理、魅力がない。愛がない結婚になってしまう。」
「王族の結婚なんてみんなそんなものだ。結婚後、信頼関係を作っていくんだ。」
(質問や疑問を口にしているのも、それに答えているのも、どちらもレオンハルト殿下?鏡を見ているけど、魔道具ではないよな?魔法の気配は感じないし。)
レオンハルトの表情は見えなかった。
ニールは見てはいけない物を見てしまったような気がして、手にじっとりと汗をかいた。
「それとあいつ、ニール・ノーラン。俺の寝台で寝やがって。男に襲われた直後に、男の寝台で熟睡するなんて何考えてる。」
「あいつは・・明日には出ていくから、大丈夫。」
(俺の寝台?!ではここは、レオンハルト殿下の寝室だったのか・・!昨日浴室で寝てしまって・・ああっ、ごめんなさい・・・!)
ニールはこれ以上聞いてはいけないと思い、あわてて寝台に戻った。布団を被って、動かないでいると暫くして、クローゼットが閉まって寝室から人が出ていく気配がした。ニールはほっと胸を撫で下ろした。
(しかしあれは、殿下の本音だと思うけど、、愚痴を言う方と正論で慰める方と、どちらがより本音なのだろうか?)
質問をするのも答えるのも自分・・・それも鏡に向かい合って。鏡の向こうの、空想の自分と対話しているかのようだった。
そこからニールは一睡もできなかった。
と、思ったのだが、布団を被っていたら眠ってしまっていたらしい。起きた時、既に日は高くなっていた。まもなく正午、という時間になってレオンハルトに起こされた。
「王妃殿下がお呼びだ。支度をしてくれ。」
「は、はい。」
レオンハルトはニールの服まで用意してくれたようだった。特に怒られはしなかったのだが、ニールはレオンハルトの本音を知っていたから、恐ろしくて顔を見る事ができなかった。
着替えを終えると、すぐにレオンハルトについて王妃・ソフィアのところに向った。
「遅い!」
「申し訳ありません。」
(先日謁見の間で、全く話さなかった王妃が、開口一番喋った!!)
ニールは驚いたが、レオンハルトは慌てた様子もなく冷静だった。
そこは王妃専用の応接室とのことだった。瀟洒な装飾が施されたテーブルに、ソファー。テーブル上には美しい彩りの菓子とティーセットが置かれていた。王妃を上座にして、向かい合って座った。
「王立魔法学校の入学式の件ですが、総代はレオンハルトに決まりました。挨拶の準備をなさい。」
「かしこまりました。」
レオンハルトが答えると、ソフィアはテーブルを拳で叩いた。ティーセットがガチャン、と音を立てて揺れた。ニールは驚いて、固まった。
「本来、今年の総代はそこにいるニール・ノーランでした!ニール・ノーランが兄の魔力を使ったという一件があった為に、貴方は運良く恥をかかずに済んだのです!」
「もうしわけ・・」
レオンハルトが言いかけた瞬間、ソフィアはティーカップのお茶をレオンハルトに投げつけた。
「それでも王家の人間ですか?!恥を知りなさい!」
「申し訳ありません。」
ニールは顔面蒼白でそのやり取りを見ていた。陛下が王妃に絶対服従の意味がわかった。
(お、恐ろしすぎる・・!)
「今後卒業まで、如何なる理由があろうとも王家の名に恥じる行為は許しません!いいですね?!」
「肝に銘じます。」
レオンハルトはそう言って頭を下げると、その場を後にした。
ニールは固まったまま、動けなかった。
「あなたも、陛下の初恋の男の子供だからと調子に乗るなら、ただじゃおかない。」
(先日、息子さんにも同じことを言われました!)
そう言うわけにもいかず、ニールはただただ固まっていた。
「レオノーラの魔法の基礎についてはあなたに任せる事にいたします。しかし、闇魔法のことは口外しないこと。いいですね?」
「か、かしこまりました・・。」
(休み返上、決定・・・!)
