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3章

4.学校の裏山には死体が埋まっている

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「学校の裏山には死体が埋まっている、と言われている。」
「なにそれ?!梶井基次郎?!」

 レオノーラの話に珍しくナオミが突っ込んだ。
 
 レオノーラは事前の宣言通り、ソフィアと一緒に演習についてくるらしい。
 ニールの班はマルファスとニール、引率でファビアンの三人だけのはずが、一気に人数が増えて賑やかになった。
 裏山の演習は例年なら頂上まで行くのだが、今回、瘴気が強すぎるため頂上は目指さず、ニールが渡鴉の亡骸を供養した近辺、中腹に咲いているジギタリスという花を取りに行く事になった。
 ジギタリスは釣鐘状の薄紅色の花で自らも毒を持ち、半日陰で咲けるため裏山に自生している。毒はあるものの、乾燥させると薬剤としても使用できるため、演習の目的物に決まったのだった。
 
「裏山の頂上は年々瘴気が酷くなっていて、強い魔物もいるとか。・・だから学校ではそう噂されているんだ。」
「想像上の話じゃなくて、本当にやばいやつね?あ~行きたくない!自ら行こうとするレオノーラが全く理解できないわ・・。今からでも遅くないわよ!きつねハルトと留守番してなさい!」
「え!?きつねハルトは留守番なのか!?」
 レオノーラは裏山出身のきつねハルトが行かないことに驚いていた。
「あそこは怖い魔物がいるから行きたくない。僕の仲間達も魔物に・・・。」
「ひいい!やっぱり止めましょう!演習怖すぎる・・!ゲームとは違うのよ・・リセットボタンはないんだからあ!」
 
 ナオミはとにかく嫌がっていた。分からなくはない。ニールも箱入り息子で本の虫だったから、実際魔物とは対峙したことがない。
「ニールは皆が・・特にレオンハルトは私そっちのけで守ってくれるでしょ?いや他のやつらも私そっちのけでしょ?!私どーなる?!って話よ!好感度を上がるのを怠った自業自得だけど!」
「そんな、みんなでナオミ様をお守りします!ナオミ様はこの世界を救う聖女様なのですから!」
「それ覚えてる人いる?!ニール以外の攻略対象者やつら、特に・・・!」

 ナオミは悲観した考えが止まらないようだった。ニールとレオノーラは顔を見合わせた。

(私は本来ナオミ様の側仕えなのだから、ナオミ様もサポートしないと・・・。しかし班は違うからやはり難しいだろうか・・・?)


 ニールはそう思っていたのだが。


「おい、お前たち。班編成の意味をわかっているのか?初めに言ったな?班は、魔法の実力が均衡になるように編成していると。」

 フレデリックはため息交じりに言った。
 そう、ニールの班とレオンハルトの班は一緒に行動していた。そのため十一名の大所帯になってしまっていた。

「人数を絞って小隊にしているのにも訳がある。これも授業で話したはずだ。・・聞いているのか?!」
 
 フレデリックがそう言ったちょうどその時、ニールにアドルフとローレンスが詰め寄った。

「おいお前っ!男爵家のくせに馴れ馴れしい!」
「男爵家の考える事などお見通しだ!どうせ殿下に取り入って、家格をあげようとか税を優遇してもらおうとか考えているんだろう!」
「やめろ!アドルフ、ローレンス!」

 レオンハルトはニールを庇った。それを見て二人はワナワナと唇を震わせた。

「殿下!殿下はこやつに騙されていますっ!私達がそれを証明致しますっ!」
「な、何をする気だ?!」

  アドルフはそう叫ぶとレオンハルトに飛びついた。アドルフがレオンハルトを抑えているうちに、ローレンスは鞄から薬瓶を取り出すと、中の液体をニールに無理やり飲ませてしまった。

「先日、マルファス殿下が作った自白剤だっ!正体を表せっ!お前、殿下を利用してどうするつもりだ?!」

  ニールは不意を突かれて真実を話してしまう薬、自白剤を飲み込んでしまった。

「殿下をどうというか・・私はされた方でして・・。」
「されたほう?!」
「ですので私は何もしておりません。」
「それもそれでどうなんだ?!もっと動けマグロかっ!いや違う!!」
「はあでも、殿下が激しくてくるし・・もがっ!」

 フレデリックはニールの口を塞ぐと、手拭いを引き裂いて小さく丸め、ニールの耳に詰めた。

「「「もうちょっと聞きたかったのに・・」」」
 ナオミとレオノーラ、ファビアンは残念そうに言ったが、フレデリックが咳払いをして目線をソフィアに送ったので皆一様に黙った。ニールは恐ろしくてソフィアの表情を確認できなかった。

「仕方ない。とりあえず目的地を目指そう。」

 フレデリックはそう言って仕切り直しをした。 
 
 初めは余裕があった面々も、どんどん口数が減っていった。ニールが浄化魔法をかけて多少改善したとは言え、道は相変わらず荒ぶれている。ニールも前回は馬で来たため、歩きは初めてだ。ルートも違っていて、まるで迷っているよう。そう思ったのはニールだけではなかった。
 アドルフとローレンスは道に迷ったのでは無いかと、騒ぎ立て始めた。

「この木、さっきも見なかったか?!」
「そうだ、さっきもあった!」
「同じ所を通ってるんじゃないか、ぐるぐると・・。こんなに目的地に着かないなんておかしい!」

 疲労から動揺しているのだろうと、フレデリックは二人に優しく語りかけた。

「大丈夫。迷ってはいない。一見同じように見えるが、ルートは私も、ソフィア王妃殿下と確認しているから安心しなさい。」

 しかし二人は聞く耳を持たず、泣き出した。

「どう考えてもおかしいです!何者かが、惑わせているのでは無いですか?!」
「そうです、目眩しの術を使っている者が居るのではないですか?!」

(なんて事を!)
  二人は明らかにマルファスのことを指している。マルファスは何も反応しなかったが、ニールは憤った。

「いい加減にしろ!」
 
 しかし二人を怒鳴りつけたのは、レオンハルトだった。

「殿下!私たちは・・!」
「お前達、宵闇の国との国交を台無しにしてその責任が取れると思っているのか?そう思っているのなら愚かな事だぞ・・。」
  
 二人はワナワナと身体を震わせた唇をかんた。そしてローレンスがアドルフの手を引いて、来た方向と逆方向に向かって駆け出した。

「こら!待ちなさいっ!」

 フレデリックはソフィアを見遣った。ソフィアは目線で、フレデリックに二人を追うように指示した。
 フレデリックは一礼すると黙って二人の後を追って行った。

「さあ、行きましょう。」


 ソフィアの号令でニール達は再び歩き出した。




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