ニールは震えながら、王妃の部屋を後にした。
その後、レオンハルトの侍従から、ニールの部屋をレオンハルトの使用人用の部屋に移すと連絡があった。浴室はないので、レオンハルトの居室の浴室を使うようにと指示された。
レオンハルトの使用人室からは、レオンハルトの書斎の明かりが確認できる仕様だった。王妃から呼び出されたその日から、レオンハルトの書斎の明かりが消える事はほぼ無かった。
部屋の明かりが消える日は、レオンハルトは部屋を抜け出して、魔法学校の庭園に行っていた。あの東屋で、魔法の練習をしていたのだ。
レオンハルトの練習を見る限り、ニールがレオンハルトよりも優れているとは到底思えなかった。
(試験の内容が基礎的な物ばかりで、減点方式だったからではないだろうか・・?私は応用に詳しくない分、基本には忠実だから・・。)
特に、レオンハルトの光属性を利用した治癒魔法は見事だった。自分を傷つけて、一瞬でその傷を癒した。
しかしニールはその行為を、辞めさせたいと思った。直せるとはいえ、自分を傷つけないでほしい。それに睡眠時間が減って、明らかに顔色が悪くなっていた。
(レオンハルト殿下の努力も実力も、もう十分過ぎるくらいだと言うことを、伝えられないだろうか?)
ニールはレオンハルトによく思われていない。なにしろ、今回の原因がニールだから、ニールが何を言っても響かないだろう。
(両親もあれじゃ、難しいだろう。聖女のことも嫌っていたし。では友人は・・・?レオンハルト殿下の親友・・。)
ニールはそこまで考えて、思い至った。
(イマジナリー!)
レオンハルトの「空想の自分」に言ってもらおうとニールは決めた。
早速、レオンハルトの魔力をもらう事にした。
ニールは浴室を借りた際、レオンハルトの書斎の扉を叩いた。
レオンハルトは出てこないかも知れないとニールは思ったのだが、レオンハルトは顔を出して「何の用だ」と言った。
「あまりに遅くまで明かりがついているので、心配で・・。」
と言って、ニールはレオンハルトの手に触れた。その隙に、ニールは少しだけ魔力を吸い取った。
レオンハルトはすぐに、ニールの手を払って部屋へ戻ってしまった。
ニールが以前、空想の自分を見たのも夜明け近くだったから、ニールは夜明け前に決行することに決めた。
魔力は少しだけだから、失敗は許されない。
ニールはレオンハルトの居室の浴室に隠れた。
手元の時計で予定の時間になると、「幻術」の魔法を自分にかけ、レオンハルトに扮した。
レオンハルトの書斎にそっと入って、背後に立つ。
机に座っていたレオンハルトは、窓に映り込んだ自分ー幻術で姿を変えたニールーをみて目を瞠った。
ニールは、少し痩せてしまったレオンハルトの肩を後ろから抱きしめた。
「あなたの頑張りをずっと見ていました。もう十分です。」
「十分なんて事はない。これからはニール・ノーランだけじゃない。聖女も一緒に学ぶんだ。私なんて、直ぐに追い越されてしまう。」
「そんな馬鹿な。如何に聖女であっても、あなたの技術を一朝一夕に得ることは出来ない筈だ。そのくらい、素晴らしい治癒魔法だった。」
「いや、まだまだだ。伝承による、聖女の記録を見れば、それは明らかだ。」
「だとしても、もう自分を傷つけないで欲しい。。身体も、心も!」
ニールはレオンハルトを抱きしめる腕に力を込めた。
レオンハルトは振り返って、ニールを抱きしめ返した。
暫く、二人で抱き合っていた。
ニールが涙を溢すと、レオンハルトは「泣くな」と笑った。
ニールが涙を溢したのが、よくなかったのかも知れない。幻術は、白みかけた夜明けの光にゆっくりと解けていった。
レオンハルトの顔色が変わった事で、ニールは青ざめた。
(しまった・・・!)
そう思った時には、すでに遅かった。
「どういうつもりだ?」
レオンハルトは、表情を消して、呟いた。
「ご、ごめんなさい・・・。どうしても、殿下に少し、休んで頂きたくて、、このままでは、殿下の体が・・でも私の言葉では、届かないと思って、それで・・・!」
ニールが最後まで言う前に、レオンハルトはニールの頬を叩いた。その勢いで、眼鏡が床に落ちた。
レオンハルトはそのまま、部屋を出て行こうとした。
ニールは必死に追い縋った。どちらかがニールの眼鏡を踏んで、パリンという音が部屋に響いた。
「レオンハルト殿下!これだけは信じてください!私はあの日からあなたの努力を陰ながら見てきました!あなたの魔法がその努力の結果、素晴らしいと言うことも知っています!」
ニールは必死に訴えたが、レオンハルトは振り向かずに部屋を出ていってしまった。
ニールはその後ずっと、部屋でレオンハルトを待っていたが、朝になっても、レオンハルトは戻ってこなかった。
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